目標管理よりも「目標共有」が重要

マネジメントの祖であるピーター・ドラッガーが初めてMBO(Management by objective、目標管理)を提唱してから60年も経ちますが、現在も大手企業を中心に、多くの企業が目標管理をマネジメントに取り入れています。

しかし、実際の運用状況はあまり芳しいものではなく、期初に目標管理シートを時間をかけて作成したものの、期中に振り返ることはなく、気が付けば期末で、人事部に言われて思い出しながら実績を記入するといった管理職の方も多いと思います。

人事評価で使われている目標管理シートのフォーマットには、概ね以下のことが書いてあり、フォーマットに沿って定期的に上司・部下で一緒に振り返りを行いましょう!という考え方が一般的だと思います。

  • 目標を「定量化」しましょう
  • 定性目標であれば、文章を具体化しましょう
  • 目標をステップ化、細分化しましょう
  • いつまでに目標を達成するか設定しましょう
  • 目標を達成するための行動を書き出しましょう
  • 上司、部下で話し合って決めましょう
  • 定期的に見直しをしましょう

これらの考え方は間違いではなく、むしろ真っ当な考えですが、この通りにシートを作成しても上手くいかないことが多々あります。必要性は理解しているが、どうしても「作って終わり」になってしまう。

では、どうすれば良いのでしょうか。

リーダーシップ研究で有名なウォレン・ベニスは、その著書「LEADERS 本物のリーダーとは何か」で以下のように書いています。

優秀なリーダーはビジョンを作るだけではなく、あらゆる方法でその意味を語る。 (中略) 優秀なリーダーの中には話術に長けた人が多かったが、そうではない人もいた。あるリーダー(寡黙なリーダー)は、組織の分権化に取り組んだとき、そのイメージを模型にして社員に伝えていた。

優秀なリーダーはビジョンや目標を作って終わりにせず、「あらゆる方法」でその意味を語る。そして、何かを共有するときには、人それぞれ、その人に合った手段があり得る、ということだと思います。

この内容とは対照的に、これまでのフォーマットやシートで語られているのは、画一的な「目標設定の方法論」であり、「目標共有の方法論」についてはあまり触れられていません。

そこで今回は、目標やイメージを共有する方法をいくつかご紹介していきます。

1.視覚情報を活用して目標を共有する

写真を使う

無印良品を展開している㈱良品計画のマニュアルは一風変わっています。アパレルショップなどショップを運営する場合は、美観を保つことが大切ですが、良品計画のマニュアルには文字情報に加えて写真が沢山並んでいます。

「洋服を綺麗に畳んで下さい」という文字情報ではイメージが共有できないため、あるべき姿を全て写真に収め、この通りの状態にしてください、というマニュアルになっています。

 

動画を使う

ある営業会社では、優秀な営業パーソンと、そうでない営業パーソンの接客場面を全て動画にし、それをもとにトレーニングを行っています。文字情報では、表情や雰囲気、声のトーンなどは共有できないため、実際の動画を見ながら学ぶ仕組みを構築しています。

動画の作成には多大な労力が必要ですが、中途半端なロールプレーイングを見せ合うより、よほど効果的なトレーニング方法であると言えます。

 

絵を書く

かつては旭川市でお荷物扱いされ、閉鎖寸前のところから、来場者を10倍にし、「奇跡の動物園」と呼ばれるまでになった旭山動物園。

飼育係が中心となってビジョンを練り直し、行動展示という手法を編み出したことで、奇跡の復活を遂げました。その元になったのが、十数枚のスケッチです。空飛ぶペンギンの絵。観客に向かってダイブする白熊の絵。

市全体の財政がひっ迫しており、新しい施設に投資することが困難と思われた中で、自分たちのビジョンを絵で共有し、励まし合いながら、そのスケッチを1枚1枚実現していきます。

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先日、ある企業様にお伺いしたときに、オフィスの至るところに社員が描いたと思われる絵が貼りだしてあったため、「これは何の絵ですか?」と聞いたところ、経営理念の実現状態を絵にしたものだという回答でした。

その他には、先ほど挙げた「模型にする」といったものもあれば、視覚情報だけではなく、音楽など聴覚を使った方法を取り入れている企業もあります。

フォーマットなど、書面以外にも様々な共有方法を実践している企業・組織は多いのです。皆さんの会社ではどうでしょうか。

 

2.例えや事例を使って目標を共有する

事例を共有する

例えば、「強いチームを作る」といった定性的な目標があったとします。強いチームを5W1Hで具現化することは大切ですが、文章だけではその行間が伝わりません。

イメージを共有するために、実際の強いチームを引き合いに出し、チームが出来上がるまでのストーリーを共有していきます。

  • メンバーの成長過程
  • チームに起こった衝突や葛藤
  • 得られた教訓、大切にしている考え方
  • 様々なエピソード

事例共有の効果は大きいです。

なぜなら、通常、目標を立てた後は、達成に向けた行動計画を積み上げていくという流れをとることが多いと思いますが、先行事例を知ることができれば、計画の積み上げ型でイメージするのではなく、達成した状態から逆算型で目標をイメージすることが可能になるからです。

 

既に目標を達成した人に語ってもらう

例えば東証に上場するという目標があったとします。上場基準を満たすための利益目標を共有することも大切ですが、やはり数字だけではイメージが湧いてきません。さらに言えば、大きな目標を立てると、どうしても力んでしまい、達成基準や計画に意識がいきがちです。

そこで、実際に上場を経験した社長や、そこで働く社員に、上場するまでの過程や、目標を実現してみて良かったことなど、生の声を語ってもらいます。

こうしたことに協力してくれる方を探すのは大変な気もしますが、2015年9月現在で、東証一部に上場している企業は1,900社、二部やマザース、JASDAQを加えれば3,500社近くの上場企業がありますから、本気で探せば何とかなるはずです。

この他にも、書籍を共有する、比喩を使う、自分自身の体験談を語るなど、様々な共有方法があります。

経営者が色々な方の講演会によく出かけていくのは、何も「方法論が知りたい」からだけではありません。「自分にも出来るんだ」という目標達成イメージを醸成する意図もあるのです。

 

3.達成イメージを連想し、共有する

最後に、少し難易度が高いかもしれませんが、連想する力についてご紹介します。

千葉ロッテマリーンズは、1974年に優勝して以来、30年以上もの長きにわたり優勝から遠のいていましたが、名将ボビー・バレンタインを監督に迎え入れることで、2005年に優勝を果たします。

2005年、春のキャンプでの一コマ。

バレンタイン監督は選手達を全員グラウンドに集めると、全員にイヤホンを配り出した。
ジャックに繋ぐ、CDプレイヤー、MDプレイヤーはなく、イヤホンだけを・・・

キャンプ初日、各々グラウンドに集まった選手は、戸惑う。
「監督はいったい何を始めるつもりなんだ・・・。」

監督は全員にイヤホンを配り終えると、続けて言った。
「イヤホンをみんなのハートに繋げてくれ。」

選手達は、何を馬鹿な事をと感じながらも、監督の言うことだからと、耳にイヤホンをはめ、ジャックを胸に当てた。

何も聞こえるはずがない・・・。

「目をつむり、耳を澄ましてくれ。必ず聞こえてくる音がある。」

グラウンドが静寂に包まれ、5分が過ぎ、10分が過ぎた。
監督は、ぐっと口を閉じ、一向に声を発しようとはしない・・・。

15分が経とうかとした時、一人のベテラン選手が声を上げた。

「監督、聞こえました。日本シリーズの最終日。マリーンスタジアムで、長年応援し続けてくれた、千葉ロッテマリーンズの大勢のファンが、涙を流しながら大歓声を上げている様が聞こえます。」

それを聴いた選手達が、次々と声をあげる。

「監督、私にも聞こえます。大歓声に包まれるマリーンスタジアムで、監督を胴上げし、皆で優勝の喜びを分かち合う様が聞こえます。」

一人、また一人と真剣な眼差しで語る選手達。

一巡し、場が落ち着いた頃に、監督が口を開いた。

「OK、じゃあそのみんなの耳に、目に浮かぶ優勝に向けて、第一歩を歩き始めよう。」

 

4.まとめ

目標管理の中でもっとも難しいのは、目標設定ではなく、恐らく目標を明確にイメージし、共有することではないかと思います。

そして、世の中で結果を出しているリーダーたちは、実に様々な方法でイメージの共有に取り組んでいます。

フォーマットによる管理も必要ではありますが、一度、そうした形式から離れて、イメージを共有する方法を模索してみてはいかがでしょうか。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

 

この記事を書いた人
中川 渉
株式会社PIS(ピース) 代表取締役。石川県金沢市生まれ。大阪大学工学部を卒業。㈱日本エルシーエーに入社し、住宅不動産のコンサルタント、研修事業の事業部長、執行役員を務める。㈱SPRIXに転職し、ヒューマンリソース部長、コンテンツ開発部長、新規事業室長を務める。2013年に株式会社PISを設立し、管理職研修を中心に年間150~200回の研修講師を担当する。
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