成長企業から学ぶポジショニングマップの作り方

こんにちは。PISのブログからお届けしています。

営業研修を行うと必ず出るテーマの一つが差別化に関するものです。どのマーケットでも競合が乱立しているためコンペになることが多く、競合他社との違いを明確にすることが求められています。

人材育成に関する研修・コンサルティングを生業とする当社ですが、お客様との面談時に「どんな研修が得意ですか?」「特に力を入れているテーマは何ですか?」といったご質問を良く頂きます。

比較的幅広いテーマに対応させて頂いているのですが、「何でもできます!」だと「どのテーマも専門ではない」という印象を持たれますし、「これが専門です!」と言うと範囲が限定されるため、お客様のニーズに合致しないリスクがあります。なかなか難しいところです。

そこでお客様のニーズに応えながらも、競争優位性を獲得するための「ポジショニング」について考えていきたいと思います。理屈だけではピンと来ないので、成長企業の事例を交えつつ話を進めていきます。

1.ポジショニングとは

(1)ポジショニング

ポジショニングとは、マーケットで独自のポジションを築き、ターゲットとなるお客様に、ユニークな差別化イメージを持ってもらうための活動のことです。ユニーク・セリング・ポジショニング(USP)と呼ばれることもあります。簡単に言ってしまえば、

「ここのサービスって、他と比較して何か良いよね。」
「ここの商品を使うと、他の商品が物足りなくなるよね。」

など、お客様に、他社より良いイメージを持って頂く活動のことです。

 

(2)ポジショニングマップ

マーケットにおいて、競合も含めた商品・サービスのポジショニングを2軸のマトリックスで可視化したものを、ポジショニングマップと呼びます。ポジショニングの基本をわかりやすく学習するために、今回はマップを用います。

例を図示しますので、①②③の補足説明を合わせて確認してください。

ポジショニングマップの例

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①購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)が大切

ポジショニングマップの作成において重要なのは、お客様が商品・サービスを選択するときの決定要因を元にすることです。購買決定要因は複数存在するかもしれませんが、中でも重要な2つの要因をX軸とY軸にして、各社のカバー領域を円で示します。

②空いているポジションを狙う

マップの中で、自社の商品・サービスが競合の商品・サービスと重複していると、差別化が難しいということになります。逆に、空いているポジションに移動すれば差別化するチャンスがあるということです。

③お客様からどう見えるかが大切

空いているポジションに移動したつもりでも、そのポジションにニーズがなかったり、お客様に理解されなければ意味がありません。ポジショニングが自己満足にならないように、お客様からどう見えているかを常に意識する必要があります。

さて、細かい理屈はこの辺にして、早速事例を見ていきましょう。

 

2.「俺のイタリアン」の巧妙なポジショニング

俺のシリーズにはもう行ってみましたか?俺のシリーズは、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」「俺の揚子江」など、イタリアン、フレンチ、中華の「高級食材」をリーズナブルな値段で楽しむことができる飲食チェーンで、ここ数年すごい勢いで出店数を伸ばしています。

飲食店ビジネスは、売上高に対してレイバーコスト(人件費)、フードコスト(食材コスト)が占める割合が大きいため、高級食材を提供しようとすると、どうしても料理全体の価格設定が高くなります。全体の価格が高くなると、客足が遠のきます。よって、高級食材を扱う飲食店はチェーン店化が難しい業態の1つです。イタリアン、フレンチなどはずっとこの問題に悩まされてきたと言えます。

 

これまでの高級店のポジショニング

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そこで、登場したのが「俺のシリーズ」です。

食材コストを下げずに、美味しいものをリーズナブルな価格で沢山食べてもらおう。
ただし、回転率をあげよう。ラーメン屋さんなみの回転率にするために、椅子をとって立食形式にしてしまおう。

今までありそうでなかった試みで、回転率が3回ぐらいにならないと利益が出ないのですが、これが見事に当たりました。聞いてみれば「何だそんなものか」という印象かもしれませんが、ポイントが2つあります。

 

「俺のシリーズ」のポジショニング

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(1)今まで1軸だったKBS(購買決定要因)を2軸に分けた

今までは高級食材=高級店だったのではないでしょうか。フォアグラやキャビアがバンバン出てくる安いお店を何件知っていますか?私たちが暗にセットで考えている軸を、2軸、つまり食材コストと、料理の総コストに分けて考えたところがポイントです。

 

(2)食材コスト以外は、お金をかけていないことをアピールした

2軸に分けたといっても、それは提供サイドの思惑であり、お客様に理解して頂くのは容易ではありません。安かろう、悪かろうという先入観を払しょくするのは、簡単なことではないのです。

そこで大胆な策に打って出ました。椅子をとった。確かに立食形式にすることで回転率を上げる狙いがあったと思いますが、椅子をとったことで、食材コスト以外の部分はコストをかけていないというイメージを確立する狙いもあったと考えます。

机も狭いです。料理を持ってくるスピードも速く、まだお皿に料理が残っていても次の料理が出てきます。他のイタリアンやフレンチのお店がサービスや雰囲気づくりにもお金をかけているのに対して、俺のシリーズでは最低限のサービスに留めています。

つまり私たちが暗に、高級店=良い雰囲気=良いサービスと期待しているところを、分けて考え、美味しい食材に一点集中するという大胆な戦略です。捨てる勇気が一番必要であったと思います。

 

3.コンペ無敗の「ワークスアプリケーションズ」

次はERPパッケージの雄、ワークスアプリケーションズです。IT業界では知る人ぞ知る成長企業です。

ERPとは、企業向けの大規模なITシステムのことです。

ERPとは、Enterprise Resource Planningの略称で、企業にあるヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を有効に活用し、企業の経営をより効率的に行うためのソフトウェアやITサービスのことである。
ITトレンドのIT用語集より

通常、ERPのような大掛かりなITシステムの開発には何億、何十億という開発費がかかります。企業ごとに業態やニーズが異なるため、企業のオーダーに合わせてフル・カスタマイズしてきました。開発だけではなく、その前段階である設計や、開発後の運用、メンテナンスにも莫大なお金がかかる代物だったのです。

ERPのマーケットでは、さらなるカスタマイズ、さらなる高額化がどんどん進んでいました。

 

ERP業者のポジショニング

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そこで登場したのがワークスアプリケーションズです。

 

あえてトレンドの逆を狙ったポジショニング

カスタマイズはやめてしまって、パッケージ商品オンリーで攻めよう。ただし、商品をASP化しておきアップグレードした場合は過去のお客様も新しいバージョンを使えるようにしていこう。パッケージかもしれないけど、どんどんアップグレードしていけば、お客様のニーズに大体応えることができるのではないか。

ASPはアプリケーションソフトの機能をネットワーク経由で顧客にサービスとして提供することであり、それを行っている事業者である。
Wikipediaより

パッケージング自体は新しい考え方ではありませんが、空いているポジションを狙うことで差別化が可能であることを証明した事例と言えます。

 

ワークスアプリケーションズのポジショニング

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このポジショニングには別の効果があり、パッケージ商品なだけに、商品説明はシンプルで新人の営業担当者でも売ることができました。ワークスアプリケーションズは上場していますが、上場するまで一度もコンペに負けなかったという逸話を持っています。

 

4.カップルで行ける焼肉屋「牛角」

皆さんはデートで焼肉屋さんに行ったことがありますか?

一昔前までは焼肉屋は、家族か友達同士もしくは会社の仲間と一緒に行くお店でした。においがつくということで、初めてのデートで焼肉屋さんに誘うのはタブーという暗黙の了解がありました。

そこで登場したのが、焼肉の牛角です。

 

コストパフォーマンス × お洒落でポジショニング

これまでの購買決定要因であったコストパフォーマンスに加えて、お洒落という新しい軸を追加した焼肉屋さんです。

これまで焼肉屋さんといえば、ファミリーレストランのようなどちらかと言うと殺風景なお店が多かったですが、少し店内を暗くして、カクテルを置いたりするなどおしゃれな空間にすることで、カップルで行ける焼肉屋さんという新しいポジションを作り出しました。

 

従来の焼肉屋のポジショニング

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牛角のポジショニング

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東京の三軒茶屋で始まった小さな焼肉屋さんでしたが、その後焼肉の牛角を含めたいくつかの業態で全国1,500店舗のお店を出すチェーンにまで成長します。

 

5.怪しさ漂うコンサルティング業界

(1)得体の知れなさがポジショニングのポイントだった

今では1つの業態として市民権を獲得したコンサルティング業界ですが、一昔前まではとても怪しい業態と思われていました。

今ではコンサルティング会社を使う事は普通のことですが、以前はコンサルティングを導入していると言う事実を周囲に隠すのが普通でした。

胡散臭いビジネスの代表格であったコンサルティング業界ですが、その得体の知れなさが実はポイントの1つでした。

学生時代逆立ちしても勉強で勝てなかった人間や、ハーバードやMITでMBAを取得しているような優秀な人間が集まっている。

とても優秀そうな人間たちが何か小難しいこと言って会社の戦略を作る。コンサルティングフィーは高いかもしれないけれども何か凄い答えを持っているのでは?

こうして何千万、何億と言うコンサルティングフィーを払う会社がたくさんありました。

 

過去のコンサル各社のポジショニング

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(2)戦略から実行へ、全体から個別特化へ

過去はこうしたざっくりとしたポジショニングで成功を収めてきたコンサルティング業界ですが、お客様のニーズに合わせて各社ポジショニングを工夫しはじめています。

戦略だけではなく実行支援もしてほしい。
業種や職種にあった具体的な支援をしてほしい。

ニーズに合わせてマーケットを細分化したため、新しい大きなマーケットを見つけたコンサルティング会社が大きく業績を伸ばしています。
 

現在のコンサル各社のポジショニング

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6.復活なるか「スカイマーク」

ローコストエアラインの参入が始まってある程度時間が経過しましたが、その中で順調に業績を伸ばした航空会社が、独立系のスカイマークでした。

順調に業績を伸ばしてきたスカイマークですが、昨今のエネルギー価格上昇や円高の影響、競争の激化に伴い、次第に苦境に立たされて行きます。

新しい差別化戦略として、エアバスA330を導入し新しいマーケットの開拓に乗り出ました。

おそらくこの時点で検討していた購買決定要因は、飛行機内の快適さであったように思われます。A330はとても座席が大きく、エコノミークラスでも非常にゆったりとした旅を楽しめる素晴らしい飛行機でした。

投資戦略の失敗により、新しいポジショニングがうまくいくかどうかを見届けることは出来ませんでしたが、1つの試みとしては面白かったと考えています。

そうこうしている間に、世界中のあちこちで航空機事故が発生してしまいました。

こうなると顧客の購買決定要因は、一気に安全性にシフトすることになるでしょう。そして安かろう悪かろうと言う不安があるため、ローコストエアラインはしばらく苦戦を強いられるのではないかと考えています。

 

航空会社のポジショニング

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ローコストエアライン各社が、既存のエアラインから大きくマーケットを刈り取っていくためには、安くても凄く安全と言うポジションを確立できるかどうかにかかっているのではないでしょうか。

 

いかがでしたでしょうか。購買決定要因をどのように設定するかと言ったこともポイントになってきますが、1番重要かつ難しいことはどのマーケットを捨てるかという事であると思います。

当社もどのマーケットを選択し、どのマーケットを捨てるのかということを検討しなければなりません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
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この記事を書いた人
中川 渉
株式会社PIS(ピース) 代表取締役。石川県金沢市生まれ。大阪大学工学部を卒業。㈱日本エルシーエーに入社し、住宅不動産のコンサルタント、研修事業の事業部長、執行役員を務める。㈱SPRIXに転職し、ヒューマンリソース部長、コンテンツ開発部長、新規事業室長を務める。2013年に株式会社PISを設立し、管理職研修を中心に年間150~200回の研修講師を担当する。

 

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