人事評価・処遇にメリハリをつけるには?年功序列型人事を廃止する方法

人事評価・処遇のメリハリをつけるには?年功序列型人事からの脱却する方法

「評価にメリハリをつけたい」、「年功序列から脱却したい」という人事課題は、何十年も前からあるが、2020年代になってもこの課題は解決されていないようだ。

実際、弊社に相談にこられる企業の20~30%が、こうした悩みを持っている。特に地方の優良企業など、雇用流動性が低い企業で顕著に見られる傾向だ。

“メリハリのなさ”や、“年功序列”が以下の問題を生んでいる。

  • 「年功序列が、若手社員のモチベーションを下げている。」
  • 「頑張っても賃金に差がつかないので、優秀な社員から辞めていく。」
  • 「処遇にメリハリがないため、能力、モチベーションが高い社員を採用しにくい。」
  • 「これから活躍が期待できる中堅社員を同業他社に引き抜かれた。」

こうした悩みを抱える企業の多くは、年功序列を辞めたいと願う一方で、これまで長く勤めてくれた社員を大切にしたいと考えているため、なかなか大胆な手が打てずにいる。

「バランスをとりながら実力主義の会社にしたい。」といったところが本音だろう。

そこで本記事では、評価のメリハリがつけられない原因、年功序列から脱却できない原因を整理し、その解決策を解説していきたい。

尚、本記事では“メリハリのなさ”と“年功序列”をほぼ同義で扱う。

ここで記載する解決策を全て導入することはできなくても、いくつかを組み合わせるだけでメリハリをつけることができるようになるだろう。

本記事のポイント
  • 4つの制度(等級・評価・報酬・教育)のメリハリのつけ方がわかる
  • 網羅的に原因が把握できるため、自社の人事制度における原因がわかる
  • 解決策を実践すれば、メリハリがつき、結果的に年功序列から脱却できる

1.等級制度でメリハリをつける方法

1-1.降格人事を行う

評価のメリハリ1-1降格人事

いきなり過激なことを書くようで恐縮だが、メリハリをつけたいのであれば、降格人事をきちんと行うことをおすすめしたい。

なぜなら、降格人事がなければ必ず年功序列になるからだ。

ポジションが下がらないわけだから、悪くても横ばいで、長くいれば昇格する機会(査定される機会)が増えるため、緩やかにポジションは上がることになる。

よって、緩やかではあるものの年功序列になってしまう。

別の言い方をすれば、年1回の査定を行う会社だとして、勤続20年の社員なら20回昇格のチャンスがある。

一方で5年勤務なら5回だ。勤続20年の社員は、5年の社員に対して4倍のチャンスを持つことになる。

このような理屈で、降格人事がない会社≒年功序列の会社、ということになる。

「降格人事がなくても、できる社員の昇格スピードを上げればメリハリがつきませんか?」という質問をされることがある。

ポジションや分配できる人件費が無限にあれば確かにそうだが、現実的にそれらは有限であるため、上げ幅は限定される。

つまり緩やかにしか上がらずメリハリはつきにくい。

無期雇用が前提の日本において、降格人事をきちんと行うことは、メリハリ人事の肝だ。

降格人事は勇気がいることだが、再昇格に必要な要件を明示し、チャンスを提供していけば、降格=退職とはならない。

降格や再昇格が普通に起こる会社になれば、降格のインパクトは小さくなっていくので、降格人事のあり方については一度真剣に検討して欲しい。

1-2.等級数を少なくする(役職数を少なくする)

評価のメリハリ1-2等級数

等級数(役職数)はなるべく減らし、フラットな組織にすることをおすすめしたい。

なぜなら、等級数(役職数)の多さも、年功序列に直結するからだ。

等級数が多くなればなるほど、等級間の差異は小さくなる。等級間の違いが小さくなると、その違いを論理的に説明することが難しくなり、昇格審査は曖昧なものになる。

例えば、等級数が20あるとして、13等級と14等級の違いを論理的に説明することは難しいだろう。

役職数においても同様のことが言える。役職を乱発すればするほど、それぞれの役職の違いが曖昧になる。

「等級間の違いが曖昧」≒「昇格基準が曖昧」ということになるので、皆、何となく昇格していくことになる。

ひどい場合は、入社10年目のAさんを昇格させるのであれば、同じく入社10年目のBさんも昇格させよう、という変な人事が行われることになる。

また降格理由を説明することも難しいため、降格人事を行うことが難しくなる。

13等級から14等級に昇格した理由がそもそも曖昧なのだから、降格理由を論理的に説明することはできない。

昇格は曖昧に行い、降格もしないので、メリハリなどは存在せず年功序列につながっていく。

大企業を中心に、等級と役職の圧縮・整理を意図した人事制度改革は終わりつつあるが、中堅中小企業、とりわけオーナー企業では等級、役職が散在していることが多い。

等級、役職を論功行賞の材料としている節があり、材料は多いほうがよいため等級、役職が多数存在してしまっている。

まだ整理ができていないようであれば、指示命令系統の整理、責任の明確化の意味も込めて、一度整理しておいたほうがよいだろう。

1-3.昇降格基準は増減するものを用いる

評価のメリハリ1-3昇格基準

1-3-1.職能、勤続年数など減らないもの昇格/降格基準にしない

御社の昇格/降格基準には何が書いてあるだろうか。

職能(スキル)や勤続年数など、「減らないもの」を昇格/降格基準の中心に据えるのはやめたほうがよい。

なぜなら、増えたときに昇格させるのはかまわないが、スキルや勤続年数は減らないので「降格する理由としては使えない」からだ。(基準の「中心」でなければ問題ない)

スキルアップしたから昇格したのに、別の理由で降格するとしたら、「これまでのスキルアップは何だったのか?」と社員は困惑するだろう。(あくまで降格させたら、の話だが。恐らく、減らないものを基準の中心にしている企業では、降格人事があまり行われていないはずだ。)

昇格/降格基準は、「成果」、「役割の発揮度合い」、「組織としての判断」「該当する等級(役職)が務まると判断できる根拠の有無」などを、主に用いたほうがよい。

1-3-2.滞在期間を昇格基準にしない

企業によっては、「現在の等級で3年以上の実務経験を積む」といった文言を昇格基準に入れていることがある。

これも即座に年功序列につながるので、やめたほうがいいだろう。

年月で物事を判断している時点で、堂々と年功序列を謳っているようなものである。

「年功序列を廃止する」、「メリハリのある人事を行う」ためには、人事の尺度を時間から何か別のモノに変えることが、本質的には求められる。

同様に、「A評価を3回連続してとる」といった基準も注意が必要だ。

評価期間が1年の会社であれば「3年以上の経験を積む」と言っていることと同じ意味になる。

どれぐらいのスピード感でメリハリ人事を推進したいかにもよるが、急ぐのであれば飛び級も視野に入れよう。

1-4.等級と役職を一致させる

評価のメリハリ1-4等級と役職
等級と役職を一致させない等級制度を、資格等級制度と呼ぶ。(職能資格制度も、同じものと思ってよい)

資格等級制度が生まれた背景は以下のようなものだ。

役職者が飽和状態にあるとき、実力があっても昇格できない社員が出てくる。

実力があるのに、つまり「昇格する資格があるのに昇格できないのは可哀想だ。」と考え、「役職は付与できないが、役職者になる資格を付与しよう、それを等級と呼ぼう。」ということで、見事にダブルスタンダードの人事制度が出来上がった。

ダブルスタンダードの人事制度でも、昇格や降格は曖昧になりやすい。多くの場合、等級は上がる一方となる。

曖昧さはメリハリ人事の敵である。

何十年も前に広く普及した資格等級制度であるが、疑問に思わずそのまま運用している会社が多い。

何十年も同じ制度を放置してはいけない。資格等級制度は今の時代にはもう合わないのではないだろうか。

2.評価制度でメリハリをつける方法

2-1.評価者が低評価をつけるようにする

評価のメリハリ2-1低評価
御社では評価者を、どのような人たちが担当しているだろうか。

ある程度の規模になってくると、1次評価(最初の評価)は社長や役員の手を離れ、部長、課長といった中間管理職が担うようになるだろう。

しかし、多くの中間管理職にとって、自分の部下に低評価をつける動機は存在しない。

それどころか、低評価をつけることは、自分にとってのリスクであると感じている。

もし、できない社員に対して低評価をつけないとしたら、それはメリハリのなさにつながるため、やはり解決すべき事になる。

●低評価をつけない動機

  • ある者は、部下に嫌われたくないため低評価をつけない。
  • ある者は、部下に説明するのが大変だから低評価をつけない。
  • ある者は、部下の処遇(賃金、役職など)が下がると可哀想だから、低評価をつけない。
  • ある者は、「自分なりに部下を育てているつもりなので、部下に低評価をつけるのは、自分が部下育成をちゃんとやっていないと宣言しているようなものだ。」と言って、低評価をつけない。
  • ある者は、部下が成長していないのは自分のせいだからと思い悩み、低評価をつけない。

低評価をつけない動機ならば沢山あるが、一方で低評価をつける動機はない。

というより、「ない」と錯覚している。

しかし、できない社員を不当に高く評価することには、大きなリスクがある。

錯覚としたのは、中間管理職の多くがこのリスクを意識できていないからだ。

●低評価をつけないリスク

  • できない社員を高く評価してしまうと、できる社員の士気が下がる。そして退職する。
  • できない社員を高く評価してしまうと、社員が頑張らなくなる。そして業績が下がる。
  • つまり、できない社員を高く評価することは、業績にマイナスの影響を与え、最悪の場合は倒産につながる。

「頑張っても頑張らなくても一緒」、「結果を出しても出さなくても一緒」、ということが、どういう結果を招くかは、共産主義国家や独裁国家の経済状況を見れば、すぐにわかりそうなものだが、実感がないのかもしれない。

かなり大きなリスクだが、このリスクを「リアリティーや責任感を持って考えてくれる中間管理職」は、少ないというのが実態だろう。

リアリティーがないのは、低評価をつける“リスクは目の前のこと”、”非常にパーソナルなこと”であるのに対して、“低評価をつけないリスクは中期的なこと”、“組織的なこと”だからだ。

これは、知識・スキルの問題ではなく、管理職としの視座の高さ、つまり意識の問題なので、解決には工夫を要する。

解決策は5つある。

1つ目は、高評価と低評価の分布を決めてしまうやり方だ。

相対評価によって必ず順位をつける。
 
社員からは非常に評判が悪い「相対評価」だが、ルールとしては合理性がある。
 
ただし、このやり方は、本当に高い評価をつけるべき社員しかいないときに、問題を生む。
 

2つ目は、「正確な評価ができない管理職」の評価を下げることだ。

管理職の評価制度に、「部下を適切に評価する」といった項目を入れておきたい。
 

3つ目は、管理職を忍耐強く教育していくことだ。

意識を上げてください、といったところで意識は変わらないので、「低評価をつけないことで実際に起こった問題」を集め、ケーススタディーとして提示するなど工夫を要する。
 
歴史、政治、経済を学び、自身のマネジメントスタイルを見直すよう促すことも、役に立つだろう。
 

4つ目は、評価者に大きな権限と責任を与え、経営者と同じ視座でマネジメントしてもらうというものだ。

採用、賃金に関する権限、明確な業績責任を持つと、低評価をしないリスクが、身を持ってわかるようになる。
 

5つ目は、定量評価のウェイトを高めることだ。

定量評価、つまり数字には手心を加えられないため、評価バイアスを生みにくい。
 
極端な成果主義は良くないが、低評価をつけることができない管理職が多い場合は、この対策を検討する余地があるだろう。
 

2-2.部下評価にひっぱられないようにする

会社によっては、部下本人が自己採点をする「本人評価」なるものが存在する。

その意図は、本人評価と上司評価のギャップを認識させて、改善につなげることにある。

人事評価とは、他人からどう見えているかという客観的情報をもとに、自己反省を行い成長につなげるために行うものだ。そのためにはまず、自分が自身をどう捉えているかをはっきりさせる必要がある。(自覚がなければ、周囲とのギャップそのものが生まれず、反省につながらない)

したがって、人材育成を主目的とした場合、本人評価は非常に重要な要素である。

しかし、査定を主目的とした場合、この本人評価は小さくない弊害を生む。上司評価が、本人評価につられるのだ。

部下が5点をつけているのに、上司が1点をつけるのは、なかなか勇気がいる。4点のギャップを説明するのは大変だからだ。

そんなわけで、部下が5点をつければ多くの上司は5点か、4点をつけることが多い。

人事評価にもとづいて賃金を決めるのだから、本人評価にひるんで上司評価を歪めるのは、不正とも言える行為だ。

しかし残念ながら、管理職が評価者として成熟していない場合は、自分が行っていることが不正であるとは想像すらできないのだ。

解決策は簡単で、本人評価と上司評価を別々に回収すればよい。手間は増えるが、大した手間ではない。

評価者への注意喚起や教育が面倒になってしまい、本人評価の欄をなくしてしまう会社が結構あるのだが、それをやってしまっては、評価制度が育成を目的としたものにならないので、よく考えたほうがいい。

2-3.成果評価(定量評価)のウェイトを高める

評価のメリハリ2-3評価ウェイト

人事評価には、成果・業績など数値化できる定量評価と、スキルや行動など数値化できない定性評価の2つがある。

多くの企業では、定量と定性の2面を評価するハイブリッド式の方法を導入していることだろう。

定性評価のウェイトが高いと、評価のメリハリはつきにくい。

定性評価は主観的になりやすく、主観が入ると甘い評価になりやすいからだ。(甘い評価になりやすい背景は、2-1で書いた)

定量評価のウェイトが100%など、フルコミッションのような極端な成果主義はおすすめしないが、定性評価のウェイトが70%を超えてくると、評価のメリハリは徐々になくなっていくだろう。

2-4.定性評価における、評価基準の具体性を高める

評価のメリハリ2-4評価基準

「定性評価は主観が入りやく、それ故に甘い評価になりやすい」と書いたが、それは点数のつけ方が曖昧であることに端を発する。

裏を返せば、客観的に点数をつけることで、甘さが介在する余地を減らすことができるだろう。

一般的に、評価基準と一括りで呼ばれているものは、三分割することができる。

  1. 評価項目
  2. 文章
  3. 評価基準(或いは判定基準)

結論を言えば、客観的な評価基準として仕上げるには、①②③の全てを、特に③を具体化することが求められる。

評価項目とは

「チームワーク」「コミュニケーション」といったキーワードのことを指す。

文章

「チームワーク」などの評価項目の定義を文章化したものを指す。

「チームワーク」と言ってもその意味するところは人によって異なるため、定義が必要だ。

「隣接部署と情報共有を行い、業務が円滑に進むよう協力している」ことをチームワークとする人もいれば、「皆がやらない面倒な業務や地味な業務も、主体的に行っている」ことをチームワークとしている人もいる。

評価基準(判定基準)

評価基準の具体性の“度合い”は、三段階に分けることができる。

  • 点数のみ
    • 自分の主観で1~5点をつける。点数の根拠が書いていない段階。
  • 根拠が主観的
    • 5点:よくできている、4点:できている、3点:普通、2点:あまりできていない、1点:できていないといった具合で、根拠は書いてあるが、非常に主観的なものになっている段階。その他、「期待通り」や「該当する等級に見合っている」なども曖昧であると言える。
  • 根拠が客観的
    (1)評価項目チームワーク
    (2)定義隣接する部署と情報共有を行い、業務が円滑に進むよう協力し合っている
    (3)評価基準
    • 5点:上司の調整業務を補佐している。会議、ルール、仕組みづくりを行っている。
    • 4点:部署連携が上手くいくよう、会議、ルール、仕組みを発案している。
    • 3点:隣接部署と情報共有を行い、業務を円滑に進めている。上司間の調整が要らない。
    • 2点:隣接部署と情報共有を行っているが、連携に上司の調整を要する。
    • 1点:隣接部署と情報共有を行っていない。協力し合っていない。

①②③を全て具体化することで、定性評価もきちんと機能することになる。

①②③の全てが具体化されている企業は稀で、大企業でも半数以下、中小企業なら10社に1社ぐらいだ。

弊社が支援した企業でも、制度改定前は、①+③(点数のみ)、①+③(主観的)、①+②+③(点数のみ)、①+②+③(主観的)のパターンが多かった。

3.報酬制度でメリハリをつける方法

3-1.減給を行う

評価のメリハリ3-1減給

減給がない会社も、年功序列になりやすい。

理屈は降格人事のところで述べたが、“上げ下げ”両方あるからメリハリがつくのであって、“上げ”しかなければメリハリはつきにくい。

業績が右肩上がりの会社では人件費に回せるキャッシュが豊富なので、“上げ”しかなくても、多少のメリハリをつけることは可能だが、ずっと右肩上がりの会社はほぼ存在しないため、やはり減給しない≒年功序列である。

賞罰両面をはっきりとする覚悟がなければ、メリハリのある人事などできないのだ。

さらに言えば、温情的な会社では「減給はないが、昇給もあまりない」という現象が良く起こる。

具体的には以下のようなやりとりが展開されている。

「前期の仕事ぶりは悪かったので、本来は減給してもおかしくないが、減給にはしないので今期で取り返せ!」言われた社員としては奮起して今期を頑張ることになる。

そして期末。「今期はすごく頑張ったな。本来は昇給してもよいが、前期の分を取り返しただけなので、大幅に昇給することはできないよ。」

温情措置はプラスもマイナスも0に近づける特徴を持つ。

ある意味、メリハリ人事の対極にある措置と言えるため、過度な温情措置はなくしたほうがよいだろう。

3-2.評価者が減給をする勇気を身に付ける

会社によっては、評価結果と賃金の関係を機械的に決めていることがある。

例えば、S評価なら月額2万円の昇給、A評価なら月額1万円昇給…、D評価なら月額1万円減給、といった具合だ。

この場合、D評価をつける評価者は少ない。評価者が部下の減給に加担したくないからだ。

減給に加担したくない理由は、「2-1.評価者が低評価をつけるようにする」で述べたことと概ね同じだが、減給のほうが、評価者としての心理的負担は大きくなる。

なぜなら、“低評価をつけるリスク”は、部下に嫌われるだけだが、“減給するリスク”は、部下の家族にも嫌われるかもしれないからだ。

さらに、嫌われるだけでなく、減給額が大きい場合は、部下の生活を脅かす可能性まである。

仕組み上は減給が存在しても、実質的に減給がなければ、やはりメリハリはなくなる。

これを解決する方法は「2-1.評価者が低評価をつける動機」で挙げた5つの解決策がそのまま当てはまる。

そもそも論として、、、
※評価結果と昇給・減給の関係を開示していない会社もある。日系の中堅中小企業では、むしろ多い。

評価は中間管理職に任せるが、賃金は経営者1人が握っている状態だ。

この場合は、評価制度はたいてい形骸化することになる。

真面目につけたところで、結果(賃金)がどうなるかわからないため、真面目に評価しなくなるからだ。

ブラックボックスが多い制度は、制度として機能しない。

制度とは可視化された、オープンなものを指す。

1人が全員の賃金を決めるなど、裁判を皆が見えないところでやっているようなものだ。

このことに気づけない経営者が多いことに、正直驚きを隠せない。

3-3.評価結果を処遇に反映させる度合いを高める

評価のメリハリ3-3評価と処遇

評価結果にメリハリをつけたとしても、その結果を処遇に反映させる度合いが小さければ、結果的に賃金におけるメリハリはつかないことになる。

例えば、各評価の分布が以下のようになったとしよう。

S評価:30%、A評価:15%、B評価:20%、C評価:5%、D評価:30%

多くの会社では、A~C評価で70%~80%を占めることが多いため、上記分布はかなりメリハリがある状態と言っても差し支えないだろう。

しかしこの評価結果に対して、例えば月額の昇給テーブルが以下のようなものだったとしよう。

S評価:2,000円、A評価:1,000円、B評価:500円、C評価:0円、D評価:-500円

昇給額が少ないため、S評価とD評価でたった2,500円しか月給が変わらないことになってしまう。

これでは高評価をとった意味がない。

当たり前だが、評価制度だけメリハリをつけても意味がないのだ。

同じことが昇格基準、つまり等級制度についても言える。

例えば、昇格基準が以下のようなものだっとしよう。

「直近で、A評価以上を2回連続で獲得する」

仮に、先ほどの分布が2回繰り返されたとすると(つまり、Sをとった人が次もSをとり、Aをとった人が次もAをとった状態)半数近くが昇格してしまうことになり、やはりメリハリがついた人事とは言い難い。

要するに、メリハリ人事を行いたければ、等級制度、評価制度、報酬制度の全般について見直す必要があるのだ。

後に述べるが、教育制度も見直す必要がある。

3-4.賃金レンジにメリハリをつける

評価のメリハリ3-4賃金レンジ

賃金レンジには以下の3つのパターンがある。

  • レンジシート(開差型)
  • レンジシート(接合型)
  • レンジシート(重複型)

※他にもシングルシートが存在するが、割愛する。

横軸が等級で、縦軸が賃金レンジ(賃金の幅)だ。

見ての通り、開差型がもっとも等級ごとの賃金格差が大きく、昇格するたびに大きく昇給する。つまりメリハリが効いている。

重複型、接合型、開差型の順でメリハリが徐々に大きくなる。

年功序列になっている会社では、重複型の賃金レンジを採用していることが多いため、ここは見直しが必要になる。

しかし、重複型を開差型に変更したくとも、既に分布しているものをどう変更していくかという問題が起こる。

例えば、これまで2等級が25~35万円、3等級が30~40万円という重複型になっていたところを2等級を25~30万円、3等級は35~40万円という開差型に変えることを検討したとしよう。

既に2等級で35万円をもらっている社員をどうするか?という問題が起こる。

明日から30万円に下げることはできないし、かといって、明確な理由もなく3等級に昇格させるわけにもいかない。

つまり、調整期間を設けて、30万円に減給するか、がんばって3等級に昇格してもらうか、選択肢を提示していくことになる。

調整期間が必要であることを踏まえると、レンジの調整は早めに着手したいところだ。

社員数が二桁の間にきちんとした思想のもとに賃金レンジを設計しておくべきだろう。

3-5.昇給テーブルにメリハリをつける

昇給テーブルのメリハリも要チェックだ。以下のパターン1とパターン2ではメリハリのつき方が異なる。

パータン1:

S評価:20,000円、A評価:10,000円、B評価:3,000円、C評価:0円、D評価:-5,000円

パータン2:

S評価:10,000円、A評価:7,000円、B評価:4,000円、C評価:1,000円、D評価:0円

パターン2のように、S評価~D評価の差額が均等に近い場合、やはりメリハリはつかないことになる。

パターン1のように、各評価の差額を均等ではなく偏在させるとメリハリが効く。

3-6.属人給を減らす

評価のメリハリ3-6属人給

属人給とは、仕事ぶりではなく、本人の属性で決まる給与のことを指す。

例えは、勤続給、年齢給、住宅手当、家族手当、資格手当等が属人給に該当する。

賃金に占める属人給のウェイトが高いほど、年功序列になりやすく、メリハリのある人事とはかけ離れていく。

なぜなら、仕事ができなくても加齢によって、勤続給、家族手当などが加算されるため、仕事ができないベテランと、仕事ができる若手とで、賃金に違いが出にくい。

福利厚生の全てを否定するわけではないが、仕事ぶりに関係がないことを根拠に、賃金を決めるのはメリハリ人事を目指す上では、筋が悪いと言える。

成長著しいメガベンチャーでは、採用強化のため属人給をはじめとした福利厚生を手厚くしているが、長く続く大企業では属人給を徐々に廃止していっていると認識している。

属人給は一度設けるとと、廃止にも手間がかかるので要注意だ。明日から住宅手当、家族手当を全額廃止する、といった極端な施策は打てないからだ。

メリハリ人事を目指すのであれば、仕事ぶりで賃金を決めよう。

4.教育制度でメリハリをつける方法

4-1.選抜教育を行う

記事の冒頭に書いたように、メリハリ人事を行うニーズは、優秀な社員の採用、モチベーションの維持、向上である。

優秀な社員ほど自身の成長に対して貪欲であり、より高いレベルの教育を求める。

ということは、優秀な社員を惹きつける教育機会を提供すればよいということになる。

つまり選抜教育を行うのだ。

優秀な社員を抱える企業では、多くの場合、選抜教育が行われている。

  • 海外留学、ビジネススクールの費用負担
  • 組織横断プロジェクトへのアサイン
  • 次世代リーダー育成研修のアサイン
  • 経営塾へのアサイン

中堅中小企業における社員教育では、ボトムアップが重視されがちだが、トップアップも重要である。

トップ集団を走る社員の能力が低ければ、会社の成長は望めないからだ。

本当にできる社員は、放っておいても高く評価される。

つまりメリハリがつく。評価や賃金でメリハリがつかないということは、裏を返せば、できる社員の数が少ない、ということが本質的な原因かもしれない。

人事制度を見直すタイミングで、教育機会の与え方についても一度議論して欲しい。

4-2.優秀な社員に、困難な仕事を多く与える

どの会社でも、できる社員に仕事が集まっていることだろう。それが仕事の性質だ。

その状態をより加速させることで、優秀な社員にもっと優秀になってもらい、結果としてメリハリをつける方法もある。

ただ単に多くの仕事を任せるというより、初めての仕事、困難な仕事を与えていく。

  • 海外勤務
  • 新規事業の立ち上げ
  • 赤字部門の立て直し
  • 子会社への出向
  • M&A
  • 事業の撤退
  • 訴訟案件のソフトランディング
  • 重要ポスト、部署への異動
  • ラインからバックオフィスへの異動(バックオフィスからラインへの異動)
  • 複数の企業との合同プロジェクト

与える仕事にメリハリをつければ、それを乗り越えた社員は成長し、高評価・高報酬へとつながっていくだろう。

メリハリ人事を行うとき、どうしても評価や報酬に意識がいきがちだが、教育制度についても忘れずに整理しておいて欲しい。

なぜなら、教育・仕事のメリハリ→実力のメリハリ→評価のメリハリ→報酬のメリハリの順になるので、時系列で考えれば教育が一番最初にくることになる。

5.まとめ

まとめると、メリハリ人事を行うためには、以下の点に留意するとよい。

  1. ①人事制度全体(等級・評価・報酬・教育)を点検する。
  2. ②賞罰両方を与える。
    • 降格人事を行う
    • 減給を行う
  3. ③曖昧さを排除する。(シンプル化、フラット化、具体化、定量化)
    • 等級数を少なくする
    • 等級と役職一致させる
    • 定量化評価のウェイトを上げる
    • 評価基準を具体化する
  4. ④偏在を是とする。
    • 賃金レンジにメリハリをつける
    • 昇給テーブルにメリハリをつける
    • 選抜教育を行う。
    • 優秀社員に困難な仕事を与える。
  5. ⑤属人性を排除する
    • 属人給を減らす
    • 勤続年数、スキル、滞在年数を昇格基準で重視しない
  6. ⑥評価者を教育する
    • 低評価をつける勇気を持たせる
    • 減給する勇気を持たせる