学習したことを確実に覚えるための記憶術

カンニングがNGの学業とは異なり、私たちビジネスパーソンはマニュアルを読みながら作業することを許容されているため、全ての知識を覚える必要はありません。

また、様々なITツールの登場によって、知識へのアクセスは容易になっており、「知っていること」の優位性は低下しつつあります。知らなければ、「ググれ」と。

ですが、仕事を進める上で、新しい知識を学習し記憶することは、依然として必要不可欠です。

特に、プロフェッショナルと呼ばれる職業、例えば医者やコンサルタント、デザイナー、プログラマー、マーケッターなど知識労働に関わる人たちにとって、学習し記憶することは重要な意味を持ちます。

なぜなら、顧客がプロに対して仕事を依頼するときは、「専門知識を知っていること」を当然のこととして期待しているからです。

例えば、医者にかかる際、問診中に医者が医学書を読みながら病名を探していたら、やはり不安になるというものです。

「知識」は「信頼」です。

さらに言えば、簡単なことはネットで調べれば良いので、プロであればより深い知識を求められるため、仕事において記憶することの「負荷」は、むしろ上がっていると言えます。

そこで、今回は「記憶術」について考察していきます。

1.記憶の種類

1-1.短期記憶と長期記憶

そもそも、なぜ私たちは物忘れをしてしまうのでしょうか。

それは、脳のキャパには限界があるため、重要な情報と、そうでない情報を取捨選択する機能が自然と備わっているからです。

脳は、新しく見聞きしたことを、短期記憶に一時的に保存し、取捨選択を行ったものを、長期記憶に保存し直しています。

短期記憶は1週間程度しか持ちませんが、長期記憶は年単位で覚えておくことができ、また短期記憶に比べてその容量が大きいです。

従って、記憶を強化するためには、「短期記憶にあるものを如何に長期記憶に移管するか」が、工夫のしどころということになり、「重要度」がそのキーワードになります。

 

1-2.長期記憶の種類

長期記憶には、「手続き的記憶」と「宣言的記憶」があります。前者は自動車の運転のように体で覚えるもの、後者はP/L、B/Sなど読み書きしたり、口頭で表現しやすいものです。

自動車教習所の筆記試験で満点をとった人が、実際の運転が下手といったことがよくあるように、実技を伴うものは「宣言的記憶」を意図した学習方法は適していません。

逆に、P/LやB/Sといった知識は体で覚えることはできず、意味を理解したり、何度も説明しながら覚えるものです。つまり記憶の種類に合った、覚え方があるということです。

また、宣言的記憶は、さらに「エピソード記憶」と「意味記憶」に分類されます。

エピソード記憶とは、何かしらの体験、例えば「友人のAさんと北海道旅行に行ったときに熊に遭遇した」といった形で記憶され、熊→Aさん、北海道旅行→熊といった関連付けがなされることで、記憶が強化されます。

意味記憶とは、意味合いで理解されるもので、例えば「北海道には自然が沢山ある。自然豊かなので、熊の餌となる鮭、木の実などがある。よって北海道には熊が生息している。」といった形で、既存知識との関連や、全体の体系として記憶されるものです。

短期記憶と長期記憶

 

1-3.既存の学習方法は効果的・効率的か

日本人は英語が苦手と言われますが、どんなに座学で学習したところで、英語が上手くなることはありません。

なぜなら、語学、特にスピーキングとリスニングは体で覚えるものであり、「手続き的記憶」を意図した学習方法が必要で、口や耳を動かさないと身につかないからです。英語を本気で習得したい人が、海外留学を決意するのは、ある意味合理的な判断です。

逆に、海外に10年いようと、英語で契約書を作成できるようにはなりません。日常会話はできるようになりますが、契約書は体で覚えるものではなく、法の体系、契約書の書き方を知る必要があるからです。宣言的記憶を意識した学習を行う必要があります。

OJTはどうでしょうか。研修などのOff-JTなどやって無駄で、結局仕事はやりながら覚えるものである、と。

  • ミスをして上司にこっぴどく叱られた
  • プロジェクトで大成功を収めて、チームメンバーで旅行に行った
  • 社長賞をとって、全社員の前でスピーチを行った

など、OJTでは印象的なエピソードと共に記憶されるため、脳のメカニズムを踏まえると効果的な記憶方法であると言えます。

しかし、海外留学は時間とお金がかかりますし、OJTでは失敗のリスクや、時間的コストが伴いますから、こうした方法論は効率性を問われれば、多少の疑問も残ります。もう少しお手軽な方法を模索したいものです。

そこで、次項では、脳のメカニズムを踏まえた上で、もう少し効率的なやり方をご紹介したいと思います。

 

2.お手軽にできる記憶術

2-1.事例やエピソードと関連付ける

例えば、今、仕事で新しいアイデアが出なくて悩んでいたとします。

色々と勉強してみると、アイデア発想法の切り口として、オズボーンのナイン・チェックリストなるものがあるらしいと。便利そうだけど、どうやって覚えるか。

<オズボーンのナイン・チェックリスト>

  1. 転用 : 新しい使い道は?他分野へ適用はないか?
  2. 応用 : 似たものはないか?何かの真似はできないか?
  3. 変更 : 意味、色、働き、音、匂い、様式、型を変えれないか?
  4. 拡大 : より大きく、強く、高く、長く、厚くできないか?時間や頻度などかえれないか?
  5. 縮小 : より小さく、軽く、弱く、短くできないか?省略や分割できないか?
  6. 代用 : 人を、物を、材料を、素材を、製法を、動力を、場所を代用できないか?
  7. 再利用 : 要素を、型を、配置を、順序を、因果を、ペースを変えたりできないか?
  8. 逆転 : 反転、前後転、左右転、上下転、順番転、役割など転換してみてらたどうか?
  9. 結合 : 合体したら?ブレンドしてみたら?ユニットや目的を組み合わせたら?

覚えるために「書いて覚えよ」、「何度も反復せよ」とよく言いますが、何度も書くのは大変です。

こうしたときには事例で置き換えてみると、頭に入りやすくなります。例えば、キュレーションサイトを事例にして考えてみましょう。

<キュレーションサイト>
既存のサイト、ブログ

Never、グノシー(再利用): 既存ニュースサイト、ブログの情報をカテゴリーごとにまとめる

grape(縮小+変更): まとめるジャンルを「心に響く動画メディア」に細分化

Newspics(統合+代用): キュレーションとSNSの融合、有名ピッカーの登用

このようにキュレーションサイトの発展と関連付けができれば、アイデア出しに困ったときに、自分の引き出しとして利用することができます。

自分が詳しいジャンルの事例を用いると、置き換えがしやすいですし、忘れることはありません。

 

2-2.仲間と一緒に学習する

上司の小言はすぐ忘れてしまいますが、それとは対照的に、同僚や後輩からの一言が「グサッ」と心に刺さることがあります。

エピソード記憶、意味記憶を刺激していくためには、どのように学習するかだけではなく、「誰と学習するか」がとても重要です。

1人で黙々と学習することもときには大切かもしれませんが、大切な仲間と共に、あれこれ議論しながら学習するのも効果的です。継続性、切磋琢磨の面からも有効な方法です。

 

2-3.自分の言葉で3回説明する

「インプットしたら即アウプットせよ」と良く言われますが、覚えた知識を使う場面がすぐにやってこないことがあります。

「いつか使おう」と業務で忙しくしている間に、覚えたことを忘れてしまう。

お手軽にアウトプットするには、「解説ロープレ」を行うと良いです。インプットしたことを、自分の言葉で説明し直すだけです。自分の言葉に変換し直したり、体験談と紐づけることで、記憶が強化されます。

短期記憶は1週間しかもたないため、1週間以内に3回行うことをおすすめします。これをすれば、ほぼ忘れることはありません。

 

2-4.知識を整理する

意味記憶に保存するためには、意味合いや関連付けが大切です。

例えば、記憶に関して以下のように樹形図や表を用いて整理すると、記憶が保存されやすくなります。整理の仕方については既知の方法論が良いでしょう。

短期記憶と長期記憶

ただし、この方法は、論理的思考に強い理論派には合いますがが、感覚派には合わないかもしれません。感覚派の人は、エピソード記憶を意識すると良いでしょう。

 

2-5.仮想空間で自分に負荷をかける

短期記憶から長期記憶への置き換えで一番大切なことは、情報の重要度です。

重要度を自分の脳に印象付ける方法として、「頑張った」という思い出があります。

例えば、研修一つとっても、「通いの研修」より、「泊まりでオープンエンドの研修」のほうが圧倒的にアンケート評価が良いです。久しぶりに参加者にお会いしても、泊まりの研修のことは良く覚えておられます。

自前で合宿をするなど、外注せずとも自分たちでできることはありますから、Off-JTなど仮想空間であっても工夫次第で、学習効果を上げることはできます。

 

3.まとめ

  • 書いて覚えよ
  • 繰り返し復習せよ
  • 実践で覚えよ

こうした記憶術はそれなりに有効ですが、ときには自分なりの工夫をしながら、楽しく学習してみてはどうでしょうか。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
 
・筆者Facebookアカウント https://www.facebook.com/wataru.nakagawa.18(フォローしていただければ、最新の記事をタイムラインにお届けします)
 

この記事を書いた人
中川 渉
株式会社PIS(ピース) 代表取締役。石川県金沢市生まれ。大阪大学工学部を卒業。㈱日本エルシーエーに入社し、住宅不動産のコンサルタント、研修事業の事業部長、執行役員を務める。㈱SPRIXに転職し、ヒューマンリソース部長、コンテンツ開発部長、新規事業室長を務める。2013年に株式会社PISを設立し、管理職研修を中心に年間150~200回の研修講師を担当する。
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