人材育成には「正解」はないが、「王道」はある。しかも、それは特に複雑なことではなく、誰にもでもできることである。
考えて見れば当たり前だ。人材育成にそれほどの手間と特殊な才能が必要なのであれば、人類は子孫を育てられず、とうの昔に滅びていただろうからだ。
だが、もともと人の成長はそれほど速いものではない。
まっさらな状態から言葉が話せるようになるまで数年。分別がつき、人の気持ちがわかるようになるまでにさらに十数年…というのが、人が育つペースだ。
「子供に教えているのではなく、相手は大人だから、会社における人の育成はもっと速くできる」という方もいるだろうが、私にはそう思えない。
多くの人がそうであるように、ビジネスの基本的な考え方やスキルが身につくまでに1~2年、そこから高度なことができるようになるために更に3~4年、創意工夫やクリエイティブなことができるようになるためには、そこから更に何年もかかる。
アルバイトのように仕事の手順だけ教え、あとは機械的に同じ動作を反復させるだけであれば、教えるのは1ヶ月もかからないが、会社の中核を担える人材を育成するのには、気の長い投資が必要だ。
だが、会社における人材育成はこの考え方と合わない部分も多い。なぜなら多くの会社は「インスタントな人材育成」を求めるからだ。
「人材育成は長い目で」という言葉は正しい。しかし、その長い時間をなんとかしたい、というのも、企業の偽らざる本音だろう。
そこで必要なのは、「人材育成の正しいデザイン」である。
人材育成は、基本的な幾つかの要素を抑えておくだけでも、効果に大きな差がつく。育成に携わるものであれば「王道」として知っておきたい。
1.最初から最高水準を目指す
最高水準を目指さないトレーニングは、はっきり言って無意味だ。教える方もつまらないし、教わる側もプライドを持てない。
たとえどんな基礎から入ったとしても、最終的には「最高水準」までの道を見せなければ、人材育成のデザインとして正しいとはいえない。
だが、何が最高水準なのかは議論の余地がある。一般的には「会社の中で最高のパフォーマンスを出している人」のレベルを目指すように計画を行うのがもっともよいだろう。
2.「ノウハウ」ではなく「習慣」を重要視する
1つのノウハウが、ビジネスをひっくり返すほどのインパクトをもたらすことはほとんどない。
仮にそんなものがあれば、自分でビジネスを起こすことを推奨するが、そうだったとしても大抵の人は習ったノウハウを実践しない。
肝心なのは実践と、継続である。人材育成の本質は、実践と継続による「習慣化」だ。これを育成の計画に組み込まないものは、役に立たない。
3.習慣は、常に検証されるべきものである
実践と継続によって身についた習慣は、一度身についたら変えない、という性質のものではない。
むしろ、身についたものについては繰り返し検証を続け、より研ぎ澄まされた技術にするための日々の改善という、本当の意味での学びが待っている。
そして、それらは「教わる」のではなく今度は「教える」立場になってこそできることだ。
習慣化できたことは人に教えよう、指導する立場になろう、マニュアルを作って、伝達しよう。それらに対して批判と意見をもらおう。
そうすること初めて、あなたが身につけたものを、真の意味で一流のものにすることができる。
4.苦手なことをダラダラやらない、やらせない
実践と継続を繰り返しても、どうしてもうまくならないことがある。どうしても一流に達せないことがある。いや、むしろ一流の域に達することのできないことのほうが遥かに多いだろう。
だが、苦手なことをダラダラやっても時間の無駄である。
苦手なことはすて、自分の得意な、一流の仕事ができることに時間を集中しよう。30代も半ばになれば、大分自分の得意不得意は見えてきているはずである。また、そうでなければおかしい。
指導する側はもっと気を使わなくてはならない。
「これは一流にはなれないから別のことをしなさい」と言ってあげるのは優しさであり、厳しさでもある。一流の指導者は、「何でも一流になれるよ」という嘘はつかない。
人材は残念ながらインスタントに育成できるようなものではない。
逆にそうであるからこそ、人を育てる能力が、真の意味での企業の強さとなることは間違いない。