叱れない人が、最近増えていると聞く。
知人の研修講師の話では、外部研修を受ける目的の1つに「社内の人間では叱ることができないので、外部講師に変わって社員を叱って欲しい」があるという。
一昔前は、「カミナリ親父」「カミナリ上司」は決して珍しい存在ではなかった。
たとえば国民的アニメである「サザエさん」において、カツオの父である波平は毎度カツオを「バカモーン」と、叱り飛ばしている。
だが、最近ではそう言ったシーンも放映を控えているという。世の中の基準が、そういった「キレる人」を受け入れなくなっているのだろう。
それを反映してか、最近の新入社員の話を聞くと、「父親から一度も叱られもしないし、まして怒鳴られたことなど皆無」という人が増えているようだ。
あるサービス業の幹部は、
「最近の新人は、叱るとすぐに凹んで、次の日に休んだりする。怒鳴ると『モラハラ』と言われる。かと言って叱らないといけないシーンもあるし、なかなか扱いが難しい」とこぼす。
昔と比べて、どの程度上司が怒鳴る回数が減ったのか、増えたのか。
正確な統計がないので、本当のところはだれにもわからないが、確かに「きっちり叱る上司」は10年前と比べても格段に減っているというイメージがある。
人事評価の軸として、上司の役割に「きちんと叱れる」との項目を入れる会社が増えているからだ。
さて、管理職の評価項目に入れている会社が多いことからもわかるように、個人的には「叱れない上司」はかなりの確率で「ダメ上司」である。
理由は以下のとおりだ。
1.叱ることは判断基準を明確にする
叱らない上司の部下は、「良い行動」と「してはいけない行動」の境界線が曖昧になりやすい。
例えば部下が顧客からクレームを受けた際に、「ま、次はやらないように」とヘラヘラしていてもダメである。
そんな時に必要なのは、部下に真剣に考えさせ、再発防止をやりきらせる上司の真剣な態度である。必然的に叱らない訳にはいかない。
自らの引き起こした結果の意味をわからせ、
「状況の説明」
「クレームの原因」
「再発防止策」
を部下に確実に行わせるためには、「叱ること」が絶対に必要である。
2.叱ることは真に生産的な人間関係をつくる
叱ると人間関係が悪くなる、と考える人が多いが、実際には逆である。長期的に見れば「褒められたこと」はすぐに忘れ、「真摯に叱られたこと」は皆よく憶えている。
しかも「叱られたこと」が本質をついていれば居るほど、人は「あの時叱ってくれてよかった」と思うものだ。嘘だと思うなら思い出してみるといい。「恩師」はあなたをしっかり叱ってくれたのではないだろうか。
人はリスクを取らない人を尊敬しない。
叱ってくれる人は、「自分が嫌われるリスクを取っている」ということで、尊敬を集める。褒めるだけ、当り障りのないことを言うだけでは、真に生産的な人間関係は得られない。
3.叱ることは真剣に考えることに繋がる
頭にくるとすぐに怒鳴る人もいるが、それを「叱る」とは言わない。それは単に怒っているだけである。
「叱る」というのは、コチラの要請を真剣に相手に伝わるように説いて聴かせることであり、そこには高度な駆け引きや、相手の感情を読むことが要求される。
・この言い方だと相手に届くだろうか
・こう話したら、相手の行動は改善されるだろうか
・指摘をしたら、単に感情的に反発されるだけで終わらないだろうか
・どのタイミングが叱るのに最適だろうか
そんなことをあれこれ考え、実行に移すのが「叱る」である。
したがって、「叱る」ことはその内容のみならず、相手の受け止め方、コミュニケーションの本質に踏み込む行為であり、熟考を必要とする。
4.まとめ
とどのつまり「叱れない上司」は上の3つを実行できていない。
すなわち、
・判断基準を明確にしていない
・真に生産的な人間関係を作ろうとしていない
・考えていない
上司である。これを「ダメ上司」と言わずして何であろうか。
それでも「部下がやめてしまうかもしれない」とか「恨まれるかもしれない」、「モラハラと言われるかもしれない」と叱ることを恐れる上司もいるだろう。
そんな人はどうすればよいのか。
それは、「部下の言うことなど気にするな」である。
どんな人でも100%思いが届くことはないし、叱った相手の成熟度によってはどんな言葉も届かない、ということが往々にしてある。
だから、叱れば必ず一定数の部下から、嫌われるであろう。だが、それが一体何だというのだ。
上司の努めは部下から気に入られることではなく、成果をあげることであり、社員の成長に対して責任をもつことである。それを為さない上司は、無責任という他はない。
逆に、上の3つに真摯に取り組む上司であれば、むしろ尊敬されることのほうが圧倒的に多いはずだ。叱ることで伸びる部下をどんどん取り立て、仕事を任せ、成果をあげさせてやる。それこそが上司の役割だ。
ふてくされてしまう部下に時間を使うことなんてない。会社は大人があつまる場である。未熟な社員にはきっちり、お引き取りいただこう。