新人教育で知っておくべき5つの指導方法

今年も沢山の新人が社会に出た。その反対側には、沢山の教育係がいるということ。新人研修も終わり、いよいよ配属という会社も多いだろう。そこで今回は改めて新人教育のあり方について考えていきたい。

1.5つの指導方法

新入教育には5つの方法がある。

  • 社会人(Adult person)として育てる
  • 仕事人(Business person)として育てる
  • 職業人(Professional Person)として育てる
  • 組織人(Organization person)として育てる
  • 人(Person)として育てる

 

社会人(Adult person)として育てる

社会人とは、社会を生き抜く力を持った人のこと。必要となってくる知識・スキルとしては、マナー、法律、時事問題、その他一般常識、公私のバランス、生活習慣、お金の使い方、人間関係、権利と義務のバランス、心身の健康、自己啓発等がある。
 

仕事人(Business person)として育てる

仕事人とは、ビジネスで収益を上げる力を持った人のこと。必要な知識・スキルとしては、財務知識、業界知識、人脈、実績、論理的思考力、交渉力、文章力、企画力、提案力、問題解決力、段取り力、判断力、構想力、行動力等がある。
 

職業人(Professional Person)として育てる

専門スキルで顧客に貢献する力を持った人のこと。必要な知識・スキルは、専門分野によって異なる。
 

組織人(Organization person)として育てる

組織人とは、周囲と協働し、組織で結果を出す力を持った人のこと。必要な知識・スキルとしては、組織理解、規律遵守、報連相、調整力、協調、役割分担、統率力、管理力、信頼関係等がある。
 

人(Person)として育てる

所謂、人間力を持った人のこと。人間力の定義は難しいが、例えば、感謝の気持ち、共感力、包容力、謙虚さ、信念、責任感、ユーモア、好奇心、バイタリティー、見識、自己変革等が必要になってくる。

 
どの力も完璧に仕上げる必要は無い。ただし、どの力も著しく欠如していると仕事のパフォーマンスに影響が出ることになる。

例えば社会人として約束を守る。遅刻や納期遅れは原則として論外ではあるが、1回遅れたぐらいでお客様との信頼可関係が崩壊するという事はあまりない。職業人としてのアウトプット品質が好ましいものであれば、時間に遅れた事実に目をつぶってもらえることがある。

逆に職業人としてすばらしいスキルを持っていたとしても、打ち合わせに毎回大幅に遅刻してくる、納期遅れが当たり前、では、お客様から継続的にお仕事をいただく事はできない。

要はバランスが必要である。逆の言い方をすれば、完璧でなくとも良いが、5つの力を満遍なく指導しなければならない。

こう考えると新人教育は大変だ。莫大な労力を必要するテーマだけに、効率、効果を最大化した指導が求められる。

 

2.教育係として指導シナリオを練るべし

最終的には全ての力が必要になるが、だからと言って、同時に指導していく必要はない。どの力から手をつけて、身に付けた力を、どのように他の力に波及させていくか、指導シナリオが大切になってくる。

私が新卒で入社したコンサルティング会社は、職業人として新人を指導することに重きを置いていた。社会人、仕事人、組織人としての力が軽視されていたわけではないが、かと言って、徹底的に指導された覚えもない。

レポートの書き方、インタビューの仕方、数字分析の仕方、マニュアル作成の仕方。上司やプロジェクトリーダーが新人にべったりと張り付いて、徹底的に仕込んでいく。

職業人として身に付けた力は発揮したいという願望が湧いてくる。この願望を上手く使った指導シナリオだったように思う。

入社3か月が過ぎたころ、あるクライアントの購買因子分析を担当することになった。

喜び勇んで仕事に向かうも、如何せんエクセルの使い方が未熟で、分析の理屈は理解しているのだが、上手く数字を処理していくことができない。何とかしたいという気持ちから、エクセルの使い方は自分で学習することになった。つまり、仕事人としての基礎スキルは自力で何とかしたということだ。

徹夜を繰り返し、何とか分析レポートを完成させたが、上司の期待とは異なるレポートになってしまった。手戻りを何度も繰り返すうちに、報連相の重要性について、嫌でも気づいてくる。つまり、組織人としての基礎スキルは教わったのではなく、ある意味勝手に気づいた。

職業人としての力を発揮する過程で、他の力も自然と学習することになったということだ。

5つの力は独立しているのではなく、どれも密接に関係し合っており、1つの力を伸ばしていけば、他の力も必然的に伸びてくる。

指導シナリオでは、1つの力を徹底的に伸ばし、新人がその力を発揮したいという強い願望を持たせられるかどうかがポイントになってくる。この願望を上手くコントロールすることができなければ、1つの力しか持っていない、バランスの悪い新人を仕上げてしまうことになるため、細心の注意が必要だ。

 

3.業界・会社に合った指導シナリオを練るべし

業界・会社ごとに指導シナリオは異なる。

コンサルティング会社は成果主義を採用しているため、残業に対して不平不満を言う社員はいなかった。仕事が早く終われば新人でも定時に帰宅していたし、仕事が終わってなければ取締役でも深夜残業をしていた。

こうした風土があるからこそ、職業人としての指導に集中できた。他の力は成果を出したければ自分で磨いて下さい、という指導スタンスで問題なかったのである。

他の業界、会社ではまた違った指導シナリオになる。

その後、転職して学習塾に飛び込んだ。

学習塾では、保護者、生徒とのコミュニケーションが全ての業務の前提になっていた。成績を上げるための指導スキルも重要だが、保護者、生徒とのコミュニケーションが成立しないと、教える環境にならない。思春期真っ只中の中高生を相手にする仕事である。生徒との関係が悪ければ、そもそも授業を聞いてもらえない。宿題をやってこない。

だから、仕事人としての基本的なコミュニケーションスキルが先で、コミュニケーションが上手くとれたら、ようやく職業人として、成績を上げるためのスキルが発揮できる。

コンサルティング業界にいた頃にはなかった感覚だ。

コンサルティングでは、経営者を相手に仕事をする機会が多かった。経営者を相手にするため、より高度なコミュニケーション力が必要かと言えば、必ずしもそうではなかった。細かいことは気にしないから、とにかく結果につながる仕事をして欲しい。職業人としてのアウトプットを求める。業者に全てを期待しない、ある意味では合理的な経営者も多かった。

 

4.指導で使えるものは、何でも使うべし

シナリオに沿って効率的に指導したとしても、5つの力を満遍なく指導する必要性から完全に逃れることはできない。シナリオは大雑把な順番を決めたものにしか過ぎず、必要に迫られれば他の力も指導することになる。

「順番」以外で考えるべきは「分担」ではないだろうか。自分や新人を取り巻く環境で、指導上使えるものは、何でも使っていくと良い。1人で指導せず、周囲と役割分担を行う。経営資源を使い切る。

例えば、人事部が実施してくれる新人研修がある。社会人としてのマナーや、組織人としての報連相などを扱う研修が多いだろう。研修でもなんでも、使い切ることが好ましい。

マナー研修の後で、新人と一緒に振り返りをする。報連相の研修があったら、報連相をさせてみる。忘れないうちに復習する。内容を共有することで、目的や意義を再確認する。一から教えるよりは相当効率が良いはずだ。

しかし、多くの管理職が、新人研修のテキストを読んでいない。復習を一緒にしない。人事部任せにしてしまうから、研修で習った内容に価値づけがなされない。

新人指導には労力が必要であるから、人事部や研修の批判をする暇があったら、上手く使うことができないかを考えるべきだ。使えるものは何でも使う。

新人を取り巻く環境で、指導で使えるものに何があるか、整理してみると良いだろう。

  • 上司、先輩、上司の上司
  • 人事部、隣の部門
  • 取引業者
  • 会社のイントラ
  • 本・研修…

見渡せば、使える経営資源は沢山あるはずだ。

 

5.OJTは思い切って行うべし

新人教育で最初に問題となるのは、業務品質のことである。

「このレベルの新人を、お客様のところに送り込んでよいものか」

OJTと言えば、聞こえは良いが、レベルが低い新人に仕事を任せると、お客様に迷惑がかかることになる。お客様とのやりとりを指導機会として活用することは、道義上、好ましいことではない。

一方、管理職や教育係が真面目であればあるほど、業務品質を問題視してしまう。新人が外界に出る機会が減る。つまり学習機会が減ることになる。

新人教育でしばしば陥るジレンマだが、結論としては思い切ってOJTを行うしかないと思う。

社内での出来事は「練習」であり、「本番」は社外で行われる。「本番」であるお客様とのやりとりのほうが、気づきのインパクトが大きい。練習だけでは人は育たない。

上司が新人を解き放つことをためらい、社内での練習に終始すると、新人から目の輝きが消えていく。いつまで経っても練習では、成長に対する強い願望が生まれないように思う。本番がない練習は成立しない。

上司がやるべきは、適度な練習と、本番で失敗したときに、それが会社にとって致命的な失敗にならないよう、いつでもフォローできる準備をしておくこと。

コンプライアンスが厳しくなった今、考え直すべきは、新人を外界に解き放つタイミングであると思う。

 

6.人として育てる

「最近の若い人は飲み会に来ない」

良く聞く言葉だ。本当にそうだろうか。街に繰り出せば、若者が沢山飲み歩いている。

若い人が、行きたい飲み会と、行きたくない飲み会を分けているだけではないだろうか。

仮説でしかないが、社会人、仕事人、職業人、組織人の4つに限定した付き合い方をしていると、新人が飲み会に来なくなるのではないか。

  • 社会人。飲み会でマナーのことをやかましく言われるのが面倒なだけ。
  • 仕事人。ようやく仕事が終わったのに、仕事の話を聞きたくないだけ。
  • 職業人。上司のこだわりや、自慢話を聞きたくないだけ。
  • 組織人。付き合いが大切であることは理解しているが、会社人間(Company person)になりたくないだけ。

常日頃から、1人の人間として接してれば、もっと飲み会に付き合う新人が増えると思う。

人として育てることは、全ての力の土台になる。飲み会が大切であると言いたいわけではない。気軽に食事にいけないような関係で、新人指導などできるだろうかと言いたい。

 

新人指導は大変だ。1、2回経験すれば、もう沢山という気持ちになるのも致し方なし。しかし、大変だからこそ学ぶものも多い。新人だけに伸びしろが多く、その成長を横で支えることは大きなやりがいでもある。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
 
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この記事を書いた人
中川 渉
株式会社PIS(ピース) 代表取締役。石川県金沢市生まれ。大阪大学工学部を卒業。㈱日本エルシーエーに入社し、住宅不動産のコンサルタント、研修事業の事業部長、執行役員を務める。㈱SPRIXに転職し、ヒューマンリソース部長、コンテンツ開発部長、新規事業室長を務める。2013年に株式会社PISを設立し、管理職研修を中心に年間150~200回の研修講師を担当する。

 

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