部下に仕事を任せると、思うように進まないことがあります。仕事の品質面もさることながら、適切な報連相がなかったり、取り組み姿勢がよくないと、多少感情が揺れ動きます。
自分でやってしまったほうが簡単ですが、「部下の成長のため」と自分に言い聞かせて、感情を抑えて、優しく接するようにする。
部下育成には、忍耐が必要。
これは、上司という立場にいる人々にとって、ある程度、共通した感情ではないでしょうか。
私自身、こうした感情に疑いを持たずに過ごしていましたが、ある会社の経営幹部の意見は少し違ったものでした。
ミーティング後の、何気ない雑談の中でのこと。
「部下に仕事を任せるには忍耐が必要ですね。」
と、私はありきたりの雑談をするつもりで話した。
「へぇ、それはどうしてですか?」
と、その経営幹部。
共感してもらえるものと思っていたところに質問が返ってきたため、少し困惑しながらも、よくある理由を並べた。
「それはやっぱり、こちらが期待するような品質に仕上がらなかったり、報連相がなかったり、部下によってはやる気がないように見えたりするからです。そんなところでしょうか。」
「君には余裕があるね。部下の一挙手一投足に目配りしているんだ。」
余裕、という言葉に少しひっかかりを感じた私は続けた。
「部下の仕事ぶりをよく見て、育成していくのが上司の仕事ではないのでしょうか?」
「ああ、ごめんね。変な意味で言ったわけではないんだ。もちろん、部下に仕事を任せ、育成していくのは上司の仕事だよ。ところで、部下の育成を考えて仕事を任せるとき、どんなことを意識していますか?」
「そうですね、部下がちょっと頑張らないとできない仕事、今までやったことがない新しい仕事など、少しストレッチさせることを意識していると思います。」
「そうだよね。だから、任された部下には余裕がなくなってしまったり、上手くできないことがよくある。」
そうそう、だからこちらには『忍耐』が必要、という話につながる。そう心の中でつぶやいた。
私が口を開く前に、経営幹部はこう続ける。
「つまり、まとめると、成長する過程では、上司から仕事を奪い、少しストレッチしていく。だから余裕を持てないことが出てくる、ということになる。」
「そうですね。」
「ところで、君自身は上司からどんな仕事を任されているのかな。君にも上司がいるだろう。難しい仕事を任されたり、新しい仕事にどんどんチャレンジしているだろうか。」
「……。」
「もし、部下と同じように、君自身が上司からの仕事に必死に取り組んでいれば、同じような精神状態にいるはずだ。だから、頑張っている部下に対して『忍耐』という言葉を使うことに少し違和感を持ったんだ。」
「しっくりくる言葉は、『忍耐』とかではなく、『共感』とか、『自己投影』とか、そういう言葉じゃないかな。まー、確かに『忍耐』を要する部下がいるのも事実だけどね。」
私はしばらく考え込んでしまった。
もし、部下の仕事ぶりにイライラする機会が多い人は、「部下の仕事を管理、監督しているだけの上司になってしまっていないか」、ときには振り返りが必要かもしれません。
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