評価制度の運用で人事が手一杯になる理由

評価制度運用で人事が手一杯になる理由を解説する記事のアイキャッチ。ホワイトボードの前で説明する人物と、評価をイメージしたイラスト。

人事が何とかすることで、今年も評価が終わっている

人事評価の時期になると、評価者からの問い合わせが相次ぐ。回答に追われる一方で、期限を過ぎても評価シートを出していない人を確認し、督促する。ようやく集まったと思ったら、今度は入力漏れや誤りが見つかり、修正を依頼する。

このような状況に心当たりはありませんか。

評価と報酬が紐づいている場合、評価結果が決まらなければ、昇給や賞与といった処遇も決められません。給与へ反映するための締め切りは動かせないなかで、提出が遅れたり、判断が必要な問題が出てきたりすると、人事が集計や評価調整会議の準備を急ぎ、何とか期限に間に合わせています。

毎年、評価は終わっている。だから、制度は運用できているように見える。

しかし、人事が遅れや不備を埋めることで評価が終わっているなら、その原因は見直されないまま、翌年も同じ対応を繰り返すことになります。

評価を終わらせることで手一杯になり、制度の改善や、評価者への支援にまで手が回らない。このような状況は、人事の頑張りだけで解消できるものではありません。

入力や集計を効率化するシステムを導入していても、こうした問題を全て解消できるわけではありません。

なぜ、人事は制度を回すだけで手一杯になるのか。ピースが運用支援で見てきた場面から考えます。

人事が手一杯になる3つの構造

評価のたびに人事へ仕事が集中する背景には、3つの構造があります。

評価は人事だけでは完結しない

目標設定、部下の仕事ぶりの把握、本人評価、上司評価、評価調整、面談。

評価には多くの人が関わります。途中で誰かの作業が止まれば、後の工程にも影響します。

問題が評価時期になってから見つかる

部下を評価する材料がない。
目標の達成条件が曖昧なままだった。
異動者の評価者が決まっていない。

期初や期中に対応できたはずの問題が、評価をつける段階で表面化します。

対応方法や判断する人が決まっていない

問題が見つかると、問い合わせは人事に集まります。しかし、人事だけでは決められないこともあります。関係者への確認や判断待ちが続く一方で、処遇決定の締め切りは動きません。

これらは、実際の運用ではどのように起きているのでしょうか。支援現場で見てきた3つの場面を紹介します。

場面1:何度督促しても、評価シートが集まらない

提出期限を過ぎた評価者へ連絡すると、返事は来る。それでもシートは出てこない。多忙で後回しにしている場合もありますが、評価者が作業を進められない事情が隠れていることもあります。

評価をつけるための材料がなかった

ある会社では、プロジェクト単位で社外に出て働く社員がいました。評価者である上司は、部下の仕事ぶりを直接見る機会が少なく、評価時期になっても何を根拠に点数をつければよいか迷っていました。

本人評価が出るのを待ってから参考にしようとする人もいれば、近くで働く人に聞き取りをしてから評価する人もいます。

評価時期になってから、評価材料を集めだすために、提出が遅れてしまうパターンです。

日頃の仕事ぶりを把握できていなければ、本人に評価理由を説明したり、具体的な助言を通じて育成につなげたりすることも難しくなります。

評価作業そのものが重かった

ある小売業の会社では、評価者である店長もプレイヤーとして店舗に立っています。店舗運営の合間に評価を進めなければならないうえ、評価項目が多く、コメントの入力も必要でした。

作業量に加えて、システムの使い方やシートの保存場所が分からず、手が止まることもあります。

職種別・バージョン別のシートが複数あれば、どれを使えばよいか迷い、誤ったシートに入力してしまうこともあります。

提出後のスケジュールが見えていなかった

評価者には提出期限が伝わっていても、その後に集計、評価調整、昇格者への内示やフィードバック面談が続くことまでは、伝わっていない場合があります。

評価から処遇決定までのスケジュールは想像以上に余裕がないものです。

ある会社で処遇決定までの工程を改めて確認した際には、制度づくりに関わった役員からも「このスケジュールでは間に合うわけがない」という反応がありました。

制度を決めた人でさえ、実際に運用する際の時間的な余裕を把握しきれていなかったのです。

督促を増やすだけでなく、評価できる環境を整える

部下の仕事が見えない評価者には、少なくとも四半期に1回の面談や月1回の現場巡回などを通じて、日頃から仕事ぶりを把握するよう働きかけています。

場合によっては、面談の実施状況も点検します。

一方で、プレイングマネージャーが多い職場では、部下の仕事ぶりを把握する時間を十分に取れない実情もあります。

人事から働きかけるだけでなく、経営者や部門責任者が、部下の仕事ぶりを把握することを管理職の役割として明確にし、業務分担や優先順位を見直して、そのための時間を確保する必要があります。

評価作業が重すぎる会社では、評価項目と入力事項を減らし、シートをA4一枚に収めました。部下へのコメント欄をなくし、評価理由は評価者側のメモを基に面談で直接伝える運用にして、負担を軽くしたケースもあります。

シートや保存場所が分からない場合には、評価開始の案内に使用するファイルと保存先を画像付きで示します。

評価から処遇決定までの全体スケジュールも共有し、一定の期限を過ぎた未提出者については、本人だけでなく上司にも状況を伝え、提出を促してもらいます。

同じ「シートが出ない」でも、必要な対応は異なります。督促を重ねる前に、評価材料、作業量、ファイル管理、スケジュールのどこで止まっているかを確かめることが必要です。

評価制度運用の想定フローと実際の運用上の課題を比較した図。評価者が途中で止まり、未提出や人事による状況確認・個別フォロー・再督促が発生する流れを示している。

場面2:評価時期になって、目標の不備が発覚する

シートを回収できても、すぐに評価を確定できるとは限りません。期初や期中に確認しておくべき問題が、最終評価の段階で見つかることがあります。

何を達成すればよいか、曖昧なままだった

定性的な目標を立てたものの、「どういった状態になれば達成なのか」が決まっていない。評価時期を迎えてから、「どう評価すればいいか」と問い合わせが来ることがあります。

本来であれば、定量的な目標を設定するか、定性的な目標であっても達成条件を上司と部下で期初に共有しておくことが重要です。ただ、目標設定時に達成条件まで考え切れず、「次までに考えておいて」と曖昧なままになってしまうケースは多くあります。

また、上司と部下の間で達成条件に合意していても、評価調整会議で部門ごとの目標の妥当性や難易度が問題になることがあります。例えば、営業部門と比べて間接部門の目標難易度が低いのではないかという指摘から、部門や個人の評価を調整する場面です。

しかし、合意した目標に取り組んできた社員からすれば、評価時期になって初めて難易度を問題にされると、「それなら先に伝えてほしかった」と感じるでしょう。点数を調整して処遇を決めることはできても、目標への取り組み方を変える機会は取り戻せません。

目標の妥当性や難易度は、期初に部門間でも確認しておく必要があります。

期中に意味を失った目標が、そのまま残っていた

組織方針や外部環境が変わり、期初の目標を追う意味がなくなることもあります。そのまま評価時期を迎えたケースでは、ほかの目標の評価をもとに全体の評価を調整しました。一方、期中に問題に気づき、目標を立て直して変更後の目標で評価したケースもあります。

期中に立て直せば、部下は残りの期間に何を目指すかを知ったうえで働けます。評価時期まで残せば、終わった期間を振り返りながら、処遇決定が迫るなかで扱いを決めることになります。

期初と期中に、目標を確認する

本来見直すべきなのは、評価時期の調整方法ではありません。

期初に、評価できる目標になっているか、成果につながる目標となっているかを、部下と上司の間だけでなく、部門間においても確認することが重要です。

期中には、目標を続けるか、修正するかを判断します。どのような場合に修正できるのか、誰が決め、どう記録するのかも、事前に決めておきます。

こうした確認を評価時期まで持ち越すほど、人事や評価調整会議が個別判断で吸収する仕事は増えていきます。

期初の達成条件の曖昧さや部門間の難易度差、期中の目標未修正が評価時期まで残り、問題の表面化、評価確定の遅れ、人事の作業時間圧迫につながる流れ。

場面3:イレギュラー対応の問い合わせが人事に集中する

通常の評価手順は決まっていても、異動者や中途入社者の扱いまでは決まっていないことがあります。評価時期になってから方法を考え始めると、人事に確認と調整が集中します。

異動した社員を、誰が評価するのか

異動前と異動後のどちらの上司が評価するのか決まっていないケースがありました。実際の対応では、双方の上司を評価者とし、在籍期間などに応じて評価を按分したことも、二人の評価を単純平均したこともあります。どちらかが常に正解ということはありません。異動の時期、評価対象期間、担当した仕事に応じて選ぶ必要があります。

中途入社者の個人目標が設定されていない

中途入社者が評価対象になっているのに、個人目標が設定されていないこともあります。

行動評価を中心に評価し、成果評価には所属部門の成果や、同じ部門の個人成果評価の平均を用いたケースがありました。

本人の成果を直接測った数値ではない以上、会社として説明できる方法を採用し、同じ条件の社員に一貫して適用することが重要です。

中途入社者の評価方法の決め方だけでなく、次回も個人目標がない状態を繰り返さないように、誰が、いつまでに目標設定を確認するかも決めておく必要があります。

方法だけでなく、判断する人を決める

イレギュラーへの対応では、「どう評価するか」に加えて「誰が決めるか」も必要です。人事だけで決めてよいのか。評価者や部門長と協議するのか。役員会や評価調整会議で決めるのか。

これが決まっていないと、関係者へ事情を聞き、方法を検討し、判断を仰いで、結果を評価者へ伝えるところまでを、人事が抱えることになります。

異動や中途入社は珍しい出来事ではありません。起きるたびに一から対応を考えずに済むよう、対応方法や相談先、判断の期限を整理しておくことが必要です。

異動や中途入社、兼任、上司変更、業務変更などが起きるたびに、人事が状況確認、判断依頼、個別回答を繰り返している。対応方法をあらかじめ決めて全社に共有し、想定内のケースは評価者が対応できる状態を目指す図。

人事の頑張りで回している部分をチェックする

いきなり制度全体を作り直したり、新しいシステムを導入したりする必要はありません。直近の評価を振り返り、次のようなことが起きていないか確認してみてください。

評価の進め方

  • 毎回、同じ評価者に何度も督促している
  • 評価時期になってから、本人評価や周囲への聞き取りで評価材料を集めている
  • 「どのシートを使うのか」「どこに保存するのか」と毎回聞かれる

目標と評価材料

  • 評価の段階になって「この目標はどう評価すればいいのか」と相談が来る
  • 期中に状況が変わっても、目標が見直されていない
  • 評価調整会議の段階で、部門ごとの目標の難易度が問題になる

イレギュラー対応

  • 異動者や中途入社者の評価方法を、その都度決めている
  • 人事では決められない判断待ちで、集計が止まる

当てはまる項目があるところでは、人事の個別対応によって工程が進んでいます。

評価の進め方であれば、評価者が日頃から材料を得られるか、作業量やファイルの案内に問題がないか。

目標であれば、期初・期中に誰が何を確認するか。

イレギュラー対応であれば、方法とともに、相談先や判断する期限が決まっているかを見直します。

毎年同じ判断をしているものはルールにする。事情によって判断が分かれるものは、相談先と期限を決めておく。それだけでも、評価時期に人事が一から対応を考える場面を減らせます。

見直す際には、人事で改善できることと、部門責任者や経営者の判断が必要なことを分けます。使用するシートや保存先の案内は人事で整えられても、評価者の業務配分や、部門間の目標の妥当性までは、人事だけでは決められません。

社内で相談するときは、「評価業務が大変だった」という報告だけで終わらせず、どこで作業が止まったか、人事が何を補ったか、次回までに誰の判断が必要かを示します。直近の評価で繰り返し起きた問題を一つ選び、担当者と判断する人、期限を決めるところから始めます。

まとめ|評価を終わらせることだけが、人事制度の運用ではない

人事制度の運用には、個別の事情を確認したり、関係者の間を調整したりする仕事が必要です。すべてをルールやシステムだけで処理できるわけではありません。

問題は、毎年同じ遅れや不備を人事が埋め続け、原因を見直せないことです。担当者の経験や頑張りがなければ評価が進まない状態では、担当者が変わったときにも支障が出ます。

だからこそ、人事の頑張りに頼りきらず、組織として人事制度を運用することが大切です。

人事は評価スケジュールを案内し、進捗を確認する。
評価者は部下の仕事ぶりを把握して目標や評価を話し合う。
部門責任者や経営者は、評価に必要な時間の確保や、人事だけでは決められない問題を判断する。

それぞれの役割を明確にし、評価時期に人事が一から対応を考える場面を減らしていく。

そうして生まれた余力や時間を、制度の見直しや改善、評価者・被評価者の育成に使うことで、人事制度が育成と成果につながるマネジメントツールとして機能します。

評価が期限どおり終わることは大切です。しかし、評価を終わらせるだけでなく、育成と成果につながる運用へ変えていくことが、目指すべき「人事制度運用」だと私は思います。