目標管理制度(MBO)とは、組織で働く社員と上司が合意のうえで個人の業務目標を定め、ある一定期間(1年、半年など)ごとに設定した目標の達成状況を評価するマネジメント手法です。
目標管理制度(MBO)には、人材開発・成長支援と会社の業績管理を推進する効果があり、多くの企業が導入しています。
しかしながら、「目標管理制度(MBO)を導入しているけれど、うまくいかない」という声も耳にします。
その原因は、目標管理制度(MBO)を正しく理解しないままに運用しているからです。
そこで本記事では、改めて目標管理制度(MBO)とは何なのか基礎から解説します。
- 目標管理制度(MBO)が初歩から理解できる
- 期待できる効果やメリットだけでなくデメリットも解説
- 実践の方法や注意点まで網羅
「今さら聞けないMBOについて簡単に教えてほしい」「初めてMBOを運用するのでやり方を知りたい」…という方におすすめの内容となっています。
目標管理制度(MBO)の基礎知識はもちろんのこと、失敗回避のために先に知っておきたいデメリットや注意点も重点的に解説しました。
最後まで目を通していただくと、目標管理制度(MBO)の実践力が身につくはずです。
ではさっそく解説を始めましょう。
ー 目次 ー
1. 目標管理制度(MBO)とは何か?基礎知識
まずは目標管理制度(MBO)の基礎知識から見ていきましょう。
1-1. 目標管理制度(MBO)は個人ごとに目標達成をマネジメントする手法
目標管理制度とは、社員が上司と合意のうえで個人の業務目標を設定し、一定期間ごとに設定した目標の達成度を評価する手法です。
マネジメント・バイ・オブジェクティブ(Management By Objective)の頭文字を取って「MBO」という呼び方も多く使われています。
MBOは、1950年代〜60年代にかけて、経営学の父でありマネジメント論の権威であるピーター・F・ドラッカーが提唱したプログラムです。
1-2. ドラッカーが提唱したMBOの真の意図は「主体性」
今となっては、個人目標を設定することは当然のように思え、ドラッカーの提唱の何が新しかったのかわからないかもしれません。
ドラッカーが提唱したMBOのカギを握るのは「主体性」です。
目標管理制度(MBO)を理解するうえで重要な点ですから、まず押さえておきましょう。
“会社から社員に目標を与え、達成させるために努力させる”のは、MBOではありません。
これはノルマを与えて達成させる、ノルマによる管理です。
MBOを使った目標によるマネジメントの特徴は、自発的な目標設定によって個人のモチベーションをアップさせる点にあります。
先ほど目標管理制度(MBO)の解説として、“社員が上司と合意のうえで個人の業務目標を設定し…”と述べましたが、“合意のうえで”の部分が重要なのです。
1-3. 目標は組織目標とリンクしている必要がある
「自発的な目標設定」が重要ならば、社員個々人が好き勝手に目標を設定して良いのか?といえば、そうではありません。
目標管理制度(MBO)では、個人のモチベーションアップを組織としての成果(業績)につなげるための仕組みとして、組織目標と個人目標のリンクさせることが求められます。
まず組織としての大目標があり、大目標を上位階層から下位階層へブレイクダウンして目標を設定していきます。
先ほど“合意のうえでの目標設定が大事”とお話しましたが、組織目標と個人目標をリンクさせるという意味でも、個人の業務目標は部下が設定する目標は、上司と“合意”できていることが必要となるわけです。
1-4. 補足(1)OKRとの違い
ここで2点、補足しておきましょう。まずMBOと並んで質問の多いOKRとの違いです。
本記事のテーマである「MBO」は、経営学者のドラッカーが説いていることからもわかるとおり、経営者のための「組織における社員のマネジメント手法」としての側面が強いメソッドです。
一方「OKR」は、目標を達成するためのフレームワークです。
組織のマネジメント手法であるMBOと違い、OKRは受験生やフリーランスが一人で個人的に活用することもできます。
▼MBOとOKRの違い
MBO | OKR | |
---|---|---|
概要 | 社員が上司と合意のうえで個人の業務目標を設定し評価する、組織における社員のマネジメント手法 | 目標を達成するためのフレームワーク |
対象 | 組織 | 組織でも個人でも幅広く使用できる |
上記の前提を踏まえたうえで、OKRについて説明しましょう。
OKRは「Objectives and Key Results」の略で、大きな目標の【O】と具体的な数値目標の【KR】を組み合わせて設定し、目標達成を目指すフレームワークです。
▼OKRの例
- 【O】東京大学に合格する
- 【KR】1日8時間勉強する/夏休み明けの模試で学年1位を取る/数学の偏差値を今年度中に65まで上げる
大きな目標の【O】は、MBOにおける目標とはニュアンスが違い、「達成できるかわからない大胆な目標を掲げる」のが特徴です。
【O】の達成確率は60〜70%程度が良いとされ、実際の成果は【KR】で計測します。
OKRのフレームワークは、前述のとおり個人で使うこともできますし、組織やチームの目標達成にも活用できます。
インテル・Google・Facebook・メルカリなどは、組織の目標達成にOKRを活用していることで知られています。
1-5. 補足(2)MBO(マネジメントバイアウト)は別の意味
次に、目標管理とはまったく異なる意味のMBOがビジネス用語としてありますので、混同しないために整理しておきましょう。
もうひとつのMBOは「マネジメントバイアウト(Management Buyout)」です。
マネジメントバイアウトのMBOはM&Aに関する用語で、経営者や社員が自社の株式や事業部門を買収することです。
親会社から会社や事業を買い取って、独立するために行われます。
▼2つのMBOの違い
元の英語 | マネジメント・バイ・オブジェクティブ(Management By Objective) | マネジメント・バイアウト(Management Buyout) |
---|---|---|
意味 | 社員が上司と合意のうえで個人の業務目標を設定し評価する手法 | 経営者や社員が自社の株式や事業部門を買収すること |
どちらも同じMBOという略語のためややこしいですが、意味が違うことを認識しておきましょう。
2. 目標管理制度(MBO)のメリット・期待できる効果
目標管理制度(MBO)の基本事項を把握できたところで、どんな長所・短所を持つ制度なのか、より詳しく見ていきましょう。
まずはメリットや期待できる効果から解説します。
- 少し難しい目標への自発的なチャレンジを通して人材が育つ
- 全社統一のフォーマットで業績管理することで組織目標の達成率が高まる
- 成果評価とあわせれば人事評価制度の運用がしやすくなる
2-1. 少し難しい目標への自発的なチャレンジを通して人材が育つ
1つめのメリットは「少し難しい目標への自発的なチャレンジを通して人材が育つ」ことです。
簡単にいえば、目標管理制度(MBO)には人材開発・成長支援の効果があります。
工夫や成長がないと達成できない“少し難しいストレッチ目標”を定めることで、社員の能力を最大限に引き出すことができます。
しかもその目標は、上から命令されたノルマではなく、本人が上司と相談しながら自分で決めた目標です。
自ら掲げた目標には、「チャレンジして達成したい」と自発的な行動を促す効果があります。
心理学では「コミットメント効果」といいますが、人間には“自分でやる”と決めたことは達成して自分自身の一貫性を保ちたいという心理があるためです。
目標管理制度(MBO)は、社員の成長サポートに効果的な手法といえます。
2-2. 全社統一のフォーマットで業績管理することで組織目標の達成率が高まる
2つめのメリットは「全社統一のフォーマットで業績管理することで組織目標の達成率が高まる」ことです。
目標管理制度(MBO)は、人材開発だけでなく組織全体の“業績管理”の視点から見ても、優れた手法といえます。
その理由は、各マネジャーが自己流で部下をマネジメントするのではなく、会社の大きな組織目標を個人レベルに落とし込む目標管理制度(MBO)のフォーマット使うことで、会社全体の業績向上が見込めるからです。
目標管理制度(MBO)では、「各個人目標が達成されれば、組織全体の目標が達成される」仕組みになっているため、組織目標の達成率を高めやすくなります。
2-3. 成果評価とあわせれば人事評価制度の運用がしやすくなる
3つめのメリットは「成果評価とあわせれば人事評価制度の運用がしやすくなる」ことです。
どういうことか理解しやすくするために、人事評価制度について簡単に説明しましょう。
人事制度は、教育制度・報酬制度・評価制度・等級制度の4つの制度から構成されています。
評価制度は、報酬や等級(役職)などの処遇に影響を与える重要な制度です。
評価結果を受けて、給与やボーナスの金額が変わったり、役職が昇級したりします。
評価制度にはさまざまな種類があり、多くの企業が導入しているのが「成果」をベースに評価する「成果評価」です。
成果評価においては「どう成果を評価するか?」が重要ですが、成果評価と好相性なのが目標管理制度(MBO)なのです。
目標管理制度(MBO)に基づいて設定した目標をベースに評価を行い、その結果を人事制度に反映させることで、社員にとっても納得感のある評価が可能になります。
3. 目標管理制度(MBO)のデメリット・課題
メリットの多い目標管理制度(MBO)ですが、一方でデメリットや課題もあります。
- 適切な目標設定が難しい
- 設定した目標“だけ”にモチベーションが集中しやすい
- 失敗を恐れてチャレンジが減る傾向がある
以下で詳しく見ていきましょう。
3-1. 適切な目標設定が難しい
1つめのデメリットは「適切な目標設定が難しい」ことです。
ここまでお読みいただければ、目標管理制度(MBO)では「設定する目標がすべてのカギを握る」と薄々お気付きかもしれません。
目標管理制度(MBO)では、以下の条件を満たした目標を設定する必要があります。
- 部下が成長するために、ちょうど良いストレッチ度(簡単に達成できる目標ではないが難しすぎない、やや難易度の高い度合い)
- 進捗や達成度の測定が可能で、客観的に公平な評価ができる
- 組織目標とリンクしている
- 部下本人が納得してコミットできる
適切な目標設定を導くためには、一言でいえば上司のマネジメント力がものをいいます。
上司がマネジャーとして未熟な場合、部下の目標設定を適切に行えず、目標管理制度(MBO)に期待される本来の効果が得られないことがあります。
3-2. 設定した目標“だけ”にモチベーションが集中しやすい
2つめのデメリットは「設定した目標“だけ”にモチベーションが集中しやすい」ことです。
目標管理制度(MBO)では、目標達成に対してモチベーションが高まる効果があるのは前述のとおりですが、一方で目標として掲げているテーマ以外のモチベーションが下がりがちという問題があります。
例えば、目標管理制度(MBO)で「新規顧客の獲得数」を目標設定したとします。
すると、新規顧客の獲得につながらない業務が、後回しにされがちです。
「既存顧客の育成」といった他テーマの業務や、同僚や後輩のサポート、チーム全体の利益を考えた行動などは、手薄になりがちな業務として注意が必要になります。
3-3. 失敗を恐れてチャレンジが減る傾向がある
3つめのデメリットは「失敗を恐れてチャレンジが減る傾向がある」ことです。
「自分で掲げた目標を達成したい」という気持ちが強くなると、それ以上に「失敗したくない」という気持ちが強くなることがあります。
心理学では「損失回避性」といいますが、人間には利益よりも損失を大きく捉えて、損をしないための行動を選ぶ心理があります。
結果として、組織内における新たなチャレンや困難への挑戦が回避され、イノベーションが起きにくくなるデメリットは、目標管理制度(MBO)の課題として把握しておきたいポイントです。
4. 目標管理制度(MBO)実践の流れ 3ステップ
目標管理制度(MBO)の基礎知識からメリット・デメリットまで理解できたところで、次は実践を見てみましょう。
ここでは3ステップで解説します。
- ステップ1:期初に目標を設定する
- ステップ2:期中に目標を調整する
- ステップ3:期末に評価する
4-1. ステップ1:期初に目標を設定する
1つめのステップは「期初に目標を設定する」です。
目標管理制度(MBO)では一定期間を区切って目標管理を行いますが、会社の決算期に合わせて通期(1年間)または半期(上半期/下半期の6ヶ月)を対象期間とするのが一般的です。
目標管理を行う対象期の期初(期の始まりの時期)に、上司と部下が面談を行って、目標を決めていきます。
目標設定のポイントは、個人目標よりも上位概念であるチームや部署の目標・組織全体の目標と整合性を取りながら、部下本人が成長できるストレッチ度の目標を設定することです。
加えて、部下の現在の職務や等級(役職)の役割や責任範囲内で調整することも大切です。
- チームや組織全体の目標と整合性を取る
- 部下本人の成長につながる簡単すぎない難易度にする
- 部下の役割や責任範囲内の目標とする
あわせてご覧ください。
4-2. ステップ2:期中に目標を調整する
2つめのステップは「期中に目標を調整する」です。
目標は、設定したら終わりではありません。
部下が目標達成できるよう、適宜進捗を確認しながらサポートすることは、上司の重要な業務です。
と同時に、目標設定した当初の状況から大きな変化があった場合には、目標の修正を行います。
環境変化によりすでに成立していない目標のまま、期末まで過ごすことのないよう注意しましょう。
例えば、期の途中で経営環境が大きく変わった場合・事業の方針転換や組織変更があった場合など、期初に設定した目標が不適切なものとなった場合には、改めて目標設定を行います。
- 状況変化により設定した目標に変更が必要になった場合には速やかに修正対応する
4-3. ステップ3:期末に評価する
3つめのステップは「期末に評価する」です。
設定した目標に対しての達成状況を確認し、上司が部下の評価を行います。
評価結果は、評価面談の場を設けて、上司から部下へ直接伝えます。
その際には、単に評価結果を伝えるだけでなく、来期の部下の成長につながるフィードバックを行うことが重要です。
- 来期の部下の成長につながるフィードバックを行う
評価面談の具体的なやり方は「人事評価面談の具体的な進め方とやってはいけないNG行動を解説」にて解説していますので、参考にしてみてください。
5. 目標管理制度(MBO)の注意点
実際に目標管理制度(MBO)に取り組む前に、知っておきたい注意点があります。
- 達成したらOKではなく目標設定の精度を疑う必要がある
- 目標設定した以外の業務がないがしろにされない仕組みを作る
- 毎日のコミュニケーションや日常のフィードバックを手抜きしない
それぞれ見ていきましょう。
5-1. 達成したらOKではなく目標設定の精度を疑う必要がある
1つめの注意点は「達成したらOKではなく目標設定の精度を疑う必要がある」ことです。
目標管理に携わるうえでは重要な視点でありながら、抜け落ちているケースが散見されます。
例えば、「目標達成率200%」となった場合、多くの人は「良かった、成功した」と評価しがちです。
しかし最初にすべきことは、「そもそもの目標設定に間違いがあったのではないか?」と前提を疑うことです。
「今までにない工夫や部下自身の成長があって、初めて100%に到達できるライン」を見極め、目標設定をしましょう。
5-2. 目標設定した以外の業務がないがしろにされない仕組みを作る
2つめの注意点は「目標設定した以外の業務がないがしろにされない仕組みを作る」ことです。
デメリットについて解説した章で触れたとおり、目標管理制度(MBO)には、設定した目標の達成に役立たない業務が後回しにされる問題があります。
これは仕組みで解決する必要があります。
設定目標以外の業務にも取り組まないと高評価が得られない縛りや、失敗を恐れないチャレンジを評価する仕組みです。
具体的な策として挙げられるのは、目標管理制度(MBO)に基づく成果評価だけで人事評価を行うのはやめて、「行動」や「プロセス」を評価する手法との2本立てで人事評価することです。
例えば、成果に至るプロセスを評価する「コンピテンシー評価」や、会社が掲げる行動指針や価値観に基づく行動を評価する「バリュー評価」があります。
5-3. 毎日のコミュニケーションや日常のフィードバックを手抜きしない
3つめの注意点は「毎日のコミュニケーションやフィードバックを手抜きしない」ことです。
期初に目標設定が完了すると、マネジメントする側の上司としては、一仕事を終えて少々ホッとするところかもしれません。
しかし、本番は「目標設定した後、それをどう達成していくか」です。
“目標設定した後は放置プレー”では、部下の成長や組織の業績向上を最大化しているとはいえません。
期初に目標設定したからといって安心せず、毎日のコミュニケーションや日常的なフィードバックを通して、マネジメントしていきましょう。
6. 目標管理制度(MBO)をより良く運用するためのポイント
先にもご紹介したとおり、目標管理制度(MBO)は人事の評価制度と密接なつながりを持つ手法です。
人事制度の骨子に問題があると、その枝葉となる目標管理制度(MBO)もうまく運用できなくなります。
より良く目標管理制度(MBO)を運用したい企業では、マクロな視点で人事制度の大枠を捉え直し、必要な改定や見直しを施すことが役立ちます。
会社の理念・ビジョン・経営計画や、内部環境・外部環境の分析を踏まえたうえで、評価制度を含む人事制度全体を設計する。
その骨子に基づいて目標管理制度(MBO)を運用すれば「会社の成果」に直結します。
詳しくは「ピースが考える人事制度とは?」にて解説していますので、続けてご覧ください。
7. まとめ
目標管理制度(MBO)とは、個人ごとに目標達成をマネジメントする手法で、部下本人と上司が合意した目標を設定するのが特徴です。
目標管理制度(MBO)のメリットとして以下が挙げられます。
- 少し難しい目標への自発的なチャレンジを通して人材が育つ
- 全社統一のフォーマットで業績管理することで組織目標の達成率が高まる
- 成果評価とあわせれば人事評価制度の運用がしやすくなる
目標管理制度(MBO)のデメリットとしては以下が挙げられます。
- 適切な目標設定が難しい
- 設定した目標“だけ”にモチベーションが集中しやすい
- 失敗を恐れてチャレンジが減る傾向がある
目標管理制度(MBO)実践の流れを3ステップでご紹介しました。
- ステップ1:期初に目標を設定する
- ステップ2:期中に目標を調整する
- ステップ3:期末に評価する
目標管理制度(MBO)の注意点は次のとおりです。
- 達成したらOKではなく目標設定の精度を疑う必要がある
- 目標設定した以外の業務がないがしろにされない仕組みを作る
- 毎日のコミュニケーションや日常のフィードバックを手抜きしない
目標管理制度(MBO)の正しい知識をもとに、会社の成果に結び付く運用に取り組んでいきましょう。