目標管理は、「目標」を人材マネジメントに活用する組織管理の手法で、多くの企業が人事評価制度と連携させる形で導入しています。
その歴史は古く、1950年代に米国で生まれ、日本国内では1960年代頃より多くの企業が採用するようになりました。
長期にわたって運用されてきた身近な制度ではありますが、実際のところ、目標管理がうまくいかずに伸び悩む企業が後を絶ちません。
そこで本記事では、改めて押さえておきたい目標管理の基礎知識から、現場で起きやすい問題・成功のヒントを解説していきます。
- 目標管理とは何か?を改めておさらい
- 導入企業でよく起きる問題を解説
- 成功させるための重要ポイントがわかる
「目標管理について、初心者向けに教えてほしい」「目標管理を導入して、会社の業績を上げたい」…という方におすすめの内容となっています。
最後までお読みいただくと、目標管理に関して曖昧だった理解が明確になるとともに、自社における運用で何に注意すべきか、具体的に見えてくるはずです。
会社の成長に直結する目標管理の実現に向けて、学んでいきましょう。
1. 目標管理とは何か?基礎知識
まず「そもそも目標管理とは何か?」という基礎知識から解説します。
1-1. 「目標の管理」ではなく「目標によるマネジメント」
最初にお伝えしたいのが、「目標管理」は“目標を管理すること”ではない、という点です。
多くの人が勘違いしている点ですので、整理しておきましょう。
目標管理のルーツは、ピーター・F・ドラッカーが提唱した「Management by objectives(目標による管理)」です。
「目標による管理」を短縮した言葉が「目標管理」であり、管理する対象は目標ではなく「社員」となります。
つまり「目標」というツールを使って、企業が社員をマネジメントする手法が、目標管理なのです。
1-2. 目標管理が生まれた背景
目標管理の生みの親は前述のとおりドラッカーです。
ノルマによって人材を管理する「ノルマ主義」と逆の概念が「目標管理」ととらえると理解しやすいでしょう。
ドラッカーは、1954年に発表した『現代の経営』のなかで、内面から労働者を動機づけすることの重要性を説いています。
ノルマによって強制的に労働を強いるのではなく、目標設定と自己管理によって、社員が自発的に働くモチベーションを高める仕組みが、目標管理の本質です。
2. 代表的な2つの目標管理制度
次に、より具体的に目標管理の中身を見ていきましょう。
現代の企業において導入されている目標管理制度は、MBOまたはOKRに二分されます。
2-1. MBO
MBOは、前述のドラッカーが提唱した「Management By Objectives」の略語です。
社員が上司と合意のうえで個人の業務目標を設定し、一定期間ごとに設定した目標の達成度を評価する手法となります。
具体的には、以下の流れで運用します。
ステップ1 期初に目標を設定する |
|
---|---|
ステップ2 期中に目標を調整する |
|
ステップ3 期末に評価する |
|
※詳しくは「目標管理制度(MBO)とは?メリット・デメリットから注意点まで解説」をご覧ください。
2-2. OKR
OKRは「Objectives and Key Results」の略で、大きな目標の【O】と具体的な数値目標の【KR】を組み合わせて設定し、目標達成を目指すフレームワークです。
インテルの元CEOであるアンディ・グローブが1970年代に考案し、米国のシリコンバレーを中心に活用されてきました。
現代では企業の目標管理制度の一種として、MBOと並んで紹介されることが多くなっていますが、本来のOKRはもう少し広い意味を持っています。
組織の人材マネジメント手法であるMBOに対して、OKRは、例えば個人のプライベートな目標にも応用可能です。
▼ MBOとOKRの違い
MBO | OKR | |
---|---|---|
概要 | 社員が上司と合意のうえで個人の業務目標を設定し評価する、組織における社員のマネジメント手法 | 目標を達成するためのフレームワーク |
対象 | 組織 | 組織でも個人でも幅広く使用できる |
OKRは、Googleが採用したことから注目を集め、国内でもメルカリなどの企業が採用して話題になりました。
※OKRについて詳しくは「目標管理のOKRとは?本質とポイント・MBOとの違い・注意点を解説」をご覧ください。
3. 企業における目標管理の3つの機能
自社で目標管理制度を運用するうえで、きちんと押さえておきたいのが、目標管理の3つの機能です。
- 業務マネジメント
- モチベーションマネジメント
- 人事評価
「どんな働きを期待して目標管理制度を運用するか」を、見ていきましょう。
3-1. 業務マネジメント
1つめは「業務マネジメント」機能です。
社員一人ひとりの業務を、会社全体の業績向上に結び付く方向へ導く業務マネジメントツールとしての側面は、目標管理の最も重要な機能といっても過言ではありません。
言い換えれば、会社が社員に期待する成果や行動を、社員の「個人目標」として掲げ、個人目標達成の積み重ねで会社全体の目標を達成する仕組みが、目標管理といえます。
3-2. モチベーションマネジメント
2つめは「モチベーションマネジメント」機能です。
目標をノルマとして与えるのではなく、社員自身が自ら受け入れることで、内発的モチベーションが生まれます。
内発的モチベーションが生まれると、自らの意欲や関心から行動するため、成果が上がりやすくなりますし成長が加速します。
3-3. 人事評価
3つめは「人事評価」機能です。
広義での人事評価制度には、業務マネジメントやモチベーションマネジメント機能も含まれますが、ここでの「人事評価」は、社員を客観的に評価し、貢献度を処遇に反映させるための評価ツールという意味で捉えてください。
「目標の達成度」を利用した人事評価は、上司にとっては評価しやすく、部下にとっては納得しやすい利点あります。基準が明確だからです。
4. 目標管理で起きやすい3つの問題
さて、ここまで目標管理の基礎知識をご紹介してきましたが、実際に運用すると多くの会社がつまずくポイントが3つあります。
- 期初の目標設定が不適切
- 期中のフォローアップの欠如
- 期末の評価・フィードバックが不適切
以下で詳しく見ていきましょう。
※それぞれの問題に対する対策は次章でご紹介していますので、続けてご覧ください。
4-1. 期初の目標設定が不適切
最も多い問題が「期初の目標設定が不適切」であることに起因するものです。
目標管理では、一定期間(1年、半年)などで期間を区切り、その期間の最初に目標を設定します。
実は、目標管理における問題の多くは、この期初の目標設定にあります。
良い目標は良い結果をもたらしますが、悪い目標は悪い結果をもたらすのです。
目標管理制度に限ったことではないのですが、日本企業は「目標」に対しての認識が、(目標管理の発祥である米国の企業に比較して)弱い傾向にあります。
例えば、とある外資系企業では、入社するなり「Objective」の重要性を叩き込まれ、企画書では「Objective」の項目を徹底的に推敲させられます。
一方、日本企業では、どんな目標が良くて、どんな目標が悪いのか、その知識自体を持ち合わせていないビジネスパーソンが多い実態です。
※具体的にどんな目標が良いのかは、この後「5-1. 「目標設定」の重要性を理解し具体的なやり方を学ぶ」で解説します。
4-2. 期中のフォローアップの欠如
期中のフォローアップが欠如して、会社の業績向上に結び付いていない企業も多く見られます。
目標管理が正しく機能するためには、期初に設定した目標を部下が達成していくプロセスで、上司が適切に介入する必要があります。
具体的には、上司と部下の日常的なコミュニケーション、適切なフィードバック、必要な支援・サポートなどがあって、初めて成り立つのが目標管理制度です。
しかしながら実際は、期初に目標を設定した後は上司と部下の接触が減り、本人任せとなっているケースが散見されます。
目標管理は、部下の主体性を重視する仕組みではありますが、目標設定さえすれば放置して良いものではありません。
目標設定に向けた日々のマネジメントを軽視すれば、会社の業績向上には繋がらないのです。
4-3. 期末の評価・フィードバックが不適切
最後に「期末の評価・フィードバックが不適切」という問題です。
期間中、目標に向かって高いモチベーションで業務に従事した社員が、来期も同じように高いモチベーションを維持できるかは、期末の評価・フィードバックにかかっています。
期末の評価・フィードバックがうまく機能しておらず、逆に社員のモチベーションを下げている企業は非常に多く見られます。
実際、「人事評価の後のタイミングで離職を決意した」という人は多いものです。
社員のモチベーションを来期へと持続させ、さらなる成長を促すためには、評価・フィードバックの質を上げなければなりません。
5. 目標管理を成功させるヒント
では、目標管理を成功させるためには、どうすれば良いのでしょうか。
- 「目標設定」の重要性を理解し具体的なやり方を学ぶ
- 日常のマネジメントの質を高める
- 評価・フィードバックのスキルは全社研修で底上げする
それぞれ解説します。
5-1. 「目標設定」の重要性を理解し具体的なやり方を学ぶ
1つめは「目標設定の重要性を理解し具体的なやり方を学ぶ」ことです。
目標設定に対する意識を根本的に変えない限り、目標管理はうまくいきません。
具体的には、米国企業でよく「良い目標の書き方」としてレクチャーされる「SMART」の考え方が役立ちます。
- ● Specific(具体的な)
- 目標は明確・具体的でなければならない。
- ● Measurable(測定可能な)
- 目標は達成されたことを実証できるよう測定可能でなければならない。
- ● Attainable(達成可能な)
- 目標は現実的で達成可能でなければならない。
- ● Related(経営目標と関連した)
- 目標は経営目標などの上位概念とリンクしていなければならない。
- ● Time bound(期限がある)
- 目標は設定した期限までに達成しなければならない。
具体的な目標設定の手順は、以下の記事も参考にしてみてください。
● 人事評価の目標設定とは?職種別の例文付きで注意点やポイントを解説
5-2. 日常のマネジメントの質を高める
2つめは「現場マネジメントで目標遂行をサポートする」ことです。
目標管理の成果を最大化するために非常に有益なのが「現場マネジメントの強化とセットで導入する」ことです。
というのも、目標管理の制度自体を精緻に設計すること(PLAN)ばかりにとらわれると、失敗しやすくなります。
組織としてのパフォーマンスを引き出すために優先すべきことは、現場での目標遂行(DO)です。 「目標遂行を“どう”やるか?」まで、マネジメント戦略を立てる必要があります。
具体的には、会社として全社共通のルールを定め、マネジャー陣がルールに従って現場を管理する体制を作ると良いでしょう。
▼ 現場マネジメントのルールの例
- マネジャー(上司)と部下が週に1回の1on1ミーティングで密にコミュニケーションを取る
- 月1回、マネジャーが経営陣に部下の進捗を報告し、アドバイスを受ける
- 四半期ごとにマネジャーと部下で中間レビュー面談を行い、必要な調整を行う
5-3. 評価・フィードバックの質は全社の取り組みで底上げする
3つめは「評価・フィードバックの質は全社の取り組みで底上げする」ことです。
期末に実施する人事評価や、振り返りのフィードバック面談の“質”は、来期の業績に直結する重要なポイントといえます。
会社の命運を握る重要なポイントを、「マネジャー個人の資質任せにしない」です。
経営トップの仕切りによる組織的な取り組みを通じて、全社でレベルアップを図らなければなりません。
やり方としては、マネジメントを担当する社員に、専門家による研修やセミナーを受講させるのが、良策といえます。
社内にないナレッジを、効率的に吸収できるからです。
具体的には、「評価者研修」「フィードバック実践セミナー」といったキーワードで調べてみると良いでしょう。
※弊社の「評価者研修」については、こちらの「評価者研修のプログラム例・ポイント・参加者の感想」で詳しくご説明しておりますので、あわせてご覧ください。
6. まとめ
目標管理とは、経営管理手法の一種で、「目標」によって社員をマネジメントする仕組みです。
次の3つの機能を持っています。
- 業務マネジメント
- モチベーションマネジメント
- 人事評価
目標管理で起きやすい3つの問題として、以下が挙げられます。
- 期初の目標設定が不適切
- 期中のフォローアップの欠如
- 期末の評価・フィードバックが不適切
問題をクリアして目標管理を成功させるヒントとして、以下をご紹介しました。
- 「目標設定」の重要性を理解し具体的なやり方を学ぶ
- 日常のマネジメントの質を高める
- 評価・フィードバックのスキルは全社研修で底上げする
目標管理は、きちんと学んで正しく運用することで、大きな成果を期待できます。
本記事をきっかけとして目標管理の本質を見つめ直し、より良い目標管理を実現していただければ幸いです。