エンジニア・SEの評価制度とは?SIer企業の人事制度設計のポイント

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はじめに

多くの会社では、人事制度を構築する際に、汎用的なフレームワークや他社事例を参考にします。それ自体は悪いことではありませんが、テンプレート通りにはいかないケースが多いようです。

例えば、一般的な人事制度は、上司が部下の日常業務を把握していることを前提としています。課長が課員の働きぶりを見て評価する、というシンプルな構図です。

しかしSIer・SES企業では、この前提が最初から成り立ちません。

社員が客先に常駐し、上司が日々の業務を直接把握できない。プロジェクト単位で働き方が変わる。そうした構造の中に、汎用的な評価制度をそのまま持ち込んでも、機能しないのは当然です。

つまり、業態や組織規模に合わせた設計と運用が、人事制度を「形だけのもの」で終わらせないための鍵になります。

本記事では、SIer・SES企業について、特有の人事課題と制度運用上の課題を整理し、それらを踏まえた制度設計のポイントを解説します。現場での支援を通じて見えてきた実態と、実際に機能した打ち手について解説します。

SIer・SES業界における課題の整理

ここでは、SIer・SES企業において多く見られる課題を、人事課題と人事制度上の課題に分けて整理します。

人事課題

容易に他社比較が可能であることによる離職ハードルの低さ

エンジニア市場では、転職サイトやフリーランス市場の発達により、年収や単価といった市場価値が可視化され、他社との比較が容易になっています。

そのため、会社への不満や不安などが生じた場合、会社側の想定以上に離職が起こりやすい環境です。

評価基準が曖昧で、キャリアの見通しが持てない。客先常駐の案件が多く、自社への帰属意識が低い。そうしたことが続くと、従業員体験の質も下がり、「なぜこの会社で働き続けるのか」という問いに答えを見出しにくくなります。

つまり、比較が容易で離職しやすい環境と、評価・キャリア・帰属意識の課題が重なることで、SEの採用難や早期離職に繋がっています。

評価・処遇への不満、キャリアへの不安、帰属意識の低さが、他社比較のしやすさを通じて早期離職につながることを示した図

早期離職を引き起こす要因とトリガー

スキル・ノウハウの属人化

スキルやノウハウの属人化も、重要な人事課題の一つです。

SIer・SESなどのプロジェクト型の業態では、アサインされる案件によって経験内容が大きく異なるため、個人ごとにスキルの偏りが生まれやすい構造があります。

こうした偏りは組織としてのスキルの蓄積や育成を難しくし、結果として離職を招きやすくなります。さらに、離職によってノウハウが失われることで現場の人員が不足し、経験のある人材に業務が集中します。

その結果、育成を前提としたアサインが難しくなり、再びスキルやノウハウの偏りが生まれます。このように、属人化は離職を通じて強化される循環構造となっています。

経験者へのアサイン集中がアサインの偏りを生み、属人化・成長実感不足・離職・人手不足へとつながり、再び経験者へのアサイン集中に戻る悪循環を示した図

属人化は離職を通じて強化される循環構造になっている

人事制度や運用上の課題

客先での働きぶりが評価に反映されにくい

SIer・SES企業では、社員が顧客先に常駐したり、客先で作業を行ったりするケースが多く、日々の業務を上司が直接把握することが難しいという特性があります。

そのため、以下のような「評価と実態の乖離」が生じやすくなります。

  • 評価が断片的な情報に基づくものになりやすい
  • 主観的な判断に依存しやすい
  • 単価や稼働といった”結果指標”に偏りやすい

「普段の働きぶりを十分に把握できていない上司」からの評価は、納得感を得にくく、モチベーションや定着にも影響を与えます。

スキルマップや評価結果が育成・配置に活用されていない

スキルマップを整備しているという会社は多くとも、それが育成や配置の判断に活用されていなければ、制度は現場の意思決定を変えることができません。なぜなら実務での経験に勝る成長機会はないからです。

生成AIの活用やインタビューなどで各職種で必要なスキルが網羅的に可視化・分析が可能になり、スキルや経験の情報が可視化されていても、次にどの経験を積ませるのか、どの案件にアサインするのかという判断に十分つながっていないケースがあります。

その結果、評価・育成・配置が分断され、スキルの偏りや属人化が解消されにくくなっています。

評価者が何をすればいいか曖昧で動きにくい

評価制度を現場で機能させるには、制度そのものだけでなく、評価者が運用しやすい状態を整えることも重要です。目標設定や評価面談、フィードバックは評価者が担うため、評価者が迷わず進められる設計になっていないと、運用にばらつきが生じやすくなります。

特にSEなどの技術職では、基準や手順が明確でないものに対して、どう判断すればよいのか分かりにくく、運用が曖昧になりやすい傾向があります。評価項目や判断基準、面談フローなどが明文化されていないと、評価者ごとに対応がばらつき、制度が形だけのものになってしまいます。

課題を踏まえた人事制度の設計ポイント|SIer・SES企業に適した考え方

前章で挙げた課題を踏まえ、人事制度での解決に導くためのポイントについて解説します。

評価者の設計

まず、会社規模が大きくないプロジェクト型の組織では、プロジェクトリーダーが一次評価者となって、評価やフィードバックを行うことが有効です。

マネージャーの評価業務の一部をプロジェクトリーダーに委任することで、プロジェクトリーダー自身がマネジメントを経験する機会にもなります。

メンバーにとっても、自身の業務を実際に見ている人から評価されることで、納得感が高まります。

マネージャーはプロジェクト全体の管理と評価を担い、部下のキャリアや育成という観点からキャリア面談やアサインなどを行う役割を担います。

誰が何を評価し、何を指導するのかを丁寧に設計することが、納得感のある評価や成長実感につながると私は考えています。

マネージャーとプロジェクトリーダーの役割分担表。マネージャーはプロジェクトとプロジェクトリーダーを評価対象とし、キャリア開発・目標設定・成長につながるアサインを担う。プロジェクトリーダーはプロジェクトメンバーを評価対象とし、プロジェクトでのスキル・ノウハウの獲得支援を担う

スキルマップをアサインや育成に活用する

SEなどの技術力が成果につながるような職種では、スキルマップを整備して、スキルの獲得状況を評価や昇格などの処遇に活用している会社も多いです。

ただ、スキルマップがあっても使われていない、評価の時期にしか参照しないというように形骸化しているケースもあります。

SIerやSES企業では、どの案件にアサインされるかによって獲得できるスキルも変わります。だからこそ、評価の時期にスキルを確認するだけでなく、目標設定の段階でどんなスキルを獲得し、どんな経験を積みたいのかを確認したうえで、アサインを判断することが重要です。また、配置された案件でどんなスキルを磨いてほしいのかといった期待を伝えていくことも、育成の観点から欠かせません。

評価・育成・配置が連動して初めて、スキルマップは「管理ツール」から「成長支援ツール」へと変わります。

評価者向けの運用マニュアル

プロジェクトリーダーも評価者として運用に巻き込んでいくためにも、評価者研修の実施や運用マニュアルの整備は重要です。

特に、マニュアルを作ることには二つのメリットがあります。

一つは「何のために、いつ、何を、誰が、誰に、どのように行うのか」を明確にすることで、評価制度運用の属人化を防ぐことができることです。

もう一つは、会社公式の文書として整備することで、評価者の役割として担うべき業務として位置づけられることです。

特にSEのようなシステムを構築・運用する職種では、ルールとして定めることや、手順や内容、基準について適切に伝えることが、評価者自身の納得感にもつながります。

マニュアルは完璧なものを目指すよりも、「現場で実際に使える」ことを優先して作成することが大切です。

マニュアルの効果や作成時のポイントについては以下の記事で詳しく解説しています。
評価制度運用マニュアルに関する記事のアイキャッチ画像 評価制度運用で起きるトラブル5選とマニュアルによる対策

事例:50名規模のSIer企業

背景

関東に拠点を置く、社員数50名規模のWeb開発、インフラ構築、受託開発を行うSIer企業の事例です。

評価はマネージャーが担っていましたが、日常業務を直接見ていないマネージャーからの評価やフィードバックに、納得しきれないメンバーもいました。

スキルマップは整備されていたものの、活用状況は部門によってまちまちで、育成やアサインの判断に組織として活かせている状態にはありませんでした。

施策

  1. プロジェクトリーダーを一次評価者として位置づけ、メンバーへの目標設定・中間・フィードバックの各面談を担ってもらう体制に変更しました。マネージャーはキャリア面談を単独で担う役割分担としました。
  2. メンバーとの面談におけるマネージャーとプロジェクトリーダーの役割分担表。目標設定面談は両者が担当。業務レビュー・中間振り返り面談・評価面談はプロジェクトリーダーが担当。キャリア面談はマネージャーが担当

  3. プロジェクト評価のみを成果評価としていましたが、個人成果として、スキルマップの項目から目標を設定し、その達成状況を評価する仕組みにしました。
  4. スキルマップを目標管理に導入した前後の評価構成の比較図。導入前は成果評価にプロジェクト評価のみだったが、導入後はスキルマップ目標が加わり、個人として業務内外で獲得したスキルや経験を評価する仕組みになっていることを示している

  5. 評価者向けの運用マニュアルを作成し、面談の時期・流れ・話すべき内容を明示しました。マニュアルをもとにした研修も実施し、プロジェクトリーダーが評価者として動きやすい環境を整えました。

変化

制度の運用開始からまだ間もないため、離職率や評価納得度といった数値での変化はこれからです。ただ、いくつかの変化はすでに現れています。

スキルマップの項目から目標を設定する仕組みにしたことで、自分に必要なスキルや学びが明確になったためか、eラーニングの受講率が前年度と比べて伸びています。評価と学びがつながったことで、自発的な学習への意識に変化が生まれていることがうかがえます。

また、面談の同席を通じて確認したところ、マニュアルや研修で示したフローに沿ってアイスブレイクやヒアリングを進めようとする姿が見られます。

今後

プロジェクトリーダーが評価者としての役割を担うことで、業務負荷が増えることも事実です。

ただ、評価や面談を通じてメンバーの成長を支援することが、結果としてプロジェクトの成果やプロジェクトリーダーの負担軽減にもつながっていく。そうした好循環を生み出せるよう、引き続き現場に寄り添いながらサポートしていきたいと考えています。

まとめ

SIer・SES企業におけるプロジェクト型の組織は、顧客にとっては柔軟で価値の高い形態である一方で、企業としてはマネジメントの難しさを抱えています。

プロジェクト単位で業務が進むため、直属の上司が日常業務を把握しづらく、成果は見えてもプロセスやコミュニケーションが見えにくい構造です。

このようなマネジメントの難しさを抱えながらも、SIer・SES企業は重要な役割を担っています。

私たちの社会は、さまざまなシステムによって支えられています。医療、行政、インフラなど、あらゆる場面でITは不可欠であり、それを支えているのがSEです。

だからこそ、SE一人ひとりが働きがいや成長を実感しながら力を発揮できる環境を整えることは、企業の成長にとどまらず、社会全体の価値にもつながります。

本稿では制度設計の考え方と運用の一例について解説しましたが、現場には他にもさまざまな課題が存在します。

こうした課題に対して、これからも現場に寄り添いながら継続的に支援していきます。