人材育成のスタートライン

人材育成はマネジメントにおいて重要なテーマであるため、色々なことが言われています。

手法論は細かいものまで含めれば無数にありますが、端的に言えば、人材育成とは「人材の目標を共に考え、成長を計画し、業務を通じて指導する」ことです。

人材育成に、ゴールとしての「目標」があるのだとすれば、その反対にあるスタート地点はどこにあるのでしょうか。今回の記事では、人材育成のスタートラインについて考えていきます。

 

例えば、あなたの会社はサービス業を営んでいて、新人が入ってきたとします。

サービス業で重視される、気配りや笑顔の大切さを教えるためには、どのようなやり方が良いでしょうか。

よく言われるのは、山本五十六の言にある「やってみせ、言って聞かて、させてみて…」で、率先垂範に始まり、丁寧にステップを踏んで指導するやり方です。

 

ところで、この「やってみせ」には、2つの解釈があります。

1つは、上司が気配りや笑顔溢れる接客をやってみせる、というもの。

もう1つは、上司がその部下に対して気配りをし、笑顔で接することです。やり方を見せるのではなく、気配りを体感してもらう。

後者がより重要で、自分が体感してはじめて、「やっぱり気配りって大事だなぁ」と気づくというものです。自分がされて良かったことを、誰かにもしてあげたいと考える。人間の基本的な行動原理です。

もちろん、上司は自分が忙しいときでも、自分の機嫌が悪いときでも、部下に笑顔で接しなければいけません。自分の機嫌が悪くとも、顧客に対して気配りしなければならないように。

つまるところ、言行一致を徹底的に追及する。これが人材育成のスタートラインではないでしょうか。

いつも気難しい顔で、ぶっきらぼうに指導してくる上司の部下は、気配りや笑顔の大切さを実感し辛いです。

どうも「率先垂範」や「やってみせ」が一人歩きしているような気がします。本当の意味でやってみせる、というのは、対顧客の行為だけを指し示すのではないと思います。

 

ある会社の経営陣が、「自社の管理職のコミュニケーションスキルが不足している」と考えていたとします。

具体的には、「自社の管理職が自分の部下を全く褒めない。」「部下に良い行動を習慣化してもらいたいので、管理職にはプロセスをしっかり褒めて欲しい。」と考えています。

この経営陣が、毎日のように管理職を叱咤していたとすれば、管理職が部下を褒めることは期待できません。

言っていることと、やっていることが真逆だからです。経営陣から、「部下を褒めろ!」と言われるたびに、管理職は「自分のことも少しは褒めて欲しい」という気持ちが湧きます。それが人の気持ちというもの。

このような状況下で、研修を受けさせ、褒め方について学ぶよう言われた日には、「しらける」こと間違いなしです。

「管理職にもなって、自分が褒めてもらえないと、部下を褒められない?!なんて甘ったれなんだ!」と考える経営陣もいるかもしれません。

確かにそういう側面もありますが、どちらが甘えているか、よく考えないといけません。私は、経営陣も甘えていると考えます。両方甘えているとすれば、どちらが甘えをなくしたほうが良いのかは、一目瞭然です。

 

人材育成では、業務なりスキルなりの「目的」を腹に落とすことが、もっとも大切なプロセスです。

なぜ気配りが必要か。
なぜ部下を褒めないといけないのか。

腹に落ちて、気づきがあれば、方法論は各自工夫することができます。

そして、腹に落とすために、もっとも簡単かつ避けようのないやり方が、言行一致であり、これが人材育成のスタートラインです。

変な話かもしれませんが、人材育成を本気でやりたければ、最初は、教えてはいけないのかもしれません。

 

人材育成が上手な会社では、このスタートラインの確認がしっかりしています。ですから、研修で方法論を説明すると、「上司がこれまでにやってくれたことは、そういうことだったのか!」といった発言が、参加者から次々と出てきます。

こうした会社では、研修はテンポよく進み、参加者の多くは方法論の習得に対して、非常に熱心です。

ああ、『学習する組織』とはこういう会社のことを言うのだろうなと、教えているこちらのほうが勉強させて頂く立場になります。

先々の目標を考えることも大切ですが、最初から階段を踏み外していないか、ときには足元を確認することも大切だと思うのです。

 
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