「相手の立場に立って考える」の本質とは

先日、「相手の立場に立って考える」について考えさせられるニュースがあった。

サッカー界のスーパースターであるバルセロナのアルゼンチン代表FWリオネル・メッシが、自身のスパイクを寄付したことによりエジプトで問題となっている。イギリス『BBC』など複数のメディアが伝えた。

メッシはエジプトのテレビ番組で、自身のスパイクを寄付することを申し出た。しかし、エジプトでは、靴を履いて人を踏んだり、靴で人を傷つけることは 最大のタブーとされているため、メッシの行為は侮辱的なものと扱われることになってしまった。

そして、メッシの行為に対して一部のエジプト人が怒りをあらわにしている。

政治家の中には「我々エジプト人は、この7千年の歴史の中で、これほどまでの屈辱を与えられたことはない!私はこの靴でメッシを殴りたい。(靴を脱いで)これは私の靴だ。(それを投げ捨てて)私は、これをアルゼンチンに寄付しよう」と言う者までいた。

今回は、このニュースを引用しながら考察したい。

 

「正論を主張する」は結果につながらないことを知る

このニュースに対する反応は様々だが、日本で多かったのは「自分たちの文化を押し付けるのではなく、選手の善意を受け止めるべきだ。」というものだった。

しかし、「善意を受け取るべきだ」と言うのは簡単だが、「善意が相手に伝わらない」は、むしろよくある出来事ではないだろうか。

良かれと思ってやったことが、相手の気持ちを逆なですることがある。だからこそ、「相手の気持ちをよく考えよ」という戒めが生まれる。

私自身は、「行動ではなく、その背景にある善意を受け取るべき」は、正論であると感じる。

しかし、正論で片づけてしまっては、相手の立場に立って考えることなどいつまで経ってもできない。それを言ってしまっては、極端な話、善意があれば行動が間違っていてもよいことになる。

何が「正論」かは、人や国、組織、それぞれの立場によって異なる。これを知ることが、「相手の立場に立つ」ことの出発点にして、もっとも大切なことである。

会社組織においても、正論を言って終わり、の人は結果を出せないことが多い。

 

コミュニケーションの結束点にいる人が、最も相手の立場を意識しなければならない

この3者で、誰に非があるとするかは、ある意味どうでも良い。

誰が、一番周りが見えるところにいたか。それが大切である。

政治家をはじめTV視聴者の多くは、選手がスパイクを寄贈をすることを事前に知らないし、撮影現場にはいない。だから、選手やTV番組の行為に対して、後手に回らざるを得ない。

政治家のリアクションの仕方が悪かったかもしれないが、そもそもリアクションからスタートせざるを得ない立場にある。

サッカー選手は、サッカーが本業である。人気と実力を兼ね備えた選手であれば、クラブチーム、代表チームの両方の立場でプレイしたり、CMに出たり、それなりに忙しい。

スターともなれば世界中で露出する機会があるため、各国の文化、習慣を学習することが好ましいが、なかなか大変であろう。そして、今回は招かれた客の立場にある。

視聴者と出演者の双方に気を配りやすい立ち位置にいるのは、明らかにTV番組スタッフである。

コミュニケーションの結束点にいる人が、それぞれの立場に気を配る、が合理的だ。

言うまでもなく、企業において結束点に位置しているのは中間管理職である。「政治家に非がある」、「選手に非がある」と考える人は、あまり管理職に向いていない。

 

自分の立場と、相手の立場は密接に関係していることを知る

先ほど、「スターともなれば世界中で露出する機会があるため、各国の文化、習慣を学習することが好ましいが、なかなか大変であろう。そして、招かれた客の立場にある。」と書いた。しかし、これは選手ではない、第三者的な人間の視点による。

選手本人が、「単なるサッカー選手ではなく、一人の人間として一流でありたい」と願うのであれば、エジプトについて知っておいたほうが良かった。

サッカーだけではなく、各国の文化や習慣に通じる選手であれば、より大きな敬意を集めるに違いない。

スポーツ選手が活躍できる期間は短い。引退した後で、どのような人生が待っているかを考えれば、学習すべきはサッカーのことだけではないはずだ。

このように、自分のこと(私益)を徹底して追求していけば、自然と相手のこと(他益)についても幅広く考えざるを得ない。

一流の人とは、「私益」と「他益」の関係を知る人のことではないだろうか。相手の立場に考えが及ばないのは、私益の追究が弱いからである。

※メッシは常日頃からチャリティーに積極的で、人としても素晴らしいと思う。
※大のサッカー好きの私としては、メッシならば、スパイクで踏みつけられても、多分嬉しい。

 

表現や態度が「かなり」モノを言う

この一件で選手がどのような感情になったか、今のところ後日談は報道されていないようで、それを知る術はない。

スターだけにバッシングにも慣れているかもしれないが、善意に対して厳しい反応が返ってきて、残念な気持ちになったかもしれない。最悪、この国にはもう来たくない、となるかもしれない。

どんなに相手の立場を考えても、打ち手を間違えることはある。したがって、「間違えがあるかもしれない」という前提こそ、相手を思う行為ではないかと思う。

政治家のコメントが、以下の内容だったら、どうなるだろうか。

親愛なるメッシへ 

今回はお忙しい中、我が国にお越し頂いたこと、また選手にとって大切であるスパイクを寄贈してくださったこと、心より感謝致します。

しかし、貴方の善意を私たちは上手く受け止めることができないでいます。なぜなら、我が国では靴の裏を見せることは侮辱的行為とされているからです。本音を率直に申し上げれば、私たちの気持ちは傷つきました。

周囲のエジプト人が事前に貴方にお伝えできれば良かったのですが、今回は上手く対応することができませんでした。わが国の人たちの非難、中傷から貴方を守ることができず申し訳なく思っています。

かくいう私自身、貴方の故国であるアルゼンチンに数回訪問したことがありますが、貴国におけるタブーを慎重に調べたことがあるのかと問われれば少し自信がありません。国を代表する一政治家として、まだまだ覚悟が不足していると痛感しているところです。

私たちにはそれぞれ違いがあり、お互いを知るためには努力が必要です。相互理解が大変であるからこそ、国や文化の枠を超えることができるスポーツは、素晴らしいものであると私たちは考えています。

今後も、是非、わが国に遊びに来て下さい。貴方とお互いの理解を深めることができれば、それは私にとってとても嬉しいことです。

この文面が、選手や政治家、はたまたこの記事を読んでいる貴方に、どう捉えられるかはわからない。

しかし、相手の立場に立って考える、の本質が誹謗や中傷にないことは自明の理である。平たく言ってしまえば、マナーは、結局のところかなり重要だ。

選手側も、贈り物を何にすべきか確認する謙虚さがあっても良かったかもしれない。自身のスパイクを贈れば喜ぶだろう、という考えには、多少の油断が垣間見えないではない。

政治家も、侮辱行為にも腹が立ったのだろうが、それよりも選手の尊大さに腹が立ち、国のプライドを代弁しなければならない、という義憤にかられたのだろう。

どこまでいっても、ボタンの掛け違いはあるため、表現や姿勢はかなりモノを言う。

 

相手のリアクションに一喜一憂せず、結果を追求する

このニュースでは、選手やTVスタッフはバッシングされ、一部の政治家や視聴者は怒っている。結果的に、この3者は誰もハッピーになっていない。

間違えは誰にでも起こり得るが、間違いに対する行動は人によって二分される。

「相手のリアクションに対して一喜一憂して終わり、になる人」と「最後まで結果を出そうとする人」である。得たい結果が何であるか、よく考えておかないと周囲のリアクションに怯んでしまい、再アプローチができない。

結果が出るまで打ち手を変え続けることは、困難な作業であるため諦めてしまう人も多い。

  • 考えた上で行動しても、また間違えるかもしれないという不安がある。蒸し返しがコワイ。
  • リカバリーの出発点となる、「自分の言動を改める」は、ときとして難しい作業だ。こちらにもプライドがある。
  • そして、既に気分を損ねている相手に、再度アプローチすることほど、億劫なものはない。

しかし、その相手にとっての「正解」を知るには、アクションを変え続けるしか方法はない。一度逃げてしまうと、答えは見つからない。

結局のところ、どうしても結果を出したい人だけが、相手の立場に立って考える、の正解を知ることになる。

最後は精神論で申し訳ないが、相手に関する「生きたデータ」を集めるためには、はっきり言って根性が必要だ。

 
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この記事を書いた人
中川 渉
株式会社PIS(ピース) 代表取締役。石川県金沢市生まれ。大阪大学工学部を卒業。㈱日本エルシーエーに入社し、住宅不動産のコンサルタント、研修事業の事業部長、執行役員を務める。㈱SPRIXに転職し、ヒューマンリソース部長、コンテンツ開発部長、新規事業室長を務める。2013年に株式会社PISを設立し、管理職研修を中心に年間150~200回の研修講師を担当する。
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