6月になると新人が各部署に配属になる会社も少なからずあるだろう。
異質な人たちが外部から入ってくるのであるから、チームが一時的な混乱に陥ることも想定される。また、スキルが未熟な人々が入ってくることで、教育にコストを割かなくてはいけない。
「第1四半期の末で忙しいのに教育まで…」と、閉口する方もいらっしゃるだろう。
したがって、6月のチーム形成は非常に重要な仕事の1つだ。
あまり良くない言い方かもしれないが、新卒という「足手まとい」を抱えながら、どう部署やチームを運営していくか。リーダーのウデが問われることになる。
それまで順調にチームを運営していた有能なリーダーが、チームビルディングを間違えたがゆえに新卒たちから「総スカン」をもらい、業績まで落としてしまった、という話は決して珍しいわけではない。
だが逆に、チームの中に「育てなければならない人」が存在することはチームの結束を固くする側面もある。子供の誕生を機に「家族が集まるようになりました」と言うひとが多いのは、このためである。
「皆で新人を育てよう」という機運が生まれれば、チームをより強固にすることもできる。全てはマネジメント次第だ。
具体的には、下のそれぞれの局面で新卒たちをチーム内でうまく扱う必要があるだろう。
1.コミュニケーション
言い切ってもいいが、「新人が聞きに来なくて……」とボヤく上司は、ダメな上司だ。
新人が聞きにこれないのは、当然である。何がわからないかわからないのが、新人だからだ。
例えば想像してみて欲しい。あなたが数学者でもないのに突然、学者ばかりが集まる数学の学会に出席させられて、講演者の発表を見た後、「さあ、質問しなさい」と言われて質問できるだろうか。
できるわけがない。質問というのは「ある程度わかっている人」にしか、することができないのだ。
したがって、新人とのコミュニケーションは「上司、先輩からの声掛け」を基本としなければならない。
「なにか困ってない?」「調子はどう?」と新人に対する声掛けを励行しよう。
下手に飲み会などを開催するよりも、声掛けを大事にするだけで、コミュニケーションはきちんと取れるものだ。
2.目標設定
「新人に目標?」と不思議に思うかもしれないが、新人には必ず短期的にある程度達成可能な目標を与える。
最初に努力の方向性を示すことで、「まじめに取り組むことが、成果に繋がる」ことをまず体感させる必要がある。
逆に「成果が出るか、出ないかよくわからない」仕事を新人に放り投げてはいけない。仕事を始めたばかりの時に自分の無力感ばかりを体感するような仕事に就くと、仕事そのものを嫌いになってしまう可能性が高い。
彼らは大人ではあるが、仕事に関してはまだよちよち歩きだ。少しずつ、段階的にハードルを挙げていく設計をしなければ、育つ人も育たない。
3.教育とOJT
山本五十六は「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、 ほめてやらねば、人は動かじ。」と言った。この通りに行うのが、教育とOJTである。
まずは「正しい型」を上司・先輩がやってみせる。
ただし、それだけでは理解が進みにくいので、行動の「理由」「原理」を、「言って聞かせる。」その後に実践してもらうのが正しいやり方だ。
ところが現場では「言って聞かせて」しか行っていない上司・先輩が多い。これでは新人が技能を身につけるまでにかなり長い時間かかってしまう。
教育は研修などのインプットよりも、実際にやらせてみて指導する、「アウトプット」を中心に行わなくてはならない。
インプットが必要となるのは、ある程度の技能が身につき、自分でどの情報が必要なのかを取捨選択できる能力が身についてからだ。
4.フィードバックと改善
上述した「ほめてやらねば」がフィードバックと改善だ。
そこで、「目標を達成できなかった時も、褒めるんですか?」とご質問をいただくことがある。
その質問は、実は的外れだ。新人に関して言えば、褒めるのは、「結果」ではなく「努力」だからだ。結果に関しては運、不運があるので、褒めたり叱ったりする必要はない。
その代わり「努力」、すなわち「成功するために手をつくしたか」に関しては、褒めたり叱ったりするべきだ。そうすることで、新人は「正しい行動の様式」が身につく。
長期的に活躍できる人材かどうかは、「正しい行動様式」が身についているかどうかにかかっているから、これは重要だ。
上司・先輩は、
・目標を達成させるのは、自尊心のため。
・上司が褒めたり叱ったりするのは、正しい行動様式を身につけさせるため。
この違いを理解しておく必要がある。
5.トラブルシューティング
新人が入ってきて最もトラブルになりやすいのは、先輩が忙しすぎる、という状況である。
「見てもらえない」
「話を聴いてもらえない」
「質問できない」
「自分に興味が無い」
この状況が、もっともトラブルを引き起こす。
だが先輩や上司にも「子供じゃないのだから、自分の面倒は自分で見なさい」という言い分があるだろう。
結論から言うと、この言い分は8割間違っている。なぜなら、上司や先輩が「下を育てる」という仕事を放棄しているからだ。
「自分の面倒は自分で見よ」という言葉は、営業が「客が悪い」というのと同じで、結果が出ていないことへの単なるいいわけだ。新人を育てるのは「大事な仕事」だという認識を、上司や先輩が持たせる必要がある。
では、どのようにすれば大事な仕事という認識をもたせられるか。
簡単だ。
新人をつけた人間の負荷を減らせば良い。「仕事量や目標を下げるから、新人の教育に時間を割け」というのだ。
ありがちなのは新人の教育を任せたら逆に「成果の目標値を上げる」という行為だ。要するに「新人の分もあなたが稼いでね」というメッセージだ。これでは誰も育てようと思わないし、新人が結果を出したかどうかだけにしか注意がいかない。
これでは正しい行動様式が身につくどころか、新人に無理を要求する上司が増えるだけである。
新人をつけたら、育成目標をふやすかわりに、成果の目標値を下げること。当たり前だが、会社としてはそれくらいの余裕は必要である。
6.まとめ
上述したことをまとめると、指導の方針は以下となる。
- コミュニケーション・・・声掛け
- 目標・・・達成できることから
- 教育・OJT・・・アウトプット中心
- フィードバックと改善・・・努力を褒める
- トラブルシューティング・・・上司や先輩の負荷を減らす
新人にとって、最初の上司や先輩は、その後の人生を左右するくらい、重要な存在だ。
とりわけ、最初の半年くらいで、会社員としての習慣が身についてしまうのだから、「良い習慣」を身につけさせるための正しい訓練をおこなわなくてはならない。