目標を用いたマネジメントの進め方

人事評価を行うために目標管理を導入してみたものの、上手くいかないと感じる企業は多いようだ。

弊社のクライアントでも、導入がスムーズにいかないケースがある。

少し上手くいかないと、目標管理の仕組みそのものに疑問を持ち、「目標管理はもう古い」だとか、「新しい手法としてOKRを試してみよう」だとか、挙句の果てには「そもそも目標なんて意味がない」と言い出す人まで出てくる。

確かに目標管理に欠点はあるが、うまく導入できている企業もある。

その違いはズバリ、マネジメント力の有無だ。

マネジメント力がない会社では、目標管理どころか、いかなるシステム・仕組みの導入が上手く進まない。逆にマネジメント力がある会社では、次々に新しいシステム・仕組みが導入され、業績が拡大していく。

そこで本記事では、実際に目標管理を導入して、業績を改善していくまでの流れを解説する。

イメージしやすいように、旅館業で目標管理を導入したストーリーを書く。このストーリー自体はフィクイションだが、クライアントの事例を組み合わせた形にしているので、内容自体はノンフィクションだ。

1.指標の選定

とある旅館の会議風景。会議では、来期に向けた目標を検討している。


社長:「来期こそは顧客満足度を改善して、リピートの促進をしたい。」

わかりやすいテーマなのだが、それでも目標を決めるとなると、ここでいきなり揉める会社もある。以下のような議論をたどる。

支配人:「それでは、顧客満足度の向上を目標にしましょう!」

料理長:「それもいいですが、顧客満足度を上げても、リピーターが増えないと意味がないから、リピート率の向上にしませんか。」

専務:「それを言うなら、リピーターが増えても利益が増えないと意味がないから、過去と同じように利益を目標にすればいいんじゃないかな。リピーター向けの販促コストを沢山使って、利益が下がったら意味ないでしょ。」

常務:「もっと具体的な目標のほうがわかりやすいんじゃないでしょうか。旅館と言えば、やはり清掃です。汚い部屋にリピートすることはまずありませんから。清掃の品質基準を決めて、基準の合格率100%を目標にしてはどうでしょうか。」


利益、リピート率、顧客満足度、清掃品質。どの指標が目標としてふさわしいのだろうか?

この旅館のように、目標管理に慣れていない会社では、指標の選定に手間取る。

指標の種類と、社員の主体性の関係

実は、指標にも種類がある。

  1. 結果指標 … 売上・利益など、何かしらの結果
  2. 反応指標 … リピート・顧客満足度など、社員が行ったことに対する相手(主に顧客)の反応
  3. 行動指標 … 清掃・接客など、社員が行うこと

いずれの指標も目標にすることは可能だが、その意味合いは異なってくる。

結果指標を社員に課した場合、その達成手段は社員に委ねられる。社員の考える余地が大きいため、社員に権限移譲したい場合は、結果指標を採択することになる。具体的な計画は社員任せになるため、未達成のリスクはあるだろう。

行動指標は、達成手段が明確で、社員の考える余地が小さい。一方で、本気でやれば必ずできるため、旅館で例えれば、清掃を行うことは可能であるため達成率は高くなる。(この場合は、実施率といったほうがよいかもしれない。)

反応指標はその中間だ。社員の行動の結果として、相手の反応が変わる。社員が考える余地がある程度あり、達成率は社員の行動の質や量によって変わってくる。

どの指標を選択すべきか。それは社員のレベルによるだろう。

社員のレベルに合わせて目標を設定し、成長を促す。これが目標によるマネジメントだ。

2.データの回収・集計・分析

あれこれ議論した結果、反応指標である顧客満足度を選ぶ。しかし、会議はまだまだ続く。


支配人:「顧客満足度の改善を目標にするとして、何%を目標にしましょうか?」

料理長:「満足度がどれぐらい上がると、リピートにつながるんだろう?」

専務:「そもそも、お客様アンケートって、今どうなってるんだっけ?」

常務:「以前からある書式でアンケートはとっています。ただ、集計したり分析したりはできていません。」

支配人:「一応、書いてもらったアンケートは社員に回覧して、改善につなげるよう促してはいるのですが、、、。」

専務:「旅館のどの部分の満足度が、リピート促進につながっているんだろう?料理?清掃?お部屋?」

社長:「現状がわからないと目標の立てようがないな。。。今とれているアンケート持ってきて!とりあえず半年分ぐらい。」


この旅館の経営陣が頼りないのだろうか。

マネジメントがきちんとできていない会社では、そもそもデータの回収、集計、分析がなされていない。

蓄積したデータがないので、どの水準を目標にしたらよいか、見当がつかないことが多い。

データの回収

やってみればすぐわかるが、お客様アンケートは回収率の低さがまず問題になる。(お客様アンケートに限らず、初めて何かしらのデータをとるときは、うまくデータがとれないことがある)

回収率が低いと、現状がわからない。特にアンケートの場合は回答者が二極化してしまう。

大満足だったお客様と、大不満だったお客様、つまり強い感情を持ったお客様が反応してくれる。

少しだけ満足したお客様や、不満はあるが文句を言わずに去ってしまうお客様(サイレント・クレーマー)は、アンケートに協力してくれないことが多い。

正確に分析するためには、回収率を上げないといけないのだ。

回収率を上げるのにも工夫が必要で、データを回収する段階で、改善を行う必要がある。

データの集計・分析

データが集まったら、次は集計と分析だ。

この旅館ではアンケートを、①全体満足度、②お料理、③お部屋、④お風呂、⑤清掃、⑥フロントの応対、⑦その他としている。

分析してみると、リピートしてくれたお客様の①全体満足度は高く、特に②お料理、⑤清掃の満足度が高いことがわかった。

分析ができれば、どこに力を入れるか、どの程度の水準を目標とするのか、そうしたことは自然と決まってくる。

この旅館では、②お料理、⑤清掃の満足度を徹底的に上げて、①全体満足度を上げることになった。具体的には①全体満足度で、「大変満足」と回答してもらえる率を現状の30%から50%に上げることが決まった。


目標管理をはじめて行う場合、最初の半年ぐらいはデータの回収と分析を行うことになる。(データ回収期間は業態や指標によって異なる)

目標の定量化が難しいという声をよくきくが、そのようなことを言う人は最初からデータ分析をしていない。

データがあるから定量的な目標を立てることができ、改善のための仮説を立てることができる。これが目標によるマネジメントだ。

マネジメント力がない会社では、ここまでたどり着けず改善活動がなかなかスタートしない。

3.計画と実行

データもそろい目標も決まった。あとは改善するのみだが、まだ道半ばだ。

さきほどの旅館の現場会議。


支配人:「お料理の満足度、清掃の満足度をあげるためのアイデアを出して欲しい。」

料理長:「材料原価がすごいあがっていて、お料理を今の金額でさらに充実させるのは難しいです。同じ内容で値上げしたいぐらいです。」

支配人:「確かに最近の原価の上がり方はきついですよね、、、」

清掃リーダー:「人が足りてないので、シフトが組めていません。清掃品質を上げたいなら、もっと人を雇わないと難しいです。先日も1人辞めたばかりです。」

支配人:「うーん、そうか、、、できない理由ばっかり言っていてもしょうがないから、もっと何かよい提案はないですか?」


データをとったり、改善することに慣れていない会社では、こうした意見が出やすい。とにかくできない理由を一生懸命説明してくる社員が多いのだ。

この社員たちに悪意があるわけではない。「今も頑張っている!」と言いたいだけなのだ。

その気持ちに配慮せず、安易に改善を求めるから会議で返り討ちに合ってしまい、挙句の果てには、「うちの社員は言い訳が多くて」などと愚痴をこぼすようになる。

建設的な意見交換を行うには、多少の工夫が必要だ。

データの有効活用

例えば、「大変満足」に○をつけてくれたお客様や、リピーターになっているお客様のアンケートを皆で読む。

どの社員が、どんな接客をしていたのか。お客様は何を評価してくれたのか。

お客様が名指しで社員を褒めてくれていれば、その社員を皆の前で褒める。

頑張ってくれた社員を慰労しながら、その状況をより多くのお客様に再現するにはどうしたらよいか、考えてもらう。

「子供がハイハイしても大丈夫なぐらい、お部屋の床が綺麗でした。」

「夕食の際に、地元にゆかりのあるワインをペアリングしてもらいましたが、とても美味しかったです。」

など、具体的な声を拾い上げて、次の改善行動につなげていく。

まずはできていることに焦点を当てて、長所をさらに伸ばすことを考える。

フォロワーとの連携

信頼できるフォロワーを日ごろから育てておき、会議での第一声はフォロワーに発信してもらう。

大人数を相手に物事をリードする際は、1人では切り込まないようにする。マネジメント・チームで対応する。

発言の根回し

清掃を頑張っている社員がいたら、その社員に会議で発言するよう、事前に根回しをしておく。

夕食の接客で、お客様からよく褒められる社員がいたら、褒めて、どのような接客をしているかをヒヤリングしておく。

会議での発言をお願いしておき、必要に応じてヒヤリング結果を使いながら発言をサポートする。

タイムリーなフィードバック

会議で意見を求めて終わり、ではなく、何かしら改善をしてくれている社員を発見したら、すぐにフィードバックし次の朝礼や夕礼にて、みなの前で褒め、次からも同様の行動をするよう促す。

すぐに動いて欲しいのなら、すぐにフィードバックする。

環境面のサポート

原価高騰、人手不足など、できない理由をあげてくる社員には辟易するかもしれないが、本当にサポートが必要な場合も多々ある。

経営サイドの努力も見せておく必要があるだろう。

努力は、一緒に現場に入ることかもしれないし、一緒にアイデアを出すことかもしれないし、お金を出すことかもしれない。何かしら一緒に取り組む姿勢が大切だ。

建設的な意見が出るようリードし、実行をサポートするのがマネジメントだ。

4.評価

少しずつではあるが、顧客満足度が上がってきた、かの旅館。


社長:「皆さんが頑張ってくれたおかげで、収益も改善できました。今年は賞与をいつもより1カ月分、多く払えそうです。」

専務:「次にもっと改善してくれれば、もっと賞与が払えますので、頑張っていきましょう!」


マネジメントができていない会社では、こうした大雑把なフィードバックが多い。

指標や計画で緻密に物事をつめていっているのに、最後の評価だけ大雑把にやると、社員からは「会社の怠慢」と捉えられる。

これでは改善活動が継続していかない。

データの検証

顧客満足度は何%向上したのか。

お料理の満足度はどれだけ向上したのか。清掃の満足度はどれだけ向上したのか。

その主な要因は何であったのか。つまり社員がどこを頑張ってくれたのか。

顧客満足度が上がることで、リピーターはどれだけ増えたのか。

リピーターが増えたことで、どれだけ売上・利益が増えたのか。

利益が増えたことにより、賞与を全体でどれぐらい増やすことができたのか。

評価の仕方

評価のタイミングで明らかになる問題だが、そもそも目標は、旅館単位だったのか、それともチーム単位(例えば清掃チーム、調理チーム)だったのか、個人単位だったのか。

清掃員が10名いたとして、8名はとても改善活動に積極的だったが、2名はむしろ足を引っ張った、といったことがあった場合、10名全員の評価が同じでは納得してもらえない。

チーム評価なら、2名にも頑張るよう働きかけを行う必要がある。チームワーク重視だ。

個人評価なら、個人ごとに目標を立てる必要がある。実際の仕事はチーム単位で動くので、個人目標の設定は煩雑なものになるだろう。

可能であれば、目標を立てたタイミングで、評価の仕方も整理しておくべきだろう。

実態としては、目標管理をはじめて行う場合、目標設定のタイミングで評価のことまで考慮して進めるのは難しいのではないかと感じる。

1回目のサイクルで反省して、2回目以降で調整していくイメージが現実的かもしれない。

まとめ

目標によって上手にマネジメントしている会社は、以下のようなステップを踏む。

  • 指標を決める。(CHECKの準備)
  • データを採取、分析する。(CHECKの準備)
  • 計画と実行を工夫する。(PLAN、DO)
  • きちんと評価する。(CHECK)
  • そして次の改善につなげる。(ACT)