人事評価をするときに、よくテーマになるのが「絶対評価」と「相対評価」だ。
このテーマに対する現場社員の関心は高く、人事制度の説明会を行うとかなりの確率で、「今回の評価制度は絶対評価ですか?」といった質問が出る。
一体どこでそんな言葉を覚えるのか知らないが、現場社員の言い分は、「絶対評価にすべし!」の一点張りで、実のところ、世の中の人事コンサルタントの多くも絶対評価を推奨している。
しかし、結論を言えば、レッドオーシャンで競争をしている中堅中小企業において、安易に絶対評価を導入するのは避けたほうがいい。なぜなら、競争力を高めるためには相対評価のほうが有効に機能するからだ。
本記事では、人事における絶対評価と相対評価のメッリト・デメリットの両面について考察し、中堅中小企業における評価のあり方に一石を投じたい。
これを読めば、あなたの会社がどちらを採用したいか、決めることができるだろう。
ー 目次 ー
1.絶対評価と相対評価とは?
まず定義を簡単に整理すると、「相対評価」とは、社員同士を比較して順位付けをするやり方を指す。S評価は○%、A評価は○%、B評価は○%、、、といった具合に、評価の分布を決めておき、そこに社員を並べていく。
「絶対評価」とは、他の社員の出来栄えに関係なく、ある評価基準に沿って、社員1人ひとりを評価していくやり方のことだ。
絶対評価は、別名「到達度評価」とも呼ばれ、到達度によって評価の高低が決まってくる。つまり、到達度を明確にすることによってはじめて、運用が可能になる方法だ。
評価の一例を図解すると以下のようになる。
この例では、9名の社員がいる組織で、評価基準は目標達成率だった。
絶対評価と相対評価では、S評価(高い評価)やD評価(低い評価)の出現率が異なってくるのがわかってもらえるだろう。この出現率の違いが議論のポイントになる。
2.絶対評価のメリット
図中の9名の目標達成率を平均すると、107%となり素晴らしい結果と言えるが、相対評価の場合は、S評価の社員がたったの1人しかいない。
「みんな頑張っていて良い結果が出ているのに、S評価がたった1人(一定数)しかいない。相対評価は、評価のやり方として間違っている‼」
というのが、現場社員の気持ちなのだ。頑張っても、頑張らなくても、S評価が1人だったら、努力なんて無駄だ、という気持ちになりやすい。(もちろん、そんなことはないのだが)
一方、絶対評価では他者の達成率に関係なく、自分が頑張れば高い評価を得ることが可能で、社員の評価に対する納得度は高い。
また、評価基準が目標達成率のように明確のものであれば、「高い評価を得るために、あと3%、あと5%頑張ればいい」といった具合に、そのGapもまた明確であり、それが努力や能力開発の指針となるだろう。
絶対評価のメリットは、「納得感」と「ギャップの明確化」である。
公教育においても、2002年から本格的に絶対評価が導入されているため、若い世代やその親にあたる世代も絶対評価に慣れてきている。
このような背景もあり、絶対評価を採用する企業が増えている。しかし、相対評価にもメリットがあり、だから相対評価を採用している企業もあるのだ。
3.相対評価のメリット
スポーツの事例になるが、例えば人類の頂点を決めるオリンピックで、相対評価が導入されているのは、周知の事実だ。各競技で、金メダルを獲れるのは1人と決まっている。
スポーツが絶対評価だったとしたら、どうなるだろうか。やってみなければわからないが、例えば100m走で10秒未満はみんな金、みたいな評価方法になったら、人類は9.58秒という記録に到達できただろうか。
金メダルが1人しかいないから、そこに価値はあるし、皆が本気で目指すのではないだろうか。金メダルが10人もいたらスポンサーも誰に注目して良いかわからず、金メダルの価値は相対的に下がるだろう。
相対評価のほうが、競争原理は強く働く。
「スポーツと仕事は違う」と考える方もいるだろうから、自分の体験談で恐縮だが、実体験をもとに仕事における相対評価のメリットをお伝えしたい。
4.相対評価の事例
私は前職で、営業を担当した時期があった。
そのときの評価というのが少し変わっていて、営業が10名いたのだが、営業スキルのロールプレーイングを行い、その出来栄えを相互に採点し、合計得点によって相対評価するというものだった。
どんなにロールプレーイングを頑張っても、ビリになる社員が出ることや、お互いの採点結果に対して疑心暗鬼になったりすることもあり、私はこのやり方が好きではなかった。
ビリになって気持ちが落ち込んだり、お互い足の引っ張り合いをする(かもしれない)というのが相対評価の持つデメリットだ。
しかし、この方法は業績を上げる、という点では極めて有効に機能した。
ロールプレーイングの出来栄えが賃金に反映されるということもあって、皆、真剣に練習に励んだし、最初は嫌な気持ちもあったが、慣れてくると健全な競争意識も働くようになったのだ。
このロールプレーイング大会は月1回のペースで開催され、その度に私たちのスキルは上がっていき、業績が向上していった。
当時、競合負けをした記憶があまりない。今になって思うことだが、これは本当にすごいことだ。
もちろん、商品力もあるから売れていたのだが、社内で毎月競合しているので鍛えられており、社内のロールプレーイングで負けることはあっても、外では負けない営業スキルを持つようになっていった。
そして自分でもこれが一番“興味深い感情”だったのだが、業績が上がれば、モチベーションも上がっていった。モチベーションとは、良い結果によってもたらされるものなのだ。
良薬口に苦しではないが、一年が終わってみれば、ロールプレーイング大会も良い思い出になっていた。
逆に、どんなに公平に評価してもらっても、業績が下がれば、モチベーションは下がる。やはり結果を出すことがとても重要なのだと思う。
私に起こったこの出来事は、人事評価のあり方を深く考えさせるきっかけになった。
絶対評価にも、相対評価にも、良い面と悪い面があり、各企業が自分たちの環境や方針に合わせて、評価方法を選ぶのが正解であって、試行錯誤をやめるのが一番危ういことだと思う。
本題はここまでだ。5と6はややマニアックなので、7のまとめまで読み飛ばしても構わない。
5.評価基準と相対評価
絶体評価を推す声の中に、「絶対評価は基準が明確で、相対評価は基準が不明確だ。上司の好き嫌いで行われる相対評価は悪いやり方だ」みたいな論調が存在するが、完全に検討違いである。
オリピックは相対評価で行われるが、100m走の評価基準は曖昧だろうか?タイムの速さを競う。極めて明確な基準が存在する。
評価基準がないから、やむなく相対評価になってしまうことはあるが、相対評価だからと言って評価基準が曖昧な訳ではない。
曖昧な相対評価と、明確な相対評価があるだけだ。
オリンピックでも、100m走は素人から見ても単純明快な競技だが、演技点のある競技、例えばフィギアスケートや体操などは、時折、審査結果が腑に落ちないことがある。
演技点が素人には判断しにくいこと、演技点の他にもスピードなどの要素が複数存在することなどから、評価基準がわかりにくいのではないだろうか。
厳密にいえば、3つに分けることができる。
①評価基準が存在しない相対評価
②評価基準は存在するが、定性的もしくは複合的な相対評価
③評価基準が定量的な相対評価
評価基準について議論するとき、①を批判するのはわかるが、③まで批判するのは論理的ではない。②は内容次第といったところだろう。
なお、前述のロールプレーイング大会の評価は②だった。
6.相対評価、絶対評価、それぞれの難点
5.で相対評価に関する誤解を指摘したのだが、やはり相対評価の難点は、「明確な基準がなくても運用できてしまう」ところだ。
相対評価の評判の悪さは、ほとんどここからきていると考えて良いだろう。評価基準がないことが問題なのだ。
評価基準が曖昧な会社では、一度絶対評価に大きくふってしまったほうが良いだろう。
一方、絶体評価では、到達度を明確にしないといけないのだが、明確化は思いのほか難しく、一定のトレーニングを要する。
特に部署を越えて、目線を合わせるのが難しい。同じ部署内で到達度を揃えることはさほど難しくない。例えば営業部であれば売上を基準とすれば良い。ところが、営業部と管理部で到達度の目線を揃えるのは至難の技と言える。
私のお客様で、営業部の評価基準が売上で、あるとき業績不振で、D評価の社員ばかりになったことがあった。
一方で、管理部の評価基準が資格取得や、納期厳守で、S評価やA評価の社員が多くいた。
目標の難易度に差がありすぎる。(本来は目標設定の段階で、管理部に指摘を入れるべきだったが、チェックを入れるオペレーションが組めていなかった)
それを見た経営者が何をしたか、想像するのは難しくないだろう。評価結果が修正されてしまった。2次評価や最終評価で、評価結果が変わってしまうのには、こうした背景がある。
こうした出来事はそこかしこの企業で起こっており、評価の信頼性を大きく下げる一因になっている。
絶体評価を突き詰めていくと、それは到達度、つまり目標のテーマの妥当性、難易度などに論点が行き着く。絶対評価とは、目標設定のことなのだ。
7.メリット・デメリットの整理(まとめ)
メリット | デメリット | |
相対評価 | ・競争原理が働きやすい ・一定の補正が効く (バランスよくSABCDが選出される) ・人件費が調整しやすい | ・評価基準が曖昧でも運用できてしまう ・気分が良くない ・足の引っ張り合いが起こり得る |
絶体評価 | ・納得感がある ・目標や評価基準を必要とするため、教育につなげやすい | ・目標設定や評価基準の具体化が大変 ・目標設定を間違えると、評価も間違える ・いずれにせよ部署間調整は発生する |