外部要因による逆算化傾向は、評価エラーではない?

逆算化傾向とは、本来であれば評価結果をもとに処遇(昇給、賞与、昇格など)を決めるべきところを、処遇から逆算して評価を決めてしまうことを指す。

例えば、以下のような状態は、逆算化傾向である。

  • 部下を昇格させたい。そのためにはS評価をつけないといけないので、本来はA評価だがS評価になるように調整した。
  • 部下の家計が苦しそうなので減給は避けたい。D評価をつけると減給になってしまうので、本来はD評価だったが、C評価になるように調整した。

結果から逆算して評価をつけるので、逆算化傾向と言う。評価を歪めてしまう行為で、典型的な人事評価エラーの1つとされる。

評価を歪める行為を、中間管理職がやってしまうと、経営者としては当然困る。

調整された評価結果が報告して上がってくるため、評価の実態、つまり、実際の働きぶりが見えなくなる。これは結構まずい状態で、経営者の人間不信につながりやすい。

また、本来は低評価をつけるべき社員に、高評価をつけられると、賃金の過払いのような状態になり経営を圧迫する可能もある。

こうした評価エラーが起こる要因は、以下のような「管理職の気持ち」にあるとされてきた。

  • 「部下から感謝されたい」
  • 「部下から不満を抱かれなくない」
  • 「好きな部下の処遇をよくしたい(嫌いな部下の処遇を悪くしたい)」
  • 「今回昇格させないと、辞めてしまうのではないか?」

未熟な管理職に適切な心構えを持ってもらうために、評価者研修を行うなど教育研修を通じて、エラー回避を行うことが有効な対策とされてきたし、弊社でもそうした研修を行ってきた。

しかし、実際の評価現場では、外部要因によってエラーが起こっているケースもある。

例えば、以下のようなことが起こっている。

  • 「優秀な社員がライバル企業から引き抜きにあっていて、何かしら手を打たないといけない。」
  • 「若手社員が、待遇が良い同業他社に次々と転職している。」

こうした状態を避ける苦肉の策として、評価を調整してしまうケースもあるのだ。

人材の流動化や、情報収集の容易化が加速しているため、外部から管理職に対して圧力がかかっている。このような状態で、研修を行い、あるべき心構えを伝えても効果は期待できない。

効果が期待できないどころか、管理職の中には、「経営者と社員の板挟みになりながら苦しい調整を行い、むしろベストを尽くしているんだ。」ぐらいの錯覚をしている人もいる。

外部要因を会社として受け止めて、賃上げなり、待遇の改善を行う必要があるように感じる。賃上げが難しくとも、成長機会を提供する、やりがいを感じてもらうための工夫を行うことなど、何かしら会社としての施策が必要だ。

人事に限らない話だが、内部要因と外部要因をバランスよく課題として捉え、解決していくのが経営だ。

バランスを欠いた経営を行うと何が起こるか。誤った情報が報告されるようになる。今回の話で言えば、調整された評価結果が経営者の手元に届く。

弊社クライアントの管理職には、外部要因を理由に処遇を変更したい場合は、評価は評価として報告してもらい、外部圧力がかかっているとしても、評価結果は変えずに、圧力自体を報告するようお伝えしている。