就職活動の時期によく聞かれる質問の1つとして、「大量採用」の会社と「厳選採用」の会社どちらを狙うべきか?というものがある。
学生から聞く話として、できれば「厳選採用」の会社に入り、ちょっと自慢したい、いい思いをしたい、という人が多いが、話はそう簡単ではない。
実は、大量採用というのは決して悪いことではない。「量」というのはパワーであり、イコール発言権でもある。
「大量に仲間がいる」ということは、それだけ競争も激しいが、逆に「環境整備をしてもらいやすい」というメリットもある。
そういったことを踏まえて、結論としては、
「専門技術」の仕事は厳選採用の会社に入る
事をめざすのが良いだろう。理由は、以下のとおりである。
まず、新卒採用の考え方には2通りある。
「出来る限り良い人だけを採用しよう」というタイプの採用
なぜこのような違いができるのか。それは「結果が出るまでの期間」の長短による。
比較的結果が出るまでの期間が短い仕事、例えば1年〜3年程度で結果が出る仕事は、「仕事で選抜する」ことが可能だ。このような職種は、とりあえず入れた後で実力を測る「大量採用」をすることができる。
それに対して結果が出るまでの期間が長い仕事、たとえば新卒が一人前になるのに最低3年、きちんとしたことができるようになるまでには5年以上かかるような仕事は、「適性」と「結果がすぐに出なくても継続する努力」がかなり問われる。
その場合は「厳選採用」をせざるを得ない。「適性」は変え難いし、「やっぱり向いてない…」が5年後にわかることは本人にとっても、会社にとっても大きな不利益だ。
以上のように大量採用、厳選採用それぞれには特徴があり、一概にどちらが良い、と言えないものである。
本題に戻ろう。
以上を踏まえると、学生に「大量採用」の会社と、「厳選採用」の会社、どちらを狙えばいいの?と聞かれたら、
技術職の強い仕事をしたいなら「厳選採用」で、技術をじっくり身につけること
を目指さなくてはいけない。
逆に、これらの反対のことをやっている会社、たとえば「営業を厳選採用」もしくは「技術者を大量採用」は、例外はあるが、あまりスジが良くない。
まず営業だが、「営業」は結果が出るまでの期間が短い仕事である。
「入社3年目でNo.1営業マンになりました」といったサクセスストーリーは、実はそれほど珍しくない。売れる人は、経験の如何にかかわらず、売れるのが、営業の特徴だ。
また「営業」の本質的な部分として、「売れる人」が事前に判断しにくい、ということもある。これは、扱う商材、顧客が法人か個人か、納品までの期間など、会社によって求められる能力が大きく異なるためだ。
逆に言えば「化ける」人が多いのも営業という職業の特徴だ。何かをきっかけに、急に何かをつかみ、一気に成果をあげる人もいる。
したがって、営業は「厳選採用」に向いていない。まず売ってもらわなければ、実力がわからないのだ。
余談だが、上の話を鑑みると、営業職の人はある会社で成果が上がらなかった時にはさっさと転職するのも一つの選択だ。例えば、
「不動産」はサッパリ売れなかったが「システム」を売るのは得意だ
「食品」はサッパリ売れなかったが「教材」を売るのは得意だ
などといった話は、いくらでもある。
対して「技術」は異なる。
本来、技術者は、長いこと一つの仕事にじっくり取り組んで、ようやく一人前になる性質の仕事であり、育成コストがかかるため大量採用にはそぐわない。
あるシステム会社の、技術上がりの経営者は「どう考えても、新卒がどこへ行っても通用する技術を身につけるためには8年から10年はかかる。」と言う。「だから、うちの技術者は中高生からプログラミングをやっていたような人しか採用しない」のだそうだ。
技術職は「とりあえず入れて」しまうと、その人の適性や知識とそぐわない仕事だった、というケースも少なくない。
本人にとってみても、技術にじっくり取り組まずに、次々に職を変えるのも良くない。結局「専門」がなくなってしまう。
また、「適性」を営業に比べて採用前に測定しやすいのも技術職の特徴である。なぜなら「専門技術」はある程度汎用的なものだからだ。
もちろん、細かい技術は会社固有のものも多い。だが、基本的な動作や知識は、会社固有の物ではない。特にITなどは技術はある程度「全世界で規格化」されている。
したがって、技術者は「厳選採用」せざるを得ない。新卒を採用する場合は、特に「適性のある人をじっくり育てる」のが会社にとってベストな選択になる。
余談だが、技術者を大量採用している会社は「あまり技術力が高くなくてもできる技術者」が欲しいのだ。
そんな会社に入る意味はあまりないし、キャリアが傷つく原因ともなる。
技術職の強い仕事をしたいなら「厳選採用」で、技術をじっくり身につけること
これさえ覚えておけば、大丈夫だ。
参考