人事評価制度の事例をわかりやすく解説!最新の傾向と重要ポイント

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「自社の人事評価制度を見直したい」
「どんな制度があるのか、具体的にイメージしたい」

そのようなときには、まず人事評価制度の事例を見るのがおすすめです。

先進企業は、年功序列からの脱却は当然として、成果主義や目標管理制度(MBO)の弊害を解決する新たな打ち手を講じています。

最新事例のチェックを怠ると、時代錯誤の古い評価制度を導入することにもなりかねません。

そこで本記事では、学ぶべきポイントが多い先進企業の人事評価制度事例をご紹介します。

本記事のポイント
  • 厳選した4社の人事評価制度の事例をわかりやすい解説とともに紹介
  • どのような手法があるのか具体的にイメージできるようになる
  • 成功のカギとなる重要ポイントをレクチャー

人事評価制度の改定や新規導入を検討する前に、ぜひご一読ください。

新たな視点や注意すべきポイントが見つかり、自社にとって最適な人事評価制度を構築するために役立ちます。

ではさっそく1社目の事例から見ていきましょう。

1. 人事評価制度の事例(1)ニチレイフーズ

ニチレイフーズ
出典:ニチレイフーズ

1社目にご紹介するのは「株式会社ニチレイフーズ」です。

ニチレイフーズが採用している人事評価制度は「コンピテンシー評価」と「目標管理評価」のハイブリッド型です。

その背景から見ていきましょう。

1-1. ニチレイフーズのモットーは『ハミダス』

人事評価制度をご紹介する前に、ニチレイフーズが大切にしている価値観を見ておきます。

ニチレイフーズの社員のモットーは『ハミダス』です。
 
 

出典:ニチレイフーズ

実際に、社員のハミダス気持ちを形にする「ハミダス活動」を展開しています。

従業員のハミダス気持ちをカタチにするニチレイフーズ独自の活動です。ミッション・ビションの実現を目的に、明るく、元気で、風通しの良い会社を目指す従業員向けの活動と、ニチレイフーズの想いや冷凍食品の良さを社外に伝える生活者向けの活動を私たちは“ハミダス活動”と呼んでいます。

出典:ハミダスに込めた想い | 冷凍食品・冷凍野菜はニチレイフーズ

「明るく、元気で、風通しの良い会社」を目指すニチレイフーズは、どんな人事評価制度を導入しているのでしょうか。次項で見てみましょう。

1-2. 昇給昇格は「コンピテンシー評価」・賞与は「目標管理評価」で評価

ニチレイフーズの人事評価制度は、「コンピテンシー評価」と「目標管理評価」の2本立てとなっているのが特徴です。

コンピテンシー評価コンピテンシー(常に高業績をあげ続けている優秀な人材に共通する行動特性)を評価する手法
目標管理評価(MBO)期初に設定した目標の達成状況を評価する手法

コンピテンシー評価

コンピテンシー評価は「行動」に焦点をあてた評価制度で、ニチレイフーズの行動指針である「ハミダス」も、コンピテンシー要素に含まれています。

ハミダスの他にも、ニチレイフーズが掲げるミッション・ビジョンを実現するためには、どんな行動がふさわしいかが入念に検討され、ひとつずつ作り込んだ自社オリジナルのコンピテンシーを評価項目として採用。

日常の意識啓発や行動変容を促しています。

目標管理評価

一方、コンピテンシー評価だけでなく「目標管理評価」も導入されています。

目標管理評価の目的は「組織目標の達成」と「自己管理によるマネジメント」です。

組織目標と個人目標を連鎖させることで組織目標の達成を推進すると同時に、個人目標の設定により社員の自己管理を促しています。

評価の反映先を昇給昇格・賞与で分ける

コンピテンシー評価と目標管理評価の2つの手法を採用しているニチレイフーズですが、それぞれの評価の反映先を分けている点が特徴的です。

コンピテンシー評価は「昇降格および昇降給」に反映され、目標管理評価は「賞与」に反映されます。

「複数の評価制度を導入したいけれど、評価結果の反映方法が難しい」とお悩みの企業であれば、大いに参考にしたい事例です。

参考:労務行政研究所「先進企業の新人事制度事例集」

2. 人事評価制度の事例(2)メルカリ

メルカリ
出典:株式会社メルカリ

2社目の事例としてご紹介したいのは「株式会社メルカリ」です。

メルカリは、トレンドをいち早く取り入れた人事制度を展開していることで有名ですが、メルカリの人事制度の特徴は、アップデートし続けていること。

数年前と今では、まったく異なる制度になっています。

ここでは本記事執筆時点で最新のメルカリについて、ご紹介しましょう。

2-1. メルカリのバリュー

ここでもまずはメルカリの価値観からご紹介します。

彼らが掲げているのは、「大胆にやろう・全ては成功のために・プロフェッショナルであれ」という3つの強いメッセージです。

メルカリ私たちについて

出典:私たちについて | 株式会社メルカリ

メルカリの人事制度は、実際に大胆であり、成功に対して貪欲であり、プロフェッショナル精神が詰まっています。

2-2. 2021年2月「メンバーの活躍を“大胆に”報いる」大幅アップデート

メルカリの人事評価制度は、2021年2月に大幅アップデートされています。

それまでのメルカリの人事評価制度といえば、2018年1月に刷新した人事制度における「ノーレイティング」と「絶対評価」が有名でした。

ノーレイティング能力や成果にランク付けを行わない評価制度
絶対評価事前に設定した目標などの特定の基準に基づいて絶対的に評価する手法。目標管理評価も絶対評価のひとつ

ノーレイティングと絶対評価を盛り込んでから3年、現在のメルカリを見てみましょう。

2-3. 新評価制度では「成果と行動を分けて評価」

新評価制度では、成果と行動を分けて評価する点が大きな変化です。

メルカリメルカン
出典:mercan (メルカン)

従来のノーレイティングと絶対評価は、そのまま維持されています(絶対評価は「成果評価」と再定義)。

そのうえで「行動評価」が新たに加わった点に注目しましょう。

先にご紹介したニチレイフーズも、コンピテンシー評価と目標管理評価の2本立てで評価を行っていました。

呼称は違うもののメルカリもニチレイフーズも、絶対評価(成果、目標達成)だけでなく、そのプロセスや企業の価値観に合う行動を評価する仕組みを取り入れている点が、興味深いところです。

詳しくは本記事の終盤でまとめとして解説しますが、背景にあるのは、「目標管理評価・絶対評価の弊害や限界」に気付き始めた先進企業が、その解決策を模索して人事評価制度を見直していることです。

これから人事評価制度を導入・改定する方には、大いに参考にしてほしいポイントです。

3. 人事評価制度の事例(3)DeNA

DeNA
出典:株式会社ディー・エヌ・エー | DeNA

3社目の事例は「株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)」です。

DeNAは最近耳にすることも多い「360度評価」を実施している事例として、ご紹介しましょう。

360度評価1人の社員に対して上司だけでなく部下・同僚・先輩などさまざまな関係者が評価者となって多角的に評価する手法

3-1. 「透明性」「発言責任」を行動指針に掲げるDeNA

先にDeNAの価値観を見ておきましょう。

行動指針となる「DeNA Quality」には、“「こと」に向かう・全力コミット・2ランクアップ・透明性・発言責任”の5つが掲げられています。

DeNAQuality
出典:DeNA

特に「透明性」と「発言責任」は、360度評価を導入するのも納得の価値観といえます。

3-2. 記名制の「360度評価」を実施

DeNAの360度評価の特徴は、記名制であること。「透明性・発言責任」を掲げている以上、記名制にしていると、DeNAの人事担当者が語っています。

匿名でやる場合が一般的だとは思いますが、DeNAには「DeNA Quality※」という社員に求める5つの行動規範があり、その中に「発言責任※」「透明性※」という項目があって、ストレートにものを言う文化を大切にしていますので記名制で行っています。記名制で行ってもなかなか辛辣な意見も出ます。マネージャーに対しても例外ではありません。むしろ厳しいかも(笑)。
出典: DeNA

DeNAの360度評価では、アンケート形式で他社員からダイレクトにフィードバックをもらいます。

記名式で実施することで、改善サイクルが早まり、その後のコミュニケーションも活発になる効果が期待できます。

DeNA360
出典: DeNA

3-3.処遇に反映させる人事評価は「成果」×「発揮能力」を評価

360度評価の実施企業として紹介されることの多いDeNAですが、しかし昇給昇格や賞与を決めるための評価制度としては使っていません。

DeNAにおける360度評価の位置づけはキャリア支援で、従業員をサポートする制度として運用されています。

360度評価の導入を検討していると「実際問題として、どう処遇決定に反映させるのか?」と疑問を持つかもしれません。

しかし実際にはDeNAのように、360度評価は人材育成や組織活性化の目的として導入し、人事評価制度は別の仕組みで運用しているケースが多いでしょう。

DeNAが導入している仕組みは、「成果」を賞与に、「発揮能力」を反映させる2本立ての人事評価制度です。
 
DeNAにおける「発揮能力」は、「個人がどれくらい成長できたのか」という成長度合いを指しています。

実体としては、前述のニチレイフーズやメルカリと同じく「成果×行動」をベースとした評価制度になっているといえます。

参考:DeNAの人事制度に学べ!(前編)

4. 人事評価制度の事例(4)サイボウズ

サイボウズ株式会社
出典:サイボウズ株式会社

4社目の事例として「サイボウズ株式会社」をご紹介します。

サイボウズは、既存の枠組みにとらわれない独自路線の評価制度を運用している企業です。

4-1. 多様な働き方の先駆者であるサイボウズ

サイボウズの人事評価制度を見るうえで押さえておきたいのは、サイボウズは多種多様なワークスタイルを早期から実現してきたことです。

「100人いたら100通りの働き方があってよい」と考えるのがサイボウズです。

性別や国籍などとは関係なく、そもそも人は多様であり誰一人として全く同じ価値観を持っている人はいません。サイボウズでは、「100人いたら100通りの働き方」があってよいと考え、メンバーそれぞれが望む働き方を実現できるようにしています。
出典:サイボウズ

例えば、世間がコロナ禍で強制的にリモートワーク化するよりもずっと以前の、2010年から在宅勤務制度をスタートしています。

4-2. 「その人の市場価値」で決定されるサイボウズの給与

リモートワーク導入後の企業でよく聞かれるのが「リモートワークにおける人事評価の難しさ」ですが、多様な働き方の先駆者であるサイボウズは、どのように人事評価を行っているのでしょうか。

答えは「その人の市場価値」です。

サイボウズの給料は、「あなたが転職したら、いくら?」——で決まっているのです。

このスタイルに行き着くまでに、サイボウズの人事評価制度はさまざまな変遷をたどっています。

サイボウズ評価制度
出典: サイボウズ式

「個別評価は評価を受ける側の納得感がない、360度評価、誰を見て仕事をすればいいか分からない、階層を設けると職種間で不公平感が生じた——」

など、紆余曲折を経て、現在では給与を“社外的価値/社内的価値”の2軸で定めた「市場価値」で決めています。

サイボウズ式出典:サイボウズ式

4-3. 評価面談は部下の成長をサポートするために行う

サイボウズの評価制度がさらに興味深いのは、人事評価の目的を「給与の決定」と「社員の成長のサポート」の2つに分離していることです。

給与の決定は社内の評定会議によって行われるため、そこに上司は介在しません。

では一般的な企業で行われる評価面談(人事評価の結果を伝達し次期の成長に向けてフィードバックする面談)を行わないのかといえば、評価面談は上司が「社員の成長のサポート」を目的として実施するのです。

この面談をサイボウズでは「フィードバック面談」と名付けています。

目的を「給与の決定」と「社員の成長のサポート」に明確に分離して運用することで、どちらの目的も適切に達成しやすくなっているといえるでしょう。

参考:労務行政研究所「先進企業の新人事制度事例集」

5. 成功事例に共通する3つの重要ポイント

4社事例

ここまで厳選した4社の事例を見てきました。

最後に先進企業に共通する重要ポイントを3つ、ご紹介しましょう。

  • 目標管理評価(MBO)だけに依存しない
  • 理念や行動指針との整合性を取る
  • 人事評価制度の見直しは頻繁に行う

5-1. 目標管理評価(MBO)だけに依存しない

1つめのポイントは「目標管理評価(MBO)だけに依存しない」ことです。

2000年代以降、日本国内では目標管理評価を導入する企業が相次ぎました。しかしながら、現在では目標管理評価の問題点も露呈しています。

▼ 目標管理評価の問題点

  • 新しいチャレンジをして失敗した人よりも、失敗を回避して無難にやり過ごした人の評価が高くなる。
  • 設定する目標の難易度によって評価にバラつきが出る。最初から易しい目標設定をした人の評価が高くなる。
  • 設定した目標の達成以外の業務や達成までのプロセスが軽視される。

目標管理評価を導入した結果、組織としての業績が下がる(組織目標が達成できない)といった問題に直面する企業もあり、注意が必要です。

先進企業は、目標管理評価のデメリットをフォローするために、行動やプロセスを評価する手法を併用しています。

ニチレイフーズのコンピテンシー評価や、メルカリの行動評価がこれにあたります。

5-2. 理念や行動指針との整合性を取る

2つめのポイントは「理念や行動指針との整合性を取る」ことです。

本記事でご紹介した先進企業の人事評価制度は、「いかにも、この会社っぽい」と感じられる要素が満載です。

それは決して偶然の結果ではなく、経営者や人事担当者が、常に自社の理念や従業員の行動指針に立ち返りながら制度を作り込んでいるからこそ、できあがっている姿です。

「自社の人事評価制度は、“いかにもウチの会社っぽい”といえるだろうか?」と振り返ってみてください。

理念や行動指針を常に念頭に置き、整合性のある人事評価制度を作りましょう。

5-3. 人事評価制度の見直しは頻繁に行う

3つめのポイントは「人事評価制度の見直しは頻繁に行う」ことです。

数年に1回以上のペースで人事制度を刷新しているメルカリ、実に多くの評価制度を導入しては改訂してきたサイボウズ。先進企業は人事評価制度の見直しを頻繁に行っています。

一般的な企業の中には、5年・10年と同じ制度のまま運用しているケースも珍しくありません。人事評価制度の見直しは、経営の仕事の中でも特に重要という意識が希薄なのです。

人事評価制度を変えると、社員のモチベーションやパフォーマンスが変わり、成果が変わります。

社員の成果が変われば、当然ながら会社の業績が変わるのです。人事評価制度の見直しは、少なくとも2年に1回は行いましょう。

「やった方が良いのはわかっているけれど、時間がない」という方は、外部コンサル会社のサポートを受けることも検討してみてください。

6. まとめ

人事評価制度の先進事例として以下4社をご紹介しました。

企業名導入制度
ニチレイフーズ● コンピテンシー評価
● 目標管理評価
メルカリ● 成果評価
● 行動評価
DeNA● 成果評価
● 発揮能力評価
※キャリア支援として360度評価
サイボウズ● 市場価値による給与決定
● フィードバック面談

成功事例に共通する3つの重要ポイントはこちらです。

  • 目標管理評価(MBO)だけに依存しない
  • 理念や行動指針との整合性を取る
  • 人事評価制度の見直しは頻繁に行う

ポイントを押さえながら、業績向上に直結する評価制度づくりに取り組んでいきましょう。