優秀なリーダーは経営理念でフィードバックする

mission

経営理念を浸透させるためにはどうしたら良いだろうか。企業経営者やリーダーが頭を悩ますテーマの1つだ。

カードを作って唱和させたり、理念に沿った行動を称賛するのも良いが、優秀なリーダーのやり方は少し違う。日々のフィードバックの中で経営理念を使い、部下に浸透させていくことができる。発する言葉の中に、常に経営理念が含まれている。

以前勤めていたコンサルティング会社で、私の上司だった人の話し方がとても勉強になったので、紹介させて頂きたい。

ある日のミーティングで、クライアントのことを良く知っているかが問題になった。

事業部の方針に、プロジェクトの内容に関わらず、クライアントの財務諸表(P/L、B/S)分析を徹底しようというものがあった。プロジェクトによっては、財務諸表が直接必要ないこともあるが、経営コンサルタントであればそれぐらい知っておくべきだ。

できていて当然のことではあるが、念のためプロジェクトごとに確認していくと、さっぱりできていない。分析どころか、財務諸表を入手していないコンサルタントもいた。財務諸表の回収率は50%程度だった。(未上場の場合、決算をタイムリーに開示していない会社も多かった)

 

Level.1 数字と方法でフィードバックする

マネージャーAが言った。

財務諸表ぐらいしっかり確認しようよ。プロジェクトが始まるときに依頼すれば、大体見せてもらえるから。帝国データバンクを使って調べることもできる。残り50%は今月中に回収しよう。

回収率という数字と、それを達成するための方法でフィードバックするやり方だ。問題視されたコンサルタントたちは、どこか釈然としていなかった。人事評価制度を作るときに、どうしてB/Sが必要なんだろうか。そんな心の声が聞こえてきた。

 

Level.2 目的でフィードバックする

マネージャーBが言った。

プロジェクトに直接関係ない場合でも、財務諸表を回収・分析する理由は2つある。

1つ目は、クライアントの利益に関するものだ。財務諸表を分析し、助言することで売上・利益に貢献できる。プロジェクトのテーマとは関係がないことであっても、どんどん助言して貢献していこう。

2つ目は、私たちの利益に関するものだ。プロジェクト外のテーマについても、色々な助言をしていると、信頼獲得につながり、次の仕事につながっていく。結果的に、クライアントにも自分たちにとっても良いことなのでやっていこうよ。

なぜ回収するか。目的を語っている。ごもっともな理由で、コンサルタントたちは納得しているようだ。仕事の目的を伝えるという意味では、真っ当な話し方だろう。しかし、上司の一言に比べると、軽いものだった。

 

Level.3 共感と経営理念でフィードバックする

そこまで黙って様子を眺めていた上司が、最後に言った。

ところで、財務諸表を見せてくださいとお願いして、クライアントに断られたことってないかな?B/Sは経営者の性格とか、色々出るからねー。ベンツ買ったり、別荘買ったりして節税していることもあるからね。外部の人間に見せるのが嫌な経営者もおられると思うけど、どうみんな?

(何人か頷いている)

でもね、見せたくない部分を見せてもらえないのって、言い方を変えればまだまだ信頼されてないってことじゃないかな。俺はここにいるみんなが、クライアントに心から信頼されるコンサルタントであって欲しいと思っている。

財務諸表の回収率をマネジメントしたいわけじゃない。信頼されているかどうかをマネジメントしているんだ。信頼獲得率を100%にして欲しいんだ。

もっと言えばね、俺たちの仕事はコンサルタント。相談に乗る人って意味だよね。優秀なコンサルタントって、クライアントが色んな相談を持ち掛けてくるから、財務諸表を見せてくださいって、こちらからお願いしなくても、どんどん情報が入ってくるんだ。あれも見てください、これも見てください、ってなる。

俺はここにいるみんなに、一流の経営コンサルタントになってもらいたい。今のプロジェクトに関係がないことであっても、どんどん相談されるコンサルタントにね。

みんな、もっと信頼されたくないか。一流になりたくないか。どうかな。

共感を示し、その上で理念を語る。信頼とは何か。一流のコンサルタントとはどういうものか。この話があった後、いちいちマネジメントしなくても財務諸表の回収率は一気に上がった。
 

当時いたコンサルティング会社の経営理念に、「信頼されるコンサルタントになる」「一流のコンサルタントを目指す」といった文言はなかった。だが、経営理念を浸透させるやり方というのは、こういうことなんだろうと気づかせてくれた出来事だった。
 

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