労働者と企業の「仕事への考え方」が大きくズレてきている、という話

先日、ある一人の新卒が会社を辞め、複数の会社を転々とした挙句、仕事が嫌になってしまった、という話を聞いた。 それは以下のようなものだった。

–1社目–

4月 期待に満ちて会社に入る。

5月 新人研修時代は、学ぶことばかりで面白い。同僚と仕事を頑張ろう、と希望に燃えて熱く語り合う。

6月 希望の部署に配属されず、不満に思う。

7月 配属された部署で、仕事に描いていたイメージと、現実にやらされる仕事が異なることに失望。

8月 仕事が面白くないことで、度々上司や先輩と衝突。「ダメな奴」とのレッテルが貼られる。

9月 入社半年の面談で、不満を上司にぶつけるが、取り合ってもらえない。

10月 仕事の量が増えてくるに従い、長時間労働が増える。上司や先輩に素直に質問できず、仕事のクオリティが出ない。「会社がキチンと教えてくれないからだ」と環境に不満を持つ。

11月 長時間労働が徐々に精神を蝕む。希望の部署に行けた同僚が羨ましくて仕方がない。この頃になると新人同士の実力にかなりの差がつきはじめ、評価がはっきりと別れ始める。

12月 年末に帰省、久々に友達同士で会う。友人の「成功物語」と「ボーナスの額」を聞くと自分の仕事が地味であることに悩む。 「仕事も面白く無い、残業多いし給料安くない?」と思い始める。

1月 仕事がどうにも嫌になってくる。転職サイトを覗き始める。「第二新卒」でもう少しネームバリューのある会社を目指すか?

2月 転職エージェントに会う。「今のまま転職しても、年収は上がらないし、今の市場価値は低いです。」と言われがっかり。 「自分の価値が思ったよりも低かった」ことに失望。

3月 会社の業績が伸びておらず、来年は更にきついノルマが課せられるとの噂に動揺。唯一尊敬する先輩社員から「おれ、そろそろ辞めようと思ってる」という話を聞かされ、 さらに絶望する。

4月 先輩社員は伸び盛りのスタートアップに転職。それを見て先輩社員に転職の相談に行く。 「ウチも人がほしいから、来てみる?実力主義で、風通しいいよ。」と言われ、会社をやめる決心をする。

5月 退職願いを上司に提出。上司はあっさりと受理。

6月 退職。

 

–2社目–

7月 スタートアップで勤務を始めるが、予想を遥かに超える激務と安い給料に悩む。考え方の違いから、先輩とスタートアップの経営者が度々ぶつかるのを目撃。「スタートアップの現実」を知り、どちらに付くか悩む。

8月 伸び盛りだったはずのスタートアップに暗雲。大手の取引先から取引を打ち切られ、業績悪化。経営者と先輩から手のひらを返したように「オマエは役に立たない」と言われる。人が信じられなくなり、うつ病気味に。

9月 転職先のスタートアップを半年もたたずに辞める。次はまだ決まっていない。 転職サイトを見ても、エージェントに相談しても「最初の会社」以上の条件を提示してくれるところはない。

10月 貯金が底をつき、働くしかなくなる。自分のプライドを唯一満たすため「給料が安くても、大手企業の冠がついた所が良い、と老舗大手の孫会社に滑りこむ。が、そこは 「とりあえず誰でも良いから採用して、根性で売らせる」という超営業会社だった。

 

–3社目–

11月 テレアポと飛び込みばかりやらされる。上司から毎日罵声を浴びせられると涙が出てくる。

12月 年末の休みはたったの4日間。「オマエみたいに成果を出せない奴が休むなんて、良い身分だな。」と嫌味を言われる。もはや同窓会に顔を出す気力もない。

1月 初の無断欠勤をしてしまう。携帯に上司からの電話がガンガンかかってくるが、出ることもできない。

2月 出社する勇気がわかず、なし崩し的に会社をクビになる。

 

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入社式、新卒はヤル気に満ちていて良い、という声が聞かれた会社においても、 6月はそろそろ「あれ?そうでもないかな?」と思い始める時期だ。

「ベテランに刺激を与えて欲しい」という期待も虚しく、徐々に体制に取り込まれつつある 新人を見ると、「大人になった」のか「諦めた」のかの区別はつかない。

統計的には、大卒の新卒は3年で3分の1が離職する。(厚生労働省の調査

希望に燃えて就職したはずの会社で、なぜ彼らは短期間で離職してしまうのだろうか。

少し古いデータだが、2007年の労働政策研究・研修機構の調査によれば、若年者の離職理由は大きく3つである。(労働政策研究・研修機構の調査

  1. 仕事上のストレスが大きい 43%
  2. 給与に不満 31.3%
  3. 労働時間が長い 29.9%
  4. 職場の人間関係がつらい 27.9%

これだけを見ると、職場環境への不満が最も大きな要因だといえる。 だがこれはあくまでも「最終的な理由、会社に報告した離職の理由」である。

ほんとうに重要なのは、この調査で行われた「若年者が、最初にやめようと悩んだきっかけは何か?」 という質問に対しての回答だ。

  1. 仕事の内容に不満 43.3%
  2. 賃金が低い 41.6%
  3. 職場の人間関係 29.5%
  4. 会社の将来性が不安 29.4%

冒頭の話を見て「愚かな人物」とあなたは思っただろうか?確かにそうだ。ろくに働いてもいないうちに、仕事にあれこれ文句をつけても始まらない。

だが、一方で近年は労働者と企業のニーズがすれ違ってきているとも感じる。

冒頭のようなエピソードが増えてきているのは、その一つの現われとも言えるし、また早くそう言ったニーズに対応する会社が良い人材を集めることもできるだろう。

では、どのような部分にすれ違いがあるのか。

 

1.若手の「短期で成長したい」と、企業の「石の上にも3年」

直ぐにやめてしまう若手を見ると、古いサラリーマンは「石の上にも3年、を知らんのか。最近のやつは我慢を知らない」という。だが、私にはそうは思えない。人間の忍耐力など、今も昔も対して変わらない。

新卒は皆「普通にやっていても豊かになれない」事をよく知っている。あらゆるデータが、平均賃金の低下、企業の寿命の短期化を示唆しているのだ、無理も無い。

だがその結果として新卒に植え付けられたのが、「楽しく仕事をして、大きな結果を、若いうちにすぐ出したい」という、超短期の成長ニーズである。

新人は当初は「モチベーションの高い状態」で仕事をする。それは、「仕事がどんどん上手くなる」からである。

ところが、ある程度仕事に慣れ、現場での技能に習熟してくると「モチベーションの減退」が発生する。要は「思うように上達しない」状態がやってくる。

この状態は「プラトー」と呼ばれ、誰にでもある現象であるが、これは「短期志向」と反する。その結果、会社をやめてしまう。

 

2.若手の「見栄えの悪い仕事はイヤだ」と、企業の「仕事に見栄えを期待するな」

最近では「泥臭く、見栄えの悪い仕事」は特に若手に人気がない。

人は他者との比較により、自らの重要性を認識する。

「人は人、我は我」と割り切れる人物ばかりであったら、アパレルも、スマホゲームも、高級車も閑古鳥が鳴くだろう。多くの人には「見栄え」こそが重要なのだ。

だが、昔は「見ないこと」ができた。比較対象が少なかったのだ。だが現在はスマートフォンという窓から自分の身近な人の成功(のように見えるもの)をいつでも覗くことができる。

したがって、ある種の若手は「見栄えの良いキャリア」に安易に飛びついてしまう。結果として、現在の仕事をやめてしまう。

 

3.若手の「仕事は楽しくしたい」と、企業の「楽しい仕事なんてない」

人によって「楽しい仕事」とは何か、という問いに対する答えは異なるが、話を聴くとルーチンワークではなく、「非定型業務」を主に上げる人は多い。

だが、非定型業務は、人を数多く必要としない。ましてスキルのない若手にやらせる非定型業務は多くない。

また、企業側は非定型業務はパフォーマンスが一定にならないため、できるだけ多くの仕事を定型的にしようとする。ここに大きなギャップがある。

有能な若手を惹きつけ、次世代につなぐためにはこのような「一見わがままな」ニーズをきちんと把握し、応えていくこともまた重要だ。有能な人はそれでなければ集まらない。

その手腕が経営者や人事担当に問われている。