コストコが日本に上陸して24年。現在の日本の会員数は600万人を超え、会員数は今も増え続けている。全世界における2022年の一般会員数は5400万人に及び、その会員継続率は90%を誇る。単に会員による高価値イメージや品質保証だけでこの高い継続率を保てるわけではないだろう。
年会費は4,840円と決して安くはない。それにも関わらず、なぜ増え続けるのか。
仮に優れたビジネスモデルであれば、もっと模倣店が出てきてもいい。しかし、会員制のスーパーマーケットは、コストコのほかにサムズクラブとビージェイズがあるくらいで、いずれも海外のスーパーマーケットにすぎず、日本ではコストコがほぼ一強の状況である。
そこには、会員制と密接に関わる商品戦略、コストコならではの理念に基づく成功要因がある。そのビジネスモデルを解説しながら、以下述べていきたい。
「COSTCO Annual Report」 参照
1.コストコとは
コストコの2022年度の売上高は2,227億ドルであり、対前年度比15.9%増加という伸び率である。創業以来右肩上がりの売上高だが、特にここ2年は15%以上の伸び率になっており、近年さらに拡大を続けている。そんなコストコはどのように始まったのか。歴史を紐解いてみたい。
会社概要
商号:コストコ・ホールセールジャパン
設立年月日:1983年
本社所在地:ワシントン州
資本金:95億500万円
従業員数:1万3500名
※2023年8月現在
「COSTCO Annual Report」 参照
コストコのような会員制スーパーマーケットを、正式には会員制ホールセールクラブという。この会員制ホールセールクラブは、ソール・プライス氏が始めたとされる。
1950年頃、アメリカではディスカウントタイプの店が流行りだしていた。ソール・プライスは、ディスカウントストアとの差別化を図るため、高品質商品を低価格で販売できないか模索していた。
そんな折り、クライアントの取引先であるフェデコという会員制小売店に出会った。郵便労働者のための生協のような店舗だった。
ソール・プライスは、多くのジャンルの商品が低価格で販売されていることに衝撃を受けた。会員制であれば高品質商品を低価格で販売でき、加えて高価値イメージをもたせることができるかもしれない。そう考えたソール・プライスは、即座にフェデコに出店展開を掛け合った。しかし、フェデコにはその気はないと断られてしまった。
ソール・プライスはどうしてもこの着想を形にしたかった。そこで自身で会員制の小売店を始めた。これが会員制ホールセールクラブ発祥の経緯である。
そのソール・プライスの部下であったジム・シネガルが、のちのコストコの創業者となる。ジム・シネガルはソール・プライスに心酔していたようで、コストコの理念は殆どこのソール・プライスに基づいたものだ。
例えば、「顧客とのコミュニケーションを慎重に行う」という考え方はマスメディア広告を用いなかったことに繋がった。
「会員や従業員と長期的な信頼関係を結ぶ」という考え方は100%返金返品保証を行うことへと繋がった。そして、このことが、会員制のロイヤリティを高める要因になったと考えられる。
ジム・シネガルは1983年にカルフォルニア州にてコストコを開業した。会員制がエリート意識を産み出し、アメリカ特有の所得や人種などによる階層社会に上手くマッチした。
アメリカでの成功を受けて海外展開する中で、1998年にコストコ・ホールセールジャパンを設立。福岡県の久山倉庫店を足掛かりに、日本でコストコの倉庫店を拡大していった。2023年6月現在までに撤退した倉庫店は一つもなく、合計32倉庫まで拡大し続けている。
2.コストコの特徴
コストコの最大の特徴は、会員制であること、多様で大容量の商品、倉庫のような大きな売り場であることだろう。以下、具体的に各特長と内容を述べていく。
(1)会員制
会員制はコストコの最大の特徴で、差別化のポイントだ。高価値イメージを植え付けることができる。そのほか、品質保証を付けることで、会員との信頼関係を保つことができる。
なお、会員制のメリットとしては以下がある。
①収益の安定化
会員収入に関しては原価が殆どかからない。もちろん、会員管理やカード作成による費用は生じているが、その収入の殆どが収益となる。つまり、会員が増えれば増えるほど、収益も比例して増えていく。また、会員数が保たれることで、収益の見込みが立ちやすくなって安定化する。
②囲い込み
顧客の囲い込みを行うことで、様々なメリットを享受できる。継続的にコストコの利用者を保てること、コストコファンをつくることで、広告を使わなくとも口コミで会員に宣伝してもらうことができること、継続的に顧客データを蓄積してマーケティングに活かすことができる。
(2)マーチャンダイジング
その商品計画についても大いに特徴があり、コストコの収益構造を支えている。
①低い粗利率
通常の小売店では粗利率を20~30%としているところ、コストコは粗利率15%以下としている。ちなみに2022年の粗利率は10.48%であった。これを可能としているのは会員制だ。会員収入で収益を確保しているからこそ、この低粗利率が実現できる。
②商品数を絞る
一見コストコというと、大きな売り場で大量の商品が置いてあるかと思うかもしれない。実は、コストコの商品は3700種類とかなり少ない。これは、セブンイレブンなどのコンビニエンスストアと殆ど同じ種類だ。
例えば、歯磨き液はリステリンしかない。歯磨き粉はクリアクリーンしかない。通常の薬局では10種類ほど置いてあるだろうこれら商品が、殆どないのだ。ただ、このことが次の項目にある高回転率を産み出している。
③大量仕入れ高回転率
コストコでは、バイヤーが見定めた高品質商品しか扱わない。例えばドレッシングでいえばピエトロなどの品質が高く人気もある商品だ。これをコストコサイズといわれる数倍大きいパッケージで販売している。
売れる商品に絞って大量に仕入れることで、低価格での販売と高回転率を生み出している。コストコの在庫回転日数は約31日と小売店の中でも短く、低い粗利率でも安定した利益を生み出すことにつながっている。
④バイヤーを特化させない
通常、高品質で多様性のある商品を揃えるためには、専門的なバイヤーの力が必要になる。しかし、コストコでは敢えてバイヤーをジャンルごとに専門的に特化させるようなことをしない。商品について詳しくなりすぎると、こだわりが強くなってしまう恐れがあるからである。コストコではバイヤーを細分化せず、食品と非食品に分けているだけである。そして、1,2年ごとにバイヤーの分野を入れ替えている。
(3)楽しいスーパーマーケット
私は2か月に1回の頻度でコストコに行くが、そこでの感想はいつも「楽しかった」である。他のスーパーマーケットでは味わえないワクワク感。これは、かつてソール・プライスがスーパーマーケットにエンターテインメント性を求めていたことに繋がっている。
①非日常感
まずコストコに入ると、色々なことに驚かされる。通常の倍以上あろうかという大きなショッピングカート、高い天井、むき出しのダクト、パレットの上に積み上げられた商品の数々。倉庫の中で買い物をしているような気分になる。普段見ることの無い光景に非日常感を覚える。
②たくさんの試食試飲コーナー
コストコには、10か所程の試食試飲コーナーがある。フルーツ、身体にいいドリンク、おかずになりそうな食品だけでなく、日本酒やお米までもあってバリュエーション豊富である。また、魅力的で味わいたいと思うような商品が試食試飲の対象となっているので、どの試食試飲コーナーも行列ができている。
③大容量(コストコサイズ)
コストコの商品を見ていくと、その容量の大きさに驚かされる。普通のスーパーマーケットでは売っていないようなサイズ感だ。大人気のディナーロールパンはなんと36個入りである。
ちなみに、私が愛用しているトイレットペーパーは、それ単体でもかなり大きく、トイレットペーパーホルダーにギリギリ収まるかというほどだ。しかもそれが30ロールも入っている。独り暮らしなら余裕で1年もつ容量だ。
④宝探しの感覚
コストコに行くと、毎回新しい発見がある。ライフサイクルの短い商品は1~2か月のペースで新しい商品にしているとのことだ。特に果物のコーナーは毎回定番商品が変わる。実際、春頃に売り出していたアメリカンチェリーが、夏前にはアップルマンゴーに変わっていた。
また、人気のディナーロールパンやロティサリーチキンをはじめ、普通のスーパーマーケットでは売っていないような商品が多い。コストコではないと手に入らない商品がある。
どんな商品があるのか、毎回宝探しの感覚で買い物を楽しむことができる。なお、コストコもその点を意識しており、ホームページには「トレジャーハント」という項目がある。
⑤リーズナブルなフードコート
私がコストコで楽しみにしていることとしてフードコートでの食事がある。とにかく大きくて安くて美味しい。ジュースも飲み放題だ。やはり人気なのか、常に長蛇の列ができている。ホットドッグ(180円)はオニオンかけ放題で人気の商品である。
ちなみに、私はピザ(380円)を必ず注文する。外はカリカリで中はフワフワの生地に、サラミソーセージやチーズがたっぷり乗っている。このピザを食べるだけでもコストコに来た甲斐がある。
3.コストコの成功要因
コストコの大きな特徴として、会員制、商品戦略、エンターテインメント性を挙げた。これらの特徴があるからこそ、コストコは成長し続けているのだと考えられる。どの点に成功要因があるのか。以下述べていきたい。
(1)年会費を取る理由~収益構造(ビジネスモデル)~
以下の表をご覧いただきたい。過去3年分のコストコの営業損益だ。2022年の粗利は10.48%と、通常の小売店と比べて低いことは前述の通りである。対売上高比率を見てみると、会員収入が営業利益3.5%のうち1.9%と半分以上占めていることが分かる。年度別に比較してもこの構造に変わりはない。
つまり、粗利を抑えたうえで、安定的な会員収入により収益を確保している。会員増加が収益増加につながる構造となっている。ここから、コストコは新規会員数や継続率を重要視し、あくまでも商品戦略は会員への価値提供を重視していることが分かる。
「COSTCO Annual Report」 参照
(2)ポジショニング~高品質なものを低い価格で~
コストコのコンセプトの一つに「高品質なものを低価格で」というものがある。ここが百貨店やディスカウントストアとの明確な違いである。
コストコでは、百貨店では高くて手が出せないが、ディスカウントストアの低品質な商品は買いたくないという中間層を取り入れている。
(3)徹底した効率化
コストコは徹底した効率化を図っている。建物面積の実に90%が売り場である。コストコにはバックヤードが無いのだ。商品を陳列するための導線、買い物客の導線も最短ルートを通るようになっている。生産工場から家庭に入るまで最短で到達するように設計されているのが、コストコである。
また、売れる商品と種類を絞ることで、31日という高回転の在庫回転日数を産み出している。徹底した効率化が低価格での商品販売を可能にしている。
(4)差別化~エンターテインメント性~
筆者がコストコから帰るときの感想は、いつも「楽しかったね。また来たいね」である。まるでディズニーランドから帰るときの感想のようだ。非日常感でワクワクする感覚がそうさせているのかもしれない。
これは他のスーパーマーケットとは明らかに違う点である。ジム・シネガルの「自分は売り場という劇場で、レジがチーンという音をたてるのを聞くのが何よりも好きだ。」という発言からも、エンターテインメント性を重視していたことがうかがわれる。
4.今後の課題
ここまで、コストコがなぜ年会費を取るのかという観点から、ビジネスモデルと成功要因について述べてきた。一方で今後の課題もあるように思う。
(1)商品の多様化への対応
近年目覚ましい技術の向上と情勢の変化で、商品の多様化が進んでいる。既存の商品は日に日に陳腐化し、日に日に目新しい商品が出てくる。その中でもヒット、ベストセラーと言われる商品が出てくる。
コストコでは、バイヤーが見定めた高品質商品しか扱わない。仕入れても売れなければ意味がない。そもそもの商品数を絞っているので、魅力のない商品だとそのまま売れ残ってしまう恐れがある。
ただ、単に人気商品というだけであれば、いつかは飽きられてしまう。サプライズも必要で、ここでしか手に入らないと思われる商品も大切だ。商品の多様化へいかに対応するか。ここにバイヤーの力量が試されている。
(2)商品以外のサービス模索
以下に2020年と2022年の収益の内訳をグラフで示した。「Warehouse Ancillary and Other Businesses(補助事業、他事業)」の割合が3.8%程増えており、金額にすると1.7倍ほど伸びている。この「Warehouse Ancillary and Other Businesses(補助事業、他事業)」は具体的にはフォトサービス、補聴器サービス、ガソリンスタンドなどがある。
特にこのガソリンスタンドはガソリンを低価格で販売している。現在ガソリン代の急高騰が連日ニュースを賑わしている。8月半ばに差し掛かり、ついにレギュラー180円/ℓを超えた。ゆくゆくは200円/ℓを超えると言われているところ、コストコのレギュラーガソリンは全国平均で169.4円/ℓ(令和5年8月30日現在)にとどまっている。
ドライバーであれば、これだけでも会員になる価値がある。商品以外でのサービスを模索することで、新たな層への会員獲得が可能になる。今後も商品以外でのサービスを模索していくことが求められる。
「COSTCO Annual Report」 参照
(3)ECとリアル店舗
現在、Amazon始めECサイトは隆盛を極めている。リアル店舗に行かなくても商品が手元に届く時代である。コストコはその点、独自のECサイトを運営しているものの、ECサイトでは先ほど述べたエンターテインメント性を生かすことができなくなってしまう。
会員が何を求めているのか改めて探る必要があるように思う。商品なのか、店舗の雰囲気なのか、フードコートなのか。私見ではリアル店舗あってのコストコであると思っているので、リアル店舗ならではのエンターテインメント性を追求していってほしいと思っている。
5.まとめ
コストコは、魅力的な商品を揃える、低価格で販売する、エンターテインメント性を高めることで会員へ価値を提供している。その価値は何かと追求することで、会員が増え、収益へと繋がる。
顧客への価値提供に特化して収益を増やすこの構造は、会員制ビジネスの真骨頂だ。かつてソール・プライスは、「会員と従業員と長期的な信頼関係を結ぶ」ことを理念として掲げた。顧客への価値提供はこの理念の基本的要件に過ぎない。低価格のガソリンスタンドもこの考えから生まれたのだろう。
思えばソール・プライスは、まず顧客への価値提供を、高品質な商品を低価格で販売することだと考えた。一見高品質と低価格はアンチテーゼだ。ソール・プライスは、クライアントの取引先という何気ない出会いから、会員制という発想を得てこれを可能にした。そして、これがコストコの独自のビジネスモデルを作り上げた。
私は、この変哲の無い出会いから着想を得る過程が非常に面白いと思った。発想転換のヒントはここにあるのだろう。アンチテーゼにぶつかると悩んでしまう。だが、悩むからこそ着想のきっかけが得られる。悩みぬくことの大事さをこの事例から感じた。
アンチテーゼにぶつかり悩むことは多いだろう。このコストコの事例が少しでもその助けになれたら幸いだ。
【参考文献】
- 「Costo Annual Report」
- 佐藤生美雄(2021).「日本人の買物を変えた『コストコ』がなぜ強いのか」 商業界
- 堀江匡平(2023).「Costco 競合ウォルマートと比較して分かった高賃金・高給料コストコのビジネスモデル」 Independently published
- 中沢明子、古市憲寿(2011).「遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか?」朝日新書