人事評価の基準の決め方としては、大きく5つの方法があります。
- 能力評価
- 情意評価
- 成果評価
- コンピテンシー評価
- バリュー評価
それぞれの評価基準の特性を知ったうえで、自社にとって最適な組み合わせ・比重を考えることが、基準策定では重要です。
本記事では、「人事評価の基準」について基礎知識から種類、注意点まで解説します。
- 人事評価の基準とは何か基本が身につく
- どんな方法があるのか種類を解説
- 実際に作る流れや注意点がわかる
「人事評価の基準を決めたいと思っている」「初めての制度づくりで基礎知識がない」…という方におすすめの内容となっています。
この解説を最後までお読みいただければ、人事評価の基準について全体像がつかめるとともに、実際に基準策定する際に注意すべき点がわかります。
組織の成果につながる基準を策定できるようになるはずです。
ではさっそく解説を始めましょう。
1. 人事評価の基準とは何か?基礎知識
まずは人事評価の基準について、基礎知識から見ていきましょう。
1-1. そもそも人事評価とは?
人事評価とは、人事制度の一部である「評価制度」のことです。
弊社では、人事制度を以下の4つの総称として定義しています。
▼ 人事制度
- 教育制度
- 評価制度
- 評価制度
- 等級制度
人事評価とは、人事制度のなかでも「どんな成果・どんな行動が評価されるか」を定めたものです。
なお、人事制度の基礎知識から把握したい方は、先に以下の記事からご覧ください。
制度の全体像をわかりやすく解説しています。
● ピースの人事制度コンサルティング
1-2. 人事評価の基準とは
人事評価の基準とは、「どんな成果・どんな行動が評価されるか」を具体的に定めた指標のことです。
何を評価対象とするか、どの水準で良い(悪い)と評価するか、複数の項目がある場合にはそれぞれの項目にどう重きを置くか、などを基準として明確にします。
人事評価を実際に行うときには、定めた基準に基づいて評価を行います。
1-3. 人事評価の基準が重要な理由
人事評価の基準を適切に、明確に定めることは、人事制度の設計のなかでも重要です。
なぜなら、人事評価の基準が不明瞭な場合、社員の不満に直結するからです。
実際に、自社の人事評価について不満に思うことの第1位は「評価の基準が不明確」という調査データがあります。
出典:識学のプレスリリース
人事評価の基準を可視化し、透明性のある制度として運用することは、社員の不満を解消するために不可欠といえます。
※人事評価の不満について詳しくは以下の記事をご覧ください。
● 人事評価の不満を可視化して人材流出や組織の生産性低下を防ぐ方法
2. 人事評価の基準の種類
人事評価の基準には、具体的にどんな種類があるのでしょうか。
ここでは代表的な5つの基準について、ご紹介しましょう。
- 能力評価
- 情意評価
- 成果評価
- コンピテンシー評価
- バリュー評価
2-1. 能力評価
1つめの評価基準は「能力評価」です。
能力評価で評価基準となるのは、“職務を遂行するうえで必要な能力を保持しているかどうか”です。
例えば、以下が能力評価の対象となります。
▼ 能力評価の対象
- スキル
- 知識
- 資格
- 経歴
- コミュニケーション能力
- リーダーシップ
- 判断力 など
「保持資格」のように明確なものを除けば、基本的に定性評価(数値化できない対象を評価)するのが能力評価です。
そのため、評価基準が曖昧になりやすいというデメリットがあります。
2-2. 情意評価
2つめの評価基準は「情意評価」です。
情意とは「思い、気持ち」という意味ですが、その名の通り情意評価で評価基準となるのは、その人材の意欲や勤務態度、取り組み姿勢など“思い”の部分です。
例えば、以下が情意評価の対象となります。
▼ 情意評価の対象
- 勤務態度
- 仕事への心構え
- 取り組み姿勢
- 熱意、積極性
- 法令遵守(コンプライアンス) など
前述の能力評価と同じく定性評価であり、評価基準が曖昧になりやすいデメリットがあります。
2-3. 成果評価
3つめの評価基準は「成果評価」です。
成果評価では、仕事であげた“実績”を評価基準とします。
例えば、売上目標の達成率、コスト削減の達成度など、目標の達成度を定量的に評価するのが基本です。
▼ 成果評価の対象
- 売上高
- 顧客獲得数
- 生産数
- コスト削減 など
成果評価は、数値による明確な基準を設けられるため、評価基準の可視化が最もしやすい点がメリットです。
営業やマーケティングなどの職種であれば、最も機能しやすい評価基準が成果評価といえます。
一方、成果が数値化しにくい職種の場合は、どのように成果判断をするか検討しなければなりません。
例えば、人事であれば離職率、事務であれば必要工数の削減率など、目標を数値化する工夫を行う必要があります。
2-4. コンピテンシー評価
4つめの評価基準は「コンピテンシー評価」です。
コンピテンシーとは、ハイパフォーマー(常に高い成果をあげ続けている高業績者)に共通する行動特性のことです。
簡単にいえば「仕事ができる社員に共通する行動パターン」が、コンピテンシーです。
コンピテンシーは、会社によって、また職種によって大きく異なるため、コンピテンシーは実際に自社のハイパフォーマーの行動を分析して定めます。
コンピテンシー評価のメリットとしては、ハイパフォーマーに共通する行動特性を評価対象とすることで、その会社・その職種で高い成果をあげる人材を育成しやすくなることが挙げられます。
2-5. バリュー評価
5つめの評価基準は「バリュー評価」です。
バリュー評価では、“会社の経営理念や価値観をいかに理解して行動できたか”を評価対象とします。
ここでいうバリューとは、企業がミッション・ビジョンに基づいて設定した“行動規範”の意味合いが強いものです。
例えば、スターバックスでは以下の通り「ミッション」「バリュー」を設定しています。
▼ スターバックスのミッション・バリュー
このような「バリュー」の実践度を評価するのが、バリュー評価となります。
3. 人事評価の基準の作り方 基本の2ステップ
さまざま人事評価の種類を把握したところで気になるのは、「どのように基準を作っていけば良いのか?」という実践部分ではないでしょうか。
ここでは簡単に2ステップで基準の作り方の流れをご紹介します。
- ステップ1:どんな人事評価を取り入れるか検討する
- ステップ2:評価項目と評価基準を策定する
3-1. ステップ1:どんな人事評価を取り入れるか検討する
まず、どんな人事評価を取り入れるか検討しますが、そのためには自社が何を重視するか経営理念を明確にしておく必要があります。
明確な経営理念を持っていない、あるいは一応掲げてはいるものの形骸化している場合には、この機会に明確にしましょう。
なぜなら、「どんな会社を目指すか」によって「どんな人事評価が適しているか」は変わってくるからです。
自社の目指す大きな目標や理念に基づいて、どの評価基準を採用するのか、あるいは複数の基準を用いる場合には、比重(ウェイト)をどうするのかを検討していきます。
▼ どれをどんな比重で採用するのか検討する
- 能力評価
- 情意評価
- 成果評価
- コンピテンシー評価
- バリュー評価
3-2. ステップ2:評価項目と評価基準を策定する
採用する評価基準が定まったら、次は評価項目として細分化し、具体的な評価基準を策定します。
▼ 評価項目のイメージ
出典:人事院
この基準が不明瞭な人事評価は、社員からの不満が出やすくなります。
評価者も被評価者も納得できるアウトプットが出せる基準になっているか、よく点検しましょう。
そのためのコツは、できる限りの評価項目を定量化して数値で表すことです。
一見、数値で表すのが難しいと思われる職種でも、工夫することで数値化が可能です。
▼ 定量化の例
- 作業の正確性を向上させる → 書類ミスの発生件数を50%減
- 業務の効率化を図る → 月間残業時間20時間減
なお、具体的な目標設定のやり方については以下の記事で解説しています。
あわせてご覧ください。
● 人事評価の目標設定とは?職種別の例文付きで注意点やポイントを解説
4. 人事評価の基準を作る際の注意点
最後に、人事評価の基準を作る際の注意点をお伝えします。
- 企業の成果につながる基準になっているか確認する
- あらかじめ評価エラー回避の対策をする
- 2年に1度は見直しをする
以下で詳しく見ていきましょう。
4-1. 企業の成果につながる基準になっているか確認する
1つめの注意点は「企業の成果につながる基準になっているか確認する」ことです。
実は、評価制度がうまく機能している会社は少ないという実態があります。
その原因として、経営サイドと現場サイドの視点の違いが挙げられます。
▼ 経営サイドと現場サイドの視点の違い
- 経営サイド「社員に成長してもらい、成果を出してほしい」
- 現場サイド「公平に処遇を決めてほしい」
もちろん、現場サイドの「公平に処遇を決めてほしい」という気持ちに寄り添うこと大切ですが、寄り添い過ぎて「成果を出す」という企業としての命題が軽視されると、評価制度は機能しません。
優先順位として、まずは組織として成果につながる評価基準になっていることが重要です。
具体的には、成果や成果に直結する行動(売上・利益・CS・行動量・仕組み)などをしっかりと評価基準に盛り込み、企業として成果が出やすい基準になっているか、チェックしましょう。
「社員が高評価をとったら、組織としても大きな成果が出ている」状態を目指して、評価制度を構築していくことが大切です。
4-2. あらかじめ評価エラー回避の対策をする
2つめの注意点は「あらかじめ評価エラー回避の対策をする」ことです。
たとえ完璧な評価基準を作ったとしても、その基準が正しく活用されなければ意味がありません。
基準の策定とともに、評価エラー回避の対策を行いましょう。
評価エラーとは、評価者の主観や心情など心理的な錯誤の影響によって、正しい評価ができなくなることです。
代表的な評価エラーとして、以下が挙げられます。
▼ 評価エラーの例
ハロー効果 | 被評価者が持つ顕著な特徴に引きずられて全体の評価が決まってしまうこと |
---|---|
中心化傾向 | 評価をほぼ中心あたりの点数に集中させてしまうこと |
分散化傾向 | 中心化傾向と逆に評価を極端に分散させてしまうこと |
寛大化傾向 | 評価を全体的に甘めにつけてしまうこと |
厳格化傾向 | 評価を全体的に厳しめにつけてしまうこと |
期末誤差 | 評価を行う直近の出来事が評価に大きく影響してしまうこと |
※評価エラーについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
● 人事評価エラー7つとその対策 — ハロー効果・寛大化傾向・期末誤差 他
評価エラーを回避するためには、評価エラーに関する学びをはじめとして、評価者自身が知識を身に付ける必要があります。
そのためには、評価者研修の実施が効果的です。
評価研修について詳しくは「評価者研修のプログラム例・ポイント・参加者の感想」をご覧ください。
4-3. 2年に1度は見直しをする
3つめの注意点は「2年に1度は見直しをする」ことです。
人事評価の基準の見直しは、10年に1回程度しか行っていない企業がほとんどです。
しかしながら、経営環境が目まぐるしく変化する現代において、10年も経てばその基準は形骸化します。
人事評価の基準を機能させ続けるためには、2年に1度のペースで見直しをしましょう。
常に現在の会社の状態に合わせてブラッシュアップしていくことで、強い組織であり続けることができます。
5. まとめ
人事評価の基準の種類としては、以下があります。
- 能力評価
- 情意評価
- 成果評価
- コンピテンシー評価
- バリュー評価
人事評価の基準の作り方を2ステップでご紹介しました。
- ステップ1:どんな人事評価を取り入れるか検討する
- ステップ2:評価項目と評価基準を策定する
人事評価の基準を作る際に注意したいポイントはこちらです。
- 企業の成果につながる基準になっているか確認する
- あらかじめ評価エラー回避の対策をする
- 2年に1度は見直しをする
機能する人事評価の基準を作れば、会社の業績向上に直結します。
成果につながる基準策定を目指しましょう。