本当のことを言わないほうが得をする、と社員に思わせたら、その会社はオシマイ。

「社長には、口が裂けても本当のことはいえませんよ」と、知人は言った。

彼はとあるサービス業の社長の腹心で、もう付き合いも長い。

創業してまもなく入社した彼は、社長に気に入られ、抜擢されたがすぐに社長の本当の姿に気づいた。

社長はお客さんや外に対しては非常にウケが良い。外面がいい、というやつだ。だから、会社の外部の社長から社員は言われる。「あなたの会社は、いい社長がいるねえ、いい会社で働いていて、幸せだね。」

でも、社員は全く別の評価を下している。

悪い人ではないのだが、自社に関する「不都合な真実」は決して信じようとしない。それどころか、悪い報告を持ってくる人を憎む。具体的には、社長が聞きたくないことを社長に言うと、怒られるのだ。

例えば、自社の製品の陳腐化している部分を指摘し、「競合に負けてますよ」と、自社製品が競争力を失っていることを知らせた幹部は糾弾された。「ウチの製品は優れている。上が弱気だと、下も弱気になる。」というのが、その理由だ。

また、成績の振るわかなった若手がいた。そのため会社としては厳しい評価をせざるを得なかった。

だが、若手は前向きだった。「挽回してやる」と彼は思っていた。ところがその評価の直後「その若手がやめようと思っている」というデマが流れた。

そして社長は若手のヤル気を信じられなくなり、デマを信じた。「あの評価では、辞めたいと思うのは当然だろう。」と言った。そして若手はそれを聞き、本当にやめてしまった。

取引先が逃げている、と社長に知らせた課長は、「なぜお前はそれを見ていて何もしなかったのだ。」と社長に叱責され、評価を下げられた。

「自分の責任ではありません。だから報告したのです。」と課長は主張した。事実、そのとおりだった。取引先が逃げたのは、競合の商品力の高さ故だったからだ。だが、社長は許さなかった。

こういったことが積み重なり、社員はだれも社長に本当のことを言わなくなった。

むしろ「社長が喜ぶ話」ばかりを持って行った。本当のことを言わないほうが得をする、と社員に思わせたのだ。

「ウチの社員は優秀ですよ」
「お客さんはウチのサービスに大変満足しています」
「皆会社が好きです」
「大口の顧客が取れそうです」
「競合他社の製品は評判が悪いですよ」

そう言った形で社長にはいつも最高の報告が行くが、現実的には会社はどんどん競争力を失った。業績が悪いことは、常に現場の誰かのせいにされた。そして、そのたびに誰かが会社を辞めた。

なぜこのような顛末になってしまったのだろうか。

その本質は、社長が「見たいと欲することしか見ない」ことにある。

誰でも現実と向き合うのはつらい。常に現実ばかり見ていたら、心を病んでしまう可能性だってある。

だから、すべての人に「現実を直視せよ」と言うつもりはない。

だが、経営者は事情が異なる。

起業は多かれ少なかれ、他の人の生活に関して責任をおっており、経営は現実をベースにおこなわれなければならない。「見たくないことは見ず、聞きたくないことは聞こえず」では、経営者失格である。

ピーター・ドラッカーはその著書※1の中で

「部下は上司を喜ばせるためでなく、仕事をするために給料を払われている」

と述べた。

部下が上司の機嫌を取るためにあれこれ思索を巡らせなければならない会社は、間違いなく生産性は低い。そして何より、上司の機嫌を取ることが仕事になってしまう。

また、多国籍企業の総帥であったITTのハロルド・ジェニーンは著書※2の中でこう述べる。

「心理学者の意見を聞くまでもなく、正常な人間ならだれでも、自分の若いころの卑小さや過去に犯した誤りを覚えていて、批判に対して(たとえそれが気に入らないものであっても)素直であろうとつとめるものだ。

そしてできるだけ現実的な態度で、最善への答えへと自分を導く事実を求めようとする。

どれほど自分で自分を賢いと思っていようとも、間違いを犯すことも、疑惑や不安に襲われることもあることを承知しており、他人がアイデアや示唆や情報を提供してくれるのを歓迎する。

そして自分の周囲で進行していることに、常に知覚と感覚を働かしている。それが正常というものだ。」

経営者には本当のことを言わないほうが得をする、と社員に思わせてしまった会社の将来は、残念ながら明るいものではない。

私は営業マンや技術者、PRのスタッフ、派遣社員に至るまでが「あの人には何を言ってもダメだから、なるべくあの人を仕事に関わらせないようにしよう」と言っていることを聞いてきた。

しかし、この問題はほとんど解決されることはない。

なぜなら、経営者に「あなたは人格に問題があります」ということと同義だからだ。

人格の問題は極めて取り扱いが難しい。世の中に上司に面と向かって「人格に問題がある」という指摘ができる人がどのくらいいるだろうか?

だから、そうなってしまったら、会社はオシマイなのだ。

※1 経営者の条件(ダイヤモンド社)
※2 プロフェッショナル・マネジャー(プレジデント社)

 

この記事を書いた人
安達裕哉
経営・人事・ITコンサルタント。ティネクト株式会社代表取締役。世界4大会計事務所の1つである、Deloitteに入社し、12年間経営コンサルティングに従事する。1000社以上の大企業、中小企業にIT・人事のアドバイザリーサービスを提供し、8000人以上のビジネスパーソンに会う。自身の運営するブログ「Books&Apps」は月間PV数150万以上。
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