「能力が高い人を評価したい」
「スキルや技術力のある人材を育成していきたい」
このような想いを持たれている経営者は多い。能力やスキルを評価する人事制度(職能資格制度という)は、古くから存在するが、以下のデメリットが指摘されている。
● スキル・能力は一度身に付くとなくならないため、結果的に年功序列になりやすい
● スキル・能力を高めたが、業績に結び付くとは限らない
そこで本記事では、メリット・デメリットを考慮した職能資格制度の作り方について紹介する。
1.職能資格制度とは
等級制度とは
等級制度とは、社員の序列を決め、それぞれに求めることを整理したものを指す。評価内容や基準、報酬についても等級に紐づいて定められている。
職能資格制度について
職能とは仕事をするための能力のことを指し、職能資格制度とは能力の高さで従業員の序列を決めた人事制度である。表1のように日本では現在も多くの企業が取り入れている。
スキルの定義付け
能力を評価する制度であるため、まずは能力の定義付けが必要となる。本記事では「能力≒スキル」とし、スキルをアメリカの学者ロバート・カッツの「カッツ理論」を用いて定義付けしていく。
カッツ理論ではスキルを「コンセプチュアルスキル」「ヒューマンスキル」「テクニカルスキル」の3つに分類している。
コンセプチュアルスキルは物事を概念化して捉えたり、抽象化して考えるスキルを指す。
ヒューマンスキルは他者と協同するために必要なスキルを指す。
テクニカルスキルは業務を遂行するために必要なスキルのことを指す。本記事ではテクニカルスキルを、職種関係なく必要となる<基礎スキル>と職種毎に必要となる<専門スキル>の2つに分けて考える。
以下は各スキルの例である。
(表2)
表にあるような、スキルの多さや熟練度で社員の序列を決めて評価し、それに見合った報酬を支払っていくのが職能資格制度だ。
またカッツ理論では社員の階層を3つに分けて考えている。低い階層であればテクニカルスキルが強く求められ、階層が上がるにつれて、テクニカルスキルよりコンセプチュアルスキルが求められる。
(表3)
ところで、コンセプチュアルスキルとヒューマンスキルは、一つ一つのスキルが細分化されていないため評価が難しい。例えばコンセプチュアルスキルの一つである「分析力」を細分化して説明できる人は多くないだろう。
一方でテクニカルスキルは日常的に使用し、資格になるなど一覧化されているため、評価・運用がしやすい。
したがって、職能資格制度は低い階層で機能しやすく、高い階層では機能しにくくなる。高い階層には職能資格制度ではない制度を導入するか、コンセプチュアルスキルやヒューマンスキルを下記のように細分化し、評価を容易にする必要がある。
(表4)
職能資格制度のメリット・デメリット
メリットとデメリットについては、下記が挙げられる。
<メリット>
- スキルアップがしやすい
<注意点>
- コンセプチュアルスキル・ヒューマンスキルは細分化が難しい
- スキルの細分化ができないと、評価が曖昧になりやすい
⇒結果的に年功序列化しやすい。
<デメリット>
- スキルと業績が比例しない場合は、機能しない
- スキルがあっても行動をしない恐れがある
- スキルが陳腐化する恐れがある
<対策>
- 業績評価もしくは行動評価を部分的に取り入れる
- スキルのアップデートを行う
- コンセプチュアルスキル・ヒューマンスキルの細分化を行う or 高い階層には別の人事制度を導入する
2.職能資格制度に合う会社や職種
合う会社
- テクニカルスキルと成果が直結する職種
- スペシャリストを育成する会社
例えば研究職、開発職、設計職、システムエンジニアといった技術職を多く抱えるメーカーやSierなどテクニカルスキルの幅や熟練度が成果に直結する職種は向いている。テクニカルスキルを磨くことは、成果の向上につながり、会社の業績も向上していく。
その他にも医師や看護師、臨床工学技士、作業療法士など資格を要する医療従事者や弁護士、税理士、社会保険労務士などの士業も該当する。
合わない会社
- テクニカルスキルが成果に直結しない職種
- ジェネラリストを育成したい会社
営業職、企画職、総合職といった職種が中心となる商社や銀行、小売などはテクニカルスキルも当然必要となるが、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルなども必要となり、幅広い総合力が問われるため、職能資格制度の運用はやや難しいだろう。
3.職能資格制度の作り方
職能資格制度のおおまかな作成手順を説明していく。
組織図の作成
経営戦略に合った組織図を作成する。2~3年後から逆算すると良いだろう。現行の組織図と比較することにより、人材の偏りや充足を確認することができる。また管理職に求めるレベル感や人件費を明確にすることにつながっていく。
30~100人規模であれば3~4階層が良い。多くの階層を作ると経営スピードは遅くなってしまう。
(表5)
職種の分類
職種とは営業、人事、経理、購買、開発、システムエンジニアなどといった業務の種類を指す。スキルで等級や評価を決めるためには、職種を分類することは必要である。なぜなら、職種ごとに必要なスキルが異なるからだ。
等級数の設定
組織図を基に等級数を定めていく。等級数は多いと各等級に求める基準の違いが曖昧になるため、少なくすることを推奨する。階層+2~3の範囲内が望ましい。表5の場合は4階層になっているため、6等級程度が良い。
スキルの体系化
表3のように自社もしくは該当職種に必要となるスキルを洗い出していく。洗い出したスキルをコンセプチュアルスキル・ヒューマンスキル・テクニカルスキル(基礎スキル・専門スキル)に整理していく。
等級定義の作成
各等級に求められるレベルを設定していく。等級間の違いを明確にすることによって上位等級を目指していくには、どうすればいいのかという基準になる。闇雲な昇格を防ぐことにもつながる。
具体的には体系化したスキルを用いて、各等級に求められるスキルは何かを設定していく。
(表6)
表6は、システムエンジニアの等級定義の例だ。1等級を一般社員とし、6等級を取締役としている。
1等級の一般社員であれば、ヒューマンスキルのコミュニケーション能力や専門スキルのコーディング作業、そして社会人として基礎的な報連相やPCスキルが求められる。
4等級の課長になるには、一通りの専門スキルを身につけた上で、複数のコンセプチュアルスキルやヒューマンスキルも求められる。
評価項目・評価基準(スキルマップ)の作成
職能資格制度では等級ごとに求められるスキルを評価する。
行うべきこととしては、スキルマップを作成していくことである。スキルマップを使用してスキルの幅や習熟度を評価する。
ここからは製造業の技術職を例にとってテクニカルスキルの一部である【専門スキル】におけるスキルマップの作り方を説明していく。
項目について
① 作業の種類
作業を行うにあたっては機械やシステムを使用することが多いと思う。使用する機械によって作業内容が変わったり、できる仕事のレベルや幅が変わってくるため、機械の種類や作業の内容で項目を作成する。
② 業務工程
機械を使用した実作業の他にも、準備、メンテンナンスや更新、入替、修繕といった工程も発生してくる。「実作業はできるけど、メンテンナンスはできない」といったケースも発生するため、業務工程も項目として作成する。
点数付け
点数付けは4段階や5段階で行う。下記はその例を示す。
(表7)
加工業務の工程を例にとって、表8のようにまとめてみた。
業務に必要なスキルと習熟度一覧表にすることで、育成の観点からも運用が行いやすくなる。日常的にマネジメントしている内容となるため、評価する側・される側共に評価への理解度が深まる。
また点数によって色付け具合を変えている。各項目4点であれば、一マス全て色付けされる。全ての項目で色付けがされることを目指していく。視覚的にも見やすくなる。
下記はシステム開発などを行うシステムエンジニアの例である。
(表9)
昇格基準の設定
昇格基準については、作成したスキルマップを活用して設定する。各等級によって求められるスキルが異なるため、昇格するために基礎スキルは○○点以上、ヒューマンスキルは○○点以上という点数を一つの基準として置いていく。
またコンセプチュアルスキルやヒューマンスキルはテストを行うことを推奨する。コンセプチュアルスキルやヒューマンスキルは細分化をしたとしても、各現場で正確な評価は難しいからだ。
例えばヒューマンスキルのテストとして部下面談のロープレを行う。そうすることで、必要なスキルを身につけられているのかを測定することができるため、評価が容易となる。
(表10)
スキルマップの運用
スキルには、多くの業務を担うことができるという「幅」と、一つの業務で難易度の高い業務を遂行できる「深さ」がある。
PCスキルで例えてみる。幅とは、Excel・Word・PowerPointといった幅広いスキルを使える状態である。
それに対して深さとは、Word、PowerPointは使用できないが、Excelついては複雑な関数やマクロといった難易度の高い業務を遂行できる状態である。
幅と深さの両方を追求しても良いが、完璧な人などいないし、会社としてもそれを求めていなかったりする。そこで社内状況や本人の意向なども加味し、面談を通して、対象のスキルの幅や深さについてどこまで高めるのか、目標設定することが望ましい。
(表11)
まとめ
- 職能資格制度はスキルを定義付けし、細分化することで運用が可能。
- スキルマップを作成し、評価・育成を行う。
- スキルマップによって曖昧な評価を避け、透明性の高い評価や昇格につながる。