チームを率いる立場になると、チーム全体のパフォーマンスを上げるために、メンバーの役割分担を考えることがあると思います。
適切な役割分担を行うことはマネジメントの基本ですが、基本と言う割には、人によって解釈が異なるテーマであると感じています。
簡単な例え話に置き換えて考えてみます。
例えば今、自分が野球チームの監督であるとします。そこで各ポジションのメンバーに役割を課していくことを想像してみてください。
キャッチャーに役割を課すとして、どういった内容を想像しますか?
様々ありますが、例えば、
・ピッチャーが投げた球を確実に捕る
・セカンドゴロのときは、ファーストのカバリーングに入る
・配球を考え、ピッチャーにサインを出す
といった、キャッチャーのポジション特有の役割もあれば、
・ピッチャーのメンタルケアをする
・チーム全体を鼓舞する
・若手選手を育成する
といった、ポジションに限定されない、広い役割もあります。
このように少し考えただけでも、役割という言葉には、色々なニュアンスがあるのではないでしょうか。
そこで今回は、役割分担について整理し、チームを活性化する役割分担とはどのようなものかを考察していきたいと思います。
1.役割分担と業務分担は違う?
先に挙げた例で、「チーム全体を鼓舞する」ことは、キャッチャーでなくとも、他のポジションのメンバーにもできる役割です。ピッチャーにもできるでしょうし、もっと言えばコーチ、監督、補欠のメンバーにもできる役割です。
つまり、役割には、ポジション(仕事で言えば職責)に固定されやすいものと、そうでないものが存在します。
私はこの2種類を勝手に分類し、前者を「狭義の役割分担」、後者を「広義の役割分担」と呼んでいます。仕事で置き換えるなら、前者は役割分担というよりは、業務分担といったほうが正確かもしれません。
例えば今、自分が何かしらのショップの店長を任されているとします。メンバーに分担し得る業務、役割にはどのようなものがあるでしょうか。
- 狭義の役割:販売管理、在庫管理、労務管理、顧客管理、店舗のメンテナンス等(所謂、業務分担)
- 広義の役割:ムードメーカー、皆の手本となる役、褒め役、叱り役、調整役、新しいアイデアを出す役等
普段のチーム運営では、どちらの分担をイメージされていますか?
2.メンバーの強みを生かす
次に本題である、チームワークについて考えてみます。
狭義・広義の役割のいずれが良い・悪いという単純なものではありません。業務分担が定まっていなければ、誰が何をやるべきかわからずチームは混乱しますから、狭義の分担について考えることは必須になります。
しかし、経験則上、広義の役割について整理しているチームのほうが、明るく、結果を出していることが多かったように感じます。
その理由は、「ムードメーカー」のほうが「販売管理」よりも、職責や経験に関わらず、その部下が持つ強みや人間性に基づいて役を与えることができるからだと考えています。
例えば、新入社員にいきなり「販売管理」をお願いすることは現実的ではありません。経験が少ないため重要な役割を依頼するのは難しいでしょう。しかし、「ムードメーカー」になることはできる。新入社員に「新鮮な空気を持ち込んで欲しい」と願う管理職は多いと思います。
マネジメントの祖とされるドラッカーは言いました。
マネジメントの役割は、人が共同して成果をあげることを可能にし強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることである
「販売管理」のような業務そのものを発揮すべき強みと考えるのか、「ムードメーカー」のような役割を強みと考えるのか。
解釈の違いでしかありませんが、チームメンバー全員がいきいきと働けるような、人間重視のマネジメントを追求するのであれば、一度、幅広く役割分担について考えてみると良いのではないでしょうか。
3.強みを伸ばす
「言うは易し」で、実際に検討してみると、ピースの足りないパズルを作っているような感覚に襲われます。なぜなら、今のチームに「販売管理を任せることができるメンバーがいない」、「ムードメーカーがいない」といったことが、往々にしてあるからです。
そして、販売管理のような業務そのものは必ず誰かがやらなければなりませんから、必然的に分担が決まっていくことが多いですが、人間性に立脚した役割分担は、机上の空論として、日常に埋没していくことになります。
そこであらためて、「強みを伸ばす」というキーワードが大切になってきます。
最初は単に「明るいだけ」のムードメーカーだった新入社員。飲み会を盛り上げるぐらいしかできないかもしれません。
そこで、最初は簡単な業務を任せながら、少しずつメンバーの信頼を勝ち得たところで、例えば、販売管理の一部である、商品のディスプレーを任せてみる。
ムードメーカーだけに、ディスプレーの検討会議が盛り上がって、ちょっとした工夫ができるかもしれません。上手くいけば、次に販売管理でも重要な、プロモーションについても部分的に任せてみる。
そうして少しずつ、業務分担と役割分担の重なりを大きくしていくことができれば、パズルが完成に近づいく。ピースが足りないと言って嘆くのか、人を育成してオリジナルのパズルを作るのか。
良いチームワークを作り上げるためには、強みを伸ばす人材育成が必要ですが、弱みについてはどう考えれば良いのでしょうか。
4.弱みに焦点を当てない
管理職の中には、役割を決めるときに、弱み、欠点に焦点を当ててしまう人がいます。
・苦手な役割だから、克服するためにあえてやらせてみよう。
・あの部下は○○ができないから、重要な役割を任せるには時期尚早。
気持ちはわかるのですが、前者は、メンバー全員に欠点を周知するようなものです。欠点の克服も、ときには必要かもしれませんが、あえて皆にさらす必要はありません。
後者は、非常にありがちです。しかし弱みがない人など存在しませんから、これではいつまで経っても大きな役割を任せることができません。
ドラッカーの言葉を引用するなら、マネジメントは強みに焦点を当てます。
成果をあげるためには、強みを中心に据えて異動を行い、昇進させなければならない。人事においては、人の弱みを最小限に抑えるよりも、強みを最大限に発揮させなければならない。
リンカーン大統領は最高司令官の人選にあたって、グラント将軍の酒好きを参謀から注意されたとき、「銘柄がわかれば、他の将軍たちにも贈りなさい」と言ったという。
ただし、部下の欠点で、「一つだけ見逃してはいけないものがある」とも言っています。
部下の評価と人事は、彼らにできること、すなわち彼らの強みを中心に行う必要がある。
弱みの中で重視すべきことは一つしかない。真摯さの欠如である これだけは見逃してはならない。
真摯さは、それだけでは何も生まれない。だが真摯さの欠如、とくにリーダーにおける真摯さの欠如は、悪しき見本となり諸悪の根源となる。
業務分担は大切です。しかし、どこか、メンバーを「組織の歯車」のように見立てるようなところがあるように感じています。
チームを活性化するときには、メンバーを組織の歯車のように見るのではなく、一人ひとりの人間性に注目して、理想とするパズルを皆で作っていく。そうしたチーム作りのほうが、皆がいきいきと仕事に取り組めるのではないかと思うのです。
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