経営者が管理職に求めるのは、“人間力”だ。
管理職の評価制度を検討していると、多くの経営者がこうつぶやく。
「要は人間力なんだよなー。」
人間力を人事評価に用いることは可能だろうか。
以下、とある評価制度ミーティングの一幕を書いてみたい。
「やれやれ、今日も人間力だ。鈍感力が流行ったときには苦笑したものだが、そのうち、地球力とか宇宙力とかも出てくるに違いない。」
心の中でそうつぶやきながら、会議を前に進める。
まさか“人間力”の一言で、管理職を5段階評価するわけにもいかないので、
「社長の言う、人間力とは何ですか?」
と伺ってみる。
首をひねりながら試行錯誤が始まるが、なかなかまとまらない。傾聴力、包容力、忍耐力、誠実さ、勤勉さ、器の大きさ、愛情、気配り、、、。
様々な切り口が出てくる。人間力とは総合的な何かであって、個別具体的な能力のことではないらしい。
それではと、少し角度を変えて伺ってみる。
「その人間力らしきものがないと、どんな問題が起こるのですか?」
こちらの回答はスラスラ出てくる。まとめると以下のようなことらしい。
- 部下に気配りや声がけができないから、メンタル・体調不良者が増える。
- 部下の気持ちが汲み取れないので、モチベーションが下がる。
- 部下同士の対立を解決しないので、チームの和が乱れる。
- 最悪の場合、本来辞めてなくてもよい部下が辞めてしまう。
なるほど、これらの問題を説明した理論ならば、昔から存在する。それはPM理論と呼ばれるもので、日本の学者である三隅二不二が考案したものだ。
経営者が言う人間力とは、どうもPM理論で言うところの、M:集団維持機能のことらしい。
PM理論とは
「PM理論」はリーダーの行動に焦点を当てた一つの理論だ。
「PM理論」はリーダーシップにおいて「P:目標達成機能」(Performance)と「M:集団維持機能」(Maintenance)という2つの要素を核として定義する。P機能は成果をあげるリーダーシップのあり方を、M機能は成果を生むためのチームビルディングの方法を示す。
「P機能」の具体例としては、戦略立案、目標設定、計画立案、進捗管理、業務効率化、統率に関する指導などが挙げられる。
「M機能」の具体例としては、心理的安全性を高める声がけや配慮、メンバーの悩みやトラブル解消のサポート、各個人の意見や特性を尊重した公平なマネジメント、良好な雰囲気作りなどが挙げられる。
“人間力”が少し具体的になってきた。
管理職の評価項目として、以下のような文章を並べて、社長、役員陣と一緒に眺めてみる。
- 部下に気配りや声がけを行い、部下の体調やメンタルの変化に気づいている。
- 部下の仕事や会社に対する要望や不満を聞き取るようにしている。
- 部下同士の対立やトラブルに気づき、仲裁している。
「ニュアンスは十分わかるので、何となく評価できそうですが、5段階評価で点数をつけるのはちょっと難しそうですね。」と社長。
確かに。管理職の評価は、役員陣・社長の仕事だが、気配りを十分にしているか、管理職をずっと見張っているわけにはいかないので、判断が難しそうだ。
「上司からの評価が難しいのであれば、部下側に評価させてはどうでしょうか。グーグルでも部下評価を取り入れているんですよね?」と常務。
一理あるが、部下が適切に上司を評価できるのだろうか。判断力のある部下もいるだろうが、未熟な部下に、「気配りが不十分」と断定されてしまうのはいかがなものか。
そこで副社長。「確かに、1~5段階で人間力を評価することはできないけど、“人間力がないこと”はなんとか評価できませんか?」
- 気配りをしていない。声がけをしていない。or している
- 要望や不満を聞いていない。or 聞いている
- トラブルを仲裁していない。or 仲裁している
5段階評価は無理でも、0点:していない、1点:している、ぐらいの判断はできそうだ。
これには一同納得。
評価制度には使わず、昇格基準として“集団維持機能”を採用する方向でまとまった。
具体的には、管理職候補者に対して360度評価を行い、“集団維持機能”の点数が低い候補者の昇格は一旦とめて、改善するまで指導することになった。
まとめ:人間力は正確に測定できないが、ある・なしの大雑把な判断ならできそうだ。集団維持機能が大きく欠落する人は管理職にあげない。