経営ビジョンを語るときの注意点

経営者や管理職の仕事の1つに、「社員に経営ビジョンを語る」がある。有能な人々は、強制や管理で動かすことはできないからだ。

「ビジョンに共感してもらい、自発的に動いてもらう」ことが、有能な人々を動かすカギだという。

それ故、経営者向けセミナーや管理職の研修では「ビジョンを語り、方向性を示せ、そうすれば社員はついてくる」ということが教えられている。

だが、本当にそうだろうか。

例えば新卒の採用説明会で「会社のビジョン」を精一杯語る経営者をよく見受けるが、現場の学生やリクルートなどの担当者から声を聞くと、

「自分に酔っているようだ」
「言っていることがよくわからなかった」

などと、評判が良くない会社も多い。なぜこのようなことが起きているのだろうか。

実は、「ビジョン語り」は、数々の偉人達も行ってきた。それらを紐解くとその成功と失敗を分かつのは、ビジョンの語り方にあるのではないか。

ビジョンがどれくらい聞き手に刺さるか、は内容もさることながら「伝え方」や「言い方」に大きく依存する。

そこで今回は「ビジョンの語り方」について注意点を考察する。

よくある失敗例

我が社のビジョンは、ここに示した2020年リバイバルプランである。現在3つの事業が我が社にはあるが、この3つの事業において、いずれも柱となる方針は次の3つである。

  • 営業データの統合による新規開拓の強化
  • 利益率の向上
  • 新規事業におけるイノベーションの実現

上のようなビジョンの言い方は多い。だがこれは残念ながら「失敗例」である。社員たちは「またスローガンか…」と思うだけだ。

一体これのどこがマズイのだろうか。

結論から言うと、次の3点において、人の共感を呼ぶビジョンではない。

  • 自分(会社)の夢を語っている
  • 自分の(会社)価値観を語っている
  • 自分(会社)の言いたいことを言っている

これらは全て、変える必要がある。

普通の人は「経営者、会社の夢など、特に聞きたくはない」と考えるからだ。

人が究極的に気にするのは「自分の話」だけである。

 

ビジョンを語ることはマーケティングである

史上最も有名な演説の1つである、マーティン・ルーサー・キングのスピーチは、最も優れた「ビジョン語り」の1つであることは多くの方の同意するところだろう。

1963年8月28日、職と自由を求めた「ワシントン大行進」の一環として25万人近い人々がワシントンDCに集結した。

デモ参加者たちは、ワシン トン記念塔からリンカーン記念堂まで行進した。

そこですべての社会階層の人々が、公民権と、皮膚の色や出身などに関係なくあらゆる市民を対象とした平等な 保護を求めた。

この日最後の演説者となったのがマーティン・ルーサー・キング・ジュニア博士だった。

キングの行った「私には夢がある」(I Have a Dream)の演説は、独立宣言にも盛り込まれている「すべての人間は平等に作られている」という理念を網羅するものだった。

あらゆる民族、あらゆる出身 のすべての人々に自由と民主主義を求めるキングのメッセージは、米国公民権運動の中で記念碑的な言葉として記憶されることとなった。
(参考:アメリカ大使館

全文はリンク先を参照していただきたいが、このスピーチは以下のように進む。

  • 現状分析
  • 共感
  • 聞き手の望みを代弁
  • 私のビジョン
  • あなた方のビジョンも一緒である。
  • 一緒にやろう

つまり、この「ビジョン語り」は秀逸なマーケティングとなっている。
その理由は以下のとおりである。

  1. 相手の夢を知り、相手の夢にどう貢献できるかを語る
  2. 相手の価値観を知り、相手の価値観とどのように調和するかを語る
  3. 相手の聞きたいことを知り、相手の聞きたいことを語る
  4. 一緒にやろうと語りかける

これを見れば「失敗例」がいかにマーケティングに失敗しているかがわかるだろう。

社員の夢とも無関係、社員の価値観とも無関係、社員が聞きたいことも言っておらず、一緒にやろう、というメッセージも皆無である。

失敗例のビジョンは、極端な話「オレがこう考えているから、社員は従うように」というメッセージでしか無い。

それは、ビジョンとはいえない。

例えば、冒頭は以下のようにすべきであった。

「私たちはあなた方の夢を知っている。◯◯ではないですか?」

「そして、どうそれを実現したいかも知っている。◯◯ではないですか?」

「だから、このリバイバルプランを用意しました。みてください。」

 

まとめ

ビジョンとは、「経営者の夢」ではない。「皆が共感し、やりたくなる夢」でなくてはビジョンとはいえない。

そのような意味では、「ビジョンを作る」と言うのは、繰り返し述べたように「社員へのマーケティング活動」なのである。注意をされたい。