キング牧師に学ぶ経営理念の作り方

こんにちは。株式会社PISのブログからお届けしています。

仕事柄、経営理念の浸透というキーワードに良く出会います。経営理念は抽象的概念で浸透することが難しいため、浸透とセットで語られることが多いのだと思います。理念の内容よりも浸透が大事であるという論調まであります。

しかし、中身のない理念を浸透させても意味はないので、中身も重要です。

そこで今回は、キング牧師が1963年にワシントンDCで行ったスピーチから経営理念の作り方を紐解いてみたいと思います。「I have a dream.(私には夢がある)」のフレーズで有名なキング牧師のスピーチは、ビジョンの傑作と言われています。

キング牧師=マーティン・ルーサー・キング・ジュニア
アメリカ合衆国の牧師。1929~1968年。公民権運動の指導者として活動した。1963年に実施されたワシントンDCでの大規模集会で「I Have a Dream」で始まるスピーチを行った。翌年の1964年にノーベル平和賞を受賞。アメリカの人種差別の歴史を語る上で重要な人物。

 

1.経営理念とは

経営理念を分解すると、3つの要素にわけることができます。

項目定義平たく言うと…
ミッション社会における組織の使命、存在意義。何がしたいのか、何をすべきか。Want、Must。
ビジョン目指す姿、ミッションを実現したときの状態。どうなりたいのか。Be。
バリュー&スタイルミッション、ビジョンの実現に向けて大切にしたい価値観、行動規範。どうやりたいのか。Which、How。

定義だけではピンときませんので、キング牧師の例に当てはめて考えていきます。
 

2.ミッション Mission

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キング牧師が掲げたミッションは、人種差別の撤廃、平等な社会の実現です。崇高なミッションですが、崇高なだけに言葉に広がりがあり、抽象的とも言えます。スピーチの中では、ミッションを共有するために工夫をしています。

 

(1)必要性を説明している

ところが100年経っても (one hundred years later) 黒人はまだ自由になっていない。

100年経っても (one hundred years later) 悲しいことに、黒人の暮らしは差別の鎖でがんじがらめにされ手足の自由をもがれたままです。

100年経っても (one hundred years later) 黒人はモノが無尽蔵に広がる豊饒の海にポッカリ浮かぶ貧困という名の孤島の住人。

100年経っても(one hundred years later) 黒人はアメリカ社会の片隅に追いやられ、ふと気付けば自分の土地にいながらにして異郷の流刑人な自分がいる。

だから我々は今日ここに集まった。この恥ずべき状況をドラマに置き換えるために。

人種差別の撤廃という言葉を噛み砕いて、なぜ今日ここに集まったのか、その必要性を説明しています。

そして、必要性を強調するために、100年経っても (one hundred years later) という表現を何度も使っています。平等な社会の実現は100年経っても実現されていない、今やらなくてどうするんだ!という強い気迫が感じ取れます。

 

(2)比喩を使って説明している

ある意味、我々がここにこうして集まったのは首都で手形を換金するためなのです。本共和国の土台を築いた先人は憲法発布と独立宣言の格調高い文を起草した折、米国民一人一人が相続すべきある約束手形に署名しました。

それは全ての人、そうです、黒人も白人も含めありとあらゆる人に「生命、自由、幸福の追求」という「奪うべからざる権利」を保証する手形でした。

しかし有色人種に限ってみれば今日明らかなようにアメリカは約束を反故にした。この神聖な義務を履行する代わりにアメリカがしてきたことは、黒人に不渡り手形を切ることでした。小切手は「残高不足」の印をつけて戻ってきた。

ミッションは往々にして、短いフレーズでまとめられます。一種のスローガンのような短いフレーズでまとめるのは、理解を簡単にするためですが、短すぎてミッションがイメージできないことがあります。

具体的にイメージをしてもらうために、キング牧師は様々な言葉でミッションを説明しています。上の文章では、人種差別という表現は使わず、手形に例えることで理解を促しています。

 

(3)感情に働きかけている

本日こうして皆さんとこの場に居合わせたことをとても幸せに思います。これからここで始まることは我々の建国史上、最も偉大な自由のデモンストレーションとして歴史に刻まれることでしょう。

今から100年前、ある偉大なアメリカ人、今の我々にも多大な影響を及ぼした人物(リンカーン)が奴隷解放宣言に調印しました。それは不当な処遇に晒され感情らしい感情を焼き尽くされてしまった何百万人という黒人奴隷に明るい希望の松明を掲げる重大な決定でした。捕われの身で過ごした長い夜の果てに見た一条の光、歓喜に満ちた夜明けの光だったのです。

スピーチの冒頭で、「私は幸せである」という自分自身の感情を表現し、「我々の建国史上」という連帯感を訴求する表現をしています。大上段から構えるのではなく、同じ立場で感情を共有している。

そして、南北戦争で一旦は終結したはずの人種差別の歴史を遡り、血塗られた戦争で勝ち取ったはずの自由が、未だ損なわれているがそれで本当に良いのか、と感情に働きかけています。
 

(4)緊急性を訴えている

民主主義を実現するのは今をおいて他にない(Now is the Time)。
今こそ(Now is the Time)暗い人種差別の荒んだ谷から立ち上がって平等という日の当たる道に進もう。
今こそ(Now is the Time)我が国を差別というぬかるみの泥沼から友愛という揺るぎない岩に引き上げよう。
今こそ(Now is the Time)神の子すべてに正義を実現する時なのです。

ミッションはいつか実現するものではなく、今すぐに取り掛かるべきものです。過去も、今も、そしてこれからも永続的に果たすべきものです。いつか実現したらいいね、という夢ではなく、今やるべきことです。

今こそ(Now is the Time)という表現を何度も使い、緊急性を訴えています。
 

(5)社会の要請を受けている

ミッションを作る上で一番大切な点は、そのミッションが自分たちのためだけではなく、社会にとって必要なものであるという点だと思います。このスピーチを行った集会には、25万人もの参加者が集まりました。ミッションの実現が如何に必要とされていたのかよくわかります。

私自身も崇高なミッションを掲げているかというと自信がないため、人のことは言えませんが、独りよがりのミッションでは周囲の人はついてきてくれないのでしょう。自社が実現したいことが社会にとってどういう意味があるのか、良く考えないといけないのだと思います。もしくは、社会的要請がある事柄を、自社のミッションにするということでしょうか。

 

3.ビジョン Vision

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(1)具体的なイメージを説明している

私には夢がある。(I have a dream)いつか、ジョージアの赤土の丘に元奴隷の息子たちと元奴隷所有者の息子たちが一緒に座り、友愛のテーブルを囲む日が来るという夢が。

「I have a dream.(私には夢がある)」キング牧師のスピーチで、一番有名なフレーズです。オバマ大統領のYes,we can!との違いは、dream、つまりビジョンを鮮明にイメージできる点にあると思います。Yes,we can!も強烈なフレーズでしたが、何ができる!と言っているのかを知っている方は少ないのではないでしょうか。

ビジョンメイキングの肝はここにあります。ミッションが達成した状態をイメージさせること。(誤字ではありません。ビジョンはミッションが達成したある時点での状態のことです。)

ビジョンはWill(意思)、Goal(目標)などで説明されることもありますが、それだけではイメージが湧きにくいです。Be(状態)でなければいけません。頭の中で、そのビジョンが「画像」でイメージできるかどうかが勝負になります。

 

(2)様々な場面をイメージさせている

私には夢がある。(I have a dream)いつか、あの差別の熱にうだるミシシッピー州さえもが自由と正義のオアシスに変わる日が来るという夢が。

私には夢がある。(I have a dream)いつか、私の子どもたち4人が肌の色でなく中身で判断される、そんな国に住む日が必ずくる。

私には夢がある。(I have a dream)差別主義者がはびこるアラバマ、知事は口を開けば州権優位、実施拒否で忙しい、そんなアラバマにもいつかきっと、幼い黒人の少年少女が幼い白人の少年少女と手と手を取り合って兄弟のように仲睦まじく暮らしていける日が来るという夢が。

ミッションが実現したときに起こる状態は、一つではないはずです。スピーチでは、どんな状態を実現したいのか、様々な場面をイメージするよう働きかけています。

差別主義がはびこるアラバマであっても、灼熱のミシシッピーでも、どこであってもミッションを実現したいんだ、という強い気持ちが伝わってきます。

 

(3)ミッションと連動している

スピーチからわかることは、ミッションとビジョンが完全に連動しているということです。

ミッションがお客様満足の最大化で、ビジョンが業界No.1、という経営理念とは一味違いますよね。

業界No.1になった結果、何が実現できるのか。それがビジョンだと思います。売上100億円を達成した結果、何が実現できるのか。数字の向こう側を語り、イメージしてもらう。それがビジョンです。

経営理念は各社の想いですから、周りがとやかく言うことではありませんが、ミッションとビジョンが連動していないと、イメージが湧かないのではないでしょうか。

 

4.バリュー&スタイル Value&Style

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「ミッションやビジョンを実現するためには、悪いこと、例えば、横領をしても良いでしょうか?」と聞かれれば、ほとんどの人がNoと言うと思います。

バリュー&スタイルは、実現するときの価値観や行動様式を定義するものです。平たく言えば、手段を選ぶということです。

 

(1)非暴力を訴えている

ここでひとつだけ、正義の殿堂の暖かな入り口に立つ同志には断っておかなければならないことがあります。

正しい居場所を確保するまでは、まかり間違っても過ちを犯さないこと。嫌味や嫌悪の杯で自由の渇きを癒すことだけはやめようじゃないですか。闘争は尊厳と規律をもって進めていかなくては駄目です。抗議行動は創意工夫をもって行い、暴徒にだけはなり下がらない。

繰り返します。物理的な力に魂の力で立ち向かう、その高みを我々は目指していかなくてはならないのです。

キング牧師は、ハンガーストライキで有名なガンジーの影響を受けていたようです。差別をなくすために、暴力で訴えるのは違う。創意工夫を行い、暴徒にならないよう働きかけています。

 

(2)一貫性を保っている

黒人社会は今また新たな厳戒体勢に包囲されています。これはとても信じがたいことです。

でもだからと言って白人すべてを不信の目で見るのはやめにしようじゃないですか。白人の同胞が今日ここにたくさん集まっておられることでも分かるように、彼らの中にも白人が我々と命運を共にする運命にあると見透した人は大勢いるのです。彼らは我々の自由なしに自分たちの自由は有り得ない、それが分かる人たちです。

差別社会をなくすために頑張っているのに、自分たちが白人を差別してどうする?!と訴えかけています。目的であるミッション、ビジョンと、手段であるバリュー&スタイルに一貫性があります。

昨今、コンプライアンスの重要性が叫ばれていますが、根本的には、バリュー&スタイルの追究が弱いと、目的と手段が逆転してしまい、ルールの逸脱が起こるのではないでしょうか。

 

(3)強い信念を見せている

公民権運動に駆けずり回る人を捉まえて、こう尋ねてくる人がいます。「君らはいつになったら満足するんだね?」。私ならこう答えるでしょう。

黒人が警察に残虐非道な扱いを受け、口にするのも憚られる恐怖の犠牲となっている間は満足できない、と。

旅先でヘトヘトになった体を休めたくともハイウェイ沿いのモーテルにも市街のホテルにも泊まる場所ひとつ見つからない、この状況が改善されない限りは決して満足できない。

黒人の引越しと言えば小さなゲットーから大きなゲットーに移るだけ、子どもたちは「白人専用」の看板で尊厳を傷つけられている、こんなことが続く間は決して満足できない。

ミシシッピ州の黒人には投票権がない、ニューヨーク州の黒人は投票すべきものが何一つないと思い込んでいる、こんな状態では決して満足できない、と。まだまだ、まだ満足なんて状況には程遠いんです。 「正義を洪水のように恵みの業を大河のように尽きることなく流れさせよ」。その日が来るまで我々は決して満足することなどないでしょう。

ミッションの実現には困難が伴います。崇高なものであれば、あるほど。その困難に負けないよう、強い信念を持つよう働きかけています。この件(くだり)は、ビジョンの補足説明にもなっていると思います。

 

5.スピーチの仕方

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ここまでは、キング牧師のスピーチを、経営理念の参考事例として扱ってきました。スピーチの好事例として扱ってしまうと、ミッション、ビジョンの本質が上手く伝わらないと考えたからです。

常に、Why、WhatがHowtoより大切です。何故(Why)、何(What)から始める。それが経営理念の作り方です。とは言え、どう説明するかというHowtoもあったほうが良いので簡単に補足します。

 

(1)キーフレーズを何度も使う

「I have a dream(私には夢がある)」、「今こそ(Now is the Time)」、「100年経っても (one hundred years later)」など、キーとなるフレーズを何度も繰り返すことで、印象に残りやすくしています。

スピーチ全文では、これら以外にも「go back to(帰ろう)」、「Let freedom ring from(自由の鐘を鳴り響かせよう)」などのキーフレーズが連呼されています。

Yes,we can!のフレーズで記憶に新しいオバマ大統領のスピーチを聞いたときは、アメリカ国民でもないのに、気持ちが高ぶったことを記憶しています。がしかし、あれから数年。あのスピーチは何だっだんだろうというネガティブな気持ちが拭えません。

あくまで、主張を際立たせるテクニックの一つということです。

 

(2)比喩を使う

ミッションを約束手形で例えたり、聖書からの引用を多用しています。アメリカ人独特の比喩、引用であるため、日本人が読んでもあまり効果性を感じないかもしれませんが、比喩、引用によって、聞き手が直感的に理解できるように工夫しています。

 

(3)IやWeを使う

アメリカ大統領のスピーチは、I(私)や、We(私たち)で始まるものが多いです。You(あなた)を使うと、連帯感を持ちにくく、We(私たち)を使うと連帯感を感じやすいからです。

I(私)で始めると、スピーカーの感情を伝えやすい。You(あなた)を使うと客観的な感じがしてしまう。

古い記憶を遡ると、学校の卒業式における校長先生のスピーチは、聞いていても気持ちが伝わってこないことが多かった。それはYou(あなた)で語る先生が多かったからではないかと思います。

大統領スピーチ Yes,we can! (私たちならできる!)
校長先生スピーチ 皆さんは学校を卒業されても、ここで学んだことを忘れずに…

 

6.まとめ

キング牧師のスピーチから色々なことを学ぶことができますが、一番のポイントは、ヴィジョンがとてもイメージしやすいところであると思います。数字やロジックの羅列ではない、イメージによる共有。Will(意思)やGoal(目標)だけではないBe(状態)の明示。

経営理念はなかなか難しいテーマですが、じっくりと向き合いたいものです。
 

全文訳:アメリカ大使館サイト 
 

この記事を書いた人
中川 渉
株式会社PIS(ピース) 代表取締役。石川県金沢市生まれ。大阪大学工学部を卒業。㈱日本エルシーエーに入社し、住宅不動産のコンサルタント、研修事業の事業部長、執行役員を務める。㈱SPRIXに転職し、ヒューマンリソース部長、コンテンツ開発部長、新規事業室長を務める。2013年に株式会社PISを設立し、管理職研修を中心に年間150~200回の研修講師を担当する。

 

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