長時間労働は悪か?

首相が「長時間労働」を否定するコメントを発表している。

首相「モーレツ社員否定の日本に」 働き方改革に意欲

安倍晋三首相は2日朝、内閣官房に設けた「働き方改革実現推進室」の開所式で訓示し、室長の杉田和博官房副長官や職員約30人に「『モーレツ社員』の考え方が否定される日本にしていきたい」と述べた。

首相は「世の中から非正規という言葉を一掃していく。長時間労働を自慢する社会を変えていく」と強調。「働き方改革は最大のチャレンジ。大変困難を伴うが、私も先頭に立って取り組む」と決意を表明した。(朝日新聞)

 

個人的に、12年以上コンサルティング会社で過ごし、その結果として土日休日も仕事、平日はほぼ毎日23時、0時まで長時間労働をしていた身としては「時代も変わったな」と感慨深いものがある。

そして、誤解を恐れずはっきりと言えば、自分の経験からも長時間労働については、首相の言うように「やめたほうがいい」と言わざるをえない。

当時は「成果を出すには長時間労働が当たり前」と思っていたが、振り返ると長時間労働にはデメリットが多すぎる。

例えば以下の類だ。

 

視野の狭窄

長時間労働を行うと、仕事に余裕がなくなり、次第に目の前の仕事をどうこなすかのみに注意が行くようになる。

当然、余裕がなければ新しいアイデアや試みはできないので、徐々に組織は停滞する。

 

生産性の低下

「パーキンソンの法則」と呼ばれる法則がある。法則によれば、“仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する”という。

もちろんこれはネタであるが、仕事は時間があればあるほどダラダラやってしまう、という側面があることは否定出来ないだろう。

したがって、長時間労働は生産性を低下させ、徐々に「長時間労働しなければ成果が出ない」という考えに陥りがちになる

 

健康面の不安

「過労死ライン」という言葉があるが、時間外労働が増えれば増えるほど、健康障害を抱えるリスクが増すということは、統計的にも認められている。

具体的には、発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合などだ(他にも複数の条件がある)。

以上は長時間労働のデメリットのほんの一部であるが、これだけでも「長時間労働は避けるべき」という言葉に説得力があるだろう。

 

だが、これをもって、「長時間労働=悪」と言っているわけではない。

長時間労働はできればやめたほうが良い、とは言えるが、絶対にしてはいけない、と言うと言い過ぎだ。

仕事には波があり、顧客からの要望を叶えるために、長時間労働を行わなければいけないケースもあるだろうし、また、未熟な社員をカバーするために、どうしても長時間労働をさけられない時もあるだろう。

そして何より「楽しすぎて、思わず寝食忘れて働いてしまった人」が存在する。

この「楽しすぎて、寝食忘れて働いた」という状態は米クレアモント大のミハイ・チクセントミハイによって「フロー」と名付けられており、一流のスポーツ選手や芸術家、経営者などに経験している人が多い。

「フロー」の間は精力的に集中しており、完全にのめり込んでいるので、大きな成果を上げることも多々ある。

したがって「フロー」と「単なる長時間労働」は区別して考える必要があるだろう。

長期的に見れば、最高の集中力を発揮することのできる「フロー」と呼ばれる貴重な体験を仕事において経験したことがあるかないかは、その後の仕事人生において大きな成果の差を生む可能性が高い。

「フロー」に突入した感覚を一度得てしまえば、集中力をコントロールすることも上手くなるだろうし、「ここ一番」という時に踏ん張ることもできる。

また、後輩などを指導する時、彼らの意欲を落とさぬまま、厳しいプロジェクトを乗り切ることも可能となるであろう。

だが、残念ながら「フロー」を意図的に使いこなしている経営者は少ないうえ、多くの管理職の関心も低い。「仕事は楽しく」というよりも、「苦しいことに耐えることが重要」と感じている人は、まだまだ多い。

だから現在のところ、一般的に「長時間労働」は単純な苦行と捉えられている。

しかし最近になってようやく、会社によっては「長時間労働」を十把一からげに「悪」と決めつけるのではなく、「個人の裁量により、強制も促進もしない」という会社も増えている。

ようするに「自己管理」に委ねる、という態度だ。

知識労働者の成果は時間で測ることができない。また、結局のところ高度な技能を有する人々は「自己管理」のほうがうまく働ける。

従来のホワイトカラー、ブルーカラー的な働き方をする人々にとっては「長時間労働」は望ましくないが、自己管理を旨とする知識労働者にとっては、「長時間労働するな」がむしろ「ありがた迷惑」であることも十分ある。

そう言う意味では、法律の整備は全く追いついていない。

枠にとらわれることなく、自らの職業、働くスタイル、価値観などを加味して、自分から労働時間を選択する働きかたが実現すればよいのに、といつも思う。

 

この記事を書いた人
安達裕哉
経営・人事・ITコンサルタント。ティネクト株式会社代表取締役。世界4大会計事務所の1つである、Deloitteに入社し、12年間経営コンサルティングに従事する。1000社以上の大企業、中小企業にIT・人事のアドバイザリーサービスを提供し、8000人以上のビジネスパーソンに会う。自身の運営するブログ「Books&Apps」は月間PV数180万以上。
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