縮小市場で多店舗展開を続ける青山フラワーマーケットの成功要因とビジネスモデル

縮小市場で多店舗展開を続ける青山フラワーマーケットの成功要因

「一度使ったことのあるチェーン店だからと思って利用したが、この店舗は期待外れだ」

チェーン店を利用したときにそんな印象を持つことがある。

多店舗展開をするうえで、店舗間でサービスクオリティやブランドイメージをいかに保つことができるかは重要な課題だ。

一般的にチェーン展開が難しいとされている「花屋業界」で、全国に店舗を展開し売上を伸ばしている会社がある。それが「青山フラワーマーケット」だ。

黒や茶色を基調としたレンガやパレットを用いた内装や、直接触れられる近さで花を選べる庭園のような店舗づくりで、一目見るだけで「青山フラワーマーケット」とわかる。

そういった店舗づくりはもちろんだが、花束という作り手のセンスが重要になる商品であっても、おしゃれだが気取らないイメージがどの店にもある。

「青山フラワーマーケットならどの店舗でもセンスのいい花が買えるだろう」という信頼感が私にはあり、買うつもりがなくてもついつい立ち寄って眺め、小さな花束を買ってしまう。どの店舗でも癒されて気持ちがリフレッシュするのだ。

なぜどの店舗でもクオリティやブランドイメージが保たれているのか。

なぜ、チェーン展開が難しい縮小市場であっても好調に売上を伸ばし続けることができるのだろうか。

この記事ではそんな疑問に答え、多拠点ビジネスを行ううえで重要な3つのポイントについて紹介する。業界や業種が違っても共通する重要なポイントなので、ぜひ参考にしてもらいたい。

1.チェーン展開が難しい花屋業界

青山フラワーマーケットについて分析をするまえに、「なぜ花屋はチェーン展開が難しいのか」についてお伝えしよう。

全国に花屋は15,903店あるといわれているが、全国にチェーン展開をしている会社は少ない。業界最大手の日比谷花壇であっても、店舗数は約190店舗でシェア率は1.1%。つまり、ほとんどが個人店か地域を絞って店舗を展開している会社なのだ。

チェーン展開が難しい理由は3つある。

  1. 鮮度が重要視される商品であること
  2. 生活必需品ではなく嗜好品として扱われていること
  3. 規格化がしづらいこと

生花は野菜や魚と同じく、鮮度が重要になる商品だが、野菜や魚と同じような頻度で花を買うという人はあまりいない。それは花が生活必需品と認識されていないからだ。

総務省の『家計調査』によれば、世帯当たりの「切り花」に対する年間支出金額は1997年に13,130円となってから、不況の影響もあって徐々に減少傾向にあり、2022年には7,992円まで減少している。(表1)

贈答用の花束は、来店後に要望をききながらセミオーダーで作ることも多い。いろいろな花を揃え、技術やセンスのある人材も必要だ。そのため商品の規格化が行いにくい。

仕入に対して廃棄率が高くなり、利益が安定して確保しづらいことが、花屋のチェーン展開が難しいといわれる理由だ。

世帯当たりの切り花の年間支出金額

表1  世帯当たりの切り花の年間支出金額 総務省『家計調査』より引用
※1999年までは農林漁家世帯を除く2人以上の世帯の全国平均
2000年以降は農林漁家世帯を含む2人以上の世帯の全国平均

2.会社概要

株式会社パーク・コーポレーション概要

表2 株式会社パーク・コーポレーション ウェブサイトより引用

青山フラワーマーケットを運営する株式会社パーク・コーポレーションは、1988年に現在も代表を務める井上英明氏によって設立された。

当初はイベント企画運営事業としてスタートしたが、1989年から生花販売業を始め、1993年に青山フラワーマーケット南青山本店をオープンさせた。ここから、本格的な生花小売業を開始したのである。

その後20年で店舗数は90店舗まで拡大し、2023年現在では、国内都市部を中心に118店舗、海外にはロンドンとパリに2店舗を展開している。

売上も好調だ。2020 年は新型コロナウィルス流行の影響もあり、一時的に売上高を落としたが、2021年には回復。2022年の売上高は105.7億円だった。(表3)

株式会社パーク・コーポレーションの店舗数と売上

表3 株式会社パーク・コーポレーション ウェブサイトより引用

基本理念として“Living With Flowers Every Day”を掲げ、単に生花を販売するのではなく、
花や緑のある空間の提供をするサービス業として自らの事業を位置づけ、スクール事業やカフェ事業、空間デザイン事業も展開している。

3.青山フラワーマーケットのビジネスモデル

次に、青山フラワーマーケットのビジネスモデルとして特徴的なものを紹介する。

“Private & Daily“に特化した品揃え

青山フラワーマーケットの代名詞ともいえる商品が「ライフスタイルブーケ」だ。

店頭には、495円~935円という1,000円以下の小さなブーケが、グラスブーケ、キッチンブーケ、ダイニングブーケと名づけられ店頭に並んでいる。

買ってそのままグラスに入れるだけで、花や緑のある生活を気軽に取り入れることができる。ワンコイン以下でも購入できる手軽さから、花の衝動買いを可能にしたのがこの商品だ。

実際に私も駅前で待ち合わせをしているときにこのブーケを見て、かわいらしさと安さに魅力を感じ、友人へのちょっとした手土産や自宅用に購入した経験がある。メインのプレゼントに添えるようなちょっとしたプレゼントにもおすすめだ。

『家計調査』によれば、1世帯当たりの1か月間の「切り花」の支出金額は平均666円、国産花き生産流通強化推進協議会が行った「花店利用者調査2021年度」では、ホームユースの切り花の許容額は平均862円という調査結果もある。

こうした消費者の動向からも、青山フラワーマーケットのライフスタイルブーケは購入しやすい価格設定になっている。

青山フラワーマーケットが設立された当時、贈答用や仏花用の花をメインに扱う店がほとんどであった。青山フラワーマーケットは自宅用の花をメインにすることで、新しい価値を市場に提供したのである。

ターゲットに合わせた出店

“Private & Daily”に特化している青山フラワーマーケットの出店場所といえば、駅ナカ、駅チカ、ショッピングセンターの入り口というような人通りの多い場所が多い。

“Private & Daily”で個人需要を訴求するのであれば、住宅街に店舗を出店するという選択肢もある。そのほうが、出店コストも抑えられるだろう。しかし、青山フラワーマーケットは店舗面積が小さくとも、駅ナカ、駅チカの出店に特化している。

その理由を井上氏は「日常の花はわざわざ出かけなくとも身近な所で購入したい方が多いから」と言っている。

実はこの出店戦略が、結果として切り花を購入する頻度が低い世代への訴求にもつながっている。

切り花の購入金額について、令和4年の世帯主年齢別年間購入額を見ると、60歳以上の購入額は平均より高く、20代から50代は平均以下である。中でも、20代から40代は平均を大きく下回る。これは20代から40代という勤労世代の購入額や頻度が少ないということもできる。(表4)

令和4年世帯主年齢別の「切り花」の年間購入額

表4 令和4年世帯主年齢別の年間「切り花」の支出金額 総務省『家計調査』より引用

確かに、私の住んでいる地域でも商店街の花屋は遅くとも夜7時には営業終了となる店が多く、日曜日は定休日だ。帰宅途中に花屋がなければ、仕事終わりに商店街で花を買うチャンスも余裕もない。

その点、青山フラワーマーケットは駅の近くにあり営業時間も住宅街の花屋より長い。もし利用している駅にあれば、仕事終わりでも買い物のついでに立ち寄ることができる。こうした立地が、普段花を購入しない20代から40代への購入促進につながっているのではないだろうか。

ただし、「ついで買い」を狙った花のマーケティングは他社でも積極的に行われている。例えば、産地直売所や道の駅、雑貨店、カフェ、衣料品などでも花を取り扱う店が増えている。

その中でも、ユニクロの”Life Wear”や無印良品の”感じよい暮らしと社会”というブランドコンセプトは青山フラワーマーケットとも共通点があり、価格帯も類似している。

知名度も高く、「花屋で花を買う」という敷居の高さを感じさせずに「ついで買い」ができるので、花屋に入りにくいという男性にも利用しやすいだろう。

競合は花屋だけではないなかで、いかに差別化を行っていくかが今後さらに重要になる。

低い廃棄率

一般的に花の廃棄率は高く、約30%といわれており、その廃棄率の高さは「フラワーロス」として社会問題にもなっている。

その中で、青山フラワーマーケットの廃棄率は約2%とかなり低い。青山フラワーマーケットが比較的リーズナブルな価格で商品を提供できる背景にはこの廃棄率の低さが関係している。

一般的な花屋は、廃棄による在庫ロスを補うために販売価格が高くなってしまうが、青山フラワーマーケットでは、廃棄率が低いので、販売価格を抑えることができるからだ。

なぜ、青山フラワーマーケットでは低い廃棄率を維持することができるのか。それには3つの理由がある。

店舗が「売れる花を選ぶ」

実は店舗に発注の権限の8割がゆだねられている。本部はブランドとしてのクオリティを揃えるために「青山フラワーマーケットらしい花」をリスト化する。
次に各店舗がその店舗の立地、客層等にあった花を、リストから選んで発注する。

「個人客向けの日常使いの花」にこだわりがあるからこそ、一番お客様に近い各店舗の責任者が発注の裁量を持つのが特徴だ。「その店舗らしい商品」にこだわることで、売り切れる品揃えになっているのである。

高い仕入れ頻度

東京の花市場であれば、月水金がセリだが、個人の花屋はそのうち2回しか仕入れに行かないということも多いそうだ。一方で青山フラワーマーケットは毎回セリに行く。そのため、月曜日には火曜日までの2日分しか仕入れる必要がない。

また、切り花が売れれば、火曜と土曜の鉢物のセリに行き、鉢物で売り場を埋めるということも行っている。仕入れ回数を増やすことで適正な量を仕入れて売り切ることが重要なのである。

店舗同士の連携

青山フラワーマーケットの出店はある程度同じエリアにまとまっている。在庫が不足していれば、LINEグループでのやり取りで在庫を融通しあうことができているという。

こうした取り組みによって低い廃棄率を維持し続けている。

4.青山フラワーマーケットの成功要因

ここまで、青山フラワーマーケットのビジネスモデルについて特徴的なものを紹介した。こうしたビジネスモデルが青山フラワーマーケットの成功に影響していることは間違いない。

しかしながら、これは根本的な成功要因ではないと私は考えている。次にあげる3つのポイントが根本的な成功要因であり、それは、他の業界・業種においても重要な視点になるはずだ。

  • 理念浸透によるブランド価値観の共有
  • 現場への積極的な権限委譲
  • クオリティを担保する人材育成

理念浸透によるブランド価値観の共有

パーク・コーポレーションのウェブサイトには「社長ブログ」という、井上氏自らが執筆したブログがある。創業の思いや”Living With Flowers Every Day”という基本理念、「お客様が一番上、次は現場スタッフ、社長は一番下」という考え方など、同社が大切にしていることについて、社員だけでなく社外の人間であっても読むことができる。

店舗アルバイトスタッフの研修には井上氏が必ず参加して、企業理念などについて話すようにしているという。

このように代表自らが積極的に発信を行うことが、理念浸透につながっている。

カフェ事業や空間事業など他事業への展開や商品の開発についても、同様に基本理念からその展開理由を説明でき、基本理念をもとにした経営というものを一貫して行っているのだ。

だから、社員にもビジョンが説得力をもって伝わる。そうやって同じ価値観をもった人が集まって組織になっていることで、多店舗展開をしても一定のブランド価値を提供できるのだ。

現場への積極的な権限委譲

青山フラワーマーケットは積極的に現場への権限委譲を行っている。先述した発注についてだけでなく、スタッフの採用についても各店舗が採用を行っている。各店舗の売上ノルマも本社は決めずに、店舗の責任者が売上目標を決めている。本社はその結果を日報でチェックする。

「お客様に一番近い現場のスタッフが、お客様のことを一番理解している」という考えで、現場のスタッフにその店に必要な商品や人材を選ぶ裁量を与えている。

自分が発注した商品がなぜ売れなかったのか。日々の売上や来客数を振り返ることで、店舗担当者が自分で課題を見つけて改善に努めている。

このように店舗の成長と人材の成長が紐づいている。

人材の成長には、権限委譲が必要だということがよくわかる。

クオリティを担保する人材育成

青山フラワーマーケットの店舗ではクリエイターとマネジャーという役割を設け、主要店舗では店長職をショップクリエイターとショップマネジャーが2人で担っている。

ショップクリエイターが店頭づくりや店舗の表現を担い、ショップマネジャーが利益管理やスタッフの配置を担当する。

役職の上ではこの2つに優劣はなく、スタッフはどちらを目指しても構わない。また、チャレンジして向いてなければ再度マネジャーからクリエイターに、クリエイターからマネジャーに転換することも可能だという。

これは、店舗がクリエイティビティを持ちながら、経営としても現実的な成果をだすという点で成功しているだけでなく、様々な適性をもつ人材が活躍できるキャリアパスにもなっている。

人事制度としては具体的に「LEAF」と呼ばれる独自のレベル分けが行われており、技術や表現、経理やCSの試験を受けてスキルを積み上げていけるのだ。

店長職以上のキャリアパスについてもどのような人事制度が設計されているのかは気になるところではあるが、店舗のもつ裁量の大きさとレベル分けによる教育が、人材育成につながっていることは間違いない。

店長とは代表が3か月に1回は面談を行い、課題の把握や対策について考えているという。

新店をオープンさせたくても、任せられる人材がいなければ拡大はできない。

一定のクオリティを保つための技術力やマネジメント力のある人材を権限委譲や人事制度の仕組みだけでなく、面談によるフィードバックも行いながら育てているからこそ、多店舗展開をしても売り上げを伸ばし続けることができるのだ。

自社のビジョンを示すだけでなくそれをどのように戦略として具現化し、浸透させるためにリーダーシップを発揮するか。

価値観に合う人材を育成するためにどのような仕組みや取り組みを行っていくかが、多拠点ビジネスにおいてクオリティやブランドイメージを保ちながら成長を続けるために最も重要だ。

<参考・引用一覧>