経営理念を浸透する4つのステップ

こんにちは、株式会社ピースのブログからお届けしています。

経営理念の浸透。とても大事なことですよね。しかし、経営理念は抽象的なものなので、頑張って浸透しようと思ってもなかなか社員に受け入れてもらえないことがあります。

「毎日唱和してるけど、あれ、意味あるの?・・・」
「会社の行動規範があっても、上司の指示に従うしかありませんけど(笑)・・・」
「経営理念?うちのは外向けでしょ?・・・」
「そもそも皆、価値観が違うのだから、統一するのは宗教じみていて気持ち悪い・・・」
「理念に沿った行動をしたって、結局、数字でしか評価されませんよ・・・」

今回の記事は、社員からのこうした反論に負けず、理念経営に奮闘したい方々に向けて書いたものです。

1.経営理念とは

1-1.理念=「こだわり」のこと

辞書によれば、理念とは「ある物事はこうあるべきだ、という根本の考え」とあります。経営をくっつけてみると、経営理念とは「経営とはこうあるべきだ、という根本の考え」となります。

つまり、経営理念とは、先人たちが色々な成功体験、失敗体験をしながら積み上げてきた、こだわりであり、会社の「うちらしさ」を象徴するものです。

 

1-2.経営理念は実体験から生まれる

例えば、サイバーエージェントのミッションステートメント。

インターネットという成長産業から軸足はぶらさない。ただし連動する分野にはどんどん参入していく。
スケールデメリットは徹底排除。
「チーム・サイバーエージェント」の意識を忘れない。本音の対話なくして最高のチームなし。
採用には全力をつくす。
有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現。若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止。
法令順守を徹底したモラルの高い会社に。ライブドア事件を忘れるな。
ネガティブに考え、ポジティブに生む。自分の頭で考え、オリジナルを創り出す。
世界に通用するインターネットサービスを開発し、グローバル企業になる。

 

IT業界を騒がせた「ライブドア事件」の教訓を生かす様働きかけています。誰もが知っている大きな事件ですから、社員にとっては理解しやすい教訓なのではないでしょうか。

このように背景を知ることで、その意味を理解することができます。経営理念は会議室で作成される美辞麗句ではありません。実際のビジネス現場で生まれた「血の通った実体験」そのものなのです。

 

2.経営理念のメリット・必要性

2-1.マニュアルやルールが少なくなる

社員が増えてくると、どうしても間違った言動、会社が望むことと違う言動をする社員も出てきます。間違った言動とまではいかないまでも、「うちらしさ」がない社員が増えていく…。

社員に適切な行動をとってもらうために、マニュアルやルールをどんどん増やしていくという方法があります。沢山のマニュアルやルールを作れば、それだけコストが増えますし、そもそもマニュアルやルールが徹底できるかという問題があります。

会社やそこで働く社員が、日々の行動や判断の拠り所となるようなものをまとめ、それを浸透させていくこと、つまり経営理念の浸透が効果的ではないでしょうか。

 

2-2.社員が生き生きと働く

マニュアルやルールは徹底しようとすればするほど、社員に「やらされ感」が出てきてしまいます。受け身の社員を生み出すきっかけになります。

判断の拠り所となる考え方を浸透することで、社員1人ひとりが主体的に考え、動くことができるようにしていく。こういう状態を作ることができれば、社員が生き生きと働く会社にすることができるのではないでしょうか。

 

2-3.経営理念は事業を存続させるためにある

会社の一般的な目的は、事業を継続・発展させること(ゴーイング・コンサーン)です。継続できばければ、顧客満足も、社員満足も実現できません。

事業を継続させていくために、先人たちが色々な成功体験や失敗体験を積んできました。先人たちの知恵や経験を継承できるようにし、今後も継続・発展していくためにまとめたものが経営理念です。

つまり、経営理念は事業を存続させるためにあるのです。

 

3.経営理念を浸透させるステップ

3-1.経営理念の要素を理解する

3-1-1.経営理念の要素

ただ単にキャッチーでわかりやすいスローガンを作っても、経営理念は浸透しません。社員が行動、判断するための拠り所でなくてはなりません。良い経営理念にするためにも、まずはその要素を理解していきます。

経営理念を分解すると、4つの要素にわけることができます。

  • ミッション:社会において、果たしたいと考えている役割
  • バリュー:社会に提供したいと考える価値
  • ビジョン:目指す姿
  • スタイル:行動規範
ミッション&バリュー

ミッション&バリューは「会社の存在意義」のことであり、過去、現在、未来にわたって発揮し、継承していきたいものです。一般的な経営理念はミッション&バリューのことを指していることが多いでしょうか。

ビジョン

それに対してビジョンは「目標」のことであり、未来のことを示しています。ビジョンがあることで、社員は自分で方向性を確認し、主体的に行動することができます。

ただし、目標達成の手段は無数にありますから、「自社らしく」目標に向かうためには、ミッション&バリューが先に示されている必要があります。

スタイル

スタイルは、ミッションを果たし、バリューを提供するために必要な行動規範や行動様式のことです。

 

自分たちの「こだわり」ですから、別にどんな内容であっても構わないのですが、社員に共感してもらい、主体的に行動してもらうためにも、4つの要素が自社の経営理念に入っているか確認すると良いかもしれません。

「社員1人ひとりが、目指す姿に向かって、自分の役割を認識し、価値が提供できるよう行動する。」

これが浸透している状態です。

 

3-1-2.共感を呼ぶ経営理念の特徴 ~近江商人の三方よし~

共感を呼ぶ理念の作り方は、近江商人の理念である「三方よし」が参考になります。

近江商人とは、滋賀県出身の商人で、その特徴は全国を飛び回る「広域志向の商人」であったことにあります。本拠地は近江に置くけれども、その活動領域は全国各地に及んでいる、これが近江商人の商いスタイルで、現在の私達のビジネススタイルの先がけとも言えるものです。

「三方よし」。これは、「売手よし、買手よし、世間によし」のことを言い表したものです。

ビジネスを行うからには利益を出す必要があります。そして、利益を出すためにはお客様に喜んでもらわなければなりません。ですから、「売手よし、買手よし」は当然のことといえますが、近江商人には、このうえに「世間よし」が加わって「三方よし」となります。

本拠地から遠く離れた他国(他県)で商売を行う近江商人にとって、他国(他県)で信頼されることが不可欠であったため「世間よし」という理念が生まれてきたといわれています。

自社の経営理念が、「社員によし、顧客によし、社会によし」となっているか確認してみると良いかもしれません。

 

3-2.ストーリーにする

より具体的にイメージしてもらうために、物語(ストーリー)にするという手法があります。「経営理念が抽象的でよくわからない」と社員に言われてしまうのは、「お客様を大切にする!」といったスローガンだけでは、具体的にイメージできないからです。

 

3-2-1.優れたストーリーを参考にする

何百年前の国や企業の理念を知っている人は少ないですが、「オオカミ少年」、「大きなかぶ」、「裸の王様」といった絵本は時代を超えて受け継がれ、世界中で誰でも知っている内容です。

そして、「嘘は良くない」「一つの目的に向かって協力する」「威張ってはいけない」といった教訓を、物語を通して子供でも理解できるように工夫されています。

経営理念も物語化することで、社員に広く理解され、継承していくことができるようになります。

 

3-2-2.創業時代や苦難の時代をストーリーにする

なぜ経営者は「自伝」を出すのでしょうか。単に目立ちたいというだけの経営者や、リクルーティング(採用活動)を目的とした出版もありますが、やはり自伝出版の目的は「経営理念の継承」にあります。

創業時の思いや、問題を招いた原因、苦難を乗り切ったときの考え方などを次世代に継承したいのではないでしょうか。

理念経営で有名な会社ほど、経営者の自伝など、自社の理念を反映した本を出版しています。しかも一冊ではなく、二冊、三冊と出版している会社も多いです。

スターバックス「スターバックス 成功物語」「スターバックス 再生物語」
ディズニーランド「ウォルト・ディズニー すべては夢みることから始まる」「ウォルト・ディズニーの夢を叶える言葉」
京セラ「アメーバ経営」「生き方」「稲盛和夫の実学」「成功と失敗の法則」

自伝出版をしていくなても、創業者物語、創業物語をまとめて、社内外に共有している有名企業は沢山あります。中には「劇」にしてしまった会社も。

ドトールドトールストーリー
オムロン創業者物語(立石一真)
パナソニック松下幸之助物語
吉本興業吉本百年物語

 

3-2-2.映像にする

物語を映像にするのも一つの手です。ただし、台本がつまらなければ、やはり映像もつまらないので、しっかりとした台本があることが前提となります。まずは、文字や絵でしっかりと表現することをおすすめします。

 

3-3.内在化する

経営理念を浸透するときの、最大の難所が「自分のこととして捉えてもらうこと」(内在化)です。

「内在化」が最大の難所である理由は至ってシンプルです。多くの社員にとって、経営理念は「他人が作った理念」であり、「自分の理念」ではないからです。

クレドのようなものを作って、さあ、クレドに沿って頑張ろう!という行動を、少し乱暴に表現すると、「私にとって大事なこだわりはこうだ。だから貴方もそうしなさい!」ということになります。

クレドを作って唱和したり、経営理念を共有するミーティングをしても、浸透しない理由はここにあります。

 

3-3-1.経営理念を再発見する

ディズニーランドの取り組み事例から学ぶ
経営理念が体験から生まれるものであるとすれば、今働いてくれている目の前の社員の行動の中にも、経営理念が秘められているのではないでしょうか。

現に、理念経営を実践している企業は、「経営理念を再発見する」方法を取り入れています。例えば、例えば、ディズニーランドのファイブスタープログラム。

ディズニーランドでは、上司が素晴らしい行動をしたキャストにファイブスターカードを渡し、その行動を称賛するという取り組みがある。ファイブスターカードを受け取ると、オリジナル記念品と交換できるほか、定期的に開催されるファイブスターパーティーに参加できる。パーティーにはミッキーやディズニーの仲間たちも登場し、オリジナルショーが行われる。

 

自分の行動や体験のどれが「経営理念」に沿ったものなのかを知り、自分の行動が称賛されたら、より深く理解し、またその行動を再現しようとするに違いありません。

 
ユニバーサルスタジオジャパンの取り組み事例に学ぶ
先日、「NHKプロフェッショナルの条件」で、ユニバーサルスタジオジャパンの業績をV字回復させた「天才マーケター」が紹介されていました。

マーケティング本部の本部長でもある、その天才マーケターが社内で行っている表彰制度に「フルスイング賞」というものがあります。マーケティング部員のアイデアが空振りに終わったとしても、スイングしたこと=行動を表彰するという内容です。

「フルスイングでバットを振っていれば、だんだんスイングが良くなってくるので、失敗を恐れずどんどんバットを振って欲しい。」

そうしたメッセージが込められています。

「バットを振れ!」と指示するのではなく、フルスイングした社員を表彰する。カルチャー(行動規範)の浸透を意図したものと言えます。

 
自社は何を表彰しているか?一度、自社の表彰制度を振り返ってみましょう。以下のような営業成績を表彰する目的で導入されていないでしょうか。

  • 売上
  • 利益
  • 顧客数

売上を上げることが経営理念であれば、営業成績を表彰すれば良いかもしれません。経営理念が「ハピネスの提供」なのに、表彰対象が「売上」では、経営理念を再発見することはできないのではないでしょうか。

 

3-3-2.社員の考えを大切にする

コミュニケーションは双方向で行うことで、初めて成立します。自社の経営理念に共感して欲しければ、社員の理念(こだわり)も聞き、共感することが重要なのではないでしょうか。

先ほどのクレドの事例で、例えるなら、

【一方通行の理念共有】
「私にとって大事なこだわりはこうだ。だから貴方もそうしなさい!」

【双方向の理念共有】
「私にとって大事なこだわりはこうです。貴方のこだわりも是非聞かせてください。なるほど、そういうこだわりがあるんですね。お互いのこだわりを大切にして、行動していきましょう!」

どちらがより効果的なコミュニケーションであるかは、一目瞭然です。

経営理念と社員の理念が一致しないこともあると思います。しかし、こうした双方向での共感プロセスがあれば、考え方を押し付けられていると社員は感じないでしょうし、会社のこだわりに対して敬意を持って耳を傾けてくれるのではないでしょうか。

 

3-4.仕組みを作る

3-4-1.新しい事例を共有する

創業物語の共有に加えて、今まさに現場で生まれている「新しいストーリー」を共有することができれば、新鮮さを持って経営理念を共有することができます。

リッツカールトンホテルの取り組み事例に学ぶ
理念経営で有名なリッツカールトンホテルでは、社員がお客様に対して行った感動的なサービスを「ワオ・ストーリー」と呼び、週に1回、本部から世界各地のリッツカールトンホテルに配信しています。

できたてホヤホヤの物語を瞬時に拡散する。理念経営にもスピード感が大切です。

「ガールフレンドにプロポーズするお客様に頼まれたこと以上の驚きと感動を与えるために、部屋を100本の薔薇で飾った」
「パスポートをホテルに置き忘れたお客様を追いかけて、大阪から東京まで新幹線に乗って届けた」
「プールでなくしてしまったお客様のコンタクトレンズを探しあてた」

 

3-4-2.伝道師を育成する

理念経営の先駆者は、キリスト教です。世界で最も拡散した理念の一つではないでしょうか。教義の内容に共感できるかどうかは別として、その拡散手法は、結果を踏まえると超一流と言えそうです。

言語化・物語化:聖書。「アダムとイブが…」で始まる物語があります。言語化と物語化が行われています。
自分ごと化:毎週休日には教会で牧師さんや他の信者と語り合う。つまり、自分ごととして考える場があります。

特に秀逸な点は、伝道師(宣教師)という、キリスト教の普及を目的とした専門家がいたことはないでしょうか。伝道師は理念を世界中に拡散するために、世界各地を飛び回りました。

聖書や教会があるにも関わらず、なぜお金と時間をかけて伝道師を世界各地に派遣したのでしょうか。

考え方や価値観は目に見えないもので、かつ、人種、国、文化によってそれぞれ異なるものです。共有するのは簡単ではありません。強い信念や、一定のスキル、人格が必要になります。スキルや人格を備えた専門化、それが伝道師でした。

社内で伝道師を発掘、育成し、各階層、各部署に配置することで、経営理念の拡散を行っていきます。

 

3-4-3.理念を語り継ぐ

経営理念などの目に見えない考え方は、カスケード型のコミュニケーショで語り継がれます。

カスケード型のコミュニケーションとは、

  • 経営者が役員に語り、
  • 役員が管理職に語り、
  • 管理職が一般社員に語る

といった形で、上から順番に、滝の水が上から下に流れるように、一貫性を持ってコミュニケーションをとることを意味します。カスケード型コミュニケーションの重要性を理解するのはとてもシンプルです。

  • 経営者は顧客満足度が大事だと言っている、
  • 役員は戦略が大事だと言っている
  • 管理職は売上が大事だと言っている
  • 一般社員は残業時間を減らしたいと言っている

このように、各階層で考えていることが違っている状態で、経営者が望むような顧客満足度を大切にする会社になるでしょうか。

理念浸透では、階層を飛ばさないことも重要です。階層が離れていると、お互いの行動を知ることは難しいです。つまり、お互いの行動の中に、経営理念を再発見することが難しくなります。

  • 経営者は戦略や方針に経営理念を盛り込み、
  • それを受けて、経営幹部は制度やシステムに経営理念に盛り込み、
  • それを受けて、管理職は具体的な計画に経営理念を盛り込み、
  • それを受けて、一般社員は経営理念に沿って行動する

上司や部下が何を大切に行動しているかが見えてはじめて、経営理念を共有することができます。

カスケード型のコミュニケーションをとっていれば、「浸透」がどの階層でストップしているかを把握することができます。
 

3-4-4.継続する

理念浸透が一過性にならないように、継続していくことが大切です。

  • 会議前に唱和する
  • 理念の実践者を表彰する
  • 人事評価の情意評価などで理念の実践者を評価する
  • 定期的に内容を見直す

できるようになるまで徹底し継続すること。これがもっとも大切なことかもしれません。

 

4.まとめ

最後にある経営者の言葉をご紹介します。どうやったら考え方を社員に浸透することができますか?という質問への回答でした。まさに理念経営の真骨頂を表現しているような気がしています。

100回言ってわからなければ、101回言う。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。
 
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