人事制度改革が失敗する3つの理由

通常、人事制度改革はトップダウンで行われる。

なぜなら、人事制度は経営や社員に与えるインパクトが大きいからだ。

改革の旗手が経営トップだから、形としての制度ならば立派なものになるが、社員のパフォーマンスは期待したほどには向上しない。

トップ自らが積極関与しても、改革は上手くいかないことが多いのだ。かと言って、ボトムアップでも上手くいかない。

上手くいかない理由は、トップダウン/ボトムアップといった形にあるのではなく、“人事制度が持つ特徴”にある。

この特徴をおさえた上で改革を行えば、目指す成果が得やすくなるはずだ。

今回の記事では、人事制度改革が失敗する主要因を3つ挙げ、プロジェクト運営者が持つべきスタンスについて書きたい。

1.とにかく細かいので、成果を出す上で役に立たない

 

制度作りの難しいところは、「精密に作りこめば作りこむほど、誰も見向きもしないものなる」という点に尽きる。

「複雑なものは運用に向かない」ことは多くの人が知るところだ。

それにも関わらず、人事制度がやたら細かくなるのには、そうなる真っ当な理由があるからだ。

それは多くの人が「社員を公平に処遇することが正しい」と信じている点にある。

そして公平性は、精密性を要求する。どんどん細かくなっていくのだ。

例えば人事制度の代表格、評価制度では何が起こるか。

人は公平性に敏感だ。公平性を欠く評価に対しては、普段は大人しい社員ですら、はっきりとした不満を持つ。

「上司の好き嫌いで評価されたくない」
「隣の部署は評価が甘い」
「うちの部署は人不足だから成果が出にくい」

そうした不満に対処しようとすると、評価制度はどうしても細かいものになりやすい。正しく評価し、丁寧に説明しようとすると、評価項目を細分化せざるを得ないからだ。

例えば目標管理(MBO)を導入している会社では、目標の記入欄が7つもあったりする。

7テーマで目標設定して、達成する社員が何人いるのだろうか。せいぜい3テーマぐらいが妥当ではないか。

社員が、「自分が取り組んでいる目標、業務を網羅的に評価して欲しい」と願うのも無理はない。たまたま未達成だった目標だけで賞与が決まったら、たまったものではないからだ。

しかし網羅的な目標、細かい評価項目は、成果を出すという観点から見れば、かなり筋が悪い。

良く知られているように、目標達成率を上げるためには、目標を重要なものに絞ることが有効である。選択と集中。マネジメントの基本である。

目標にしろ、評価項目にしろ、本当にできるようになって欲しければ、絞ったほうが良い。

そして、成果が出なければ、公平性もあまり意味をなさない。

なぜなら成果が出なければ、賃金に回せる原資は減る。少ない原資を公平に分けることに、いったいどんな意味があるというのか。

人事制度もマネジメント同様、選択と集中が必要だ。

この点に確信が持てていないと、周囲の声に惑わされてシンプルな制度づくりができない。

本質をしっかり捉えるようにして欲しい。

 

2.改革スピードがとにかく遅い

 

人事は繊細なものを含むため、簡単に変更できないときがある。

例えば、賃金制度一つとっても社員にとって不利益な変更がある場合、説得や導入に時間がかかる。

労働組合を持つ会社なら、尚更だ。

制度を作るのに半年~1年、試験運用と説得に1年、運用開始が3年目で、実際に賃金が変わるのが4年目、というケースも珍しくない。

何かをするのに3、4年というのは、今の時代のスピード感としては厳しいものがある。

経営計画は1年単位で見直す会社が多い中、人事制度は実際に運用の結果が出るまでに4年かかる。

とにかく人事制度は鈍足なのだ。

このあたりを良く知る経営陣ならば、とにかく面倒なので、最初から「人事制度は放置」という判断をするケースも珍しくない。

対処方法は3つだ。

①助走を長くとって計画的に進める
②とにかく短いスパンで前に進める
③作り直しやすく、作っておく

すぐにできるのは、②、プラスアルファで③といったところだろう。

大企業であっても、3か月~半年で作り、半年で試験運用、2年目には運用開始、というスケジュールで進めないと、あまりにもスローペースで、社員に見向きもされないだろう。

中小企業なら、さらに半分ぐらい、つまり半年で運用開始に持っていきたい。

とにかくスピード命だ。

“人事制度あるある”だが、2~3年前に作った制度は、当のプロジェクトメンバーですら内容を忘れてしまっている。

社員への配慮で丁寧に作ったものでも、忘れてしまっては意味がない。

周りが驚くほど、大胆に進めて欲しい。それぐらいでちょうど良い。

 

3.優秀な社員ほど人事制度に興味がない

 

優秀な社員は、成果が出ないことを周りのせいにはしない。上司や部下、会社のシステムや制度の良し悪しに関係なく成果を出す。

環境に依存しないから、優秀なのだ。

そして、本当に優秀な社員は、どんな人事制度だろうと評価されてしまう。出過ぎる杭は打たれない。誰の目から見ても優秀な人を打つのは、打つ側にリスクが伴うからだ。

そんなわけで、優秀な社員ほど、実は人事制度に興味がない。自分に必要がないのだから、しょうがない。

優秀な社員が、人事制度を気にし始めるには、出世を重ねて部長になったあたりから、というのが実情だろう。本格的に関与するのは、取締役になってからだ。

人事制度とはマネジメントツールだ。より成果を出すために、人事制度はある。

成果を出している社員が関与していないマネジメントツールの改革など、始めた瞬間から失敗が約束されているようなものだ。

もちろん、“現場の巻き込み”の重要性は、まともな人事部なら心得ている。

しかし、如何せん、優秀な社員は忙しい。なおかつ、「人事制度に興味がない」ときている。

だから、人事部にも遠慮がある。

だが、遠慮が良い結果に結びつくとは限らない。

明確な信念を持って、現場社員を巻き込んでいって欲しい。

 

まとめ

 

人事制度改革を成功に導くポイントは以下の3つだ。

  • シンプルに作り上げる。細かい枝はそぎ落とす。
  • スピーディーに運用まで持ち込む。周囲が驚くほど大胆に。
  • 優秀な現場社員を巻き込む。遠慮は無用。

素晴らしい人事制度を作っても、現場に浸透しないのは非常に残念なことだ。

3つの特徴を踏まえた改革を行うことで、成果を出していって欲しい。