立派な人事評価制度が機能しない理由

「コンサルティング会社に依頼して、立派な人事評価制度を作ってもらったんだけど、あまり機能しているとは言えないんですよ。」と、その経営者は言った。

「どういうところが機能していないんですか?」

「特に、管理職の評価が機能していません。導入して3年経ちますが、導入前と何も変わっていません。前と変わらず、成果を出す管理職と、そうでない管理職が存在する。」

「制度も大切ですが、運用の問題ではないですか?」

「いやぁ、コンサルティング会社のお偉いさんにも同じことを言われましたよ。制度はツールなので、上手く使いこなさいとダメですよ、評価者研修をやりましょう、って。」

私たちのような業者が使う、よくある常套句だ。

経営者が続ける。

「確かに、新しいツールを導入したときには、使いこなす訓練が必要です。言われた通り、導入しましたがもう3年も経つのに、変化を感じることができません。」

「どんな感じの制度なんですか?」

実際の評価項目を見せながら、経営者は続ける。

「管理職に求められる要件を、役割発揮、スキル、情意の3つに分けて、それぞれを細分化したものです。

細分化された項目は50項目ぐらいになります。評価する人によって、違いがでないように配慮するために、ある程度細かいものにしました。これに、目標管理を加えたものになります。」

良くできているように見える。実際に、自分自身もこんな感じの制度を作ったこともあるため、興味が湧いてきた。

「何が問題なのでしょうか。制度を拝見した限り、制度に大きな問題はないように見えますが。」

「そうなんだ。制度自体は多分間違っていない。そもそも自分たちも制度設計に関わっているから、紙を見ただけではわからない。

基本にもどって、現場を見ることにしたよ。実際の評価面談をいくつか見に行ったんだ。すぐに上手くいかない原因がわかったよ。」

「すぐにわかったんですね。」

「うちの部長たちは真面目なので、課長に対して、50個の評価項目と目標管理に沿って一つずつ丁寧にフィードバックしていました。律儀にやっているので、1時間30分ぐらいかかっていました。」

経営者が続ける。

「一つひとつが、3点だの、5点だのっていうのは、明確になったんですが、項目が多すぎて結局何が課題か、横から見ている私には良くわかりませんでした。

それで、その課長に聞いたんです。『あなたの課題は何ですか?優先順位が高い順に3つ教えてください』って。

そしたら、評価シートを見ながら考え込んでいる。経営者に直接聞かれて、緊張したっていうのはあったと思いますが、この1時間30分は何だったんだろうって思いましたよ。」

部長の面談スキル、思考力に問題ありかな、と内心思っていたところ、それを見透かしたように経営者が続ける。

「部長が課題をまとめなかった、と言えばそれまでなんですが、ツールがある以上、それに引きずられる。それで評価が決まるので、正確にやらざるを得ない。今の人たちは真面目なので、特にこういう傾向が強いと思います。

制度自体は残しますけど、やり方を変えようと考えています。先に大きな課題を3つ考えてもらって、後から評価項目に沿って分析する順番にしようと思っています。

これなら、課長の内省する力もつきます。」

最後に、経営者が言った。

「評価制度を改訂する前は、それこそどんぶり勘定ではないですが、評価項目が10個ぐらいしかなくて、評価者によって評価に違いが出るといった反発が現場からあったんです。

お金と時間をかけた結果、今度は項目が多すぎて、木を見て森を見ずになってしまっている。

要は、何に失敗して、次はどうするかを考えてくれればいいんですけどね。」

 

コンサルティング会社は、労力と比例した形で費用を請求してくる傾向が強い。労働集約型のビジネスだから、それ自体は致し方ない面もある。

それゆえ、評価項目を沢山作る、対象部署を増やす、運用も支援する、といった様々な理由でコンサルティングメニューを売り込んでくる会社も多い。また、理屈も通っているため、提案を鵜呑みにするクライアントも多い。

結果、過剰品質のモノが出来上がる。

コンサルティング会社も評価制度同様、所詮ツールに過ぎないため、使いこなすには力量がいると感じた会話だった。

 
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この記事を書いた人
中川 渉
株式会社PIS(ピース) 代表取締役。石川県金沢市生まれ。大阪大学工学部を卒業。㈱日本エルシーエーに入社し、住宅不動産のコンサルタント、研修事業の事業部長、執行役員を務める。㈱SPRIXに転職し、ヒューマンリソース部長、コンテンツ開発部長、新規事業室長を務める。2013年に株式会社PISを設立し、管理職研修を中心に年間150~200回の研修講師を担当する。
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