はじめに
近年「サステナビリティ」という単語を耳にする機会が増えている。その背景には資源枯渇、エネルギー問題や食料問題など、地球には国を超えて多くの課題がある。
株式会社ユーグレナはこういった社会問題の解決を目指し、「人と地球を健康にする」という理念を掲げて、活動している企業だ。
人の健康だけでなく、環境や社会の持続可能性にも目を向けた取り組みが、ユーグレナの根幹にある。
従来の常識にとらわれず、科学と技術を活かしたアプローチで社会課題に挑んでいるのが同社の特徴がある。
微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)の可能性を追求することから始まったこの企業は、今では健康食品からバイオ燃料まで幅広い事業を通して理念を具現化している。
本記事ではユーグレナの理念や行動指針、理念浸透のための活動を紹介し、理念がもたらす点について解説する。
1.会社情報
(1) 会社概要
会社名:株式会社ユーグレナ
資本金:163億3,115万円(2024年12月時点)
設立年月日:2005年8月9日
代表取締役:出雲 充
事業内容:
1 ユーグレナ等の微細藻類等の研究開発、生産
2ユーグレナ等の微細藻類等の食品、化粧品の製造、販売
3ユーグレナ等の微細藻類等のバイオ燃料技術開発、環境関連技術開発
4バイオテクノロジー関連ビジネスの事業開発、投資等
本社所在地: 〒108-0014 東京都港区芝5-29-11 G-BASE 田町2階
売上高:476億円
従業員数:1,168名(連結)(2024年12月末時点)
(2) 会社内容
株式会社ユーグレナは微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)を中心とした研究・開発・生産を通じて、食品・化粧品・エネルギーなど幅広い分野で価値を提供している。
同社の特徴はバイオ燃料の製造・実用化に力を入れている点にある。航空機・船・車両向けへのバイオディーゼル燃料(通称サステオ)を開発し持続可能な社会へ貢献をしている。
ユーグレナの創業は2005年。東京大学卒業後に起業した出雲充氏(当時25歳)が中心となり設立された企業だ。
出雲氏がミドリムシを選んだ背景には、学生時代の原体験がある。バングラデシュで栄養失調に苦しむ子どもたちを見た際に、「食べ物の量ではなく、栄養素が足りない」という現実に直面した。
その課題を解決できる素材として注目したのが、微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)だ。
ミドリムシは、ビタミン・ミネラル・必須アミノ酸など59種類以上の栄養素を含み、消化吸収にも優れる完全栄養食とも呼ばれる存在だ。
さらに光合成によってCO₂を吸収し、バイオ燃料の原料にもなるため、栄養問題と環境問題の双方を解決できる可能性を秘めていた。
こうして「人と地球を健康にする」という理念のもと、ミドリムシを中心にした事業が始まった。
その後、独自開発による世界初の屋外大量培養技術をきっかけに、ミドリムシを活用した持続可能な社会に向けて取り組んでいる。
社名の「ユーグレナ(Euglena)」は創業時から研究開発の中心であった微細藻類の名前が由来だ。食品事業やバイオ燃料事業が成長を牽引しており、2025年の売上高予想は500億円だ。
(3) 沿革について
1998年 創業者出雲氏がバングラデシュを訪問
2005年 株式会社ユーグレナ創業 世界初ユーグレナの屋外大量培養成功
2012年 東証マザーズ上場 「Japan Venture Awards」にて経済産業大臣賞受賞
2014年 東証一部上場 「日本ベンチャー大賞」にて内閣総理大臣賞受賞
2018年 日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造 実証プラント完成
2021年 当社バイオ燃料「サステオ」を利用した初フライト
2024年 ユーグレナ、PETRONAS、Enilive の3社、マレーシアにおけるバイオ燃料製造プラントの建設・運営プロジェクト最終投資決定を完了
2.理念説明
ユーグレナの目的・企業理念・行動指針について、それぞれの背景や意味について紹介する。
(1) 目的:人と地球を健康にする
ユーグレナ社が掲げる企業理念「人と地球を健康にする」は創業から現在に至るまでの歩みの中で育まれた目的であり、また実践的かつ哲学的な信念だ。
この理念には創業者・出雲充氏の価値観が色濃く反映されている。出雲氏は「自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける方法」をサステナビリティの本質ととらえている。
そしてその考えは企業活動を超えて、社会全体へインパクトを与える社会哲学となっている。
またユーグレナ社は5億年以上前に誕生した微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)に着目した。ミドリムシには動植物両方の性質と59種類の栄養素を持っている。これを活かし、健康食品や化粧品の開発を進めている。
これはまさに「人を健康にする」ための取り組みであり、栄養不足や生活習慣病等、社会問題の解決を目指している。
一方で「地球を健康にする」ための挑戦としてはミドリムシが持つ光合成能力を利用したバイオ燃料の開発がある。
CO₂を固定するこの力を活かし、従来の化石燃料に代わる再生可能エネルギーの実用化を目指している。まさしく地球を健康にするための取り組みを行っている。
創業から長年に渡り試行錯誤の末ユーグレナは再生可能エネルギーとしての実用化を目指し、バイオ燃料の開発を実現した。
この成果は「地球と人を健康にする」という理念に対する揺るぎない信念と、環境課題に挑み続ける姿勢を象徴している。
ユーグレナ人と地球を健康にする 株式会社ユーグレナHPより引用
(2) 目的:理念:Sustainability First
出雲充氏が抱く「Sustainability First」とは単なる理念ではなく、社会のあり方を問い直す視点だ。
創業の原点となったバングラデシュでの栄養問題との出会いから「自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける方法こそサステナビリティだ」と考えたと語る。
また地球と人を健康にするには何が必要か考えたときに「Sustainability First」にたどり着いた。
そして2021年、ユーグレナ製バイオジェット燃料「サステオ」による初フライト成功は、10年以上にわたる挑戦の成果だ。社長はこの瞬間を、「ただの成功ではなく、社会に新たな可能性を示した第一歩」と位置づけている。
また、「視点を少し高く」「時間軸を長く」と捉えることで、短期的な利益や効率性を超えて、地球規模・未来志向の意思決定が可能になると出雲氏は語る。
ユーグレナ バイオ事業ビジネスモデル 株式会社ユーグレナHPより引用
(3) 行動指針3つの「ユーグリズム」
①7倍速 – Turn it up to 7.
最速で一歩を踏み出し、やり切る
②ちぎれるほど – Burst with imagination and energy.
これ以上ないと言えるまで考えに考え抜いて
③あ・た・ま – Bright, Witty, and Forward‑Thinking.
いつでも「明るく、楽しく、前向きに」
これらの言葉に共通しているのは、理屈よりも「熱量」や「感覚」に訴える、極端なまでの実行力とポジティブさだ。
出雲社長をはじめとした経営陣・社員が、「会社の芯に据えたい」と考えたのは、社会課題という正解のない問いに向き合い続けることで、考え抜く力と、やり抜く意志の両方が必要だという想いがある。
一見ユニークな表現だが、どれもユーグレナという企業の文化・行動様式・人間像を的確に表したキーワードであり、働く仲間たちが共通して持つべき「行動の軸」を表している。
行動指針「ユーグリズム」は、社内の価値観のばらつきを抑え、共通の行動軸をつくるために策定された組織文化の根幹だ。2015年の創業10周年に、全社員参加のワークショップにより10項目の初版が作られた。
それから2回ほど改定され、現在のシンプルな3つの行動指針となった。
ユーグリズムの刷新にあたり、出雲社長はこう語っている。「時代を変えるには、信頼と狂気性が必要だ。」
これは吉田松陰の言葉に由来するもので、「熱量を持って社会を変える」という強い覚悟と行動力を意味している。
社員一人ひとりが社会課題に本気で挑み、信頼を築きながらも常識を打ち破るようなエネルギーを持つことだ。
まさにそれが、ユーグレナが大切にする文化であり、行動指針にも込められた精神だ。
3.理念浸透への取り組み
企業理念浸透とは、社員一人ひとりが理解し、日々の判断や行動に反映させている状態を指す。理念が浸透すると、組織には以下のようなポジティブな効果が生まれる。
〈理念浸透すると生まれるポジティブな効果〉
・企業文化の醸成:共通の価値観が根づき、社員同士の連携や信頼感が高まる。
・エンゲージメント向上:自社の方向性に納得し、使命感を持って働く社員が増える。
・一貫した意思決定:個々の判断が理念に基づくため、組織全体で「ぶれない行動」が可能となる。
そのため、ユーグレナは、理念を社内外に深く根付かせるため、以下の具体的な施策を実施した。
(1) 全社ワークショップによる浸透施策
理念(Sustainability First)発表後、全社員を対象にオンラインワークショップを実施した。
「あなたにとってのサステナビリティとは?」「Sustainability Firstをきいてどう思うか?」というテーマで小グループに分かれて議論し、理念の意味を深く浸透させた。
(2) 社員を巻き込んだ行動指針改定プロジェクト実施
ユーグレナでは創業15周年を節目に、行動指針「ユーグリズム」の改定プロジェクトが始動した。この改定は経営層主導ではなく、社員自らが中心となり、推進されたという特筆な点だ。
役職・年齢・拠点が多様な45名の社員が志願し、オンラインミーティングで新たなユーグリズムを策定した。
メンバーはユーグレナらしさとは何か、これからの仲間の行動指針はどうあるべきかという問いに向き合い、ワークショップとディスカッションを重ねた。
プロジェクトチームが策定したユーグリズム案は一切の修正が加わることはなく、そのまま正式に承認され、新たな行動指針として採用された。
このプロセス自体がユーグレナ社の理念「Sustainability First」および仲間を尊重し、信じて任せる文化を体現した。
(3) 理念を見える化
ユーグレナは行動指針を初めて策定後、作って終わりではなく、社員の手元や日常に溶け込む形で可視化するというアプローチをとったのが特徴的だ。
その代表的な施策の一つがマザーハウスとの共同による名刺入れの制作だ。名刺入れには「ユーグリズム」が刻印されており、社員が名刺交換するたびに、自らの行動指針を自然と意識する設計となっている。
また社内表彰制度の運用も行っている。これは理念である「人と地球を健康にする」を体現する行動や成果を表彰するものだ。
社員一人ひとりが自社について語れる状況絵を目指すという設計のもと進められている。
こうした可視化施策はブランド認知度の強化とともに社員がユーグレナらしさを自分の言葉で語れるようにプロセスを意図している。
つまり、「社内の価値観の共通化」と「社外へのブランド発信」を、同時に叶える工夫だ。
マザーハウスと共同制作した名刺入れ 株式会社ユーグレナHPより引用
(4) 日常の制度へ反映
ユーグレナでは、理念「Sustainability First」を日々の働く環境に反映されている。
・新入社員向け「ナカマブック」の配布を実施
理念や行動指針をまとめやガイドブックを配布し、ユーグレナの考え方を視覚的に伝える。
・オンボーディング研修、マインドセット研修の実施
新入社員だけでなく、全社員に向け、理念に対する理解と行動への接続を目的とした研修を実施している。
このように、行動の仕組みそのものに理念が組み込まれていることが、ユーグレナの特徴だ。
4.理念がもたらしたもの
ユーグレナ社の理念や目的は単に掲げられた理想ではない。組織の仕組み、社員の考え方、そして文化そのものに深く根づき、目に見える形で変化をもたらしている。
その変化について解説する。
(1) エンゲージメントの可視化→モチベーションクラウドの利用
ユーグレナでは、モチベーションクラウドを活用した定期的なエンゲージメントサーベイを実施し、社員の理念の共感度や組織の健全性を数値化している。
このデータは単なる満足度調査にとどまらず、制度改善や組織作りの方向性に活用されている。そしてこれは「Sustainability First」を本気で実現するための組織運営の土台になっている。
(2)ウォータースタンドの導入
また、「人と地球を健康にする」という理念を掲げるユーグレナでは、オフィス内からペットボトル飲料を撤廃し、ウォータースタンドを導入するなど、日常の小さな選択にもサステナビリティの思想が基づいている。
こうした取り組みは、単なる環境配慮にとどまらず、社員一人ひとりが理念を「行動」として実感・共有する場を生み出しており、理念浸透の土壌として大きな役割を果たしている。
ウォータースタンド使用写真 ウォータースタンド株式会社Bottle Free Projectより引用
(3)多様性を支える仕組みの数々
理念を実現するには、多様な価値観やライフスタイルの共存が不可欠だ。そのためにユーグレナでは、テレワーク制度、保育支援制度、フレックス勤務など、柔軟な働き方を支える仕組みを整備している。
さらに、「未来世代」の視点を取り入れるためにCFO(Chief Future Officer=未来世代代表を設置し、次世代の声を経営に反映するユニークな取り組みも実施されている。
こうした制度の背景には、単なる効率や成果主義ではなく、「社員一人ひとりの尊重」と「社会との共生」を大切にする企業文化がある。ユーグレナは、理念を働き方そのものへと落とし込むことで、持続可能な企業運営を内側から実現している。
(4)新たな事業展開としてのサステナブル・アグリテック
ユーグレナの理念は、ヘルスケアや燃料領域に留まらず、「一次産業」の世界にも深く根づいている。それを体言するのが、サステナブル・アグリテック領域初のブランド「いきものたちにユーグレナ」だ。
このブランドでは、ユーグレナ由来の豊富な栄養素や機能性成分を活かし、飼料・肥料として活用することで、動物や植物の健やかな成長を支援している。
また第一次産業のさまざまな課題があり、病害、コスト負担、ブランド価値低下などに対して具体的なソリューションを提供している。
さらに、栽培・飼育段階で使用されたことを示す「ユーグレナ育ち」認証マークを導入するなど、理念を商品の価値として消費者に届ける工夫も実施している。
また「新バイオマスの5F戦略」の一環として、2020年から試験販売が始まった「Euglena soil(培養土)」の存在も、研究と現場実践の橋渡しとして重要な意味を持っている。
この取り組みにより、ユーグレナは理念をただ語るだけでなく、農と健康が両立し、社会課題と接続するサステナブルなビジネスモデルを構築しようとしている。
(5)理念に基づく事業内容
ユーグレナの理念を象徴するもう一つの活動が、バングラデシュでの栄養支援事業である。
2009年にスタートした「ユーグレナGENKIプログラム」では、バングラデシュの子どもたちにミドリムシ入りのクッキーを無償配布し、慢性的な栄養不良の改善に取り組んでいる。
現地ではビタミン・ミネラル不足に起因する発育不良が深刻な社会課題となっていたが、59種類の栄養素を含むユーグレナを活用することで、子どもたちの健やかな成長をサポートする仕組みを作ったのである。
さらに、このプログラムは単なる支援にとどまらず、現地雇用の創出や女性の就労支援といった社会的インパクトももたらした。
これは理念が国境を越えて具体的なアクションへとつながっていることがわかる。
(6)理念を軸にした共創パートナーとの連携
また、ユーグレナの理念は単なる社内文化に留まらず、他企業との共創の場にも展開している。
たとえば、丸井グループとの資本業務提携では、「エポスカード」や店舗ネットワークを活用したサステナブル商材の発信、バイオ燃料の供給、さらには共同ECの運営基盤構築など、理念を社会の構造と組み合わせる戦略が進行中だ。
このようなパートナーシップは、理念が社外へのインパクトとして具現化されている好例であり、企業理念が社会との結節点として機能していることを示している。
5.まとめ
ユーグレナの理念は、単なるスローガンではなく、創業以来すべての事業・制度・社員の行動に基づいている。
そこには、出雲充社長が掲げる「自分たちの幸せと誰かの幸せが共存する社会を実現する」という強い思いが込められている。
この理念は、バングラデシュでの栄養改善事業やバイオ燃料開発といった社会課題解決型の事業に結実すると同時に、社内制度や働き方、さらにはオフィスの日常の取り組みにも反映され、仲間ひとりひとりの行動指針となっている。
つまり理念は「掲げるもの」ではなく「実行するもの」を体現している。
ユーグレナの歩みは、企業理念がいかに組織や事業を動かし、社会に具体的なインパクトを与えるかを示す好例といえる。
<参考・引用一覧>
・株式会社ユーグレナ 公式HP https://www.euglena.jp/
・株式会社ユーグレナ 2025年12月期第2四半期決算説明
https://ssl4.eir-parts.net/doc/2931/tdnet/2672172/00.pdf
・社長名鑑 公式HP https://shachomeikan.jp/presidents/detail/10061890
・SDGs Meet 公式HP https://sdgs.kotora.jp/interview/euglena/
・出雲充(2012).「僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。」株式会社ダイヤモンド社











