目標管理制度の事例 — 先進企業の実際の運用から学ぶ成功ポイント

目標管理制度の事例ー先進企業 OKR MBO

「自社でも目標管理制度を導入したい」と検討中であれば、必ずチェックしておきたいのが他社事例です。

というのは、目標管理制度と一口にいっても、現場での実践方法は企業によって大きく異なるためです。

自社で導入する前に、さまざまな他社事例を確認することで、最適な制度設計が可能になります。

そこで本記事では、目標管理制度の事例をご紹介します。

本記事のポイント
  • 目標管理制度の先進企業の事例を紹介
  • 目標管理制度の基礎知識から解説
  • 先進企業に共通する成功ポイントがわかる

「初めて目標管理制度を導入する」「自社と似た課題を抱えている企業事例を参考にしたい」…という方におすすめの内容となっています。

事例を通して、目標管理制度の設計・運用の実務に直結するノウハウを吸収し、実践に活かしましょう。

1. 目標管理制度とは?基礎知識

目標管理制度の事例ー第1章

事例をご紹介する前に、「そもそも目標管理制度とは?」の基本を解説しておきましょう。

すでに知っているという方は、この章はスキップして、事例からご覧ください。

1-1. 目標管理制度とは人材マネジメント手法の一種

目標管理制度とは人材マネジメント手法の一種です。

「目標」というツールが持つ機能を、企業における社員のマネジメントに活用するための制度が、目標管理制度といえます。

「目標」が持つ機能とは何かといえば、次の3つが挙げられます。

業務マネジメント社員一人ひとりの業務を、会社全体の業績向上に結び付く方向へ導く
モチベーションマネジメント与えられるノルマではなく自ら受容する目標によって内発的モチベーションを生み出す
人事評価目標の達成度によって社員を客観的に評価する

※詳細は「目標管理」にて解説していますので、あわせてご覧ください。

1-2. MBO・OKRの2つが代表的

目標管理制度の形として、代表的なのがMBOとOKRです。

MBOは「Management by Objectives(目標による管理)」の略で、目標管理の概念自体を提唱したピーター・F・ドラッカーがルーツです。

OKRは、「Objectives and Key Results(目標と主要な結果)」の略で、大きな目標の【O】と具体的な数値目標の【KR】を組み合わせて設定し、目標達成を目指すフレームワークです。

▼ MBOとOKRの違い

MBOOKR
概要従業員が上司と合意のうえで個人の業務目標を設定し評価する、組織における従業員のマネジメント手法。目標を達成するためのフレームワーク。
達成が困難な大胆で野心的なストレッチ目標【O】を数値目標【KR】でトラッキングする。
対象組織組織でも個人でも幅広く使用できる

それぞれの詳細は、以下の記事にてご確認ください。

▼ MBO
「目標管理制度(MBO)とは?メリット・デメリットから注意点まで解説」

▼ OKR
「目標管理のOKRとは?本質とポイント・MBOとの違い・注意点を解説」

1-3. 近年はOKRに注目が集まっている

近年の目標管理のトレンドとしては「OKR」に注目が集まっています。

▼ 参考:Googleトレンドの「OKR」検索数
目標管理制度の事例ー第1章の2節

Google・メルカリ・Sansanといった成長企業での活用が話題となったのを皮切りに、2019年頃から導入企業が増えました。

2019年頃はベンチャー企業やスタートアップで好んで採用される傾向でしたが、2022年現在では、大企業や老舗の中小企業での導入も珍しくありません。

次章より、MBOとOKRの導入企業をご紹介します。

自社にどちらが合いそうか検討する材料としていただければ幸いです。

2. 目標管理制度【MBO事例】SCSK株式会社

目標管理制度の事例ー第2章の事例:SCSK
出典:SCSK株式会社

会社名SCSK株式会社
設立年1969年
社員数14,550名(2021年3月31日現在 連結)
制度の導入時期
または直近改訂時期
2012年改訂

SCSK株式会社は、MBOによる目標管理制度を導入している企業です。

正社員の評価は、以下の3軸で実施しています。

  • 行動評価
  • 貢献度評価
  • 専門性評価(専門性認定)

このうち「行動評価」「貢献度評価」を「MBOシート」を用いて運用しています。

SCSK株式会社の特徴は、MBOの評価ツールとしての一面よりも「マネジメントツール」としての特徴を重視している点です。

現場マネジャーによる部下の指導・育成にウエートを置くため、“MBOシート上の評価”と“最終評価”は、直接的には結び付いていません。

具体的には、MBOシートで達成度や行動レベルを設定・フォローはするものの、人事評価においては考慮要素にとどめ、最終的には上司の総合判断で評価する仕組みです。

SCSK株式会社の人事企画部副部長の和南城氏は、以下のとおり述べています。

「ポイントは『目標管理制度の目的を何にするか』に尽きると思います。
当社はマネジメントツールとして使うことを重視しているため、評価との連動性を緩やかにしています。
日標管理と評価の連動をはじめとして、制度目的に細部の設計を合わせていくことが、当社の経験からアドバイスできることと思っています。」
「目標管理制度の目的に細部の設計を合わせていく」というアドバイスは、これから制度設計する企業にとって非常に重要といえます。

出典:労政時報 第3952号

3. 目標管理制度【OKR事例】ChatWork株式会社

目標管理制度の事例ー第3章の事例:Chatwork
出典:Chatwork

会社名ChatWork株式会社
設立年2004年
社員数247名(2021年10月末日時点)
制度の導入時期
または直近改訂時期
2017年

ChatWork株式会社では、社員数が50〜60名の規模になった段階から、以下の問題意識を抱えていました。

  • 社員数が増えるに従って評価運用の負担が大きくなっていく
  • 誰が何をやっているのかが見えづらい
  • 会社の戦略や方針が社員に浸透しづらい

そこで「評価制度の刷新」と「社員と経営の目線のすり合わせ」を目的として導入したのがOKRでした。

導入初期の2017年は、人事評価とOKRを連動させる形で運用しています。

しかし、OKRのメリットであるムーンショット(難易度の高いチャレンジ目標 ※1)を促進できず、目標設定が保守的になるという問題が発生しました。

(※1)OKRでは達成率60〜70%程度の野心的で大胆な目標設定が理想とされます。

そこで2018年からは「OKRの達成率は評価に連動しない」という運用ルールに変更し、ムーンショットを促進できるように改良しています。

人事評価ではOKRの達成率は直接連動させませんが、「OKRを通してどれだけチャレンジしたか」に対する評価は、人事評価の対象になっている仕組みです。

「OKRを導入したいが、人事評価との紐付けが難しい」と感じている企業にとって参考になるはずです。

出典:【OKR最前線vol.2】ChatWork流 「完璧を求めない」「カッコつけない 」理想の会社に近づけるためのOKR運用

4. 目標管理制度【OKR事例】Sansan株式会社

目標管理制度の事例ー第4章の事例:sansan
出典:Sansan

会社名Sansan株式会社
設立年2007年
社員数928名(単体/2021年5月31日時点)
制度の導入時期
または直近改訂時期
2015年

Sansan株式会社は、創業時よりミッションを念頭において事業を展開しており、会社のミッションと社員の目標とのつながりをより見えやすくするために、OKRを導入しました。

具体的な運用としては、四半期に1度、「Company OKR」を策定し、Company OKR達成に向けて、事業部、部、グループなどの単位でOKRを順次設定しています。

Sansan株式会社のOKR運用で特筆すべき点は、目標必達の文化に即して、設定したOKRは100%達成を前提としていることです。

加えて、OKR達成への個人貢献度を360度評価によって測り、人事評価へ反映させるのも特徴的です。

OKRには「目標はムーンショットを設定する」「人事評価とは直結させない」といった原則がありますが、Sansan株式会社は自社流にアレンジして成果を出している事例といえます。

出典:労政時報 第4008号

5. 目標管理制度の運用に成功している企業の3つの共通点

目標管理制度の事例ー第5章

最後に、成功企業の3つの共通点をまとめておきましょう。

  • 目標管理制度の目的が明確である
  • 目的に合わせて制度を変えている
  • より良く進化を続けている

5-1. 目標管理制度の目的が明確である

1つめは「目標管理制度の目的が明確である」です。

「目標管理制度を、何のために導入するのか?」「導入した結果、どんな組織になりたいのか?」ー成功企業は、明確な「Why?」からスタートしています。

  • SCSK株式会社:マネジメントツールとして機能させる
  • Chatwork株式会社:評価制度の刷新と、社員と経営の目線のすり合わせ
  • Sansan株式会社:会社のミッションと社員の目標とのつながりを見えやすくする

まずは、経営トップが目標管理制度の導入目的を明確にとらえ、導入後のビジョンを描くところから始めることが、最重要ポイントといえます。

目標管理制度の導入を検討している経営者から、「MBOがいいですか?OKRがいいですか?」……と聞かれることがありますが、答えは「あなたの会社の目的次第」なのです。

5-2. 目的に合わせて制度を変えている

2つめは「目的に合わせて制度を変えている」です。

MBOであれOKRであれ、基本の型や原則はありますが、成功企業は必ずしも基本や原則を忠実に再現してはいません。

自社の導入目的に合わせて、制度をアレンジして最適化しています。

「MBO or OKR」の二者択一に陥る必要もなく、自社の目的をより良く達成するための制度を生み出しています。

この創造性・柔軟性は、目標管理制度を機能させる重要ファクターといえるでしょう。

5-3. より良く進化を続けている

3つめは「より良く進化を続けている」です。

どの成功企業も、導入初期から現在に至るまで制度をブラッシュアップし続けていることを、認識しておきましょう。

導入した初年度のルールのまま何年も継続することはありませんし、逆に、初年度でうまくいかなかったからと中止することもありません。

目標管理制度は、常に進化させ続ける前提で運用するのが成功の骨といえます。

導入前から、改訂を視野に入れたスケジュール設計をしておくと良いでしょう。

6. まとめ

目標管理制度の事例を3社、ご紹介しました。

  • 【MBO事例】SCSK株式会社
  • 【OKR事例】ChatWork株式会社
  • 【OKR事例】Sansan株式会社

成功企業に共通するポイントとして、以下が挙げられます。

  • 目標管理制度の目的が明確である
  • 目的に合わせて制度を変えている
  • より良く進化を続けている

これから目標管理制度の導入を検討している企業であれば、まずは目的を明確にするところから始めましょう。

目的が明確になれば、おのずとどんな制度を導入すべきか見えてきます。