システム思考でマネジメントプロセスを改革する

論理的思考や水平思考(ラテラル・シンキング)はビジネスに有効な思考方法であると思う。

特徴を一言で表現すれば、論理的思考はロジックツリーに代表されるように、やや直線的な思考方法である。水平思考は枠を取り外すことに主眼を置いているため、やや発散的な思考方法である。

いずれも有用なものではあるが、実際の世の中はもっと複雑であり、因果応報という言葉にもあるように、物事は循環的に起こっていることが多い。

大きく捉えれば論理的思考の範疇にあるが、少し趣向を異とするものに「システム思考」がある。循環的に物事を捉えることで、本質を見極めようとする考え方である。
 
thinking type2
 
今回はシステム思考でマネジメントを良くできないか、考えていきたい。

1.ダニエル・キム「組織の成功循環モデル」

システム思考でマネジメントプロセスを捉えたものに、「組織の成功循環モデル」がある。とても良くできている考え方なので、これをたたき台にして考えていく。

提唱者であるダニエル・キム曰く、組織を成功に導くには、以下のような循環を描くことが理想である。

  1. 関係の質:お互いに信頼し合い、一緒に考える
  2. 思考の質:気づきがある
  3. 行動の質:自分で考え、自発的に行動する
  4. 結果の質:結果がでる
  5. 関係の質:さらに信頼関係が深まる

逆に、結果が出ていない組織は以下のような悪循環に陥っている。

  1. 結果の質:結果がでない
  2. 関係の質:対立、押し付け、命令する
  3. 思考の質:受け身で聞くだけ
  4. 行動の質:積極的に行動しない
  5. 結果の質:さらに結果がでない

 
Daniel H. Kim
 

管理職の方であれば、グッドサイクル、バッドサイクルの両方を経験したことがあると思う。

素晴らしい成果を上げている企業の中には、「関係の質」や「思考の質」を経営理念を通してマネジメントしている企業が多い。例えば、全世界に展開している家具屋の「IKEA」。

IKEAのバイブル「ある家具商人の言葉」には、グループ共通の価値観である「イケア・バリュー」が示されている。それは10項目で表現され、社内では「10バリュー」と呼ばれている。

  • 自らが手本となること
  • 常に刷新を求める
  • 連帯感と熱意
  • コスト意識を持つ
  • 現実を直視する
  • 謙虚さと意志力
  • 違うやり方でやってみる
  • 責任を担い、委任する
  • 簡潔
  • いつでも「目標へと続く道の途上」

理念経営が有効である理由は、ここにある。「関係の質」「思考の質」を、理念でマネジメントしようとしていることがわかる。

しかし、実際のマネジメントプロセスはもっと泥臭く、絵に描いたようなグッドサイクルを描くのはそれなりに難しい。そこで、ここからはもう少し実態に合わせて考えてみる。

 

2.実際のマネジメントプロセス

管理職の役割を端的に表現すれば、

結果を出すこと
人材を育成すること

である。

結果に対して責任を負うのが管理職の役割であるから、実際のマネジメントプロセスは結果の確認から始まる。

結果が出ていれば問題はない。笑顔で部下を褒めることができ、上司と部下の関係も良好なものになりやすいだろう。まさに「成功循環モデル」にあるグッドサイクルに向かうことができる。

逆に、結果が思うように出ていなければ、次に何をすべきだろうか?結果の原因になっている行動を確認することになる。つまり、グッドサイクルとは逆方向にマネジメントプロセスは動いていく。

例えば営業レビューの場面。

上司:顧客面談の結果はどうだった?(結果の確認)
部下:契約できませんでした。
上司:そうか。ちゃんとクロージングをかけた?(行動の確認)
部下:いえ、お客様がもう少し検討したいということだったので、あまり急がしてはいけないと思いまして…
上司:次回からはきちんとクロージングをかけようね。(行動の修正)
部下:わかりました。次はお客様の背中を押すようにしてみます。

結果が出ていない場合は、「結果」→「行動」の順でレビューしており、グッドサイクルとは逆方向にマネジメントしていくことになる。

これだけであれば良いが、実際には部下が反論してきたり、修正した行動を心から受け入れないことがある。

上司:次回からはきちんとクロージングをかけようね。(行動の修正)
部下:無理に契約を迫るのは良くないと思います。選ぶのお客様ですから。
上司:いや、無理強いしろということではなくて、お客様が迷っているときには、背中を少し押して差し上げることも営業の役割なんだよ。(思考の強要)
部下:私だったら自分で考えてじっくり決めたいんで、プッシュされるのは嫌です。
上司:…。いや、そうじゃなくて。

行動の修正を受け入れてもらえない場合、思考についても言及していくことになる。部下に納得してもらえなければ、それは「思考の強要」であり、いつかは「関係の質」に悪影響を及ぼしていくことになる。

仮に「行動の修正」を受け入れてもらった場合でも、1つの行動を直しても結果が出ないことはよくある。結果は様々な行動の集積として出るものであるから、「行動の修正」が即結果につながるとは限らない。

上司の言うことを聞いても結果が出なければ、やはり「思考の質」や「関係の質」に悪影響を及ぼす。

このように、理想は「関係の質」から改善していくというものだが、実際のマネジメントプロセスは、逆方向に動かしていくことが多く、なかなか理想に近づけるのが難しい。「行動の質」を修正すべく、日々モグラ叩きをするように悪戦苦闘している間に、組織が崩壊してしまうのである。
 
management cycle
ではどうすれば良いか。

 

3.「行動」「結果」のみを追求すると何が起こるか

1つの手段として、「行動の修正」を完璧に行うという手段がある。

実際に、優秀な管理職の中には、事細かに指示を出し結果を完璧にコントロールできる人がいる。売上が倍々ゲームで伸びている企業の中には、結果に応じて高額の歩合を支払うことで、社員の行動をコントロールしている経営者がいる。

こうした管理職や経営者が、後々大きな代償を支払うことになることをシステム思考は教えてくれる。

成功循環モデルでは一つの循環しか描いていないが、システム思考はもう少し奥深い。一つの循環が回る過程で、副産物が形成されて、別の循環が回るというものがある。

先の管理職の事例で言えば、いつも完璧な指示を出し続けると「受け身の社員」が生まれやすい。トップダウンのベンチャーにあちがちな傾向だ。

歩合制の会社は短期的な成果は出やすいが、目先の利益ばかり追求し、「顧客をないがしろにする組織」になりやすい。営業組織にありがちな傾向だ。

深く考えずに「行動」と「結果」のみをマネジメントした場合、後々、別の問題に直面することになる。そして、それらの副産物は「関係」や「思考」に関するものが多い。
 
bad cycle

 

4.理想的なマネジメントプロセス

成功循環モデルは綺麗事に聞こえるかもしれないが、短絡的にマネジメントプロセスを回すだけでは、組織を成功循環に導くことはできない。

理念経営を実践している企業のように、両輪でマネジメントプロセスを回していくことが好ましい。

バッドサイクルの方向で、結果確認を行い、行動も修正するが、それを上回るパワーでグッドサイクルを回すしかない。

その際に、バッドサイクルの方向で確認するのは、行動のところまでで一旦止めたほうが良いと考える。行動を修正するために、思考を修正しようとすると、「信頼関係に影響を及ぼすような」やりとりになりやすいからだ。

大幅な行動修正を行う場合は、面倒がらずにグッドサイクルの方向で、「関係の質」から改善していくのがセオリーではないかと思う。

real cycle

 

5.まとめ

システム思考は奥が深い。生態系はじめ、様々な物事は循環を成しているため、直線的・発散的に考えるだけでは捉え切れない事象が沢山ある。

一度システム思考で、マネジメントプロセスを見直してみてはどうだろうか。マネジメントにおける「結果」と「原因」を違った角度で眺めることができるはずだ。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。
 

この記事を書いた人
中川 渉
株式会社PIS(ピース) 代表取締役。石川県金沢市生まれ。大阪大学工学部を卒業。㈱日本エルシーエーに入社し、住宅不動産のコンサルタント、研修事業の事業部長、執行役員を務める。㈱SPRIXに転職し、ヒューマンリソース部長、コンテンツ開発部長、新規事業室長を務める。2013年に株式会社PISを設立し、管理職研修を中心に年間150~200回の研修講師を担当する。
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