中小企業のための「再雇用制度」とは?定年後の人材活用のポイントを解説

中小企業のための「再雇用制度」とはー定年後の人材活用のポイントを解説

最近、60歳を超えても元気な方が増えていると感じます。令和4年の発表によると日本の健康寿命は男性が72.57歳、女性が75.45歳だそうです。「60歳=引退」といった時代は、もはや昔の話です。

一方で、シニア人材の処遇について、現実問題として「昔と同じ仕事、同じ待遇で」というわけにいかず、人件費、ポジション、若手との兼ね合いなどいろんな課題がついて回り、多くの経営者が頭を悩ませています。

そこで注目されているのが、「再雇用制度」です。

社員のキャリアを延ばしながら、会社にとっても戦力を維持できる仕組みです。

この記事では、再雇用制度の基本から、中小企業でも無理なく活かせる設計のポイントや事例をわかりやすく紹介します。

再雇用制度とはどんな仕組み?

そもそも「再雇用制度」とは、定年を迎えた社員を、再び有期契約などで雇用する制度のことです。

高年齢者雇用安定法では「60歳未満での定年禁止」と「65歳までの雇用機会確保義務」が定められており、雇用機会確保のための方法として以下のいずれかを行うように義務付けられています。

  1. 定年の引上げ
  2. 定年の廃止
  3. 再雇用や勤務延長などの継続雇用制度

さらに、2021年の法改正では、「70歳までの就業機会の確保」が努力義務となりました。

就業機会確保のための方法として、上記1~3に加えて創業支援措置と呼ばれる4~6が選択できるようになり、柔軟に高年齢者の働き方に対応しようという動きがみられます。

  1. 定年の引上げ
  2. 定年の廃止
  3. 再雇用や勤務延長などの継続雇用制度
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に事業主が自ら実施する社会貢献事業に従事できる制度の導入
  6. 70歳まで継続的に事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入

現在、雇用確保措置として主に用いられているのは、「定年の引上げ」「定年廃止」「再雇用などの継続雇用」です。

「定年引上げ・定年廃止」と「再雇用制度」はいずれも高年齢者雇用のための施策ですが、大きな違いとして、定年引上げは退職せずに雇用を継続するのに対して、再雇用制度は一度退職する点が挙げられます。

どちらもメリットとデメリットがありますが、多くの中小企業が選んでいるのが「再雇用制度」です。

理由はシンプルで、「柔軟でコントロールしやすい」ためです。

定年を廃止すると正社員として雇い続けることになりますが、再雇用であれば1年ごとに契約を見直すことができ、健康状態や意欲、業務とのマッチ度に応じて仕事内容や処遇について調整できます。

高年齢者雇用安定法に基づく3つの雇用措置(①定年引上げ、②定年の廃止、③再雇用などの継続雇用)の違いを比較した表。
①定年引上げ(例:60歳→70歳)
退職:70歳まで退職しない
雇用区分:正社員
契約期間:無期(70歳まで)
雇用契約:変わらない
令和6年実施状況:26.9%
②定年の廃止
退職:退職しない
雇用区分:正社員
契約期間:無期
雇用契約:変わらない
令和6年実施状況:3.9%
③再雇用などの継続雇用
退職:退職後に改めて雇用
雇用区分:嘱託社員・契約社員など
契約期間:有期(1年更新)
雇用契約:変わることもある
令和6年実施状況:71.4%
※数値は四捨五入のため合計は100%にならない。

なぜ今「再雇用」が注目されるのか?

いま再雇用制度が注目されている理由は「人材不足」と「経験知の価値」です。

少子高齢化に伴い、若手の採用が年々難しくなっています。特に、中小企業では応募自体が集まりにくいという声も多く聞きます。

そうしたなか、会社のことも業務のこともよくわかっている「元社員」がそのまま戻ってきてくれるのは、かなり大きな戦力です。

また、ベテラン社員の持っている現場対応力や顧客との関係性、技術やノウハウといった「経験知」は一朝一夕では引き継げません。

若手に技術承継をしていくにも「教える人」が不可欠です。育成についても、シニア人材を活用することができ、「戦力維持」と「次世代育成」を両立できます。

さらに、再雇用制度であれば、勤務日数や時間、給与も柔軟に設計が可能です。そういった意味では人件費も抑制しながら、組織と人材の成長につなげることができます。

再雇用制度設計のポイントは「柔軟性」と「納得感」

再雇用制度をうまく活用するには「とりあえず再雇用」ではなく、きちんと設計することが大切です。

対象者

2013年4月に高年齢者雇用安定法が改正されるまでは、会社は再雇用の対象とする社員を事前に労使協定で定めた基準で選別することが許されていました。

しかし、2021年の改正後は、原則として「希望者全員」が再雇用の対象になり、再雇用の拒否は違法になりました。

※改正前に選別基準を定めていた会社は2025年までその選別基準を用いることができます。

ただし、就業規則に定める解雇・退職事由に該当する場合は、再雇用を見送るケースもあります。

この点については第4章で詳しく解説します。

業務や契約内容の見直し

再雇用制度では一度退職を挟むため、管理職からは外れるなど、再雇用後は仕事内容が変わることもあります。

ただし、定年前と全く異なる職種に就かせることは、原則として認められていません。

定年前と同職種で「育成係」や「アドバイザー」といったポジションで若手の育成や技術・ノウハウの承継を任せることが多いですが、社員によっては「プレイヤーとして第一線で働きたい」という方もいるでしょう。

業務内容についても今後対象となる方へ前もって意見を聞いたうえで、丁寧に設計することが重要です。

これまでは、社員一人ひとりと面談し、個別に再雇用時の雇用条件を決めていた会社も多かったかもしれません。

しかし今後、シニア人材の割合が増えていくことを考えると、すべてを個別対応するのは現実的ではありません。

たとえば「週3日勤務」「短時間勤務」「フルタイム勤務」など、働き方に応じたコースをあらかじめ設計し、その中から選択できるようにするのがおすすめです。

再雇用制度の中でこうした複数の働き方コースを用意する場合もあれば、他の雇用確保措置(定年延長や定年廃止)も含めて、「再雇用コース」「定年廃止コース」といった制度全体のコース分けを行う企業もあります。

更新ルール

契約の更新可否をどう判断するかも大事なポイントです。

体力の減退によって社員側から契約満了での退職を希望する場合もあれば、会社側の意向で雇い止めを検討する場合もあります。

ただし、雇い止めとする場合には労働契約法第19条により一定の制限があります。

雇い止めをするためには以下の条件が必要です。

    雇い止めができる条件

  • 労働者から有期労働契約の更新の申し込みがない。
  • 契約更新しないことが原則や慣例になっており、労働者側の契約更新への期待が低い。
  • 雇い止めに客観的に合理的な理由があり、社会一般から見て相当と認められる。

ただし、「病気やけがによる就業不能」「勤務態度」「業務命令違反」などの正当な理由があっても、会社が十分な指導や配慮をしていない場合は、「社会一般から見て相当な理由ではない」と判断されます。

つまり、正社員を解雇するとき考え方とほとんど同じで、簡単に雇い止めはできません。

「5年経つと無期に?」無期転換ルールを見落とさないために

もう一つ、更新の設計について注意する必要があるのが、労働契約法の「無期転換ルール」です。

無期転換ルールでは、「有期労働契約が5年を超えて更新された場合に労働者が希望した場合、会社は無期雇用契約に転換しなくてはならない」と定められています。

対象者は契約社員、パート・アルバイト、派遣社員など全ての有期契約労働者です。

「無期転換ルールについて」解説する図。左側に「無期転換ルール」と記載され、右側に図解が配置されている。契約の締結または更新が1年ごとに行われ、5回目の更新後の1年間に「無期転換申込権」が発生することを示している。その後、労働者が申込を行えば「無期労働契約」に転換される。図は厚生労働省の「無期転換ルール」資料をもとに作成されたものである。

そのため、もし60歳で定年となり、単純に65歳まで1年契約で有期雇用を繰り返すと、社員から希望があれば無期契約に転換する必要があります。

無期雇用となると定年がなくなり、本人が退職を希望するまで雇用は続きます。

つまり、事実上の定年廃止です。

もし、無期転換ルールに対して対策をするならば、次の方法があります。

定年をずらす

60歳の誕生日の翌月末を定年とし、有期雇用契約で再雇用する期間は65歳の誕生日までと就業規則に明記すると、通算で5年にはならないため、無期転換ルールの適用を回避することができます。

有期雇用特別措置法の適用を受ける

「有期雇用特別措置法」では、いわゆる「第二種計画」として、定年後に再雇用された労働者を無期転換ルールの適用対象から除外できる特例が設けられています。

この特例を利用するには、事前に都道府県労働局へ計画書を提出し、認定を受ける必要があります。

ただし、この特例が適用されるのは、以下に限られます。

  • 定年を迎えた後も同じ事業主のもとで再雇用された者
  • 定年前までは無期雇用であった労働者

そのため、60歳を超えて新たに雇用された有期契約労働者や、定年前にすでに有期契約で雇われていた労働者については、たとえ会社が特例の認定を受けていても、通算契約期間が5年を超えた時点で無期転換の申込権が発生する点に注意が必要です。

「無期転換ルールへの対応」を4つのケースに分けて示した図解。
定年をずらす場合:60歳の誕生日翌月末に定年とし、65歳の誕生日までと明記した上で、1年契約を更新しながら雇用を継続するパターン。無期転換の申込権は発生しない。
特例措置の適用:定年後に5年以内の有期契約で再雇用することで、無期転換ルールの適用を免除する措置。申込権は発生しない。
特例措置の適用外(定年前に雇用された有期契約労働者):60歳以前に有期契約で雇用され、契約が5年を超えると6年目の契約時に無期転換申込権が発生し、申請があれば無期労働契約へ。
特例措置の適用外(定年後に新たに雇用された有期契約労働者):60歳以降に新規雇用された場合も、5年を超えると無期転換申込権が発生。
※図の出典は厚生労働省「無期転換ルール」より筆者作成。

定年前に必ず話すべきこと ―キャリア面談で防ぐ「すれ違い」―

定年後のライフプランや働き方については定年直前に確認するのではなく、定期的な面談で確認することが必要です。

例えば「ローン返済も残っているし、5年後に定年を迎えるがまだまだ第一線で働きたい」と考えている社員には、定年後にもフルタイムで勤務するためにはどんなスキルや健康状態が求められるのかを説明し、リスキリングの機会や動機づけをする必要があります。

また会社としては定年後も戦力として支えて欲しいと考えていても、社員側は定年退職して第二の人生を悠々自適に過ごしたいと考えている場合もあります。

会社と社員の認識のズレを解消し、トラブルを回避するためにも丁寧なキャリア面談がポイントです。

また、「キャリア支援」や「リスキリング」といった施策について「仕事を奪われる」「会社を辞めろということか」とネガティブに捉えられてしまうこともあります。

そうした反発を招かないよう、「これからも長く活躍してもらうための施策だ」ということが伝わるように説明していく必要があります。

シニアと若手の協働が生む価値 ―世代間の「壁」をどう乗り越えるか?―

シニア人材は豊富な「経験知」があります。一方で若手は新しい情報や技術、柔軟な視点をもっています。世代を超えて協働することで新しい価値が生み出されれば、会社の成長にもつながります。

ただ、現実にはシニア人材が若手を軽んじたり、若手がシニア人材を煙たがったりして世代間での隔壁が生まれることもあるかもしれません。

そうした中で、世代を超えたプロジェクトや、逆メンター制度(リバースメンタリング)を採用して価値観の共有や相互理解促進を目指す会社もでてきています。

※リバースメンタリングとは、若手社員がメンターとして、メンティーである先輩社員に助言を行う教育支援制度のこと。

相互に学び合える関係性の構築設計も再雇用制度の成功を左右するポイントといえるでしょう。

再雇用の「落とし穴」と対策

ここからは、再雇用制度でよくある疑問や誤解について解説します。

希望者は全員再雇用しなくてはいけないのか

法律上は「原則として希望者全員を65歳まで雇用確保する義務」があります。そのため、60歳定年制を採用する会社では、65歳までの再雇用は義務です。

再雇用拒否は原則として違法になりますが、以下2点では例外です。

  • 正社員の解雇事由に相当する理由がある場合
  • 企業側から合理的な労働条件を提示したが、合意に至らなかった場合

ただし、指導や段階的な懲戒処分などがあって初めて正当な解雇理由があると認められるため、実際には高いハードルがあります。

「あの人はちょっと性格が合わない」「そろそろ辞めてもらいたい」など主観的な判断を基に再雇用を拒否したり、不合理な労働条件を提示したりすれば、トラブルや訴訟につながる可能性があります。

再雇用したら給与を下げても良いか

再雇用に伴い、年金が支給されることなどを考慮して、正社員よりも給与を一定程度引き下げることは違法ではありません。

過去の判例では、年収が定年前の79%程度に設計していることも合法と判断されています。(長澤運輸事件 東京高裁平成28年11月2日判決)

だからといって、「一律に下げる」、「説明なしに提示する」などすると、「軽んじられている」と不満につながります。

また、再雇用後の仕事内容や責任の範囲が定年前と変わっていないのにもかかわらず、不合理な待遇差があると判断されれば、同一労働同一賃金の観点から損害賠償請求の対象となることもあります。

大切なのは、給与額の根拠を丁寧に伝え、不合理な待遇差とならないようすることです。

例えば「勤務日数が週5日から週3日に減った」「役職を離任した」などの理由が明確であれば納得されやすくなります。

仕事内容は定年前後で変えても良いか

再雇用にあたって、仕事内容をどの程度変更できるかは重要なポイントです。以下の2つの判例をもとに考えてみましょう。

業務変更が認められなかった例

■トヨタ自動車事件(名古屋高裁 平成28年9月28日判決)
会社は事務職だった社員に対し、定年後の再雇用条件として清掃業務を提示しました。社員は拒否し、再雇用されませんでした。

この件では「定年前の職種と全く性質の異なる職種(清掃業務)を提示したのは、合理性に欠ける」とされ、会社の対応は違法と判断されました。

業務変更が認められた例

■アルパイン事件(東京地裁 令和元年5月21日判決)
定年前から従事していたサウンド設計での再雇用を希望していた社員に、総務人事部での業務を提示しましたが社員がそれを拒否しました。

会社は2年前から再雇用後の人事配置について「本人の意向を踏まえつつ、再雇用希望者の知識、技能、ノウハウ又は組織のニーズに応じた判断になる」と説明しており、1年前には、再雇用時の条件も提示していました。労働条件等の提示に客観的みて合理的な範囲であり、合法とされました。

これら判例から重要なのは、以下の2点と言えます。

  • 提示する労働条件は、合理的な裁量範囲とし、全く別の職種へは配置しないこと
  • 本人へ対し、定年前から事前説明や協議を行うこと

シニア人材活躍の成功事例

中小企業3社の再雇用制度活用事例を紹介します。

リライアンス・セキュリティー株式会社

広島県の警備保障会社「リライアンス・セキュリティー株式会社」(従業員232名)では、2024年に定年を60歳から65歳に延長しました。

また、希望者全員70歳まで、70歳以降も一定条件のもと年齢上限のない継続雇用制度を導入しました。

フルタイム勤務、短時間勤務など個別の事情に対応した柔軟な勤務制度を整えています。月間MVPなどの表彰制度でも多くの高齢社員が表彰されているそうです。

健康づくりにも意識を向け、就業中の健康リスクを徹底的に排除するために、パート社員も含めた全社員に「健康状況申告書」を提出させて、一人ひとりの健康状況の把握にも取り組んでいます。

「高齢者だから支援する」ではなく、「個々の事情に合った働き方を一緒に設計する」という視点が印象的です。

株式会社難波江商店

宮崎県の卸売業「株式会社難波江商店」(従業員53名)では、定年を65歳に引き上げ、70歳まで希望者全員を再雇用しています。

その後も労働条件を確認しながら1年ごとの契約更新を行い、本人の意欲と健康状態に応じて働き続けられる体制をとっています。

定年前と同水準の賃金を維持することでモチベーションの低下を防ぎ、さらに若手と再雇用社員をペアで配置し、技術・技能の継承に取り組んでいます。

他にも作業の進捗状況をグループ管理し、部門間で適時に人員配置するなど、単なる延長雇用ではなく、シニア人材を人材育成と世代交代の“橋渡し役”として位置づけているのが特徴です。

健康管理についても睡眠時無呼吸症候群の検査費用や治療費を補助するなど、働きやすい環境づくりに取り組んでいます。

ジット株式会社

山梨県の製造業「ジット株式会社」(従業員151名)では、希望や体力に応じて仕事内容や勤務形態を選択できるよう制度を整備し、再雇用社員にも賞与制度や評価制度を適用しました。

年齢に関係なく成果を正当に評価して処遇に反映しています。

現場ではロボットやAIの導入を進め、高齢者の作業負担軽減にも取り組んでいます。

こうした制度面と現場支援の両輪によって、本人が「まだ働ける」「働きたい」と思える環境を整えています。

これらの企業に共通しているのは、「年齢」や「定年後」で線を引くのではなく、一人ひとりの意思や能力に向き合い、柔軟な働き方を一緒に考えている点です。

制度を整えるだけでなく、現場での丁寧な運用とコミュニケーションが、結果として“戦力としての再雇用”を可能にしていると言えるでしょう。

まとめ

再雇用制度は、「やらなきゃいけないから仕方なくやる」制度ではありません。

設計と運用次第で、ベテラン人材の力を最大限に活かし、若手の育成、組織の安定、現場の生産性向上につなげることができます。

中小企業だからこそできる“柔軟な制度づくり”が、これからの時代の強みになります。まずは、自社に合ったやり方で一歩踏みだしましょう。

参考一覧