部下のやる気に火をつける「情熱のマネジメント」

情熱のマネジメント

情熱で分類した場合、人は5つのタイプに分類される。

  • 発燃性の人:他人のやる気に火をつけることができる人
  • 自然性の人:自らやる気を奮い立たせることができる人
  • 可燃性の人:他人から影響を受けてやる気を出せる人
  • 不燃性の人:何をやってもやる気にならない人
  • 消燃性の人:他人のやる気を消してまわる人

 
初めてこの分類を聞いたとき、「へぇー、面白い例えだな」と唸ったものだが、唸ったところで結果が出ることはない。

自分も含めた自チームに、どのタイプがいるかを把握し、やる気をマネジメントしていく。

情熱のマネジメント。今回はこのテーマで考えてみたい。

 

1.摩擦を歓迎することで「発燃性の人」になる

マッチやライターなしで、たき火をしたことがあるだろうか。

小さい頃、ボーイスカウトに所属していたことがある。ボーイスカウトでは、サイバイバル・スキルを磨くために、マッチやライターを使わずに火をつけることが求められた。

木をこすりつけて、摩擦で火を起こす。原始的なやり方から学ぶことは多い。摩擦がなければ、熱は起きず、熱がなければ火はつかない。発火するには、とにかく摩擦熱が必要だ。

マネジメントでも同じことが言える。

部下からの反発を恐れてはいけない。意見対立を恐れてはいけない。様々なアイデアがあるから結果が出る。反対意見があって初めて、自分の意見を検証することができる。自らが「発燃性の人」になりたければ、摩擦を恐れず歓迎しなければならない。

部下の意見に耳を傾ける。これが情熱マネジメントの第一ステップだ。マズローとか、内発的動機づけがどうのとか、難しいことを考えている暇があったら、注意深く部下の意見に耳を傾けよう。

 

2.「自然性の人」に期待をかける

木をこすり続けて、ようやく小さな火がついたら、次に何をすべきだろうか。口でそーっと息を吹きかけて、火に風をおくる。物が燃えるには酸素が必要だ。風が強すぎると火は消えてしまう。そーっと吹く。これがコツだ。

マネジメントでも同じことが言える。

「自然性の人」についた火を、大きな炎に育てるためには、適切な「期待と負荷」が必要だ。

「適切」とは、火の大きさを見極めるということ。火が小さいのに、ガンガン風をおくり込むと、火が簡単に消えてしまう。「期待しているから、厳しいことを言っているんだ!」という上司がいる。期待しているのは理解できるが、部下がプレッシャーで潰れてしまわないか、よく見極めるのがマネジメントだ。

部下に見合った「期待と負荷」をかける。これが情熱マネジメントの第二ステップだ。「あなたのためだから~」を免罪符として使っていないか、よく考えよう。どんな炎も最初は小さい。

 

3.「自然性」の火を使って、「他燃性」に火をつける

たき火の炎を大きくするコツは、薪と薪の間に隙間を作ることだ。隙間がないと酸素が行き届かないから、燃えやすい薪でも、いずれ火は消えてしまう。上手く隙間を作っておけば、既に火がついている薪から、新しい薪に火が燃え移る。きっちり隙間なく並べるのではなく、少し不細工な櫓を組むイメージだ。

マネジメントでも同じことが言える。
 

(1)意図的に隙間を作る

上司がずっと風をおくり続けるだけがマネジメントではない。ある程度勢いがついたら、部下だけで燃え続けてもらう。主体性に注目する。主体性を持ってもらうためには権限移譲が必要だ。几帳面な上司ほど部下の全てをコントロールしたがるが、やり過ぎると酸素不足で部下が窒息する。意図的に隙間を作らないといけない。

(2)連鎖しやすいように並べる

情熱の連鎖を生むために、「自然性の人」と「可燃性の人」で、切磋琢磨してもらう。常に上司が発燃し続ける必要はない。燃えやすい者同士、上手く並べておくことだ。上司に言われるより、同僚に言われたほうがやる気になることもある。

 
部下の主体性に任せ、部下同士で切磋琢磨するよう仕向ける。情熱マネジメントの第三ステップだ。自分が炎の中心にいないと気が済まないタイプの上司は、注意しなければならない。1人ができることには限界がある。チームに化学反応を起こすことが上司の仕事だ。

 

4.燃えやすい順に燃やす

たき火をするときに、大きな薪から燃やすことはない。大きな薪には火がつきにくい。小さな火を大きな炎に変えていくためには、燃えやすい順に燃やしていく。新聞紙や藁、細い枝から燃やしていく。大きな薪は最後に燃え始める。

マネジメントでも同じことが言える。

「可燃性の人」にも、燃えやすさの程度がある。誰から順番に火をつけていくか、戦略が肝心だ。

大きな薪は「頑固な部下」のイメージだろうか。可燃には違いないが、「どうして燃えないんだ!」と叫んだところで簡単には燃えてくれない。しかし、一度火がつけば煌々と燃え続ける。頑固な部下は不燃物ではない。

新聞紙や藁は燃えやすいが、すぐ燃える尽きる。「ノリは良いが、飽きっぽい部下」「忍耐力がない部下」のイメージだろうか。たき火の序盤には重宝するが、最後は脇役になってしまうことが多い。

部下を注意深く観察し、適材適所でチームを作ろう。これが第四ステップになる。情熱にも適材適所がある。

 

5.「消燃性の人」から部下を守る

たき火で一番怖いのが雨だ。丹精込めて育てた火が、一瞬で消えてしまう。ボーイスカウトでは、ビニールシートなどで簡易的な屋根を作って懸命に火を守った。それでも、雨風が強ければ火は消える。火を育てるためには時間と労力が必要だが、火が消えるのは一瞬だ。

マネジメントで、特に注意が必要な点と酷似している。

部下にやる気を持ってもらうには労力が必要だが、やる気をなくすのは一瞬だ。部下のやる気が失せないよう、細かい気配りをしなければならない。情熱のマネジメントで一番大切なことは、火が消えないようにすることだ。大きな炎になっていれば多少の雨風に負けることはないが、火が小さいときには集中力が必要になる。

マネジメントで「雨役」を演じる人は誰だろうか。
 

(1)他部署の人

悪意はないかもしれないが、他部署の人が「消燃性の人」になってしまうことがある。部署間の利害対立は組織の常である。開発部が営業部に文句を言ったり、事業部が人事部に注文をつけたり。よくあることだ。

気を付けるべきは、部署間調整を部下に丸投げしないこと。部下が一般社員で、調整相手が他部署の管理職である場合、特に注意が必要だ。役職の違いはパワーの違いになることがあるから、雨風が強い可能性がある。

(2)お客様・取引先

お客様や取引先を「消燃性の人」とするのは礼儀知らずかもしれないが、実際にはある話だ。真面目な部下ほど、お客様からの何気ない一言で鎮火してしまう傾向がある。お客様や取引先とどのようなやりとりをしているか、常にアンテナを張っておくことが大切だ。そっとフォローを入れて、リラックスするよう伝える。

(3)ベテラン社員

若手はベテランの愚痴を聞かされる運命にある。愚痴を聞くのが嫌でも、ベテランを邪険に扱うことはできない。ベテランが降らせる雨は、上司がビニールシートで受け止める。

(4)上司の上司

時々、自分(上司)を通り越して、指示を出してくる「上司の上司」がいる。たまにであれば問題はないが、常に飛び越してくると、問題に発展する。雨とまでは言わないが、強い風となって、たき火の薪ごと吹っ飛ばす。飛び越してこないよう、常にコミュニケーションをとっておくことが肝心だ。

(5)上司本人

雨男/女のランキング1位は、他ならぬ上司本人だ。部下との接点が多く、影響力が強いため、降水頻度・降水確率・降水量のどれをとっても他を圧倒する。

「発燃性の人」を演じているつもりが、自分自身が「消燃性の人」になってしまうことがある。これではいつまで経っても火はつかない。発燃と消燃を繰り返されると、部下は狼狽する。

「消燃性の上司」が持つ特徴は以下のようなものだ。

  • 不公平である
  • 疎外感を与える(所謂、仲間外れ)
  • 指摘しかしない
  • 部下を抑えつける
  • 部下の愚痴を言う
  • やたらとヒステリック
  • 全てを管理したがる
  • 自分の優秀さをアピールしないと気が済まない
  • 「上司の上司」の言いなり
  • 言行不一致
  • 飲みに行きたくないのに、執拗に誘ってくる

特に、「公平感」「連帯感」「成長実感」を阻害すると、火が消えやすい。これらは、やる気の三大要素だ。
 

火が消えないようにすること。自分が火を消さないこと。これが情熱マネジメントの第五ステップ。
このステップに細心の注意を払っていこう。

 

6.まとめ

クライアントの幹部や人事部の方と話していると、「夜中まで喧々諤々議論を交わしている、熱い社員を見なくなった。最近の若者には情熱が足りない。」と嘆いておられることがある。

その一方、研修で持ち上げる人材は協調性が高く、建設的なコミュニケーションができる人だ。協調性とか、コミュニケーションスキルとか、確かに大切かもしれないが、摩擦熱だって同じぐらい大切だ。主張が強い人材は時として不愉快だが、大きく化けるのはそういう人材ではないかと思う。

今一度、「情熱のマネジメント」を見直してみてはどうだろうか。

 

今回は入門編として書いた。機会を改めて応用編を書いてみたい。「新しい薪を集める」「濡れた薪を乾かす」「炭を重宝する」「不燃物の判断方法」「火を見守る」など、いくつかポイントがある。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
 
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