図解|継続的に運用できる社員教育制度の作り方

「貴社にはどのような教育制度がありますか?」と質問すると、自社の研修体系について説明してくれる経営者が多いです。

しかし、「私は研修で育ちました」という人はいません。多くの人は、仕事における経験を通じて成長します。

考えてみれば当たり前で、仕事に費やす時間は年間200日以上ありますが、研修に費やす時間はどんなに多い人でも年間20日もないでしょう。普通は2,3日といったところです。

たった2日の研修で見違えるように成長することは、あまりありません。(ショック療法的な研修は存在しますが、効果が短期的です)

教育制度のメインは、OJTです。本記事ではOJTを現場に丸投げするのではなく、会社として取り組むときのやり方を解説していきます。

教育制度でアウトプットすべきは、以下の目次にある5つです。以下、一つずつ解説していきます。

 

 

1.期待レベルを確認する

2つの期待レベル

等級制度や評価制度で決めたことが、社員に到達してもらいたいレベルです。

例えば等級制度で、G3等級に期待するレベルが「管理職の補佐」であれば、G3等級に対する教育は、「管理職の業務の一部を覚えてもらい、実際にやってもらうこと」になります。

例えば評価制度で、経理職に期待する成果が「決算の短縮化」であれば、経理に対する教育は、「周囲を巻き込んでのオペレーションの改善」になるでしょう。

等級制度では各等級における“組織人”としての期待レベルが書いてあり、評価制度には各職種における“専門家”としての期待レベルが書いてあります。

等級制度や評価制度で作成した内容が、教育に使えるものになっていないとすれば、見直しが必要です。

教育で使わない等級・評価に一体何の意味があると言うのでしょう。作ってお終いの人事制度になるのか、きちんと運用できるものになるのか、その大部分は教育制度によって決まると言ってよいでしょう。

 
※等級制度や評価制度の作り方が知りたい方は、以下の記事をご覧ください。継続的に運用できる、しっかりとした教育制度を作るためには、教育の骨子となる等級・評価の2制度が完成している必要があります。

図解|社員が育つ等級制度(役職制度)の作り方 図解|成果に直結する評価制度の作り方

 

組織人としての期待レベル

表にあるような「等級の定義」を持つ会社があったとします。G3等級の社員は具体的に何をすれば「橋渡し役」「管理職の補佐」を実践できたことになるのでしょうか。

例のように、行動レベルに噛み砕いていきましょう。

「等級の定義」は多くの会社で形骸化していますが、それは行動レベルにまで咀嚼することができていないからではないでしょうか。

期待レベルと行動を伝えただけでは、できるようになりません。実際に、それらを経験してはじめてできるようになります。例えば、トラブル対応ができるようになって欲しければ、トラブル対応を任せる、ということです。

このように期待レベルが明確になり、社員に浸透していけば、体系的なOJTを実施することが可能になるでしょう。

 

1ランク上の仕事を任せる

G3等級に期待することができただけでは、M1等級になることはできません。なぜなら、2者に期待されることは異なるからです。早くからM1に期待することを、一部任せていくことで、G3からM1へのステップアップを促していきます。

1ランク上の仕事を任せて、できるようになるまでサポートするのが、教育です。ずっとG3水準のことしか任せていなければ、視座が高まりません。

このように考えていくと、G3等級の社員を教育するであろうM1等級の社員の場合、M2(上から奪う)、M1(自分の仕事&一部を下に任せる)、G1~G3(下に任せる)の役割を理解しておく必要があります。

人事制度ができあがる前からいるM2、M1などの古株の管理職には、新しい制度で決められた等級定義や評価シートが腹に落ちないことがよくあります。なぜなら、等級定義など関係なく、仕事をし、昇格してきたからです。人事制度などなくとも、何とかなってきたのです。

等級が高い社員や古くからいる社員ほど、新しい制度なりシステムを作ったら丁寧に説明していく必要があるでしょう。

 

専門家としての期待レベル

評価シートには、専門家としての(各職種の)成果や、それを達成するための行動が書いてあるはずです。

成果については数字で具体的に表現しているため、期待レベルは明確になっているでしょう。一方、行動については評価シートよりもう少し噛み砕いて、社員に浸透させていくい必要があります。ここで、「評価基準」が意味を持ちます。

評価基準に沿って、各評価項目の1点~5点を社員と共有していきます。評価項目や評価基準は期初、期中に教育ツールとして活用し、期末に査定ツールとして使います。

組織人としての期待レベル、専門家としての期待レベルの両方について、社員が実践できるようになれば、大きな成果が出ます。

どこに向かって欲しいのか、どこまで到達して欲しいのか。それを明確にすることが人事制度の大きな意味です。

 

期待レベルを現場に浸透させる

等級定義や評価基準は会社側でシートを準備して、現場の管理職にポンと渡しても浸透することはまずありません。定期的に読み合わせをすることが大切です。

できれば週1回、最低でも月1回は、何かのミーティングのついでにシートの読み合わせをしてください。週1回行う場合は所要時間10分のイメージです。月1回なら30分を目安にしてください。

年に1回の評価のときだけ眺めるようなシートは、何の成果にも、マネジメント強化にもつながりません。逆に、週1回、期待レベルを具体的に確認していけば、ゴールが共有できるため、マネジメントコストはどんどん下がっていき、成果が出やすい状態になります。

等級が単なる「身分」ではなく「役割」に、評価が単なる「処遇の決定」ではなく「成果や具体的な行動」になるかどうか。それは全てシートの運用方法にかかっています。

マニュアルやシステムが浸透している会社は、必ず読み合わせを行っています。そして、各社で読み合わせを効果的に進めるための工夫を凝らしています。読み合わせのときに、そのマニュアルの行間をどのように語るか、語らせるかが一つのポイントです。

 

2.OJTの体系を決める

経験学習サイクル

人は経験から多くのことを学び成長します。経験をしたら、成功要因・失敗要因を振り返り、それが「次はこうすれば上手くいくだろう」という持論になります。そして持論に沿った新しいやり方で次の行動に臨みます。

職場では業務を通じて、様々な経験を積むことができるため、OJTは優れた教育方法と言えます。

しかし、人によって成長スピードは異なるものです。一を聞いて十を知る天才もいれば、十を経験しても一しか学べない人もいます。

例えば、一流のスポーツ選手の多くが日記をつけて、毎日のプレーを振り返っています。一方、様々な経験をしても全く振り返らないビジネスパーソンも沢山います。

経験学習サイクルを回す・回さないを社員任せにせず、会社、上司がサポートすることで、速く・正確に・より多くのサイクルを回す。これがOJTの意味合いです。

 

OJTの場面

社員の経験学習をサポートする場面は、以下の4つです。

  • 同行(仕事を見る・見せる)
  • 報連相(レポート)
  • 個別面談(レビュー)
  • ミーティング
 
仕事を任せたら、それっきりにするのではなく、4つの場面を活用して、業務経験を通じて成長するよう促します。

ミーティングや日報などの報告業務を嫌がる社員をよく見かけますが、それは、こうした場面が自身の成長につながっていると感じられないからでしょう。成長につながるとわかれば、前向きに報連相をするようになります。

 

OJTの体系

これまでの内容をまとめると以下の図のようになり、これがOJT体系の基本です。任せる業務内容や、同行・レポート・レビューの内容を自社で検討し、教育の型を作っていきましょう。

 

3.OJTの具体的なステップを決める

業務を任せる

経験学習サイクルで、経験は「インプット」にあたります。当然、良いインプットを行えば、アウトプットの質も上がりやすいです。一方で、毎日同じ経験ばかりしていると、どうしても得るのが少なくなり、成長が停滞しがちです。

OJTで上司がすべきことは、インプットである業務経験を、意図的にコントロールすることです。

教育が上手い管理職は、業務経験をコントロールできますが、教育が苦手な管理職は、任せる業務について明確な基準を持っていないかもしれません。

どの管理職であっても意図を持って業務を任せることができるようにするために、各等級ごとに任せる業務の一覧を作成していきます。

先ほどG3に期待する行動を具体化しましたが、ほぼそのまま任せる業務の一覧になります。

疑似体験も活用する

表は、ある飲食店の等級定義です。この飲食店の5等級(店長)について、どのような業務を任せれば良いか考えてみましょう。

③のブロック全体への情報発信はいつでも任せることができそうですが、①②はちょうどよい新店や不振店がなければ任せることができません。そのような場合は、ブロック長や他の店長が行っている新店のマネジメントや、不振店の立て直しを見に行ったり、部分的にサポートできないか検討しましょう。つまり疑似体験でも良いので、学習を進めるということです。

この例のように、ちょうど良い経験を準備できないことも多々あります。その場合でも教育は前に進めるためにできることはないか、考えることも大切になってきます。

 

同行する

OJTのステップで一番の基本となるのは、同行です。経験学習サイクルの全てを一緒にやることで、学習品質を高めるというやり方です。

同行しても、ただ後ろで腕を組んで見ているだけだったり、自分は手を動かさず指摘をするだけでは、同行の価値は半分も生まれません。

やってみせ、言って聞かせて、やらせてみて、一緒に振り返りをしていきましょう。見せる・見るはセットでやると、より期待レベルを明確にすることが可能になります。

同行はコストが非常に高いため常に実施することはできないでしょうから、重要な業務や、口頭では伝えにくい業務などに特化して実施することも検討してください。

 

レポート&レビュー

同行に使える時間は限られているため、OJTの多くはこの、レポート&レビューでなされます。

報告や相談があった際に、経験学習サイクルを上手く回すよう、質問・助言していきます。

レポート&レビューにはOJTのエッセンスが凝縮されています。次のページで具体的な場面を想定しながら、解説していきます。

例えば、社員から社長である貴方に対して、(何かしらの)不具合対応の完了報告がありました。色々と手を尽くして、何とか上手く解決してくれたようです。そのようなとき、貴方ならどのようなレビューをしますか?

振り返りを促し、上手く持論を構築することが、レビューの狙いです。

労いと共に、以下のような質問をしながら、様々な角度から振り返るよう促しましょう。

「解決までにどんな手を打って、効果的だったもの/効果がなかったものはどれですか?」
「次回、より短い時間で解決するためにできる工夫はありますか?」
「次から不具合が出ないようにするためには、どうすれば良いですか?」
「不具合の防止策と、起こった場合の対応策をA4一枚でまとめて、会議で報告してください。」

優秀な人であっても、自分の行いを客観的・多面的に振り返るのは難しいものですし、持論化には多少のセンスなり経験が必要です。それを補うのがOJTにおけるレポート&レビューの役割です。

経験を持論に変換できれば、次に同じような出来事に遭遇したときに、応用が利くようになります。逆に振り返りが浅いと、応用が利かず効率が悪い仕事の仕方になってしまいます。

 

ミーティング

ミーティングの教育的意味合いは何でしょうか。

人は経験から学びますが、体は一つしかないため、経験量、つまりインプットには限界があります。

インプット不足を補うために、お互いの経験や持論を共有する場がミーティングです。

ナレッジの共有は、組織力を上げる源ですから、定期的に時間を確保していきましょう。

ミーティングでは、時間効率を意識して、結論としての持論だけを共有しがちですが、ときにはその手前にある、振り返り、経験も共有を行う必要があります。背景を共有することで、その持論の価値や使い方が見えてくることもあるからです。

尚、ミーティングではなくチャットやイントラ上でのノウハウ共有も同等の価値を持つと思います。共有するナレッジのボリューム、質に応じて、チャネルを使い分けていきましょう。

ミーティングは、双方向で内容を確かめたり、議論する必要がある場合に有効なチャネルです。

 

4.OffJT(研修)の体系を決める

OJTトレーナーを育成する

OffJTの一番の役割は、OJTのサポートです。教育の大部分を占めるOJTが機能しなければ、教育は機能しませんが、管理職の全員が優秀なトレーナーであるとは限りません。まずはOJTのやり方そのものを徹底的に研修します。

 

大きな経験学習サイクルを回す

OJTは大切なのですが、日常の現場ではどうしてもバタバタしてしまい、時間をとめてじっくりと振り返ることが難しいです。また、目の前の仕事に集中するあまり、長いスパンでをまとめて振り返ることも難しいです。

振り返りの機会そのものを捻出すること、視野を広げて物事を俯瞰・鳥瞰するよう促すこと。これがOffJTの役割です。

また、OJTと連動させるため、OffJT(研修)のゴールも、等級定義や評価シートを用いるようにしましょう。

 

自社にない知恵・知識を学ぶ

OJTにも限界があり、それはどうしても自社の業務範囲や組織風土に制約を受けてしまい、新しい知恵、知識が増えないことです。ときには外部からの情報を入れることで、組織を活性化していくことも必要です。

この目的で研修や講演会を行う場合は、目的やゴールを曖昧にしておいても良いです。何でも杓子定規にやってしまうと、想定内の情報しか入ってきません。ときには「遊び」を持ちましょう。

 

OffJTの体系

研修体系というと、どうしても上の図のようなものをイメージしがちです。間違いというわけではないのですが、OJTとの関連や、人事制度との関連が全く見えません。

まずは下の図のように、大きく整理しておくことが大切です。「木を見て森を見ず」にならないように注意していきましょう。

 

5.計画的に旅に出す

経験学習の敵はマンネリ化です。似たような経験からは大きな思考のジャンプが起きません。ときには大きな成長を促すために、これまで異なる環境を社員に提供しましょう。

大きな成長は、以下のようなタイミング・経験で起こると言われています。なかなかコストが高いですが、パフォーマンスも高いです。

優秀な社員ほど、より良い環境を求める傾向があり、自社で準備できないと転職してしまうこともあります。優秀な社員の流出を、手をこまねいて見ているぐらいなら、自社で積極的に環境を準備してしまいましょう。

 

まとめ

  • 教育制度はOJTをベースとする。
  • 等級制度と評価制度の運用を担うのが、教育制度。
  • 1ランク上の仕事を任せて、サポートするのが「教育」。
  • アウトプットすべきは以下の5点。

1.期待レベルを確認する
2.OJTの体系を決める
3.OJTの具体的なステップを決める
4.OffJT(研修)の体系を決める
5.計画的に旅に出す