企業で働いたことのある人であれば、一度は「マーケティング」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
- 「マーケティング」を考えなければ
- 「マーケティング」と「イノベーション」が会社にとって最も重要だ
- 「マーケティング」がうまくいって成果が出た
あちこちで利用されている言葉であり、ビジネスにおける重要性も強調されています。
ただ、ホントのところ「マーケティング」とは何かを理解することは、それなりに時間と労力を伴います。
マーケティングはその重要さ故に、あちこちでコンセプトが乱立し、本質がわかりにくくなっている上、「よくわからないけど、販促のようなものでしょ」という方も数多くいるからです。
もちろん販促も大事ですが、マーケティングの理論的なこと、幾つかのフレームワークなどを知っておいて損をすることはありません。また「本質」を知らずにそれを使いこなすことも難しいでしょう。
そこで今回はマーケティングについて初心者向けにおさらいしてみたいと思います。
■.マーケティングは、フレームワークからではなく本質から学ぶ
マーケティングについて少し勉強したことのある人手あれば、4Pや3C、SWOTやイノベーター理論などが思い浮かぶ人がいるかもしれません。
でも、多くの人がご存知のように、それらはあくまでマーケティングを考える上での1つの知識に過ぎずマーケティングそのものとは異なります。
それでは、マーケティングの本質とは何なのでしょう。
マーケティングの第一人者、米ノースウェスタン大学教授のフィリップ・コトラーはその著書※1において「マネジメントの父」と呼ばれるピーター・ドラッカーの表現を引用しています。
これはマーケティングについて述べた最も本質的な一言でしょう。つまり、マーケティングとは販促ではありません。フレームワークを駆使することでもありません。
最も理想的なのは、マーケティングにより顧客が我々の商品、サービスに興味を持ち、勝手に購入してくれることです。それを実現するためのあらゆる活動が、マーケティングです。
上述したピーター・ドラッカーは、「企業の活動として本質的に必要なのは、イノベーションとマーケティングのみ、その他は全てコスト。」※2と述べました。
営業や販売活動をいかに減らすか。どうやって顧客に届けるか、知ってもらうか。良い商品とは何か、それらのアイデアを生み出し、実行するのがマーケティングです。
では、具体的な施策を見ていきます。
※1 マーケティング・マネジメント(丸善出版)
※2 マネジメント(ダイヤモンド社)
1.マーケットを考える −マーケットサイズ、セグメンテーション、ターゲティング
マーケティングにおける出発点は、その名の通りマーケット、すなわち市場を考えることです。
どこに市場があり、どのくらいの大きさか?を考えることから、マーケティングは始まります。マーケットサイズこそが、商売の上限を規定するのです。
そして、顧客は通常、欲しいものを自分でもわかっていません。したがってマーケッターは顧客を想定します。
ただし、マーケットの中で全ての人が顧客になるのではありません。そのために市場を細分化し、「標的市場」を定義します。
コトラーは、
と述べていますが、市場細分化が出来ておらず、「だれにでも売れるもの」を作れば作るほど、「誰にも売れないもの」となってしまうのです。
※3 コトラーのマーケティング・コンセプト(東洋経済新報社)
2.差別化する −ディファレンシエーション
顧客が製品やブランドの違いに関心がない場合、その市場はコモディティ化します。
つまり、低価格競争となるということです。低価格競争はあらゆる企業にとってあまり喜ばしくない状態です。
したがって、企業は例えば次のような要因について、差別化を測る必要があります。
- 製品の外観
- ブランド
- 顧客との関係性
大切なのは、「単に差があれば良い」という話ではなく、その差が顧客に価値をもたらすか、というアプローチをすることです。
中には「差別化は難しい」という経営者やマーケッターもいるでしょう。しかし差別化しなければ企業は生き残れません。
人気の高い鶏肉ブランドのオーナーは、「死んだニワトリの肉が差別化できるのだから、どんなものでも差別化できる」と言ったそうです。※3
3.値付けする −プライシング
京セラの創業者である稲盛和夫氏は「値決めは経営」※4という言葉を残していますが、値決め、すなわちプライシングもマーケティングの重要な要素の1つです。
価格決定はコストの積み上げではありません。顧客はコストに興味はないし、コストは「これ以上の価格で売らなければならない」という最低ラインを示すに過ぎません。
本来価格とは「顧客がいくらなら買うか」を中心にして設定されるべきです。
※4 アメーバ経営(日本経済新聞出版社)
4.流通と販売チャネルの開拓 −ディストリビューション、チャネル
多くの場合、製品を作ることそのものよりも、販売チャネル、すなわち「顧客に届けることのできる場所」を持つことのほうが遥かに難しいのは周知のとおりです。
また、webという販売チャネルの影響力がとてつもなく大きくなった結果、「webで販売チャネルを持つ」ことがいかに大きな力を持っているか、強く感じている人は多いのではないでしょうか。
従来の代理店、フランチャイズ、小売店、外交員などチャネルには数多くの選択肢があるが、これらは製品をどのように差別化するのかと同じくらい重要視すべきです。
5.顧客に認知してもらう −プロモーション
プロモーションすなわち販促は、マーケティングにおいては最下流の工程です。すなわち、上の1.〜4.までの間違いは、プロモーションでは取り返せない、ということです。
マーケットサイズやセグメンテーションが間違っていても、
差別化を間違っていても、
価格が間違っていても、
販売チャネルが間違っていても、
広告やPR活動のような販促手段では挽回することができません。
ところが多くの会社は広告に未だ多くの予算を割いています。
webの発達によって顧客が情報共有することが容易になり、ますます重点はプロモーションからその前段に移り、そして製品の質そのものが重要となっています。
Googleは、プロモーションではなく「製品にフォーカスする」※5と方針を決めています。
また、Appleの創業者の一人、スティーブ・ウォズニアックは「マーケティングなどまっぴら」※6と述べています。
ウォズニアックはプロモーションのことをマーケティングと考えてたようですが、いずれにせよこれからプロモーションの重要性は相対的に低下することでしょう。
ただしプロモーションをしなくて良い、というわけではありません。認知されていないものを購買することはできないからです。
効果的に顧客に認知してもらうにはどのようにすればよいか?マーケッターのウデの見せ所です。
※5 How Google Works(日本経済新聞出版社)
※6 アップルを創った怪物―もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝(ダイヤモンド社)
■.まとめ
マーケティングの活動を大まかにまとめると以下のようになります。
「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである」
- マーケットを考える。−マーケットサイズ、セグメンテーション、ターゲティング
- 差別化する −ディファレンシエーション
- 値付けする −プライシング
- 流通と販売チャネルの開拓 −ディストリビューション、チャネル
- 顧客に認知してもらう −プロモーション