次期管理職候補者の育て方(OJT版)

名ばかりの管理職の数をノーカウントとすれば、管理職の頭数と企業業績は比例します。したがって、次の管理職を育てることは、現在の管理職がやるべきもっとも大切な業務です。

よく言われているように、管理職の育成に限らず、人材育成の基本はOJTであり、業務を任せ経験を積ませることによって行われます。

では、管理職候補者にはどのような業務を任せれば良いのでしょうか。

当たり前のことですが、管理職にするためには、マネジメント業務を練習する必要があり、いくらプレイヤー業務を任せても、良い管理職に成長することはありません。

業務比率1

図にあるように、候補者はプレイヤー業務の割合を徐々に抑え、マネジメント業務の割合を徐々に増やしていけば良いのですが、実際はそうならず、むしろプレイヤー業務の比率をますます高めてしまうことがあります。

なぜなら次期管理職候補者は、その多くが優秀なプレイヤーであるため、エースとしてプレイヤー業務に全力投球させることが多いからです。

「あなたは、うちのエースだから。」
「あなたは、次の管理職だから。」

この2つの言葉は似て非なるもので、注意が必要です。

業務比率2

また、マネジメント業務は多岐に渡り、内容によっては抽象的・概念的であることから、整理が難しいのも事実です。

そこで今回の記事では、現在の管理職が、次期管理職候補に、どのような業務を任せれば良いか、その「種類」と「レベル」に分けて書いてみます。

■マネジメント業務の種類

本質的には、管理職の仕事は「人材育成を通じて、チーム全体の成果を上げること」です。

したがって、大きく分類すれば、マネジメントの対象は2種類であり、それは「育成」と「成果」です。

しかし、「成果」を上げるためには、様々なプロセスが存在するため、一言で「成果を上げるための業務を任せよ。」と言われても、ピンとこない人もいます。

そこで、管理職を取り囲む環境を整理してみると、マネジメント業務は以下のように分解できます。

  1. 判断
  2. 改善
  3. 実行管理
  4. 育成
  5. 場づくり
  6. 企画立案
  7. 報告
  8. 調整・交渉

少なく見積もってもマネジメント業務は8種類存在し、またこれらの一部はプレイヤー業務とその性質が大きく異なるため、習熟にはそれなりに時間を要します。

特に注意が必要なのは、任せるマネジメント業務が「育成」に偏らないようにすることです。

プレイヤー業務に秀でている候補者たちにとって、育成業務はわかりやすいものです。背中でやって見せることができますし、プロとしての専門知識、経験、実績などを駆使すること、つまり現在の自分の貯金を使うことによって実行することができます。

スポーツで、「選手と監督に必要な資質が異なる」という話がよく出ますが、「コーチと監督・GMに必要な資質も異なる」というイメージでしょうか。育成はコーチの業務ですが、企業の管理職はコーチングを行うだけでは不十分であり、監督・GMに求められるような業務も行う必要があります。

育成は大切なものですが、安易にそこばかりに傾注しないように見ておく必要があります。

次に、各マネジメント業務の内容に触れながら、そのレベル感について整理していきます。

 

■マネジメント業務のレベル

ここでは、各業務の内容に触れながら、任せるときのレベル感を3段階に分けて考えていきます。

例えば「判断業務」を任せるとき。

いきなり「判断しろ!」と候補者に丸投げするのではなく、大まか3段階に分けて、簡単なものから任せていくようにします。

 

1.判断

判断や意思決定には権限と責任が伴うため、管理職になる前は経験値を積む機会が少ないです。ですから、意図的に練習させる必要があります。

また、判断できない上司に部下はついてこないため、判断業務は特に練習が必要です。

レベル1現状を分析する
レベル2選択肢を複数並べる
レベル3判断を行う

判断には勇気が必要ですから、判断そのものが難しいと言えますが、その根拠をしっかりと揃えるプロセスも練習させるようにすることで、徐々に経験を積ませます。

 

2.改善

プレイヤーは既存のオペレーションを速く、正確にまわすことを求められますが、マネジメントサイドに移行するにつれて、オペレーションのあり方そのものを見直す力が必要とされます。

そして、改善にも大きく2段階あり、それは「既存オペレーションの改善」と「新しいオペレーションの組み立て」です。

特に、オペレーションがきちんと決まっていない組織においては、一から組み立てる力が必要とされます。

レベル1改善案を出す
レベル2周囲を巻き込みながら、改善案を実行に移す
レベル3オペレーションそのものを組み立てる

 

3.実行管理

多くの先人たちが言うように、物事の実現の鍵を握るのは「やりきる力」であり、実行管理は極めて重要なマネジメント業務です。

個人でやりきることと、他人にやりきってもらうことには、大きな違いがあります。また、他人に徹底を要求していくときには一定のストレスがかかりますので、実行管理も経験値を上げておくことが好ましいです。

そして周知の通り、目標を達成するためには、目標と進捗の把握を要しますが、プレイヤーの中にはチーム全体の目標・進捗や、他メンバーの目標・進捗を知らない方が数多くいます。

レベル1チーム目標と進捗状況を把握する
レベル2他メンバーにやりきりの徹底を促す
レベル3進捗状況に応じて、軌道修正を行う

 

4.育成

新人や若手社員の育成、つまりティーチングから入り、それができるようになったら、中堅社員やベテラン社員に対するコーチングを経験させるようにします。

育成のハウツーやプロセスも大切ですが、育成に関してはターゲットがより重要であるため、レベル分けはプロセス別で行うのではなく、ターゲット別で行ったほうが合理的です。

人を束ねる立場になってはじめて頭を悩ますことに、ベテラン社員の扱いがあります。多くの新任管理職がぶつかる壁の一つですから、あらかじめ経験しておくにこしたことはないでしょう。

個別対応ができるようになったら、次にチーム全体の底上げを任せていきます。

レベル1新人、若手を育成する
レベル2中堅、ベテランの力を引き出す
レベル3チーム全体を底上げする

 

5.場づくり

場づくり、雰囲気づくりは、チームビルディングで必須の要素ですが、抽象度が高いためレベル分けして考えることが少ないテーマです。

まず最初に行うべきは、意見を言い合えるオープンな雰囲気を作ることです。簡単なようで、とても難しい。

管理職になると、チームづくりのために自分のカラーを打ち出していくことになります。カラーを出すことは、個性、強みのアピールであり、リーダーシップの基本事項です。個性や強みのないリーダーに人はついてきませんが、あまり強く打ち出すとそれに馴染めないメンバーが出てくることがよくあります。

「主張」と「受容」。このバランス感覚がない管理職は多くいます。バランス感覚を養うのは経験が必要ですから、なるべく早く経験させたいテーマの一つです。

オープンな雰囲気づくりができたら、「支え合い」や「要求し合う」雰囲気づくりへとステップアップさせていきます。

レベル1オープンな雰囲気を作る
レベル2支え合う雰囲気を作る
レベル3お互いに厳しく要求し合う雰囲気を作る

 

6.企画立案

2.で挙げた、改善が「既存業務」に焦点を当てるのに対して、企画立案は「新規業務」に焦点を当てます。

例えば、「従来チャネルで営業の効率を上げる」は改善業務ですが、「新しいチャネルの開拓を行う」は企画立案業務です。業務の性質が異なるため、分けて考えます。

既存業務はチームメンバーにとって既知の内容であるため、改善に対して理解が得やすいですが、新規業務の場合は巻き込みに一定のパワーが必要になってきます。

レベル1調査、分析をする
レベル2企画を立案する
レベル3周囲を巻き込みながら企画を実行する

 

7.報告

報連相はビジネスの基礎であるため、マネジメント業務に持ってくることに違和感があるかもしれませんが、ここでは、「報告の受け方」に焦点を当てます。

なぜなら、プレイヤーの1人として上司に報連相を行うのと、多くのメンバーから報告を受けて情報を精査、判断するのとでは、雲泥の差があるからです。当然、メンバー数が増えるほど報告のとりまとめは難易度が上がります。

レベル分けは、内容や精度に焦点を当てるのではなく、「報告経路」に焦点を当てます。

よくあるのは、いきなりレベル3にあるような、メンバーからの報告を「全て管理職候補を通じて報告してもらう」という体制にしてしまうというものです。

①メンバー→②管理職候補→③現在の管理職、のような直列型の報告体系にいきなりしてしまうと、①と③の交流が急に減ったり、②が機能しているのか見えなくなることがあります。

まずは並列型の報告体系から始めます。

レベル1管理職、管理職候補の両方に対して報告してもらう
レベル2部分的に管理職候補を通じて報告してもらう
レベル3全てにおいて管理職候補を通じて報告してもらう

 

8.調整・交渉

管理職になると、途端に調整や交渉事が多くなります。調整、交渉の対象が多岐に渡ることもあり、重点顧客や、他部署、取引先など様々です。

社交的な性格の候補者であれば懸念は小さいですが、そうでない場合は他部署、取引先と交流させておくと良いでしょう。特に、スタンドプレイヤーには重点的に任せたいマネジメント業務です。

調整、交渉は成果との関連が見えにくいことがあり、過小評価するプレイヤーが多いことも事実です。内弁慶の管理職にならないようにするのも、管理職育成では必要なプロセスです。

レベル1他部署や取引先の業務内容、特性を理解する
レベル2他部署や取引先の利害を理解する
レベル3他部署や取引先との調整を図る

最後に、これら一連のOJTにおいて、一番大切なことを書きたいと思います。

 

■マネジメント業務の拡大

候補者はそのチームにおいて優秀なプレイヤーであることが多いため、プレイヤー業務を遂行することが自らの存在価値を証明すると考えがちです。

したがって、プレイヤー業務を手放すよう指示しても、あまり効果的ではないことがあります。誰しも、自分の存在証明を取り上げられるのは恐いからです。

その状態を脱却するためには、少し無理をしてでも、マネジメント業務を押し込んでいく必要があります。

マネジメント業務とプレイヤー業務の両立を求められることによってはじめて、自分のプレイヤー業務を誰か他のチームメンバーに移管できないか、真剣に考えるようになります。

業務やノウハウの移管が進めば、それはチーム全体の底上げにつながりますから、候補者のマネジメント業務を拡大していくことは、大切なプロセスです。

これをすると、候補者にストレスがかかり、人間関係がギスギスしてしまうことがありますが、そこは現在の管理職が乗り越えなければいけない壁であり、一緒に壁にぶつかる中で、お互いに支え合い、人間力を高めていくことが求められます。

 

■まとめファイル(PDF)

マネジメント業務の種類、レベルをマトリクスにしたものを添付します。簡単なものですが、宜しければお使いください。

pdf

 
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この記事を書いた人
中川 渉
株式会社PIS(ピース) 代表取締役。石川県金沢市生まれ。大阪大学工学部を卒業。㈱日本エルシーエーに入社し、住宅不動産のコンサルタント、研修事業の事業部長、執行役員を務める。㈱SPRIXに転職し、ヒューマンリソース部長、コンテンツ開発部長、新規事業室長を務める。2013年に株式会社PISを設立し、管理職研修を中心に年間150~200回の研修講師を担当する。
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