上司と部下は、なぜすれ違うのか。どうしたらうまく一緒に働けるか。

面倒くさい上司は世の中に沢山います。

例えばとりあえず何かにつけて「数字を出せ」だの、「費用対効果は〜」だの言ってきます。

もちろん数字に厳しい上司は必要ですので、仕方ありませんが、ちょっと聞きかじったようなことを言ってくる上司、迷惑ですよね。

「そんなインスタントに成果は出ないですよ。そんな言うなら、自分でやれば」と、言いたくなります。

それだけならガマンできる、という方も、「気迫が足りない」とか「ヤル気を見せろ」とか、精神論に踏み込んでくる上司の場合には我慢できない、という方が増えます。「会社の風土や考え方に同調しなさい」と圧力をかけてくるからです。

加えて、妙に自己啓発くさく、「人間的成長が〜」などと突然説教をしたり、「オレの若いころは〜」という自分語りが始まってしまうと、もう手のつけようがありません。

結局「口うるさい、面倒くさい上司」は、嫌われ者です。

ですが、少し逆から見てみましょう。

上司である彼ら一人ひとりに話を聞くと、部下が思っていたことと別の世界が見えてきます。

すると、多くの上司は真面目で、至極まっとうな人であり、「部下のために本気で」仕事に取り組んでいる人も少なからずいるということがわかります。

数字に口をだすのは、純粋に責任感の強さから。

ヤル気を強調するのは、自分の過去の経験値から。

自己啓発を口にするのは、「ビジネスは、最後は人間性が重要」と、その上司が信じているからです。

それなりにストイックに仕事に取り組んだ結果として、管理職という地位を得たのですから、「会社員たるもの、一生懸命働いて、会社に貢献するのが当たり前」と思っている方がまだまだ多数派です。

そんな様々な思いから、部下に対して干渉してしまう。それが実際のところです。なので、単純に言ってしまえば、部下と上司とでは、会社の眺め方が異なるのです。

それが上司と部下の「すれちがい」の本質的な理由です。

したがって、漫然と「一緒の職場にいるだけ」では、分かり合うことはできません。では、どうしたら一緒にうまく働けるでしょうか。

よく言われるアドバイスとしては「双方で、腹を割って話しなさい、部下は上司の言うとおりにやり、上司は部下の言うことを聞きなさい」というものがあります。

そのため、上司は部下の話を聴く時間をとったり、飲みに行ったり、自分の考えを伝えようとしますし、部下は結果を出して、上司の気に入るような振る舞いを心がけたりするのです。

ですが、時間が経つうちに、そう言った「努力」を要する所作は、徐々におこなわれなくなります。なぜならば、どうしても、上司は部下の言うことに干渉したくなりますし、聞けば聞くほど「考え方の違い」を認識するだけです。

部下は部下で、好きでもない上司と飲みに行くのは苦痛ですし、「上司の気に入るような振る舞い」を無理して行ううちにどうしてもストレスが溜まってくる。

そもそも「三つ子の魂百まで」というとおり、人間はそんなに簡単に変わりません。結局、一時的に双方が努力したものの、元の木阿弥、というケースは多いでしょう。

例えば先日、ある商社の経営者は「経営方針を浸透させる」というセミナーにおいて、こんなことを言っていました。

「まあ、部下と上司は分かり合えないですよ。「わかったような気持ち」にはなれますけど。まあ、わかってないですよね。なにせ、立場が違いますからね。だから、経営方針を浸透させる、とか説明してわかってもらう、とかあまり必要ないんですよ。」

彼は「部下と上司は分かり合えない」ということをひたすら強調していました。

彼は、こうも言いました。

「それよりも、そう言った背景を共有せず、いかにうまく協業するか、これを考えたほうがよくありませんかね?上司と部下も一緒です。近い将来、あのプロジェクトでは上司、このプロジェクトでは部下、なんてことがたくさんあると思います。「どうしたら分かり合えるか」ではなく、「どうしたら成果を共有できるか」に注力すべきです。」

つまり彼は「成果さえ共有しておけば、部下と上司は一緒に働ける」と言っていました。

上の経営者は少々極端かもしれません。

ですが、個人的な感想を言えば、私も概ね「上司と部下は分かり合えない」に賛成しています。いや、「人と人は分かり合えない」のほうが正しいかもしれません。

人と人の間には、理念や方針をいくら問いても、「越えられない壁」があるのは、事実だからです。これは、夫婦ですら「分かり合えない」と嘆く人が多いのだから、ある意味当たり前でしょう。

しかし「越えられない壁」があるからといって、それに対して何もしなくて良いのか、といえば、そうは言い切れません。

では、上司と部下が一緒に働く時の条件は何でしょう。ピーター・ドラッカーは、働く人の理念や価値観について、次のように述べています。

組織には価値観がある。そこに働く者にも価値観がある。組織において成果をあげるためには、働くものの価値観が組織の価値観になじまなければならない。同一である必要はない。だが、共存できなければならない。

つまり、目指すべきは「価値観を揃える」ではなく、「お互いの差を認めて、共存する」が正解に近いのではないかと思います。

上司と部下がお互いの話を聞き、成果を共有しつつ、価値観はお互いの領域に踏み込まず共存を模索する。

それが現在の「多様性のある組織」の現実的な解であると感じます。