はじめに
家具業界やインテリア業界は長らくニトリや、IKEAといった大手企業が実店舗を中心にシェアを拡大してきたマーケットである。
特にニトリは垂直型統合モデル(企画・製造・物流・販売をすべて対応)で成功を収め、圧倒的な存在感を放っている。
業界全体としては、依然として店舗販売が主流である一方、近年ではネット通販(EC)の急速な普及により、販売チャネルに変化が生じている。
そのような中、実店舗を持たず、ネット販売に特化した経営戦略で、年商300億円を超える売り上げを実現しているのが「タンスのゲン」である。
注目すべきは、2004年に実店舗を完全撤廃し、インターネット販売一本に舵を切った決断だ。この大胆な決断こそが、飛躍的成長を支えた最大の要因ではないだろうか。
この大きな決断はチャネルの変更にとどまらず、「選択と集中」を徹底したビジネスモデルの構築へとつながっている。
実店舗運営のコストを無くし、商品企画、品質、物流、カスタマー対応などに資源を集中させ、高品質かつ低価格な家具の提供を可能にした。
本記事では、タンスのゲンがどのようにしてEC業界で成功を収めたのか、ビジネスモデルや成功要因を紐解きながら、中小企業でも実践可能なヒントを探っていく。
1.会社情報
(1) 会社概要
社名:タンスのゲン株式会社
設立:昭和39年1月
代表取締役:橋爪 裕和
事業内容:家具・寝具・家電・インテリア用品等のインターネット通販事業
本社所在地:福岡県大川市大字下林310-3
売上高:330億円(R6年 7月期 国内)
従業員数:133名(R7年 4月現在)
(2) 会社内容
株式会社タンスのゲンは、家具・インテリアを中心に生活用品全般の企画・輸入・販売を行う、ネット通販に特化した企業である。
実店舗を持たず、Amazonや楽天、自社ECサイトを通じて全国の顧客に商品を届けるビジネスモデルで、現在も成長を続けている。
同社のルーツは、1964年に婚礼タンスの製造メーカー「九州工芸」としての創業したことにある。2002年にネットショップを立ち上げる際、当初はタンスを主力商品とする予定だった。
ショップ名を決める必要があり、「タンスの○○」という形式を参考に、「タンスのゲン」と命名した。社長の次男「玄徳(げんとく)」の名から「ゲン」をとったのが由来だ。
業績は右肩上がりに伸び続けている。2024年7月期売上高は、前期比25%増の330億円だった。
2025年7月期も好調に推移しており、売上高は同10%増の360億円前後を見込んでいる。
タンスのゲンの売上推移表 タンスのゲンHPより引用
(3) 沿革について
1964年 創業 婚礼家具メーカー「九州工芸」としてスタート
2002年 楽天出店 ネット通販開始、「タンスのゲン」誕生
2004年 実店舗を完全撤退、ネット専業に転換
2008年 社名を「タンスのゲン株式会社」に変更、本社移転
2009年以降 専門店を多数展開(寝具・収納、ベビーなど)
2015年 海外販売スタート、ホールディングス化
2017年 年商100億円突破
2023年 3代目社長・橋爪裕和氏が就任
2024年 年商300億円突破
2.タンスのゲンの成功要因について
(1) 顧客主義 × 顧客満足の徹底
①サイズや色などを細かく記載
タンスのゲンがネット通販で成長を続けられている理由として、顧客にとっての「買いやすさ」や「安心感」にとことんこだわっている点にある。
その象徴的な工夫の一つが、「商品情報の圧倒的な丁寧さ」である。
家具のネット購入では、「サイズが思っていたより大きかった」「届いた色が写真と違う」といった通販によくある失敗が起こりがちだ。
タンスのゲンではこうした不安を解消するために、商品ページにサイズや素材感、使用シーンの写真、光の当たり方による色の違いなどを細かく記載している。
見るだけで使用感がイメージできるように工夫されたページ構成は、2025年にテレビ番組『がっちりマンデー!!』でも取り上げられた。
こうした情報設計の工夫により、
・購入前にイメージギャップが少なくなる
・返品やクレームが減る
・レビュー評価が高まり、購入率が上がる
という好循環が生まれている。
私自身、タンスのゲンでテレビ台を購入したことがあるが、商品ページには幅・高さ・奥行きだけでなく、棚の内寸や耐荷重が非常に丁寧に記載されており、事前に設置イメージをしっかり持つことができた。
実際に商品が届いてみても、記載されたサイズ感や色味に全くギャップはなく、「イメージと違う」といったECにありがちな失敗がなかったことも驚いた。
このようにして顧客が「実物を見られない」という弱点を補うために、商品ページを徹底的に磨き込んでいる。
②レビュー・問い合わせ即時対応
タンスのゲンは、「売ったら終わり」ではなく、レビューや問い合わせへの即応を徹底している。スピーディーな顧客対応を支えているのが、販売とカスタマーサポートの両部門を自社内に持っているという体制である。
社内に顧客と向き合う部門を抱えることで、現場の声を直接拾い、社内で素早く共有・改善につなげることが可能となっている。
さらに、タンスのゲンでの顧客対応と高精度な業務運営を支えているのがプラットフォームで構築された受注管理システム「GOURY」の存在だ。
このシステムは楽天・Amazon等14のEC店舗からの注文を一元管理しカスタマーサポート部門で受注・確認対応を集中処理している。
また受注・在庫・発送を一括で管理できるほか、カスタマー対応では約300種類のテンプレートから最適な返信文を自動で選定している。
これにより、人を大量に雇わずとも高回転・高精度なEC運営が可能になっており、変化の速い市場にも柔軟に対応できる仕組みが構築されている。
この自動化によって顧客一人ひとりに応じた丁寧な対応ができるようになり、顧客からの支持を得られるようになった。
こうした仕組みは、単なるカスタマーサポートの枠を超えて、顧客との対話を原動力とした商品改善とサービス向上の仕組みをつくり出している。
つまり、タンスのゲンは「聞く力」と「すぐ動く力」に加え、それを実行できる社内体制を構築しており、顧客満足度を向上させている。
③当日発送(土日祝も対応)
タンスのゲンは土日祝を含む当日発送対応という強みを活かして、顧客満足度の向上を実現している。その裏側には、AmazonのFBA(Fulfillment by Amazon)と自社倉庫のハイブリッド運用という戦略的な物流体制がある。
AmazonのFBA(Fulfillment by Amazon)とは出品者に代わりAmazonが商品の保管・梱包、発送・カスタマーサービスを行う物流代行サービスのことだ。
橋爪社長によると、FBAは大型商品の取り扱いに対応し、かつ配送品質が高い点が競合他社に対する優位性であり、配送スピード・配送日通知などの機能が顧客にとって大きな安心感と利便性につながっているという。
実際、FBAから出荷される商品は「早く届く」「配送日時が明確」といった理由から、Amazonで購入するユーザーの満足度とリピート率が高まっている。
④アマゾンに合わせてシステムを変える
加えて、同社ではFBAに適したサイズ・梱包設計を前提とした商品開発も進めており、物流効率そのものを商品企画段階から考慮することで、配送コストの高騰化にも対応している。
また、FBAに適さないサイズの商品については、自社倉庫(2,000点以上の商品を在庫管理)からの発送を行い、注文から1〜5営業日以内に出荷している。
この二重体制により、大型家具でも迅速な配送が可能なオペレーション体制を整え、顧客満足度向上に寄与している。
(2) 商品力 × 独自性と品質へのこだわり
①スピード感のある、独自性のある商品開発
タンスのゲンは、単なる仕入れ販売型のEC企業ではない。自社開発商品(PB:プライベートブランド)が95%以上占める開発型のEC企業である。中でも開発スピードの速さは特筆すべき点だ。
同社は、2023年だけで約1,000点のPB商品を市場に投入している。これを可能にしているのが、以下のような開発体制である。
・レビューや問い合わせの声をもとに、即座に改善や新企画に反映
・製造はファブレス(外部パートナーと共創)型にすることで、柔軟性とスピードを確保
・販売・カスタマー対応・商品企画をすべて自社で内製化し、社内で即完結する高速PDCAサイクル
さらに、橋爪社長は「既存の商品に改めて価値を付け直すことに成功できたことが大きい」と語る。
これは、単に新しいモノを作るのではなく、「今ある商品に、顧客視点から新たな意味や役割を与える」という、付加価値をつける力があるということだ。
例えば、タンスのゲンではロボット掃除機に対応したダイニングチェアなど、日常のちょっとした不便を解消するアイデア商品も多数取り揃えている。
脚の形状や高さを工夫することで、掃除の手間を減らし、家事の効率化に貢献している。こうした細部のへのこだわりやアイデアが開発力の高さを物語っている。
また、タンスのゲンは大手がやらないニッチな領域も積極的に攻めている点にも特徴がある。
ファン活動を楽しむ人のために設計された「推し活タンス」といったニッチでユニークな商品も展開している。
グッズを飾りながら収納可能であり、「見せる収納」を前提にした設計になっている。
そのためファン活動を楽しむユーザーのニーズを的確に捉えている。
こういったニッチなライフスタイルに寄り添った特化型商品を手がけており、市場規模が小さくても開発をやりきる顧客主義の姿勢が、大手との差別化につながっている。
つまりタンスのゲンは、「声を拾う力」「すぐ形に反映する力」「オリジナリティのある付加価値をつける力」を兼ね備えた企業である。
ロボット掃除機対応ダイニングチェア タンスのゲンHPより引用
②タンスのゲンの品質のついて
タンスのゲンは、低価格で高品質な家具を提供するために、目に見えない部分にまでこだわった品質管理体制を構築している。
同社では、「取引監査システム」を導入しており、以下のようなステップで品質を段階
的にチェックしている。
(a)新商品の検討・検査 企画意図を理解したスタッフと第3者機関で実施
↓
(b)生産時には現地に“匠”と呼ばれる専門スタッフを派遣し、検品・指導
↓
(c)入荷後にも社内で管理・検査を行い、不良品の流通を防止
↓
(d)レビューや返品内容をもとに商品改善レポートを作成し、PDCAを回す
これにより、単なる一時的なチェックではなく、製品が市場に出る前から出た後まで一貫した品質モニタリングが行われている。
単に製品を「つくってもらう」のではなく、つくる相手の品質管理力そのものを評価し、育てる仕組みが整っている。このように、タンスのゲンの「品質」は、商品のスペックだけではなく、安心して買える仕組みそのものが設計されている。
見えない部分にこそ手を抜かないこの姿勢が、レビュー評価の高さやリピート率の高さにもつながっている。
(3) マーケット拡張 × BtoB展開
タンスのゲンは、BtoC(個人向け)だけでなく、BtoB(法人向け)市場にも積極的に展開している。
2024年には法人専用のECサイト「GENtoB タンスのゲンBUSINESS」を立ち上げ、法人顧客がスムーズに商品を注文できる環境を創設した。
もともと個人向けに特化していたWEBサイトでは、「法人としては注文しづらい」という声が多数寄せられており、それを解消する形で誕生した。
このサイトでは、BtoC領域で培ったノウハウを活かし、一般的な問屋よりも安価で在庫を確保できる仕組みが特徴である。
さらに、2,000点以上の商品を自社倉庫で一括管理しており、在庫がある商品は原則として1〜5営業日以内に出荷可能となっている。
家具・寝具・家電・アウトドア用品・ペット用品・ベビー用品といった幅広い商材を取り扱っており、配送先は法人・事務所・倉庫などの「受取人のいる届け先」に限定されている。
これにより、再配達を防ぎ、コストを下げて価格に還元するという効率的な物流を実現されている。
また、法人専用に見積もり・別注対応・大量納品対応などを行う専門スタッフを配置されている。たとえば寝具分野では、スリープアドバイザーによる無料相談を実施しており、利用シーンに応じた細かな要望にも対応できる体制を整えている。
3.タンスのゲンのビジネスモデルについて
(1) 無店舗型ビジネス:実店舗ゼロでネットに一点集中

タンスのゲンは、実店舗を一切持たないネット専業の家具・インテリア販売企業だ。
楽天・Amazon・Yahoo!などの主要ECモールに出店するほか、自社サイトも運営し、全国の顧客に直接商品を届けている。
この「無店舗型」は家賃や店舗人件費などの固定費を最小限に抑えることを実現している。また、リアル店舗を持たないことで在庫・物流拠点を集約でき、商品企画やCS対応なども一極集中を可能にしている。
これにより、低価格・高品質・高スピード配送を同時に成立させることが可能になっている。
実店舗型の企業がECにも手を広げる場合、販路が増える一方で業務も複雑化し、選択と集中が難しくなりがちである。タンスのゲンのように、はじめから無店舗に特化したモデルとは、本質的に異なるアプローチと言える。
さらに、タンスのゲンはネット販売に100%集中しているため、ネット上での競争力を一点集中で高めてきたという特徴がある。
ネット広告運用、商品ページの最適化、レビュー分析、SEO対策など、オンライン市場で成果を出すためのノウハウが社内に蓄積されており、他社と差別化し、競争優位性を築けている。
(2) DX効率運用:仕組みで回す持続可能な成長体制
タンスのゲンは、事業拡大にあたって「人的リソースの拡大」に依存せず、DX(デジタル技術)を活用して少人数でも高効率に事業を運営するモデルを採用している。
たとえば、レビューや売上のデータをシステムで自動収集・分析し、商品改善やページ修正に即座に活用している。
また問い合わせ対応や出荷状況の管理もツール化されており、オペレーションの標準化と省力化が徹底されている。
2023年度の売上は261億円、従業員数は113人。これに対し、2025年度の売上は360億円(見込み)、従業員数は133人となっている。
この2年間で従業員数は20人の増加にとどまる一方、売り上げは約100億円の伸びており、単純計算で1人当たり5億円の売上増を実現している。
日本では今後ますます人手不足が深刻化すると言われている。そうした中でタンスのゲンは、「人を増やさなくても、システムと仕組みで成長し続けられる会社」を目指している。
これは時代に先回りした経営戦略であり、労働力に頼らず成果を出し続けられる企業体質を築こうとしている点に、大きな強みがある。
(3) 共創・ファブレス:つくるのはパートナー、考えるのは自社
タンスのゲンは自社で製造部門や工場を持たない「ファブレス」型のビジネスモデルを採用しており、商品企画に特化することで競争力を高めている。
製品の製造は、信頼できる国内外のパートナー企業に委託し、タンスのゲンは設計に集中している。
外部の専門家や製造パートナーと一緒に商品をつくることで、タンスのゲン単独では思いつかない新たなアイデアや技術を取り入れることができるのも、大きな強みになる。
固定的な工場ラインや社内設備に縛られることなく、市場のスピードに合わせた商品展開が可能になっている。
つまり、タンスのゲンは社外の力を取り込むことで、独自性と柔軟性を両立させた商品開発体制を築いている。
4.まとめ
タンスのゲンの成功要因は、顧客の声に真摯に耳を傾け、スピーディーに反映する顧客主義の徹底、そしてネット通販における家具販売という前人未踏の分野で、独自性と品質を兼ね備えた商品力を磨いてきたことにある。
それを可能にさせたのは選択と集中を行い、EC型に振り切ったことではないだろうか。
また個人向け販売に加え、法人・施設などへのBtoB展開を推進することで、新たな市場も着実に開拓している。
変化の激しいEC業界において、選ばれ続けるためにタンスのゲンが行ってきた取り組みは、まさに顧客視点・商品力・市場戦略による好循環と言える。
そして現在、タンスのゲンはさらなる飛躍を見据え、「2040年に売上高1,000億円」という高い目標を掲げている。国内市場だけにとどまらず、海外展開にも本格的に取り組み、グローバルな家具ブランドを目指す。
積み重ねてきた実績とスピードを武器に、これからもタンスのゲンは家具業界の常識を打ち破り、EC時代の先駆者として切り開いていくだろう。






