人生は「判断」の連続です。特に仕事では、時代の変化に対応するために、スピーディーな判断が求められます。
様々な人が判断の重要性について言及しており、例えば、元トヨタ自動車社長の奥田碩氏によれば、〝Fast Eats Slow〟であり、よりスピーディーな判断が必要になってきています。
目先の変化や表面的な動きに惑わされることなく、変化の本質を把握したうえでスピーディーに行動することが重要です。〝Big Eats Small〟時代から〝Fast Eats Slow〟の時代にかわりつつある中、「決断」「実行」をいかに俊敏にできるかが成功の鍵となります。
また、スイスの哲学者であるアンリ・フレデリック・アミエルは、以下のような言葉を残しています。
決心する前に完全に見通しをつけようと決心する者は決心はできない
判断が人生を左右することは、誰しも理解していますが、人生の岐路のような場面ではやはり判断に迷ってしまう。私自身も、様々な場面で判断や決断することを迫られてきました。
そして、その迷いを晴らすために、書籍や先輩社員、知人からの助言をもとに「判断の方法論」を確立しようと試みました。そうした知見をまとめると、以下のようなものでした。
1.判断とは
適切な判断を下すためには、
- 情報を集め
- 選択肢を複数洗い出し
- 各選択肢のメリット・デメリット、それらの実現可能性を推考し
- 基準を明確にし、選択肢を選べ
- 勇気を持って選べ、時には直感に頼れ
- 選択に対して自ら責任を負え、そうでなければどの選択にも後悔が待っている
このように、判断や意思決定に関しては、「情報を集めよ」「メリットとデメリットを洗い出して比較せよ」といった論理的な方法論から、「勇気を持て」「直感を信じよ」といった精神論まで、様々なことが言われています。
こうした方法論を知ることで、いくらか私の気持ちは晴れましたが、判断に迷うことから完全に抜け出すことはできませんでした。
2.判断が難しい要因とは
考えるに、判断に迷う根本要因は、選択肢の中に、常に「現状維持」があるからではないかと思います。
選択する際は、それぞれの選択肢を比較することになりますが、「現状維持」とその他の「新しい選択」では、圧倒的に情報量が異なります。
「現状維持」はそのメリットもデメリットも明確であるのに対して、「新しい選択」は未来のことであり、どんなに情報を集めたところで、結局のところ推測でしかありません。
例えば、今の会社を辞めて留学すべきかどうか、判断に迷っているとします。会社に残った場合、どのようなキャリアを歩んでいくかということについては、ある程度経験的にわかりますが、初めて留学する場合は、何が得られるのか、留学後どうするのかといった不確実な未来について考えなければなりません。
留学先のパンフレットを見たり、知人に話を聞くとある程度は情報が得られますが、経験済みである現状の環境と比較すれば、結局のところわからないことだらけで、最後は「心の声」が決断を後押しすることになります。
既にある現実と、曖昧な推測。
確かなことより推測を信じることは難しいことであり、よほど現状に不満がない限り、新しい選択することは容易ではありません。
このように考えると、判断とは単なる選択行為ではなく、現状との決別を意味し、それには行動力が求められます。
そこで今回は、
- 判断が現状との決別である点
- 現実と推測の比較が難しい点
以上の2点に留意して、判断力を鍛える方法について考察します。
3.判断する力を鍛える方法
(1)小さな決別を繰り返す
現状維持が必ずしも間違いとは言えませんが、新しい道を選ぶことに慣れなければ、いつまで経っても判断ができるようにはなりません。
したがって、判断の精度を上げることも大切ですが、現状維持を選択しない、という行為を練習する必要があります。
いきなり大きな判断で練習するのではなく、小さなこと、例えば日常の些細な行動で、意図的にいつもとは違うことを選ぶようにします。
- 昼食はいつもと同じ店に行かない
- いつもとは違うメニューを選ぶ
- いつもと違う人と昼食に行く
- いつもと違う道で帰る
- 普段着ない服を着る
- 普段聞かない音楽を聞く
- 普段行かない場所に行く
こうした行為で判断のトレーニングにならないと思うかもしれませんが、重要な局面で新しい道を選択しない人の多くは、日常でも保守的な選択をしていることが多いのではないでしょうか。
私が知る創業経営者の多くは、比較的新しい物好きの方が多いです。例えば、食事一つとっても、接待用に行きつけのお店も確保していますが、一方で新しいお店ができるとすぐに行ってみるという具合です。
新しいことをやることと、判断力には関係があるように感じています。
(2)日常で繰り返している現状維持に気づく
私たちは日常で、明確に意図をしていない「現状維持」を繰り返しています。
例えば、今日これから面接があるとします。出かけるとき、どのような服装で行くべきか。地味なスーツか、少し明るめのスーツにするか。
この過程では、服を選ぶという判断行為と同時並行で、いくつも判断を下していることになります。
- 今日、面接に行くべきか (行かない、別の日に行くという選択肢がある)
- 面接手段として訪問という形をとるべきか (電話、スカイプ、来て頂くという選択肢がある)
- そもそも服を着替えるべきか (裸でいく、パジャマのままでいくという選択肢がある)
- 自分で選ぶべきか (面接相手に確認する、友人に相談するという選択肢がある)
実際には様々な選択肢がありますが、常識という名のもと、服を選ぶこと以外の判断は無意識に行っています。
この例では、実際に裸で面接に行くことはありませんが、現状維持は選択肢の広がりを阻止する作用があります。
今から20数年前、有名商社からの内定をどこの誰よりも早く獲得している先輩がいました。今のようにWebが発達しておらず紙の求人媒体がメインだった時代です。もちろん、インターンシップは主流ではなく、普通に書類先行、筆記試験、面接という時代のことです。
選考過程で何かをしたか。
南米にある事業所を単独訪問し、仕事を見学したい、直接現場を見たいと申し入れたのです。書類選考どころか、その場で内定が出たと言います。
今、この手のやり方はある程度知られているため、効果性はないかもしれませんが、当時、常日頃から現状の規定路線を走る学生には思いもよらない選択肢でした。
判断力を鍛えるためには、常に現状維持を疑ってかかる姿勢が不可欠です。
(3)推測の一部を現実に変える
推測で判断することが難しいのであれば、一部を現実にしてみる。
例えば、留学したいと考えるのであれば、長期休みに一度候補地に旅行をしてみる、というやり方です。
優れた意思決定を行う事業家の多くは、会議室での長時間の検討を好まず、小さく実験することから始めます。実験と検証を繰り返し、いけそうであれば大きな意思決定を行う。
推測のみで判断することは誰にとっても難しいだけではなく、闇雲に判断しても後から失敗するだけです。
4.まとめ
判断に迷うのは、いくら考えたところで「現実」対「推測」という構図に変化がないことに、その根本があります。
現状維持をすることを人は保守的と言いますが、次々と判断を行い、自らの人生を切り開いている人も、実は案外保守的で、ギャンブラーのような人はごく一部です。
判断しない人との大きな違いは、新しいことを選ぶことに慣れていることや、推測を現実に変えることに時間を使っていることにあります。
まとめると、適切な判断を下すための方法は以下のようになります。
- 普段から現状維持を疑い、現状との決別を練習しておき
- 情報を集め、小さな実験を行い
- 選択肢を複数洗い出し
- 各選択肢のメリット・デメリット、それらの実現可能性を推考し
- 基準を明確にし、選択肢を選べ
- 勇気を持って選べ、時には直感に頼れ
- 選択に対して自ら責任を負え
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