「無茶な目標」と「ストレッチ目標」の境界はどこにあるのだろうか

そろそろ4月である。3月決算の会社が多いだろうから、「新しい目標」に向けて行動をはじめなければならないという季節でもある。

既にこの時期は予算が組み上がっているだろうから、マネジャーたちは行動計画を作って、浸透させるフェーズに入っているだろう。

しかし、この時期になると毎年問題になるのが「高い目標値をどうやって部下に納得してもらうか」という問題だ。

大抵の会社では、マネジャーに与えられる目標値は「かなり挑戦的」なものになりがちだ。

一番ダメなマネジャーのやり方は、とりあえず目標を部下に丸投げし「あとは気合と根性だ!」と号令をかけるものである。

成果が出ている人間に対して賞賛と報酬を渡し、成果が出ていない人間には罵声を浴びせればそれでよい、というマネジメントのやり方は昔から存在する。

もちろん「より多く働けば、より多くの成果が出る」といった種類の仕事、知的労働ではない仕事であれば、このようなやり方もあり得よう。また、1年、2年という短期で見れば成果を出す、ということもあり得る。

しかし、クリエイティブや研究開発、あるいは高い品質が要求されたり、マーケティングといった試行錯誤が要求される仕事にこのやり方を適用すれば、成果が出ないどころか、社員は離反し、マネジャー、経営陣が批判の対象となることは目に見えている。

それは単なる「無茶な目標」としか見られない。

本来マネジャーがやらなければならないのは、「高い目標」を現実的にできそうだ、と思わせることで「ストレッチ目標」と部下に考えてもらうことである。

「ストレッチ目標」は健全である。

ピーター・ドラッカーは「人へは多くを求めるほど、多くのことを生み出す」と述べたが、より労働者の生産性とクリエイティビティを高める目標が「ストレッチ目標」である。

では「無茶な目標」と「ストレッチ目標」の本質的な違いはどこにあるのか。

それは次の3つにある。

 

1.無茶な目標は「経営者の私心」によっており、ストレッチ目標は「三方良し」に叶う

基本的に「それは無茶だろ……」という目標は、経営者の私心がむき出しになっているケースが多い。

つまり「会社の成長」「会社の利益」が中心となっており、社員たちは経営者の私利私欲に付き合わされてる、と感じるものだ。

逆にほんとうに良い目標は「三方良し」の理念にかなっている。

「三方良し」とは近江商人の心得を言ったもので真に良い商売は「売り手よし、買い手よし、世間よし」が満たされているものだとするものだ。

大義がなければ、人はついてこない。健全なストレッチ目標には、必ず「買い手」と「世間」のことが織り込まれている。

 

2.無茶な目標は「前年対比」から出ており、ストレッチ目標は「マーケットとシェアの計算」から出る

どの程度の売上が見込めるかは、「マーケットサイズ」と「シェア」から推定できる。

そして、マーケットサイズの成長率と、シェアの獲得率を改善すれば、売上向上が見込める、というわけだ。

しかし「無茶な目標」は、基本的にそういったことは考えない。

無茶な目標を打ち出す会社は「前年比◯%」だけが重要なのだ。

マーケットサイズやシェアの獲得率を考えず、「オレが前年対比30%あげたいから、売上目標も30%アップだ」という。

もちろん「オレが上げたいから」でも動機は構わないのだが、それが現実的かどうかの検証や、それにシェア獲得の作戦が付随しているかどうかを抜きにして「30%アップだ」と言うことは無茶な目標とみなされる。

 

3.無茶な目標は「より長く働け」というメッセージを出し、ストレッチ目標は「より賢く働け」というメッセージを出す

松下幸之助は過去に「3%のコストダウンは難しいが、3割のコストダウンはすぐできる」と語ったという。

それは、3割という大きな目標をやるためには発想を根本から変えることが要求されるからだ。「ストレッチな目標」には、発想を変えることが必要なのである。

したがって、ストレッチ目標はアイデアを必要とする。これは実質的に「より賢く働け」というメッセージなのだ。

逆に無茶な目標は「考える事」を要求しない。ただ「より長く働け」と要求するだけである。むしろ「考えているヒマがあったら手を動かせ」と言う。

だがもっと頑張れ、もっと頑張れ、と掛け声をかけるだけでは現場は疲弊してしまう。

そもそも、根本的な発想の転換は現場だけで行うのは難しい。人というのは、与えられた権限の中で考える癖があるからだ。

したがって上司に「アイデア」がないままに、ただ高い目標を与えているだけでは「無茶な目標」と捉えられてしまう。

 

4.まとめ

管理職は「ストレッチ目標」を与えていたつもりでも、現場は「無茶な目標」と捉えているだけの会社は数多くある。

期首には必ず、管理職と部下の協力で「ストレッチ目標」について深く考えなくてはならない。

 

この記事を書いた人
安達裕哉
経営・人事・ITコンサルタント。ティネクト株式会社代表取締役。世界4大会計事務所の1つである、Deloitteに入社し、12年間経営コンサルティングに従事する。1000社以上の大企業、中小企業にIT・人事のアドバイザリーサービスを提供し、8000人以上のビジネスパーソンに会う。自身の運営するブログ「Books&Apps」は月間PV数150万以上。
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