中小企業の経営者や人事労務担当者のお悩みに、わかりやすくお答えします!
手当には、労働基準法によって支給が義務付けられた「法定手当」と会社が就業規則などで独自に支給要件を定めている手当があります。
解説:法定手当には「時間外手当」「休日手当」「深夜手当」「宿日直手当」「休業手当」があり、法律で定められた支給要件に該当した場合には必ず支給する必要があります。
会社が就業規則などで独自に支給要件を定めている手当は様々ありますが、大きく次の4つのタイプに分かれます。
- 「役職手当」や「資格手当」のような仕事や働きぶりに関する手当
- 「家族手当」や「住宅手当」のような生活補助的な手当
- 「通勤手当」のような実費を補填するための手当
- 「結婚手当」「私傷病手当」のような福利厚生的な手当
その他にも、会社の独自性をアピールし、採用や従業員のモチベーション向上につなげるために「誕生日手当」や「健康維持促進手当」などを作る会社もあります。
こういった会社が独自に設けた手当についても、就業規則などで定めた支給要件に該当した場合は支給の義務があります。

関連:手当は必ず支払わなければなりませんか?関連:割増賃金を支払う場合、手当の分も割増賃金として計算する必要がありますか?
支給要件に該当した場合、必ず支給しなくてはなりません。
解説:法定手当も会社独自の手当も法律や就業規則等で定められている支給要件に該当した場合には支給の義務があります。
計算から除外できる手当と、除外できない手当があります。
解説:割増賃金の計算から除外できる賃金は、3種類あります。まず、「家族手当」や「住宅手当」のような労働と直接的な関係が薄い手当です。次に、「出産手当」のような臨時の手当です。そして、「勤続手当」のような1カ月を超える期間ごとに支払われる手当です。
具体的には次の7つが対象です。
- 家族手当:扶養家族の人数などを基準にして算定した手当
- 通勤手当:通勤距離に応じて算定される手当
- 別居手当:同一世帯の扶養家族と別居を余儀なくされる従業員に対して支給される手当
- 教育手当:子供の教育費を補填するために支給される手当・賃金
- 住宅手当:住宅に実際に必要な費用に応じて算定した手当
- 結婚手当、退職金、出産手当、私傷病手当等の臨時に支払われた賃金
- 勤続手当や精皆勤手当などの1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらを、実質的な支給要件の内容に基づいて判断します。そのため、生活手当という名称であっても、その支給要件が「扶養家族の人数を基準として手当を算定する」とあれば、実質としては「家族手当」であると判断し、割増賃金の計算からは除外できます。
一方で、家族手当や住宅手当という名称であっても、扶養人数や実際の住宅費用に関係なく「一律で支給される場合」や、通勤手当が「通勤距離に関係なく支給される場合」は割増賃金の計算に含みます。
法律で定められた手当は廃止できませんが、会社が独自に支給要件を定めている手当は、合理的な理由があれば廃止できます。
解説::労働基準法によって支給が義務付けられた手当は支給の義務があり、廃止はできません。会社が独自に支給要件を定めている家族手当や住宅手当などの手当は廃止できますが、従業員の同意や就業規則等の変更が必要です。
また、手当の廃止が不利益変更に当たる場合、合理的な理由がなければその変更自体が無効と判断されてしまうため、そもそも不合理な変更でないかは検討したうえで廃止を検討すべきでしょう。
合理的な理由による廃止であれば、労契法10条に則って、従業員の同意を得ずとも就業規則の変更を行うことは可能ですが、後に労使間の紛争となることも考えられます。
そのため、特に長年支給の実績がある手当や、従業員にとって不利益が発生するような場合は丁寧に説明し、実行までの経過措置や代替措置を検討しながら、従業員の同意が得られるように慎重に進めるべきでしょう。
変更内容が「同一労働同一賃金に違反していないか」、「非合理的な不利益変更でないか」を検討し、合理的な不利益変更については従業員の同意を得られるように慎重に説明し、場合によっては実行までの経過措置や代替措置を取ります。万が一、同意が得られない場合でも、労契法10条に則って就業規則を変更することが可能です。
解説:手当を変更するにあたって、「同一労働同一賃金に違反していないか」「非合理的な不利益変更になっていないか」は検討し、該当の場合は是正する必要があります。
また、「合理的な不利益変更」に当たる場合は、従業員に同意をとるために説明を行い、場合によっては実行までの経過措置や代替措置を取りながら、慎重に進めます。
従業員と紛争を避けるためにも、合意を取ることが望ましいですが、「合理的な変更」であることが認められれば、従業員の合意がなくとも労契法10条に従って就業規則の変更を行うことができます。
ただし、どちらもの場合も変更後の就業規則を従業員に周知させることは必要です。
諸手当に関する欠勤控除の定めを就業規則等でしており、これまでも控除をしていれば、可能です。
解説:賃金については、就業規則等で「欠勤による控除をしない」と定めている場合を除き、「ノーワーク・ノーペイの原則」から、欠勤等によって労働しなかった不就労分の賃金を控除することができます。
手当についても、同じく「ノーワーク・ノーペイの原則」から不就労分を控除することは可能ですが、就業規則等に定めているか、かつ実態として控除をしているかという慣習によって判断されます。
そのため、まずは、就業規則等で欠勤等によって控除される賃金の範囲を明らかにしておくことが重要です。
規定上の根拠があれば、不支給とすることができます。
解説:就業規則等に、「賃金計算期間の途中で各種休職に至った場合、私傷病欠勤が暦日で2か月を超えた場合には、日割り計算による支給する」というような規定が定められていれば、通勤手当を不支給とすることができます。
現時点で規程がなく、新たに設ける際には、従業員の合意を得て就業規則を変更します。従業員の合意が得られるよう、慎重に説明を行い、必要に応じて実行までに一定の経過措置や代償措置などを設けることも検討しましょう。
万が一、変更内容が従業員の不利益に当たり、合意が得られない場合であっても、その内容が合理的なものであれば、労契法10条に則って変更は可能です。ただし、その場合でも変更後の就業規則を従業員に周知することは必要になります。
就業規則等で諸手当に関する不就労控除の規程があり、控除の実績があれば減額は可能です。
解説:就業規則等で定めていれば、家族手当や住宅手当などの諸手当についても、不就労の時間単位で控除や減額が可能になります。
ただし、そのような規程があっても、慣習として控除や減額を行っていないという実情がある場合には、控除や減額が認められない可能性があります。
また、病気等による遅刻や早退には不就労分の控除や減額をしていないのに、育児短時間勤務などの時短勤務者にだけ不就労分の控除・減額をすることは違法と判断される可能性があるため、注意が必要です。
不合理な待遇差は違法となる可能性があります。
解説:「同一労働同一賃金」の原則に基づき、労働契約法20条、パートタイム労働法8条では、「①職務内容、②当該職務内容や配置についての変更範囲、③その他の事情の要素を考慮して不合理と認められるものであってはならない」としています。そのため、手当の性質や目的と照らし合わせたときに不合理であると認められた場合、違法となる可能性があります。
例えば、危険な業務を行うことに対して支給されている特殊作業手当は、契約期間との関係性がないため、同一の業務を行っている場合は、同一の手当を支給する必要があります。また、通勤手当についても正社員とパート社員が同じ日数働いているのであれば、同じように支給する必要があります。
ただ、業務の内容や責任の範囲、労働時間が異なる場合、その違いに応じた待遇差は合理的だと判断され問題ありません。
- 通勤手当で不合理でないと判断される例 「週の所定労働日数が4日以上の従業員には月額の定期代を支給し、それ以下の従業員には日額の交通費を支給する」というような支給内容であれば、実際の出勤日数によって合理的な差を設けていると言えます。
- 役職手当で不合理でないと判断される例 「同じ役職ではあるが、フルタイムで働く正社員と比べてパートの労働時間が半分である場合、役職手当もパートは半分の額にしている」という場合は、異なる労働時間に応じた支給を行っていると言えます。
- 地域手当で不合理でないと判断される例 「転勤のある正社員については全国一律の基本給体系に加えて、地域の物価等を勘案した地域手当を支給する。転勤のないパート社員についてはそれぞれの地域で採用し、それぞれの地域で物価を勘案して基本給を設定しているため、地域手当は支給しない。」という場合は問題ありません。
パート社員も、有期契約社員、嘱託社員、アルバイト職員など様々な契約があり、勤務状況や職務の内容も会社によって異なります。待遇差について検討する際は、それぞれの職務の内容や責任の範囲、人事異動の有無や範囲を整理しながら、不合理なものになっていないかを確認することが重要です。
請求できます。
解説:労働者が各種手当について不正受給をした場合、それが故意または過失によるものであれば、不法行為にもあたるため、不正受給金額相当額を返還するように請求することができます。
返還方法について、賃金からの天引きとすることは可能ですが、その場合は、その時期や方法、金額などが、労働者の経済生活の安定を脅かすおそれがないよう、分割して天引きするなどの配慮が必要です。
賃金請求権の消滅時効期間である3年分は、遡って遅延損害金も含めて支払う義務があります。
解説:会社は従業員と交わした契約内容に従って、期日までに諸手当を支払う義務があります。そのため、会社の過失によって支給洩れが発生していた場合には、遡って手当の支給を実施しなければなりません。
賃金請求権の消滅時効期間は延長され、当分の間はその期間が3年となっています。そのため、最大で3年間遡って支払う義務があります。また、支払いが遅延しているため、会社は遅延利息をつけて支払う義務があります。