「人間はどこにいても学ぶことができる」は真実ですが、周知の通り「成長の早い場所」と「成長の遅い場所」があるのも事実です。
社会人は学校と異なり、定められたカリキュラムを行うわけではありません。したがって、「どこで働くか」、もっと言えば「誰と働くか」は、成長のスピードと大きな関連があります。
例えば、一介の中小企業に入社したとしても、良い人のもとで働けば大きく成長できますし、一流企業に入ったとしても共に働く人々、とくに上司の力量が低ければ、成長のスピードはどうしても押さえられてしまいます。
実際「どういう人と働くと良いのか」は、社会人にとって「どの会社に在籍しているか」よりも遥かに重要な問題です。
では、どういう人と働くと成長のスピードが早いのでしょうか。これにはある程度共通の解があります。
そこで「部下を成長させる上司と、部下をダメにする上司の本質的な違い」について、書いてみたいと思います。
■人を成長させる上司とは
上司はあなたの成長を大きく左右します。あなたの仕事の裁量と人事権を持つ上司は、同僚よりも遥かに影響が大きいと言えます。
そして、あなたを成長させる上司は、次の要素を持っています。
1.結果にこだわる
これには2つの側面があります。
1つは「目標を持たされているか?」です。人は目標を設定したほうが、パフォーマンスが高くなることは経験的にも、学術調査でも明らかです。(Work Rules! 東洋経済新報社)
ところが、上司によってはあなたの目標設定をしないまま、漫然と仕事をするケースがあります。そして、それに甘んじてしまう自分……これでは大きな成長は望めません。
「どんな目標が望ましいか?」とあなたに聞き、「その目標に意味はあるか」「その目標を達成することで何が得られるか」を語る上司が、あなたを成長させる上司です。
もう1つは「設定された目標に対して、厳しく達成を促すか」です。
例えば上司が「目標は目安だから」と言っている人だったとしたら、どう思いますか?
おそらく、目標を真剣に考える人は少なくなるでしょう。「まあ、目安だし、達成しても達成できなくても良いかな」と皆言うに違いありません。
スポーツと同じように成長のためにはある程度の無理、ストレッチが必要です。
上司が「目標を達成することが何よりも重要だ。意地でも達成する」と言う人でなければ、大きな成長は望めません。「厳しい人のほうが人を育てる」は、真実です。
2.答えをすぐに言わない
能力を高めるためには、負荷が必要です。そして特に「頭脳への負荷」、すなわち考えることは、論理的思考、アイデア創造などの全ての能力を高めます。
ですから、良い上司は「部下に考えさせる」上司です。
具体的には「答えをすぐに言う上司」は部下に考えさせることが下手くそです。良い上司は部下に答えを言わず、ヒントを与えて部下が自分で考えるチカラを養います。
例えば、
と部下が聞いてきたとします。
そこで上司が、
「この構成でやっておいて。」
というような人だったら、あまりよい状態とはいえません。
良い上司とのやりとりは、
「お願いします。」
「提案書はなんのために書く?」
「仕事を取るためです。」
「それは結果だな。仕事を取るためになぜ提案書が必要なのか?」
「……お客様にウチのやることを伝えるためでしょうか?」
「そうそう、何を伝えなければいけない?」
「まずはウチのサービスの良さ、価格、それからスケジュールですかね。」
「なかなかいいね、でも一つ大事なことが抜けてるね……。」
「何ですか?」
「何だと思う?」
「うーん……。」
「ヒントは、『お客さんが最初に知りたいのは何か』ってことだよ。」
「サービスでも価格でも、スケジュールでもないんでしょうか?」
「そうだね。オレが客だったら絶対に最初に確認することは別にあるね。」
「……なんだろう……。」
といった問答をできる上司の下についたら、ラッキーだったと喜ぶべきです。
3.過程を重視する
1.で結果にこだわる上司が良い上司、と言いましたが、だからといって「結果が全て」という上司は良くありません。
目標達成までの過程は一本道ではなく、やり方が色いろある上、試行錯誤が人を成長させるからです。
結果にこだわりつつ、過程で部下が何を学んだのかを見極め、時に会えて回り道をさせることも、人を育てる上司の条件です。
例えば、こんな会話です。
「……はい。申し訳ありません」
「ダメだろ、何やってんだよ。お前が努力しないから達成できてないんじゃないか?活動量を増やせって、あれほど言っただろう。」
「……」
「いいか、仕事ってのは御託をどれくらい並べても、結果が全てなんだよ。結果が出なけりゃクズだろ。全部無駄だろ。」
結果にこだわることは必要ですが、これでは進歩がありません。
「……はい。申し訳ありません。」
「すこし振り返りをしようか。」
「はい。」
「集客でやったことを教えてくれ。」
「DM、既存顧客まわりと、あとはセミナー集客をしてくれるwebサイトがありまして、それを使いました。」
「原因をどう考えている?」
「……それがあまり良くわかっていなくて……。」
「集客目標の内訳を教えてくれないか?」
「はい、DMから◯人、既存顧客から◯人、あとはwebから◯人です。」
「どれが達成できて、どれが達成できなかった?」
「圧倒的にDMです。当初の見込みよりも4割程度、参加者が少なかったです。」
「そうかじゃあ、……」
このように結果を責めるだけでなく、プロセスを明らかにして改善を促す発言ができる上司は、人を育てる上司です。
4.得意なことをやらせる
得意なことを重視し、不得意なことについてはあまり問題にしないのが、あなたを成長させる上司です。
なぜなら、人の大きな成長は、本来的に不得意を克服することで得られるのではなく、得意領域がますます得意になることで得られるからです。
書類作成の遅い技術者に、書類作成のスピードをあげるように要請しても、あまり大きな成長は望めません。
そうではなく「テストが早い」「交渉が得意」など、本人の特性を見極めて「誰よりもうまくできるようにする」指導をするのが、人を成長させる上司です。
5.あなたから学ぼうとする
良い上司は自分が完璧ではないことを知っており、また学ぶ事の本質を知る人物です。
上司が学ぶ姿を見て、あなたも「学ぶとはこういうことか」を知るのです。
そしてその姿を一番わかりやすく教えてくれるのが、「上司はあなたから学ぼうとしているか」です。部下から学ばない上司は、学びの本質を知っているとはいえません。
「待ってくださいリーダー。」
「セミナー開催は、今回の作戦としてはあまりスジが良くないと感じます。」
「なんで?」
「……今回のターゲットは、比較的忙しそうなお客様が多いかと思っています。皆、あまりセミナーに来たいと思わないかと。」
「うるさいな、前回うまくいったからこれでいいんだよ。つべこべ言わずに言われたことをやれよ。」
「……はい……。」
例えばあなたと意見が違っている時、意見を押さえつけようとするか、それともあなたがなぜそのような見方をしているのかを尋ねるか、どちらが学びの姿勢として優れているかは明らかです。
「待ってくださいリーダー。」
「セミナー開催は、今回の作戦としてはあまりスジが良くないと感じます。」
「なんで?」
「……今回のターゲットは、比較的忙しそうなお客様が多いかと思っています。皆、あまりセミナーに来たいと思わないかと。」
「前回はうまく言ったじゃないか。ターゲットが多少違っていても、セミナー以外の有効な手段があるかな?」
「……そうですね……。」
「ちょっと考えてみようか。ターゲットが違っている、をもう少し詳しく教えてくれないか?」
「はい、さっき資料を見たのですが……」
あなたに尋ねることで、上司は「あなたの意見を聞くことができる」と「あなたが上司に教えることによってあなたの学びになる」の両者を得ることができます。
■まとめ
人を成長させる上司は、前述したように優しい上司ではありません。
「成果に厳しく、自分で考えることを求め、学びの本質を知る」上司です。
あなたの側にもそれ相応の覚悟が求められますが、それを補って余りあるほどのメリットがあるでしょう。
転職や移動などで環境が変わったり、上司が変わった時はぜひ、こんな上司や先輩を探してみてください。